黒銀の精霊マスター ~ニートの俺が撃たれて死んだら異世界に転生した~

中七七三

第二話:異世界の精霊さん

俺は目を開けた。明るい。でも、視界がぼやける。
 メガネがないのか。俺は強度の近視なので、メガネがないと良く見えない。
 感触からメガネをしていないことが分かった。
 周囲がよく見えない。

 どこだ?
 ここは、病院か?
 俺は助かったのか?
 天井だけがぼんやりと見える。

 俺は顔に手を持ってこようとした。しかし、手が動かない。いや違う。動くのだが、手を顔の所に持ってくることが出来ない。自分の手が自分の手ではない感じがした。バタバタと手が動く感触がある。脚もだ。ただ、それが思う通り動かない。俺は首を動かそうとした。

 ピクリとも動かなかった。
 異常なほど頭を重く感じる。首で頭を支えることが出来ない。寝返りすら打つことができなった。

 重傷なのか……
 俺はコンビニ強盗に撃たれた。腹に何発かの弾丸を喰らったところまでは覚えていた。
 ただ、その後の記憶がおぼろげだった。もしかしたら頭にも弾丸を喰らっていたのかもしれない。

 手を動かそうともがいた。

 パタ――

 俺の顔に温かい手が触れた。
 小さい。すごく小さい。かわいらしい手だった。なんだこれ?さすがに至近距離は見ることが出来た。これは、まるで赤ん坊の手ではないか。 

「はんぎゃぁ~! ほぎゃぁぁ! あぐ、あぐぅぅ」

 俺は声を上げた。まるで赤ん坊の泣き声のようなものが聞こえてきた。
 なんだこれは? 俺は手足をバタバタさせながら絶叫を続けた。
 
 ペタペタと柔らかい手が俺の顔に当たる。
 この感触――
 そして、この泣き声。
 ヲタ歴の長い俺は、ある種の結論に達しそうになっていた。
 
 転生だ。俺は転生したのだ。俺は生まれ変わったのだ。
 その結論が頭にひらめき、俺は即座にそれを受け入れる。

「*%&'!"#$?(あら、起きちゃったの?)」
 
 声がした。音ではその意味がさっぱり分からないのに、脳内に意味のある言葉が流れ込んできた。俺は声のした方向を見ようとしたが首が動かない。

 いい匂いがした。落ち着く匂いだった。安心できる匂い。
 顔が見えた。女の人だ。若い。もしかすると10代ではないかという感じだった。明らかに日本人ではない。いわゆるプラチナブロンドか銀髪という髪の色だった。ハラハラとその長い髪が俺の頬に当たった。

 その女の人は俺の体にゆっくりと手まわした。首の後ろと背中を支えて俺を抱き上げた。そして俺の顔に柔らかくいい匂いのするものが当たった。

 間違いない。俺は生まれ変わった。転生したのだ。多くのネット小説、ラノベなどで定番の設定だ。まさか、自分の身に起きるとは思ってもいなかった。

 目はまだよく見えない。女の人は盛んに俺に話しかけている。大した意味はない。母親が赤ちゃんに話しかけるよくある言葉のようだった。とすると、このきれいな女の人が俺の母親という事になる。顔が近づくと目のピントが合った。遠くは相変わらずよく見えない。多分、生まれたばかりで目もよく見えないのだろう。俺の母親と思われる人は、淡い青い瞳をしていた。凄い美人の母親だった。 

 ということは、俺も相当なイケメンに生まれ変わったのではないかと思う。今は赤ん坊なので分からないが。期待はできる。将来、ハーレムを作ることもできるのではないかと思った。

「あんぎゃぁ、ふんぎゃぁぁぁ!!」

 俺は声を上げた。泣き声になってしまう。何を話そうとしても泣き声だ。後は「うー」とか「あー」という音は出せるが単語すら発音できない。

「"#$&%!"#$()√σ○↓▽♪♪☆◎**?(あら、もう、おっぱいかしら?)」

 母親と思しき、女の人は授乳のための器官を出した。哺乳類特有の器官。おっぱいだ。こんな間近に生おっぱいを見るのは初めてだった。
 母親と妹は除く。というか、この人も母親なので、カウント対象外かもしれなかった。
 性的な興奮は一切なかった。ただ安らぎと、食欲だけがあった。俺は乳首に吸い付いた。甘い母乳が俺の口の中に流れ込んできた。

 俺はまだ上手く制御ができない手を何とか動かして、母親のおっぱいに手を当てた。冷んやりとした感触が手に伝わる。それも心地よかった。
 
「$%#&’((+@(うふふ、可愛い……)」
 
 彼女は、慈愛に満ちた顔で俺を見つめていた。

 安息に満たされた時間がやってきた。俺は満ち足りた気持ちで母乳を吸っていた。

 俺は腹が一杯になったので母乳を離した。普通であれば、腹がいっぱいになっても離さない。絶対にだ。しかし、今の俺は、満腹したら乳首を口から離せる存在だった。

 母親は俺を持ち上げて、背中をトントンする。ゲップを出そうというのだ。俺は歳の離れた妹がいたので、そのあたりはよく覚えていた。

 俺がゲップを出すと、母親はゆっくりと俺をベッドに寝かせた。
 そして、おでこにチュっとキスをした。こんな美人にキスされたというのに、全く興奮しない。嬉しいという気持ちが湧いてくるが、エロい気持ちにはならなかった。落ち着いた満ち足りた気持ちだった。

