Suicide Life 《スイサイド・ライフ》

ノベルバユーザー203842

■第3話:ミンティア■




朝食を頂いた後、俺は眠っていた部屋で自分の私物を“再確認”した。

朝食を頂く前、俺は現在の状況を理解するため、ここに来た時の持ち物…いや、この世界に来た時の持ち物を確認した。

そこでたまたまズボンのポケットに入っていた物があって、少し興奮した…
そして、その見つけた小さな箱を持ち、蓋を開け、中から小さな粒のを口に含んみ、カリッと音を立てながら咀嚼する…


「やっぱり“ミンティア”は美味えな。」


朝食前にも一粒口に含んだが、やっぱり美味かった。
この口に含んだ瞬間は、ほのかに甘い。
そして、噛んだ瞬間のカリッとした食感、そして、その瞬間フワッと広がるスッとした香りとほのかなミントの辛さ…
何ともいえない、癖になる味だ…

異世界に来たのはいいが、生きているにも関わらず、この味が楽しめないと思うとちょっとショックだった…

「自殺する前…俺にとっての唯一の癒しと言っても良かったからな………」

何でかは分からないが、何故か食べると懐かしく思える…
お袋の味…ってのに近いのかな…?

まぁ、そんなことを感じさせるお袋なんかは俺には居ないんだけどな…

それを思うと自分の心臓を握りつぶしたくなるほど苦しくなる…
分かってはいるが、どうしても…

死にたくなる…

“自殺したくなる”…


『まぁ、そんなことを思って自殺しても無駄だけどね☆
ニカカカカ☆』

「⁉︎」

突然声が聞こえた。

この声の正体は一瞬で顔が思い浮かぶ…

『ヘェ〜?覚えててくれたんだね…?
意外だな〜君が人のことを覚えるなんて☆
ね?ゲームプレイヤーさん?ニカ☆』

名前は…


「何処にいる…“ジョーカー”‼︎」


『ニカカカカ☆
君は私が君の近くにに居ないこと、そして、私の声が“何処から聞こえてくるのか”分かっているんじゃ無いのかな?
ニカ☆』

ああ、知っている…知っているとも…
さっき、荷物を確認した時、俺の“私物でない物”があった…

そして、その声が聞こえるだろうと思われる、場所…“ポケットの中”に手を入れる…
そして、手のひらサイズの一枚の“紙”…トランプのカードを取り出した…

そのトランプは不吉に笑うピエロが描かれた“JOKER”…

すると、その取り出したトランプのピエロがグニャリと渦を巻くように捻れ絵が変わり、俺を異世界に召喚した張本人、ジョーカーに変わった…
そのカードは、ビデオ通話のようになっているらしく、ジョーカーはカードの中で「ニカカ☆」と笑っている…

『やあやあ元気かい?
3時間ぶりくらいかな?ニカ☆
そうです私はジョーカー‼︎
カードの中で一番強いカード、JOKERからお邪魔させていただくよ?ニカカカカ☆
ところでもう一度聞くけど元気かい?
おやおや?なんだいその不機嫌そうな顔は?
せっかく、“君の人生を変えてやったんだぞ”?
もっと喜びたまえ。その世界には君のだーい嫌いな、奴は1人もいないんだよ〜?
例えば〜“君の家族”…とか。
ニッカニカカカカカカカ☆』

ジョーカーは不吉に笑う。
俺をあざ笑うように笑う。
その顔は、まるで俺をゲームの駒のようにして遊ぶ子供のようだ。

『ところで』とジョーカーは話を続けた。

『どうだい?異世界での暮らしは?
とは言ってもまだ3時間くらいしか経ってないけどね?ニカ☆
異世界に来た感想はどうだい?いきたいと思うかい?
もしくは…まだ“死にたい”と思うのかい…ニカ☆』

ジョーカーはそんなことを聞いて来た。
異世界がどうかって?
この世界がどうかって?
死にたいかどうかって?

