Suicide Life 《スイサイド・ライフ》

ノベルバユーザー203842

■第13話:処刑執行人■




歩兵達は鞘から剣を抜き、一斉に走り出した…

ある者は、エルフを斬り裂き、ある者は、火魔法を使い、木々に火を放ち、ある者は家の扉を叩き割り、家具を蹴散らし、ある者は、自らの欲を女エルフにぶちまけ、ある者は、立ち向かい、矢を放つエルフ達と戦闘を繰り返し、血の海に染めた…

そして、2人の歩兵が、裕翔の縛り付けられている大樹に辿り着き、裕翔を縛る縄を斬り裂き、裕翔を解放した…

裕翔は縄を斬られた直後、重力のままに地面に落下したが、自力で立ち上がった。
歩兵達が肩を貸し、裕翔を将軍ピクセルの下へ連れていった…

「何ということでしょうか!!!!
勇敢なる戦士が若き少年を救い出してきたではありませんかぁ!!
なんと素晴らしい行い!!!!
歩兵2人のその勇敢なる魂が若き少年を救い出したのですぅ!!!!
素晴らしいぃ!!素晴らしいぃい!!素晴らしいぃいい!!!!」

ピクセルは大袈裟なリアクションをしながら、歩兵2人を褒め称えた。
ピクセルは目元が隠れるほど長い、ボサボサの金髪を気にすることもなく、馬から飛び降り、裕翔と視線を合わせた…

「少年!!若き少年!!!!無事かねぇ!!!?」

裕翔は小さく頷いた…

「おうおうぅ!!!!少年は良く耐えました!!!!
汚らわしいエルフからの暴行!!!!人間としての誇りが傷つきますぅ!!!!
少年は良く耐えました!!!!
エルフなんぞに人間が自由を奪われてはならない!!!!
人間はどこまでも自由に生きている!!
何者にも囚われず、自由に生きる事が許されている!!!!
そう!!全ては我らの王!!!“精霊王に”よってその自由を得たのです!!!!
良く耐えました…良く耐えました!!!!」

ピクセルは囚われていた裕翔までも褒め称えた…
ピクセルは何事も大袈裟に、何事も周りを煽った…

ピクセル、金髪に、青い瞳、なかなか爽やかな印象とは裏腹に、テンションが高く、やたらと一人の会話が多い(彼の言葉を全てカギカッコの中に入れたら、何行になるのだろうか…?)、美形チャラ男と言った感じだろうか?
裕翔が思うに、女子から見たらなかなかのイケメンではないだろうか?と思う程だ。
しかし、彼の言葉やテンションがソレをぶち壊し、尚且つ、ちょこちょこ血走るというおまけ付きである…
正直、その美形がもったいないと思ってしまうほどだ…


「ピクセル将軍!!!!半魔です!!!!半魔の娘を捕らえました!!!!」


ふと、数人の歩兵がピクセルにそう言った…

半魔…嫌な予感がした…

「半魔!!!!
まさかまさか!!!!まさかぁ?
エルフと人間のハーフ、ハーフエルフではありませんかぁ?」

「はい!!間違いありません!!!!」

ハーフエルフ…間違いない…
歩兵達によって捕えられたのは…“テラ”だ…

「放してっ…!!!!」

テラは抵抗するが歩兵達が羽交い締めにし、自由を奪われていた…

「半魔…よりにもよって人間とエルフのハーフですか…
人間と…エルフ……!!!!」

ピクセルの額に血管が浮き出た…そうとう、ピクセルはキレていた…

「はいはいぃいい!!!!!!!!
はぁーーーい!!!!!!!!
歩兵の皆さん!!!!
突然ですが、エルフを狩るのを少しやめてください!!!!
今、ここの歩兵達が半間の娘を捕らえました!!!!
何と!!!!その娘は人間とエルフのハーフ!!ハーフエルフでしたぁ!!!!
なんと悲しきことでしょうか!!!!!!
今すぐに!!この村にいるエルフを全て捕らえなさい!!!!
この娘を作り出した愚か者を洗いざらい探し出すのです!!!!!!!!
人間との子を作った事を後悔させ!!!!我らの手で葬り去るのです!!!!!!!!!!!!!!!!」

