TUTORIAL-世界滅亡までの七日間-
第5話-手引き-
嘉多無が書庫から掻っ払ってきた"神器全集"を読み終え、一通り俺に与えられた神器、"神堕ツ魔拳"の特性を理解した俺はみんなより一足早く与えられた部屋に戻りベットに寝転がる。
「異世界、か。」
俺はベットに横になった状態で窓から覗く7つの月を眺めてそう呟く。
思えば俺は地球にいた頃から見た目の厳つさから友達が少なかった。
阿樟はそんな数少ない友達の一人で俺の理解者だ。
今日も俺と阿樟ともう一人、阿樟の妹との三人で学校から帰っている途中だった筈が、いつの間にかこの城に立っていた。
周りを見た感じでは阿樟の妹の杏子はこの世界に来ている様子はない。
この世界に呼ばれたが別の場所にいるのか、別の世界に呼ばれたか、元々異世界に呼ばれていないのか。
もしこの世界の別の場所に居たとしたら、勇者じゃなかった嘉多無を見る限り力が増してるわけでもないだろうから冗談抜きで命が危ない。
別の異世界に呼ばれた場合も同様だ。だが確かめる術も無い今、いくら考えても答えは出ない。
地球に残っているなら俺たちが突然消えるのを目の当たりにしたんだろうか。それとも消えた瞬間存在がなかったことになったりして記憶から消えるのか。
それについても考えても答えは勿論出ない。
阿樟もこの世界に来てから落ち着かない様子だった。あいつは頭の回転が遅いからここに杏子が居ない=地球で俺たちを探してる。と考えるだろう。
まぁこの世界に居るかもしれない、別の世界に飛ばされてるかもしれない、最悪巻き込まれた際に命を落としているかも、と考えて取り乱すよりはマシか。
「くそっ、召喚されても元の世界の様子がわかれば、せめて杏子に一言言伝てが出来ればこんなに悩まなくてもいいのに。」
俺はせめて無事でいてくれと祈ることしか出来ない自分に歯噛みする。
コンコン
そんな事を考えていると部屋の扉がノックされる。
余談だが、ここの扉や壁は地球ほどしっかりしていないので廊下を歩く人の足音なんかが丸聞こえだ。
まぁ今扉をノックしている人みたいに全く音を立てずに歩く人も中には居るみたいだが。
「よいせっと。」
俺はノックの音でベットから起き上がり、扉の方へ歩いていく。
扉を開けるとそこには食堂まで案内してくれた美人のメイドがいた。
「夜分遅くに申し訳ありません。勇者様に、正確には拳成様に関わる急を要する件があったのでご迷惑ながら足を運ばせていただきました。」
メイドはそう言うと軽く頭を下げる。
「俺にのみ。急を要する。ですか?」
学校ではよく似た件で職員室に呼び出されたがここは異世界で、俺がここに来たのも今日が初めてだ。
俺にのみ、伝えなければいけないことに見当がつかなかった。
「はい。あの、少し話辛い事なのでここではなく人の少ない場所に移動できますか?」
メイドは辺りを見渡すと小声でそう告げる。
見た感じ逢い引きのお誘いでは無いようだが。
「・・・わかりました。」
俺は軽く悩み、結果着いていくことにした。
「では、こちらです。」
そうして俺はメイドに続いて廊下を歩いて城の外へと向かっていく。
この時、何となくメイドに釣られて俺も足音を立てないように歩いたのは別に他のみんなにメイドと抜け出すことを隠そうとしたわけではないと言っておこう。
廊下を数回曲がり、俺たちは城のエントランスホールのような場所まで来ていた。
「あの、もしかして外に出る感じですか?」
俺は流石にどこまで行くか気になり声をかける。
「いえ、外には出ません。拳成様に用件があるという御方の元へ案内しているだけでございます。」
「俺に用がある人?城の外から来た人でそんな人が?」
「はい。その御方も拳成様のお顔を知りません。ただ、いえ。ここからはご本人に話していただいた方がいいですね。信用できる方なのでご安心下さい。」
メイドにそう言われてエントランスの中央に立つ男性の元まで歩いていく。
その男性は背は低いが鍛えているのか肩幅は広く、どことなく小型冷蔵庫を連想させる体型だった。
「お待たせいたしました。彼が拳成様です。拳成様、こちらは、」
「あぁいい。自分で。夜分遅くに申し訳ありません勇者様。私はドーモ・ローデンと申します。職業は奴隷屋を営んでおります。」
ドーモ・ローデンを名乗る男はその低い背をさらに低くして自己紹介する。
それにしても奴隷屋か。地球とはやっぱり違うんだな。
俺が奴隷に対しての地球との認識の違いに顔をしかめると、ローデンは慌てて口を開く。
「あ、勿論ウチは商品達の管理を徹底しておりますので酷い扱いなどしていませんよ?中には商品だからと食料を最低限しか与えず、清掃もしないような所も残念ながらございますが。」
