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Suicide Life 《スイサイド・ライフ》

ノベルバユーザー203842

■第4話:ハーフ■




■ ■ ■



テラからはこんな話を聞いた…

昔…100年ほど前…この地では、“人身売買”が盛んになっていたらしい…
あまりいい目で見られた文化ではないことくらいは、俺にだって分かった…
その主な売買される種族というのが、“人間”だったそうだ…

人間は魔法の使い方が、他の種族と比べて、かなり劣っている。

だから、“奴隷”として捕まえられやすかった…

魔法の使い方が劣る…それはすなわち、抵抗する力が少ないと言える…
抵抗が少ない人間は奴隷にする強調がしやすかったそうだ…

そんな人間は、オーク、エルフ、ダークエルフ、リザードマン、ハーピィ、ゴブリン…すなわち、亜人族…他にも様々な亜人族達に捕獲され、強調…そして、売買されていた…

奴隷は、様々なことに使われた…
肉体労働を課せられる者…
戦場に駆り出される者…
生贄として捧げられる者…
欲を満たすために使われる者…

そして、使えなくなった奴隷は、“殺される”…または、“食された”…

そして、人間は奴隷を使う者達の想像を遥かに上回る苦しみを受けた…

そんな扱いを受けていた奴隷達は怒り、憎しみがたまらないわけがない…

だが…その中で、例外が起きた…

奴隷とその主人が長い月日を得て、“恋”に落ちたのだ…

種族の違う者達の間に生まれた子…“ハーフ”

そして、彼女…“テラ”も“エルフ”と“奴隷(人間)”の間に生まれた子…ハーフであるそうだ…



■ ■ ■



「ハーフである子には、必ず、“体のどこかにその特徴が出る”の…」

すると、テラは、頭に巻いていた包帯を解き、隠されていた、“耳”が姿を現わす…

それは、ゼプトの様な、細長く、尖っているものとは違い、俺の様な、半月型で、尖っていると言われれば尖っているが、耳の先が、僅かに耳の先が尖っていた。

「…私の場合は、耳に出たの…他の部分は殆どお父さんに似たみたいで、耳を隠したら、エルフにしか見えないの…」

確かに、テラは、耳さえ隠していれば、ゼプトと同じ、エルフにしか見えない。

「………それで…何故、そ、その…ミンティアを…?」

「……それは……私のお母さんが、“エーネの実”で眠っているからよ…」

「…エーネの実…?」

「………そう、エーネの実…エーネの実には物凄く強い毒があって…その実を食べると、死んだ様に、肌が、氷の様に冷たくなって、そして、深い眠りにつく……」

「……それって、死んでるんじゃあ…?」

「……死んではいないわ………。本当に…寝ているだけなの………。起こすには、対睡眠果実である“アサミの実”を口に含まなきゃいけないの…それで…」

「僕の持っている、ミンティアがそれにそっくりだと…?」

テラは、ゆっくりと頷いた…

「……だけど、ミンティアはミントからできているから、多分、そのアサミの実とは違うと思う…よ…?」

「それでも‼︎」とテラは声を荒だてた。が、テラはハッとなり、俯いてしまった…


「アサミの実はお母さんがエーネの実を食べる数日前までは簡単に手に入ったの…“あの人達”が来るまでは…」

「あの人達…?」

「…………“人間”よ」

ピクリと眉をひそめた…

「………人間が私達に“復讐”をしに来たのよ……
人間は魔法の使うのが苦手…それで皆油断していたの…
…人間には、魔法以外の他の“武器”があったのよ…“頭脳”という武器が…
人間達は復讐を果たすため、私たちの知らない間に徐々に力を蓄えていき、そして………私達との地位を逆転させた……
つまりは、人間が、亜人族に勝ってしまった……
そして、人間達は自分達がされていた事を同じ様に亜人族に強いた…沢山の亜人族が、奴隷として駆り出されていった…
すると、次は何が起こるか想像できる…?
簡単だよ………今度は、“亜人族が怒りだした”…
そして、人間達を極端に嫌い、“ハーフ”も嫌った…」

テラは生唾を飲み込み、「自分がハーフだとバレたら…“殺される”…」そう言った…

なるほど…だから、耳を隠していたのか…この世界も元いた世界と何も変わらないじゃないか…
納得した。納得したはいいが、これじゃあ、いつまでたっても睨み合いは終わらないじゃないか。
相手の肉を喰らい、喰らい返す…永遠と続く無限ループ…
鼬ごっこはいつまでたっても終わらない…終わらない戦いはお互いが凶となる。少し考えればわかるはずだが、睨み合っている本人達はそれに気づく余地もない。

永遠と修正されないバグの様だ…

このバグの様な戦いはいつまで続くだろうか…?バグはバカがあることに気づかなければ修正できない。それのバグはお互いがお互いを傷付け会えば会うほど、広く、大きく成長していく。自立したバグの様だ…“誰だってバグは作れる”、“誰だってバグは直せる”、そのことに気づかなければ、バグは消えない…

