Suicide Life 《スイサイド・ライフ》
■第1話:異世界■
そよ風が吹けば森が歌い、川の流れは音楽を奏でる…
天に昇った太陽は、美しく輝く…
緑が多く、空気が澄んでいる…
そんな心地の良い朝…
私はとんでもないものを見てしまった…
私はそれを見てしばらく硬直した…
硬直しないわけがない…
誰だって硬直するだろう…
または、呆然とするか、は?と思い驚くだろう…
目の前にある小川…
私はそこで水を汲んでいただけだった…
なのになんで…
「小川に誰かが刺さっているの⁉︎⁉︎⁉︎」
そう、目の前の小川の中央辺りに、誰かが刺さっていた。
しかも頭からだ。
何をしたら小川に突き刺さるんだろう…
中途半端に打たれた“釘”の様に刺さっていた。
「ええっと…助け…たほうがいいのかな…?」
とりあえず、手に持っていた木製のバケツを地面におき、靴を抜く。
足首の辺りまであるスカートの裾を持ち、恐る恐る、小川に足を踏み入れる…
「ちべたっ!」
小川の水はまだ春を迎えたばかりなので冷たく、數十分でも浸かっていれば、霜焼けになってしまうだろう。
そんな事を考えながら、突き刺さった人の目の前まで来た…
スカートの裾をは体に巻きつける様に縛り、裾が水に浸からない様にしようとしたが、手が滑り、裾は重力に逆らえるはずもなく、水に浸る…
裾は諦め、刺さっている人の足を大きな“蕪”の葉をを引き抜く様に、しっかりと掴み、引く。
「うんんん‼︎」
力一杯引くが、ピクリとも動かない…
本当にどうやって刺さったんだろう…
空から降ってきたらこんな感じになるのだろうか…?
まぁ、そんな訳ないよねと思いながら、再び引くが、やはり抜けない…
どうしたものかと考えていると、一つ方法が思い浮かぶ。
その方法ならば、確実に抜けるだろうと思い、実行する。
私は水の中に手を入れ、川底に手をつく…
そして、唱える…
「地の精霊たちよ、私に力をお貸しください…《沈降》‼︎」
すると、触れていた川底がほのかに光り、地面に突き刺さった人の刺さっていた辺りの川底がグニャリと歪み、刺さっている人が川底から抜ける…
固定されるものがなくなった、刺さった人の体はパシャンッ!と水を叩き、倒れた…
「ええっと…大丈夫…ですか…?」
怯えながらも声をかけるが、返事はない…
先ほど、体に触れたとき、人肌の温度は感じられたので、間違いなく生きているだろうと思うが、その人は起き上がろうともしない…
ふと、一つの考えが頭をよぎる…
もしかして、気絶してるのでは…?
私は考えた…
この人をどうするかだ…
とりあえず、川岸に運び、寝転がせる…
さて、どうしたものか…
見た所、可笑しな服装をした少年だ。
こんな服見たのは初めてだ…
興味が湧き、少年の姿を観察していると…
あるものが目に入ってしまった…
気づかなければよかったかもしれない…
いや、早く気づいてよかったのかもしれない…
恐る恐る、私は少年の“揉み上げ”を軽く持ち上げ、確認する…
「耳が………“尖ってない”………‼︎」
私、“テラ・カルナルム”は、とんでもない人を助けてしまった…
■ ■ ■
体が重い…
頭が痛い…
俺は何で生きているんだ…
ジョーカーの目的は何だ…
俺の願いはただ一つなのに…
俺はただ…
ただ…死にたいだけなのに…
■ ■ ■
何だ…この間感覚…
寝ていることは感覚でわかる…
だが、寝ている床がふかふかしていて、心地がいい…
俺は、目を覚ました…
目をこすり、重いまぶたを開き、あたりを確認すると、自分がベットで寝ていたことが分かる…
「ええっと…お加減はいかがですか…?」
ふと、声が聞こえた…
声の方を向くと…やはり“人間”…少女がいた…
少女の髪は長く、美しい金髪で、肌は色白だ。
服装はどこかの民族衣装のようなものを着ている。
何故か、耳を覆い隠すように包帯を巻いていた。
怪我でもしたのだろうか…?