 俺の視界から母親が消えた。急に不安になる。泣こうかと思ったが、そうそう泣いて迷惑をかけてはどうかと思ったので我慢した。

 俺のぼやけた視界に再び天井が映る。

 あれ?
 なんだあれ?
 ふわふわと浮いているものがあった。
 キラキラと光を反射する羽が4枚ある。ガラス細工かDVDの円盤のような色だった。
 髪の毛も光を反射するガラス繊維のような感じだった。

「あば…… ああ……?(妖精?)」

 俺は言った。音は意味をなさなかった。やはり意味だけが俺の頭に流れ込んだ。

「あれ? 見えるの? 私が見えるんだ?」

 その妖精らしきものは言った。
 ふわりと宙を舞って、俺の顔の前に降りてきた。
 空中に光の帯を描いていた。子どもの夢を銭にかえるアメリカ企業が作ったアニメのような動きだった。

 赤ん坊にしか見えないものがあるという話は、ネットでよく見た。
 これがそうなのか?
 目の前の妖精のようなものは、俺の顔を不思議そうに覗き込んでいる。なぜか、この妖精には目のピントが合った。

 妖精は背中に4枚の羽をつけた女の子という感じだ。かわいらしい顔をしていた。大きな瞳をしている。ちょっといたずらっぽい笑みを浮かべてこちらを見ていた。
 
「あああ、うーま?(俺のいう事が分かるのか?)」
「分かるわ。話せるんだね。珍しいわ」
「あーう、ばぁぁ(何なの? お前は?)」
「うーん、妖精とか精霊とかね、人間は色々と呼び名をつけるけどね。好きなように呼べばいいわ」
「あ、あうーま……(そう言われても困る)」

「!"#%&#$&♪*+><(あら、ご機嫌ね、何とお話しているのかしら)」

 母親の声がした。俺には見えないがこの部屋にいるようだ。
 ということは、やはりこの妖精のような物は俺にしか見えていない可能性が高いだろう。

「サラームって呼んでいいわ。私はサラーム」
 小さな妖精というか精霊というか、そういう存在は名前を言った。

「あう、うあ……(あ、俺は、この世界では…… まだ名前が無いな。というか、あっても知らない)」
「この世界では?」
「ああ、う、うまぁ……(どうも、俺は前世の記憶をもって転生したようだ)」
「ふーん。なんか面白そう!」
 
 大きな瞳を輝かせてサラームは言った。
 
「ねえ! 前世は何していたの! 戦士! 魔法使い? 冒険者? それとも、魔王とか!」
 
 サラームはクルクルと俺の上で舞った。キラキラとした光が空中にまかれている。
 
 この妖精の言葉で俺は確信した。あの母親の容姿。
 そして、妖精だか精霊の存在。
 間違いないここは「異世界」だ。俺のいた地球とは全く違う異世界だ。
 俺は、異世界に転生したのだった。
 
「ああ、うーま……(俺はこの世界の人間じゃなかった)」
「へぇ! 本当! すごいね!」
「ああ、うばぁ(すごいのか? 俺は……)」

 俺は自分の最期について考えた。なんというか評価に苦しむ。

 中学生の妹のパンツを履いて家族に対する自爆テロを敢行。お巡りさんに捕まることで家族もろとも地獄へ叩き込んでやるつもりだった。幸せを破壊してやりたかったのだ。俺を裏切った者への報いだと思っていた。

 しかし、今考えるとバカのような気もしてきた。そして最期は、コンビニの女の子をかばって、強盗に撃たれて死んだ。パンツ一丁だ。妹から盗んだパンツ。水色のシマシマパンツだった。これはマスコミ報道もどうすべきか迷うところではないかと思った。

 だが、それを今、考えても仕方なかった。
 俺は、未来志向に考えを切り替えた。
 
 そうだ、魔法と言ったな。このサラームは確かに「魔法」と言った。

「あああ、あば……(魔法があるのか? この世界には)」
「え? あるのが普通でしょ?」
「あーう(無いよ。妖精とか精霊も多分いない。というか見たことない)」
「へえ、変わったとこから来たんだね」

 魔法が使える。そして、サラームの言葉。おそらくはこの世界は「剣と魔法」の正統派ファンタジー世界なのだろう。なんか、夢が膨らんできた。 

 サラームはふわりと俺の胸に着地した。全く重さを感じない。やはりファンタジー世界の住人なのだろう。

「ねえ! その世界のこと、私に教えて!」
「あぶ、あぶ、あーー(ああ、いいぜ)」
「本当!」
「あー、あー、まーーー(そのかわり、この世界のことを俺に教えてくれ)」

 こうして、俺の異世界ライフが幕をあけた。

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