Suicide Life 《スイサイド・ライフ》
■第9話:憎しみ■
「…何…で……」
分からない…
何故、ゼプトがこんなことをするのか…
何のためにこんなことをするのか…
何故、あの優しかったゼプトにこれ程まで恐怖するのか…
分からない…
何で……
「おやおや?人間が俺達に何をしたか忘れたのかい?忘れてもらっては困るよ?
俺達はな、お前達人間が憎くて憎くてしょうがないんだよ!!人間さえいなければ…俺達はもっと平和に暮らせたんだ!!!!」
怒り任せにゼプトは叫びながら、その怒りを込められた硬い拳を裕翔の鳩尾に勢いよく殴り、めり込ませた…
内蔵が破裂するように痛い、吐き気とともに強い痛みを感じる…
ゼプトは、裕翔の悶絶する表情を見るとニヤリと笑い、次々に拳を打ち付ける…
鳩尾、肩、足、胯座、顔、胸…
何10回と殴った後、ゼプトは殴るのをやめ、ニコニコと笑いながら言った…
「安心しなよユート。簡単には死なせやしないさぁ~。
死ぬのはぁ~、“俺達が味わった痛みや苦しみを全て味わった後さ”☆」
不吉な笑みを浮かべたゼプトはそう言うと、くるりと体の向きを村人達に変え、「恨みを晴らしたい者は一列に並べ!!」と元気よく言った。
それは、あたかも小中学校の給食の余りを欲しがる子供たちを一列に並べさせる先生の様に、村人達を裕翔の目の前に長蛇を形成させる…
一番初めに並んだ男は言った…
「俺には1人、目にいれても痛くない、大切な娘がいるんだ…
頭の良い、自慢の娘…
俺と嫁さんの宝だ…
だが、ある日な…俺の娘はなぁ…
お前達人間に連れ去られたんだ…
だけど、しばらくしたら家に帰ってきたんだ…
体中痣を作ってな…!!
何人もの男に殴られたんだってよ!!
しかもなぁ!!それだけじゃなかったんだ!!
俺の娘は…娘はぁ…!!
テメェら人間に汚されて帰ってきたんだぁ!!
娘を汚された俺の気持ちが分かるか!!!?
ええ!?人間様よぉ!!!!」
男は嘆き、怒りと共に背に背負っていた棍棒を握り、何度も何度も裕翔に振り下ろす…
殴る度に鈍い音が聞こえ、時には何か硬いものが砕ける音がした…
そんなことも気にせず、男は棍棒を振るう…
そして、男が殴り終わると、嘆きながら涙でぐちゃぐちゃにした顔を腕で拭きながら、走り去った…
2番目の女が言った…
「私は…アンタら人間が大っ嫌いだ…!!
この村の私みたいな娘はみんなそう思っている。
アンタら人間の将軍ってのは狂った奴しかいないのかい…
この村を支配する将軍が決めた条例を知っているかい?
知らないわけないよな?
どこの村も同じなんだから!!
何だその顔は!!挑発してんかい!!
如何してもとぼけるって言うんなら言ってやんよ!!
少なくともエルフの村には15を迎えた女全員はその村を支配する将軍に自分の処女を喰らわせなきゃなんねぇ、ふざけた『処女令』でてのがあるんだ!!
納得いくかそんなもん!!
何で私らが人間なんかに!!
何で…何で…!!!!
何で私らが辛い目にあわなきゃなんないんだぁ!!
答えろよ人間!!
なぁ!!何でだよ…!!
何で私達を苦しめる!!
答えろよぉ!!!!!!!!」
女が嘆き叫びながら、手にしていた包丁を、裕翔の太股に突き刺す。そして、刺した包丁を抉るように肉の中でグチャグチャと激しく動かす…
血が飛び散り、返り血を顔や服に付けながら、女は怒り、泣く…
3番目の老婆が言った…
「儂はにな…もう家族はいないんじゃよ…
夫、息子、義娘、孫…
全員があの世に行ってしまった…
夫は寿命で先に行ってしまった…
じゃが、息子達は違う…
何故死んだと思う…?
人間のせいじゃ…人間が、精霊王の生贄にする為に沢山のエルフ達を拉致した…
この村にはその多くの被害者がいる…
人間達は息子達を生き埋めにしたそうじゃ…
義娘も、孫も…
儂は…あの世に行ったら夫に同顔を合わせればいい…?