ピクセルはそう大きな声で、燃え盛る、悲鳴の上がる村に言った。が、その声はかなり大きかったが、悲鳴や、歩兵達の覇気に掻き消され、誰の耳にも届かなかった…たった一人を除いでは…

その声に一番最初に反応したのは、ピクセル率いる歩兵達でも、裕翔でも無かった…


「おおおらぁああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


突如、ピクセルの目の前に一人の男エルフが飛び掛る…
その男は、男の腕程の長さの両刃剣を握り、眉間に皺を寄せ、血走った瞳でピクセルを睨み、その剣を振るった…

が、ピクセルはその攻撃を小さく体を逸らし、簡単に避け、空振りし、その勢いを殺せなかった男の渠に膝蹴りを食らわせる…

「カハッ…!!!!」

胃の中に入っていた物が逆流し、男は少し嘔吐した、が、それでも、男は剣を振るい、ピクセルに立ち向かう…

「無駄ですよぉ!!!!無駄なんですよぉ!!!!
力のない種族が慣れない武器を使ってるんじゃありませんよぉ!!!!
流石学習能力のない屍ですねぇ!!!!」

とピクセルは罵倒しながら、男の攻撃を軽くあしらい、地面に叩き伏せる…

まもなくして、男は地面に力尽きた。

ピクセルは男の目の前でしゃがみこみ、前髪を持ち上げ、無理矢理目線を合わせる…

「半間の娘を作り出した愚か者は貴方ですねぇ?
カルコ村村長、“ゼプト・カルナルム”さん…」

エルフの男、ゼプトは口に血をにじませながら、ピクセルを悔しそうに睨み、ピクセルの顔めがけて、唾を吐いた…

その唾がピクセルの頬に触れると、ピクセルはその唾を体を動かさず、目だけで見ると、容赦なくゼプトの顔面を二三度、地面に叩きつけた。

叩きつけられたゼプトは、鼻の頂点に地面が当たり、顔に鼻血が塗られながら、呻き声をあげる。

「エルフ如きが調子に乗っているんじゃねぇよ?
自らを汚らわしい汚物だという事を理解し、自重しなよ?」

とピクセルは真顔で、ゼプトにそう言った…

ふと、ピクセルが空を向いた…
何かを考えるように、人差し指で顎の下をこすり、数秒後、指をパチンッと鳴らした。

「そうだ!!そうだそうだ!!!!!!
いーい事考えたぁ!!!!!!この方法ならば若き少年の気もはらせるよぉ!!!!!!!!
喜びたまえ少年!!!!
この私!!!!ピクセルはこの愚か者を“処刑”にする権利を君にあげよう!!!!!!!!」

と、ピクセルは裕翔の方を向き、そう言った。
ピクセルは歩兵の1人から腰にぶら下げた両刃剣を借りると、裕翔の手に握らせた。
そして、村の方向を向くと…


「はーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
注文ぅうううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ゼプトは声を先ほどの倍近く張り上げ、歩兵達に呼びかけた。
その声に流石の歩兵達も気づき、ピクセルの方を向いた…


「まもなく!!!!!!カルコ村村長!!カルコ村、村長!!!!!!ゼプトの公開処刑を始めまぁす!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
処刑執行人は愚か者!!!!ゼプト本人!!!!更に!!!!愚かなるエルフ達を恨む“若き少年”ですぅうううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!」


その声により歩兵達は歓声をあげ、指笛を吹き、武器を叩き鳴らした…


「なので!!!!!!!!愚かなるエルフ共を殺すのではなく!!!!全員拘束してください!!!!!!!!!!!!
村長の最後くらい拝ませてあげようではないですかぁ!!!!!!!!」