そんなの言うまでも無い…

「確かに俺が嫌いな奴はいなさそうな世界だ…
だが、俺の苦しんだ時間、思い出、“傷跡”が消えるわけじゃ無い。
嫌いな奴が居なくなったとしても、今度は俺に付けられた深い傷跡…すなわち記憶が俺を苦しめる。
元の世界と何も変わらない、何も変わっちゃ居ないんだ。
俺の記憶が変えない限り、俺の記憶は俺を苦しめ続ける。だから、俺は首を吊ったんだ。だから自殺しようとしたんだ。

俺にはこんな世界は要らない。

さっさと天国でも地獄にでも送ってくれ。

俺は死を望む。それだけが望みだ。」

すると、ジョーカーは『じゃあ』と続けた…


『じゃあ、このゲームのクリアの報酬で自分の“過去の記憶を消すこと”を願えばいいじゃ無いかな?ニカ☆』


なん…だと…?


『言ったはずだろ?このゲームのクリア報酬は君の願いを1つ叶えるって。
何でもいいんだよ。
叶わない願いでもいいんだよ‼︎たとえ、この世界を滅ぼしてくれと願ってもさぁ‼︎自分の過去の記憶を消す事なんて僕にとっては簡単な事なんだよ‼︎次元だって捻じ曲げることができる‼︎
よ〜く考えてみなよ‼︎
この異世界に連れて来たのは誰だい‼︎
存在しているはずのない、エルフが住んでいる世界に連れて来たのは誰だい‼︎
その異世界に召喚したのは誰だい‼︎
そう‼︎私だよ‼︎ジョーカーだよ‼︎
私以外の誰でもない‼︎
これが私の力だ‼︎
君達、腐った2人の人生を変えることも簡単なことなんだよ‼︎
さぁ、君達はその世界でどう過ごす‼︎どう生きる‼︎
全てが自由だ‼︎
君達の大嫌いな者たちは誰1人いない‼︎
さぁ‼︎ゲームを始めよう‼︎
君達2人のどちらかが勝者だ‼︎
勝者になるか敗者になるか、それは君達の行動次第‼︎
相手を思い出す‼︎それが勝利条件だ‼︎
顔を忘れた相手を思い出す‼︎
そして‼︎君達に与えられた猶予は1年‼︎‼︎


これは簡単なゲームだ‼︎
ゲームを楽しもうじゃないか‼︎‼︎


二人とも敗者?そんなのはつまらない‼︎‼︎


君達二人のどちらかが勝者だ‼︎‼︎


では、結果を楽しみにしてるよ…ニカカカカ☆』


そこでジョーカーとの通信は途絶えた。
そして、通信が途絶えた直後、トランプカードは真っ黒に染まり、灰のように崩れた…

今回分かったことは3つある…

1つは、このゲームでクリアすれば、記憶さえ消すことができるということ…

2つ目は、ジョーカーそれを叶えることができるほどの“強者”であるということ…

そして、3つ目…


先ほどの通信は、“俺が思い出さないといけない相手にも繋がっていたということ”…


最初にジョーカーは俺の事を“君”と一人称で言っていたが、途中、気が抜けていたのか、“君達”と二人称で示した。


すなわち、それは、ジョーカーは確実に何処かで俺たち“2人同時に監視している”ということだ…



■ ■ ■



「…ふん…。ミンティアと携帯…というよりスマホ…壊れたいなかったことが奇跡だ…腕時計そして、首を吊る時に着ていた自分の私服。
他には何かないのか…?」

自分のポケットの中身を念入りに漁る…「カチャン…」と音を立てながら何かが床に落ちた…
拾い上げてみると…


「ロープを切る時に使った“バタフライナイフ”か…こんなのポケットの中に入れたっけ…」


と、バタフライナイフを見つけてから、いくら調べてもこれ以上は出てこない…

初期装備は、ミンティアとスマホと腕時計、そして、バタフライナイフ…
何でもありの異世界に行くのには不十分すぎる持ち物だ…

ふと、金も持ってないと思ったが、よくよく考えてみれば、こんな異世界に来て、元の世界の硬貨が使えるはずないか…

さて、問題なのは、これからどうするかだ…

ゼプトさんの心遣いにより、俺はしばらくの間、ここに泊まることになった…
だが、そう長居はできないだろう…
見ず知らずの人間を何時迄も家に置いておくほど気は良くないはずだ…

すると、コンコンとノックが聞こえ、ドアが開いた…
テラだ…

「な、何ですか…?」

突然の来客に驚き、声が虚どっていた…

「貴方…どうやって、スーマの実を防いだの⁉︎」

「へ…?す、スーマの実?」

何故かテラは息をあらだてていた。
スーマの実とは何だろうか…?