商品達、ね。
その時点で大分俺とズレてるって言うのは言わない方がいいか。
こちらの世界にはこちらの世界の常識があるしな。
郷に入れば郷に従え、だな。
「いえ、そう意味ではないんです。何故会ったことも、顔すらも知らない自分をドーモさん?ローデンさん?が呼び出したのかが職業を聞いて尚更分からなくなったものですから。」
「あぁ、そうでしたか。そうですよね。ローデンで結構ですよ。いえ、実はですね、我々が最近仕入れた女性がどうもあなたを、"拳成"という名の者と親しいと。いえ、決してその者の言うことを完全に信じたわけではないのですが、彼女、少し特殊な格好をしておりまして、もしかしたら、と。」
ドクンッと心臓が跳ねた気がした。
全く知らないローデンさんが俺の前に現れた理由。
最近仕入れた奴隷が俺のことを知っているような発言をしたから。
偶々この世界にもケンセイという名前があるのかもしれない。
特殊な服もこのローデンさんがこの世界全ての少数民族の民族衣装まで把握してないのかもしれない。
だが、あまりにもタイミングが良すぎる。
良すぎるが故に拭い去れない僅かな光。
「名前は?」
「はい?」
「その子の、その人の名前は何て言うんですか!?」
俺はついつい声を大にしてしまう。
初対面の相手に失礼かもしれないが、そんなことを気にしてる場合ではない。
「名前は、えーと、あぁ、確かアンズ、と言ってましたね。この辺りでは聞かない名前ですが。」
俺は直ぐにローデンさんと共に奴隷屋へと急いだ。
この時に阿樟に一言相談していたら、あのメイドに言伝てを頼まず、自分で勇者の誰かに声を掛けていたら、もかすると、二日後の悲劇は起こらなかったのかもしれない。
「着きました。ここが私の運営する奴隷屋です。」
そうしてローデンさんに案内されたのはサーカス劇団のテントのような大きなテントだった。
馬車から降りた俺は杏子らしき者の居場所も聞かずにテントに駆け込もうとするが、先に入り口に立ちふさがったローデンさんに止められる。
「なにを!」
「拳成様、落ち着いてください。焦らずともまだ営業終了したばかりなので売却されることはないですから。それと、入場するときはこちらを念のためにお付けください。」
ローデンさんにそう言われて差し出されたものは赤い宝石の付いたピアスだった。
「これは?」
俺は差し出されたピアスの意味に困惑する。
「こちらは商会の従業員と購入希望者を見分ける為のピアスです。私の商会では商品達の生活の質を向上させるために手足の拘束などはしておりませんので、購入希望者に対する売り込みが可能なのです。もしそちらのピアスをされていなければ触れられはしませんがやる気のある商品達がゾロゾロと着いて来ます。ですので、中では外さぬようお願いいたします。」
「拘束してないなら逃げられるんじゃないですか?」
俺は普通に気になったことを聞く。
俺が奴隷なら拘束されてないならその日にでも逃げるが。
「そこはご安心を。何分我々の扱っている商品達は家族に食費代わりに売られた、という者は居らず、災害や盗賊に村を襲われてその日生き抜くことすら難しい者を家族毎回収していますので。食事と寝床が用意されているのに態々逃げ出す者は居ないでしょう?勿論、販売時は出来るだけ家族一纏まりでご購入いただけるよう取り計らいますし、お年寄りは残りやすいので売れ残ったそういう商品は我々の持つ土地で農作業に当てています。」
ローデンさんの話を聞いて、俺の中でのローデンさんの印象は一段階良くなった。
確かにこの人は奴隷屋なんてものを運営して金を稼いではいるが、俺と会ってから一度も奴隷達、と言わず商品達、と言っている。俺が奴隷屋に忌避感を抱いたことに気を使ったのかも知れないが、この気遣いは悪くない。
それにこのテントもだ。
奴隷を拘束しない。無理矢理奴隷に落とされた者ではなく災害で村を失った者を家族毎回収して家族毎売る。
言い方はあれだが、心意気は認める。普通なら災害や盗賊に襲われた村の人たちを助ける義理なんて無いしな。
俺は少し横道に反れた思考を戻し、杏子かもしれない人に会うべく渡されたピアスを付ける。
「っ!?」
そこで俺は体の自由を失った。
「ふふふ。ダメですよ?初対面の人の話をホイホイと信じちゃ。あぁ、違いました。初対面の魔族の話を、でした。」
ピアスを付けて体の自由が効かなくなって焦っていると、隣のローデンさんが薄ら笑いを浮かべながら目の前に回ってくる。
「おやぁ?分かってないですか?貴方は私とあのメイドに化けた魔族に、デーモン・ロード足る我々の見事な策に陥ったんですよ。」
デーモン・ロード、魔族だと!?