■ ■ ■


数分後、エルフ達は抵抗するものの、歩兵達によって全員捕縛され、1箇所に放り投げられた。
その捕縛されたエルフ達の前に小さな台が置かれ、両腕を縛られたゼプトが座らされていた。

ゼプトの視界、捕縛されたエルフ達の後ろでは、ハーフエルフの娘、テラが十字架に縛り付けられ、2人の歩兵達がその首に槍を向けていた。


「お集まりの皆さん!!!!!!!!
ようこそいらっしゃいましたぁ!!!!!!!!
たっだいまより!!!!!!半魔を作り出した愚か者!!!!
カルコ村、村長!!!!ゼプト・カルナルムの公開処刑を始めまぁす!!!!!!!!!!!
はーいぃいい!!!!!!!!拍手、拍手、拍手ぅううううう!!!!!!!!!!!!」


ピクセルの煽りで、歩兵達が拍手した。

「死刑執行人は!!!!愚かなるエルフ達によって拘束され!!殺害されかけたところを私!!!!ピクセル率いる精霊王!!“画素軍”が駆けつけ!!!!勇敢なる魂を持つ歩兵達によって救い出された若き少年!!!!カンザキ・ユートですぅうう!!!!!!!!!!!!」

ピクセルの声で歩兵達が完成を受けながら、裕翔は先程、ピクセルに握らされた両刃剣を握りながら、ゼプトに近づく。
ゼプトの正面に立つと、歩兵2人が、ゼプトの首を前に突き出させた。

さてと。神崎裕翔こと俺はゼプトの前に立った。
ピクセルによりゼプトの処刑執行人を任されたが、どうしたものか…

歩兵達に首を前に突き出されたゼプトの顔を見ると、バラバラ殺人状態にされた、あの時の光景が目に浮かぶ。痛いし、苦しいし、辛かった。
エルフは死んでも恨む。
テラにもそう宣言した。

片手に握る両刃剣を見ると、スタスタとピクセルの前に立つ。

「おやぁ!?どうしたのですか処刑執行人!!!!
まさかまさか!!!!愚か者を殺さないのですか!?」

「違います…ただ…この剣の“鞘”も欲しいな、と…」

「鞘?ですか?なぜ鞘かま必要なんですかぁ?
鞘は剣を収める物!!!!処刑には必要が無いものですよぉ!?!?」

「…僕の剣技には…必要なんです…」

「剣技…!!!!
なんとなんとなんとぉ!!!!
死刑執行人は騎士様であらせられましたかぁ!!!!!!
何ということでしょう!!!!愚かなるエルフ達は騎士様を手にかけていたとはぁ!!!!驚きのあまり私も怒りに満ち満ちてきましたぁ!!!!!!
分かりました!!!!どのような剣技かは存じませんが!!!!このピクセル!!!!貴方様に鞘をお貸ししましょう!!!!!!」

とピクセルは言うと、先程、両刃剣を借りた歩兵から鞘をかり、卒業賞状を手渡すかのように丁寧に渡してきた。

その鞘に、両刃剣を収めると、ゼプトの前に立ち、居合を構える…

ふと、思いつき、口を開く…

「そうだ…一つ話をしておこう…ゼプト…」

ゼプトに話しかける、語るように話す…

「僕は…俺は、前に言ったよな?俺は死んだって。バラバラ殺人状態にされたって。実はな、その前にもとっくに死んでんだよ…
俺は高校の夏前に、学校を退学になった。暴動を起こしたからだ。
その時からだ。親から虐待されるようになったのは…
俺はその時から嫌いになった…
何が?全てだ…
母親が嫌いだ、父親が嫌いだ、兄が嫌いだ、人間が嫌いだ、生物が嫌いだ、日本が嫌いだ、世界が嫌いだ、地球が嫌いだ、宇宙が嫌いだ、万物全てが嫌いだ…
そして、俺は首を吊って自殺した。
なのに、ゲームプレイヤーだとかなんとか言われてこの世界に来てみれば、バラバラ殺人状態にされるだの、この世界で死んでみれば、元の世界に飛ばされるは、テラに会うだの、全裸のスペードに会うだの、同時に死んだら異世界に飛べるだの…
またこの世界に来てみれば処刑執行人だの…
もう疲れきったよ…」