「ヒッッッッ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
反射的にそんな声を上げてしまう。
少女は少女でも人間であることには変わりはない…
怖いものは怖いのだ…
そんな俺に驚いたのか、少女が慌てた様に「ど、どうかなさりましたか⁉︎」と言ってくる。
だが、そんな声も聞こえない…
怖い…
それだけだ…
目の前にいる少女が視界に入っただけでそう思ってしまう…
怖い怖い怖い…
人間が怖い…
無意識のうちに体がガクガクと震え、顔が青ざめていく…
そんな俺を見て、少女は慌てふためき、「もしかして、バレた⁉︎」など言っていた…
すると、部屋の奥の扉から新たな声が聞こえた…
「おお、テラ‼︎突き刺さった坊主の様子はどうだ?っともう目を覚ましたみたいだな?」
扉からは背が高く、少し毛深い大男性が入って来た。
Tシャツの様な服を着ているが、サイズが合っていないのか、筋肉が透けて見えている…
いわゆるマッチョという奴である…
俺は彼に目を奪われた…
別に惚れたとかそういうわけじゃない…
似ていたんだ…
俺が最も嫌いで…俺にとって最悪の存在…
「ん?どうした坊主?俺の顔に何か付いているか?」
「い、いえ、何も付いていませんお父上様…」
「「へ?」」
反射的にそう言ってしまった…
その男性の顔は似ていたのだ…
俺が最も嫌う存在…
俺の…“父親”に…
彼を見た瞬間、額から冷や汗が吹き出し、視界が真っ白に染まった…
怖い…
怖い怖い…
怖い怖い怖い…
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…
『裕翔‼︎テメェは何遍言ったら分かるんだ‼︎‼︎
さっさと皿片付けろ‼︎このバカ息子が‼︎‼︎』
そんな記憶が蘇る…
ただ怖かった…
「ぷっ…ハハハハハハハハハハ‼︎」
突然、笑い声が聞こえ我に帰る…
「ハハハ‼︎坊主‼︎残念だが俺はお前の親父じゃねぇな‼︎
何だ坊主、お前の家では親父の事を『お父上様』なんて読んでるのか?
ハハハハハ‼︎その親父息子に何を求めてんだよw
ハハハハハ‼︎あ〜可笑しい、ハハハハハ‼︎」
「ちょっ‼︎お父さん‼︎幾ら何でも笑い過ぎよ⁉︎
ほら突き刺さった人もポカーンとしちゃってるじゃない‼︎」
「ハハハハハ‼︎だってよテラ。
親父が息子に『お父上様(きゃるん❤︎)』って言わせてんだぜ?
もう笑うしかないだろこりゃ。
ハハハハハハハハハハ‼︎」
「ちょっ‼︎そのきゃるん❤︎って顔恥ずかしいからやめて‼︎」
「え?(きゃるん❤︎)」
「キモい」
「…………。」
そんなやり取りが、目の前で行われる…
だが、そんなやり取りを見ているうちに、父親ではないことが分かり、少し安心できた…
それと同時に、自分の恐怖が薄れていっていることは、その時の俺は知る由もなかった…
すると、あることに気がついた…
「耳が…“尖ってる”…?」
自然と口に出していたらしく、大男は「あ?」と声を上げてこちらを向いた…
「あ?ああ、これか?
そりゃそうさ。俺たちは“エルフ”の一族なんだから。」
「エル…フ…?」
ゲームの中のあのエルフ…?
人間じゃない…?
そんな言葉が頭をよぎるが、エルフでも人間に似ているのであれば、怖いことには変わりがない…
「そうエルフだ。
俺はゼプト。このカルコ村の村長を務めているもんだ。
なんだ坊主?エルフは初めて見るのか?」
「……げ、ゲームの中でなら…」
「げえむ?なんだそりゃ?」
「……え、ええっと…こう…電気で動くような…四角い…あ、こ、こんな感じの…」
と言って、俺はポケットから携帯を取り出そうとしたが…
「…………あれ…?」
「ん?どうしたんだ坊主?」
「…………携帯が…無い…」
「けえたい?坊主は不思議な言葉ばかり話すなぁ…?」
ゼプトという大男は俺が何を言っているのか分からない様子で、首を傾げていた、そして「ひょっとすると…」など言っていたが、後の方がよく聞き取れなかった。
すると「あ!」と少女が声を上げ、ポンと拳を叩いた
「け、けえたい(?)って、も、もしかしてコレの事ですか…?」
すると少女は部屋の傍にあるテーブルまで歩いて行き、何かを持ってきた。
手のひらにあったものは間違いなくおれのけいたいだった…
「…………お、俺の……です…」
「ああ、やっぱり!
これがけえたいって言うんですね。
へえ〜。川岸に運んだ時にポケットから落ちたみたいで、石かと思ったけど、何かピカピカ光ってたからもしかしてって思って一様持って帰ってきておいたの。
はい、どうぞ。」
そう言って、少女は俺に携帯を手渡した。
「あ、ありが、とう…」
何故だろうか…怖いはずの人間が…あまり…怖く無い…
何故か…落ち着く…
「ところで坊主、話が変わるが…ちょっと良いか?」
突然、ゼプトの声のトーンが低くなった…
顔も真剣な顔…と言うよりは、まるで、威嚇するようなこちらを睨みつけるような顔になった…
「坊主の所の“親玉”に前にも伝えてもらったはずだが…
俺の村からはあんたらにやる金なんか一切ない。
この村からあんたらの“奴隷”なるやつなんざぁ誰1人いねぇ‼︎‼︎
他に何か用でもあるんなら聞くが…
テメェ…何しにこの村に来た…‼︎‼︎」
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