・・・アナグラムかよっ!
デーモン・ロード
ドーモ・ローデン
気づくか!
なら、杏子の話は!?
「何故アンズという名を知っているのか、といった顔ですね。大事な話しは部屋でしちゃダメですよ。あそこの壁は薄いんですから。少し耳のいい人なら呟きすら聞こえるほど、ね。」
くそっ、俺の独り言を廊下のメイドに化けた魔族に聞かれていたってことかよ。
まずい。あのメイドが魔族だってことは誰も知らないんだ。
誰かに伝えないと。
「おやおやー?拘束を解こうと頑張ってるようですね?無理ですよ。過去の勇者ですら掛かれば逃げられなかったんですからね。精々我々の計画の立役者となってくださいね?これから国王を殺してしまう指名手配犯さん?まぁ殺すのはあなたの姿をした人形ですが。ふふふ。」
「異世界、か。」
俺はベットに横になった状態で窓から覗く7つの月を眺めてそう呟く。
思えば俺は地球にいた頃から見た目の厳つさから友達が少なかった。
阿樟はそんな数少ない友達の一人で俺の理解者だ。
今日も俺と阿樟ともう一人、阿樟の妹との三人で学校から帰っている途中だった筈が、いつの間にかこの城に立っていた。
周りを見た感じでは阿樟の妹の杏子はこの世界に来ている様子はない。
この世界に呼ばれたが別の場所にいるのか、別の世界に呼ばれたか、元々異世界に呼ばれていないのか。
もしこの世界の別の場所に居たとしたら、勇者じゃなかった嘉多無を見る限り力が増してるわけでもないだろうから冗談抜きで命が危ない。
別の異世界に呼ばれた場合も同様だ。だが確かめる術も無い今、いくら考えても答えは出ない。
地球に残っているなら俺たちが突然消えるのを目の当たりにしたんだろうか。それとも消えた瞬間存在がなかったことになったりして記憶から消えるのか。
それについても考えても答えは勿論出ない。
阿樟もこの世界に来てから落ち着かない様子だった。あいつは頭の回転が遅いからここに杏子が居ない=地球で俺たちを探してる。と考えるだろう。
まぁこの世界に居るかもしれない、別の世界に飛ばされてるかもしれない、最悪巻き込まれた際に命を落としているかも、と考えて取り乱すよりはマシか。
「くそっ、召喚されても元の世界の様子がわかれば、せめて杏子に一言言伝てが出来ればこんなに悩まなくてもいいのに。」
俺はせめて無事でいてくれと祈ることしか出来ない自分に歯噛みする。
コンコン
そんな事を考えていると部屋の扉がノックされる。
余談だが、ここの扉や壁は地球ほどしっかりしていないので廊下を歩く人の足音なんかが丸聞こえだ。
まぁ今扉をノックしている人みたいに全く音を立てずに歩く人も中には居るみたいだが。
「よいせっと。」
俺はノックの音でベットから起き上がり、扉の方へ歩いていく。
扉を開けるとそこには食堂まで案内してくれた美人のメイドがいた。
「夜分遅くに申し訳ありません。勇者様に、正確には拳成様に関わる急を要する件があったのでご迷惑ながら足を運ばせていただきました。」
メイドはそう言うと軽く頭を下げる。
「俺にのみ。急を要する。ですか?」
学校ではよく似た件で職員室に呼び出されたがここは異世界で、俺がここに来たのも今日が初めてだ。
俺にのみ、伝えなければいけないことに見当がつかなかった。
「はい。あの、少し話辛い事なのでここではなく人の少ない場所に移動できますか?」
メイドは辺りを見渡すと小声でそう告げる。
見た感じ逢い引きのお誘いでは無いようだが。
「・・・わかりました。」
俺は軽く悩み、結果着いていくことにした。
「では、こちらです。」
そうして俺はメイドに続いて廊下を歩いて城の外へと向かっていく。
この時、何となくメイドに釣られて俺も足音を立てないように歩いたのは別に他のみんなにメイドと抜け出すことを隠そうとしたわけではないと言っておこう。
廊下を数回曲がり、俺たちは城のエントランスホールのような場所まで来ていた。
「あの、もしかして外に出る感じですか?」
俺は流石にどこまで行くか気になり声をかける。
「いえ、外には出ません。拳成様に用件があるという御方の元へ案内しているだけでございます。」
「俺に用がある人?城の外から来た人でそんな人が?」