「惚けないで‼︎私は確かにお父さんの命令で貴方の料理に刻んだスーマの実を入れたはず‼︎
なのにどうして効果がないのよ‼︎」

「え、え?ええっと…スーマの実って…?」

「だから‼︎惚け…え?何この匂い…?」

匂い…?何も匂わないが…ああ、なるほど。
そして俺は、今食べているミンティアの箱をポケットの中から取り出す。

「え?あ、ああ、これの事…?」

「…?何これ…?」

「え、ええっと、み、ミンティア‼︎
お、俺の好物なんだ‼︎」

「みんてあ?コレが、食べ物なの…?こんなに固いのに…?」

テラはミンティアに興味津々のようで、「食べてみる…?」と聞いたところ、テラは頷いた。

俺はミンティアの箱から一粒手に取り出し、テラに差し出す。
テラは警戒しながらも、プルプルと震えた手で粒をつまみ、縦に横に見たり、匂いを嗅いだ後、慎重に口に含んだ。

カリッ…

「バフッゥ⁉︎⁉︎」

「あ、あ‼︎ご、ごめん‼︎か、辛かった⁉︎」

物凄い勢いで、テラの口が爆発した。
と、何故かテラは「ん?」となって、舌の上で、粒を転がすようにした後、飲み込んだ。


「こ、コレ‼︎あ、“アサミ”だわ⁉︎」


「あ、アサミ…?み、ミンティアだけど…?」

「いえ‼︎間違いない‼︎対睡眠魔法の高級な木の実、アサミだわ‼︎
しかも、アサミの実を凝縮してこんなに小さく…ど、何処で手に入れたのこんな効果もの⁉︎」

テラは俺の胸倉を掴み、ブンブンと振り回す。

「い、いや…こ、コンビニだけど‼︎」

「こ、こんぶぃに?」

「そ、そう。コンビニ。家のマンションの近くの。」

「次から次へと変な言葉を…」

するとテラが「うーん」と唸り、頭を抱えた後、バッ‼︎と顔を上げ

「そ、その“みんてあ”を私にください‼︎」

と言ってきた。

フッ。そんな事を聞かれるだろうと思っていた…
だから、答えは決まっている。
だから、堂々と、胸を張って、腹一杯に空気を溜め言ってやった。


「どうかご慈悲をぉぉぉおおおおお‼︎‼︎」


「へ?」


「これは俺の唯一の癒しなんだ。これを奪われたら千回は死ぬ。いやマジで。これだけは勘弁してほしい‼︎い、いやだからと言って、無理やり奪うのもやめてください‼︎お願いします‼︎打たないでください‼︎お願い致します‼︎俺はこれを取り上げられたら生きていけねぇんだ‼︎俺の命よりも大切なものなんだよぉ‼︎この世界に来て、コレがたった唯一の救いなんだ‼︎本当は死ぬ予定だったんだけどぉ‼︎何でこんな世界に来ちまったんだよ‼︎こんな役立たずの俺でも大切なものだってあるんだよ‼︎これなかったらマジで死んじゃう‼︎生きていけない‼︎死ねるんだったら死にたいけど‼︎ミンティア守るか、死ぬかって聞かれたら、迷いなく死を選ぶけど‼︎でも、今はミンティア味わっていたいから勘弁してくれよぉ‼︎お願いします‼︎どうかこの私からミンティアを取らないでくださいぃ‼︎お願いだぁああ‼︎」


泣きわめきながら土下座をしている俺を軽く…いや、ドン引きしながら見ているだろうと思われるテラの顔が目に浮かぶが、俺はミンティアを守り抜くため、全力で地面に頭を擦り付ける。


「…い……します……」


「……………ぇ…?」

何故だろうか?
テラの声が小さく、霞んでいるように聞こえる…?

気になり、ふと顔を上げてみる…


「お願い…します…‼︎
一粒…もう一粒だけでいいの…‼︎
……………さんを……………“お母さんを助けて”よぉ‼︎‼︎」


テラの目から頬を祟り雫が落ちていく…

何故泣いているんだ…?

母親を助けて…?

どういう事だ…?

呆然している間…床には幾多もの雫が落ちていった…



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