だから俺は嫌いなんだよ…世界が…“全て”が…

そんな事を考えるが、俺はその全てから逃げるために自分が消える、つまりは、死を選んだ。
俺が、あーだこーだ言える立場じゃない。立場は弁えている。

すると、テラは一度深呼吸をし、話を続けた。

「…お父さん…私のお父さんは、村の人達から、妻…人間であるお母さんを殺す様に言われたの…
だけど、お父さんはお母さんを殺さなかった…失いたくないから、失ってしまってはいけないものだから、愛していたから、愛していたいから…だから…エーネの実を使い、お母さんが死んだ様に見せかけた…
一ヶ月ほどで、アサミの実を土に含ませるつもりだった…だけど…………アサミの実は、人間達が、“占領してしまった”…
お父さんが、アサミの実を欲しがれば欲しがるほど、人間達はその値を高くしていった…そして、自分の手の届かない生で跳ね上がり、アサミの実を手に入れる手段が、失われた…
嘆いた…嘆いていた…自分が、お母さんをアサミの実を手に入れられなかったせいで、お母さんを目覚めさせる手段が無くなったと…自分が、殺してしまったと…」

「だから」とテラは続け、深く、頭を下げた…

「お願い、します……私は何をされても…どうなってもいいから……お母さんを助けてください…‼︎お願いします…‼︎」

俺は、疑問に思う…いや、思うしかなかった…

『どうしてそこまでして母親を助けたいのか』と…

俺の母親…彼奴は、本当に母親と呼べたのだろうか…?
そもそも、本当の母親なのだろうか…?

実の息子を奴隷の様に扱い、気に入らなければ、食事は与えない、下手をすれば、“一ヶ月の自給自足”だ…バイトにだって給料日がある、直ぐに手に銭が入るわけではない…また、バイトをすれば、給料の大半を兄に巻き上げられる……
母親のストレスが溜まれば、発散の道具として何度も打つ…痣が適用がなんだろうが、サンドバッグの様に殴り続ける、下手をすれば、道場から竹刀を取り出してくる、問答無用で、竹刀を握らされ、防具も何もつけない俺を、殺さない様にいたぶり続ける…無抵抗な俺を罵倒し、殴り、打つ…俺が気を失うまで、殴り続ける…

奴は本当に母親なのだろうか…?

もし、俺が、テラと同じ状況下に立たされた場合、俺は母親を助けるだろうか…?

助けない。そう言い切れる。

だから、テラの気持ちも分からない…何も分からないのだ…
助けることはない、そんな必要はどこにまないと考えるだろう…

だが、ここはあの世界とは違う…異世界だ…


なら…少しくらい…自分らしくない事をしてみてもいいんじゃないか…


そう思った…



■ ■ ■



テラに連れられ、1つの扉の前に来た、そして、テラがその扉をノックし、部屋に入った…

そこには、顔に血の気のない、眠り続ける1人の女性と、彼女の手を握る、ゼプトの姿があった…

ゼプトがこちらに気がつくと、目を見開き、驚愕した…

「て、テラ…‼︎な、何故、ユートをこの部屋に連れて来た‼︎」

「お父さん…落ち着いて…‼︎お母さんが…お母さんを助けられるかもしれない…‼︎」

「な、何…?」

「ユート君が…ユート君がアサミかもしれない小石ミンティアを持っていたの‼︎
それを、1つ…‼︎分けてくれるって…‼︎」

「ほ、本当か…‼︎そ、それは、本当にアサミだったのか⁉︎」

「分からない…けど‼︎朝食に混ぜた“スイカの実”の効果が効かなかったことが説明がつく…‼︎」

「‼︎試してみる価値はあるな…」

「でしょ‼︎」

「………スイカの実…?朝食に混ぜた…?どういう…こと…?」

テラは何か意味深な事を言っていたが、テラとゼプトはそれに気づく事なく、母親が目を覚ますかもしれないということに、喜びの声を上げていた…

まぁ…聞かなかったことにするか…

前の世界の俺ではありえない衝動だ…
この世界に来て、まだ1日も経っていないが、俺の中の何かが変わったのだろうか…?
………とくっ……とくっ………とくっ………と、動く、心臓に手を当てても、それが何かは分からない…ただ、自分を構成していた、苦しみにより動いていなかった歯車が、カチ…カチ…カチ…と、動き出した様に感じた…

そして、俺は、ポケットの中からミンティアのケースを取り出し、中から一粒取り出し、テラに差し出した。

それに気づいたテラはそっと、慎重に受け取り、テラの眠る母の前に立った…

テラとゼプトは一度顔を見合わせ、コクリと無言で頷き、母の口を開け、ミンティアを口のなかに入れた…

だが…母親は目を覚まさない……

そりゃ、当たり前だろ…だってさ………


その母親…“既に腐ってんだもん”………


血の気はない、確かに血の気ない…だが、血の気は無いとかそんなレベルでは無い…
既に、皮は干からびており、肉もくしゃくしゃになり、腐っている。腕や手は瘦せ細り、鼻に皮が張り付いている様だ、不快臭が部屋中に漂い、部屋に入った瞬間、鼻が曲がりそうだった…

2人が、愛おしそうに見つめ、目に涙を浮かべ、ゼプトが手で優しく握るそれは…


いわゆる、“死体”だった…


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