ゼプトはその話を黙って聞いた…

「だけど」と続ける

「この世界も“悪くは無い”なと思えてきたんだなこれが。
死んだら元の世界に召喚、死んだら異世界に召喚とクソめんどくさいと思ったけど、案外悪くないかもなと思えたんだ…
居心地がいいわけじゃない、好きなわけじゃない、ただ、久しぶりに楽しいと思えた事もあった…
ははは…笑っちまうだろう?散々酷い目に遭わされたのに、悪くないかも、なんてな。
でも、だからといって、テメェは、テメェら全員“許さない”。
死ぬまで恨む。死んでも恨む。」

そう言って、刀を抜くように、両刃剣を抜刀した…
渾身の居合斬りだ…

抜ききった瞬間、大量の鮮血が降りかかる、足元は真っ赤に染まり、服も顔も、真っ赤に染まる…

「“だけど”」と続ける…

「俺は“テラに借りがあるんだ”…」

両刃剣を鞘にしまうと、地面に“二つ”の首がゴロりと落ちた…


「な、な、な、ななな!!何故ですかぁ!!!!!!!!
何故ですかぁ!?!?!?!?!?
何故何故何故!!!!!!!!何故!!!!!!!!
“歩兵”を殺したのですかぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ピクセルは驚きと怒りに叫ぶ。

え?とゼプトも他のエルフも驚いでいる…


「言っただろ?俺はテラに借りがある。
それ即ち、“テラの大切な者は奪わない”こと、だろ?」


とニカッと笑ってみせる。

「貴方は分かっておられるのですかぁ!!!?
この愚かなるエルフ達は貴方を殺そうとしたのですよぉ!?!?!?!?!?!?
なのになのになのにぃ!!!!!!!!」

「そんな事重々承知だ。
だけど、俺的には、借りの方が上でね。」

「貴方は馬鹿なのですか!?馬鹿なのですかぁ!?!?!?
この私に逆らった事を後悔させてあげましょう!!!!!!
歩兵の皆さん!!!!!!!!!!馬鹿なる騎士を斬り落とすのですぅうううう!!!!!!!!!!!!」

「「「「「「「「「「おおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

威勢のいい掛け声とともに、歩兵達は飛かかる…が、両刃剣は“鞘に収めてある”…

「それ即ち…!!!!!!!!!!!!!!」

弧を描くように、刀を振るうように抜刀する。
居合斬りは俺にとって最高にして最強の技。
竹刀だろうと刀だろうと人だろうと、全てを薙ぎ払う!!!!!!!!

まるで空間自体が斬れたかの様に、歩兵達の体が、一直線に斬れる。

真っ二つに斬れた歩兵の腰にぶら下がった鞘を剣で外すと、斬れた歩兵達が落とした1本剣を持ち、両手に握る剣をエルフ達の後ろに渾身の力で投げる。
クルクルと回転しながら剣は一直線にテラの首に刃を向ける歩兵2人の眉間に突き刺さる。

突き刺さると同時に、剣の鋒がテラを拘束する縄に擦れ、テラが解放される。

「何なのですか貴方は!!!!!!!!!!
何故私に刃向かうのですかぁ!!!!!!!!
私は精霊王に仕える精霊王軍の将軍なんですよぉ!?!?!?!?
なのに何故!!!!!!!!人間である貴方が私に刃向かうのですかぁあ!!!!!!!!!!!!!!」

ピクセルは怒り、叫ぶ。
それに、剣を拾いながら答えた。


「じゃあ、俺は“人間じゃない”。」


「なっ!?!?!?!?!?」



「俺は、ただの“歯車ギア”だよ。」



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