のぉ…教えてくれんか…?
何故、其方は平気で生きているんじゃぁ…
のぉ…
教えてくれて…」
老婆は泣きながら、その皮だらけの棒切れのような手で裕翔の首を締上げる…
老婆は、泣きながら首を締めつける…
肺に酸素が行かなくなり、腕から暖かさが感じられなくなる…
頭が圧迫さるように、血が集まり、顔が真っ赤になる…
この世界に来た当時であれば、裕翔にとっては好都合の展開だ…
だが、今は違ったのだ…
生きたいと思った…生きたいと思わせてくれた…
だが、その感情はゼプトによっていとも簡単に切り刻まれた…
俺が何をしたというんだ…
俺がこの世界の奴となんの関係がある…
痛い…苦しい…
やめてくれ…
怖い…
痛い…
苦しい…
嫌だ…
誰か…
“助けて”……
そして、裕翔は意識を手放した…
■ ■ ■
裕翔が気を失った後…
裕翔が気を失ったにもかかわらず、エルフ達は恨みを晴らすべく、裕翔に刃を突きつけ続けた…
どれほど時間が過ぎただろうか…
裕翔は目を覚ました…
背中にヒンヤリとした湿った感触が感じられる…
裕翔は地面に横たわっているらしかった…
裕翔が目を覚ました頃にはエルフ達は寝床についたらしく、人の気配がない…
だが、直ぐに違和感を覚える…
“寒い”…
体が、氷のように冷たく、やたらと寒かった…
そして、もう一つ…
“何も見えない”…
目を開けようとすると、激痛が走り、それに耐えて目を開くが、真っ暗で何も見えない…
パチパチと何か燃える音が聞こえ、穂のかに暖かい熱を感じるため、松明か何か燃えているのだろうが、その炎の光も見えない…
気づくと、手や、胴体のの拘束は外れているらしく、左足が何かに繋がれているだけのようだ…
右手で何が起きているのかと、目に手を当てようとするが、動かした右手に激痛が走る…
指を動かそうとすると、特に痛い…
試しに左も動かしてみるが、同じく痛い…
指を動かさずに、腕を持ち上げるが、何故か激しい痛みに襲われ、動かない…
左腕は動くようで、目に手を当てる…
あれ…
あれ…おかしいな…何でだ…
自然と笑ってしまう…
楽しくも無い。
面白くもない。
でも、笑ってしまう…
だって、おかしいのだから…
眼球の膨らみや、まぶたの上からの眼圧…
それらが両目共、一切感じられないのだから…
その代わりに、何かねっとりとした液体に触れ、まるで、そこに薄い肉の膜の貼られた洞窟が出来たかのように凹んでいた…
それだけでは無かった…
左足が鎖のようなもので何かに繋がれている事は分かった…
じゃあ…“右足は”……?
何で“右足の感覚が無いんだ”……?
右足が動かないどころか、何も感じられない。
ただ、太股の付け根の辺りが、異常な程の熱さと痛みを感じるだけだった…
そして、もう一つ気づいた…
股の辺り…と言うより、股だ…
股に付いている男の象徴とも言える、生殖器。それが焼けるように熱い…
特に根元が熱かった…
最後に気づいたこと…
先程感じた、背中の湿った感覚…
それは、地面の水分…などではなく、液体のようなものであった…
それは、裕翔の寝ている場所より広く広がり、裕翔を囲うように液体が広がっていた…
まるで、それが、裕翔自身から流れ出たかのように…
笑ってしまう…
なんで笑ってしまうんだ…?
何で、何も見えないんだ…?
何でこんなに俺は、“泣いているんだ”…?
“分かっている”…
嗚呼、分かっているとも…
だが、分かりたくないんだ…
“認めたくない”…
神崎裕翔が目を覚ました時、既に体はボロボロだった…
裕翔の体は、“両手の全指の骨を粉々に粉砕され”、“右手の筋肉を抉られ”、“両目を抉り取られ”、“右足を根元から切り落とされ”ていたのだ…
裕翔は笑い続ける…
真っ暗な夜…
ボロボロのゲームプレイヤーは泣き、笑っていた…
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