「はい。その御方も拳成様のお顔を知りません。ただ、いえ。ここからはご本人に話していただいた方がいいですね。信用できる方なのでご安心下さい。」
メイドにそう言われてエントランスの中央に立つ男性の元まで歩いていく。
その男性は背は低いが鍛えているのか肩幅は広く、どことなく小型冷蔵庫を連想させる体型だった。
「お待たせいたしました。彼が拳成様です。拳成様、こちらは、」
「あぁいい。自分で。夜分遅くに申し訳ありません勇者様。私はドーモ・ローデンと申します。職業は奴隷屋を営んでおります。」
ドーモ・ローデンを名乗る男はその低い背をさらに低くして自己紹介する。
それにしても奴隷屋か。地球とはやっぱり違うんだな。
俺が奴隷に対しての地球との認識の違いに顔をしかめると、ローデンは慌てて口を開く。
「あ、勿論ウチは商品達の管理を徹底しておりますので酷い扱いなどしていませんよ?中には商品だからと食料を最低限しか与えず、清掃もしないような所も残念ながらございますが。」
商品達、ね。
その時点で大分俺とズレてるって言うのは言わない方がいいか。
こちらの世界にはこちらの世界の常識があるしな。
郷に入れば郷に従え、だな。
「いえ、そう意味ではないんです。何故会ったことも、顔すらも知らない自分をドーモさん?ローデンさん?が呼び出したのかが職業を聞いて尚更分からなくなったものですから。」
「あぁ、そうでしたか。そうですよね。ローデンで結構ですよ。いえ、実はですね、我々が最近仕入れた女性がどうもあなたを、"拳成"という名の者と親しいと。いえ、決してその者の言うことを完全に信じたわけではないのですが、彼女、少し特殊な格好をしておりまして、もしかしたら、と。」
ドクンッと心臓が跳ねた気がした。
全く知らないローデンさんが俺の前に現れた理由。
最近仕入れた奴隷が俺のことを知っているような発言をしたから。
偶々この世界にもケンセイという名前があるのかもしれない。
特殊な服もこのローデンさんがこの世界全ての少数民族の民族衣装まで把握してないのかもしれない。
だが、あまりにもタイミングが良すぎる。
良すぎるが故に拭い去れない僅かな光。
「名前は?」
「はい?」
「その子の、その人の名前は何て言うんですか!?」
俺はついつい声を大にしてしまう。
初対面の相手に失礼かもしれないが、そんなことを気にしてる場合ではない。
「名前は、えーと、あぁ、確かアンズ、と言ってましたね。この辺りでは聞かない名前ですが。」
俺は直ぐにローデンさんと共に奴隷屋へと急いだ。
この時に阿樟に一言相談していたら、あのメイドに言伝てを頼まず、自分で勇者の誰かに声を掛けていたら、もかすると、二日後の悲劇は起こらなかったのかもしれない。
「着きました。ここが私の運営する奴隷屋です。」
そうしてローデンさんに案内されたのはサーカス劇団のテントのような大きなテントだった。
馬車から降りた俺は杏子らしき者の居場所も聞かずにテントに駆け込もうとするが、先に入り口に立ちふさがったローデンさんに止められる。
「なにを!」
「拳成様、落ち着いてください。焦らずともまだ営業終了したばかりなので売却されることはないですから。それと、入場するときはこちらを念のためにお付けください。」
ローデンさんにそう言われて差し出されたものは赤い宝石の付いたピアスだった。
「これは?」
俺は差し出されたピアスの意味に困惑する。
「こちらは商会の従業員と購入希望者を見分ける為のピアスです。私の商会では商品達の生活の質を向上させるために手足の拘束などはしておりませんので、購入希望者に対する売り込みが可能なのです。もしそちらのピアスをされていなければ触れられはしませんがやる気のある商品達がゾロゾロと着いて来ます。ですので、中では外さぬようお願いいたします。」
「拘束してないなら逃げられるんじゃないですか?」
俺は普通に気になったことを聞く。
俺が奴隷なら拘束されてないならその日にでも逃げるが。
「そこはご安心を。何分我々の扱っている商品達は家族に食費代わりに売られた、という者は居らず、災害や盗賊に村を襲われてその日生き抜くことすら難しい者を家族毎回収していますので。食事と寝床が用意されているのに態々逃げ出す者は居ないでしょう?勿論、販売時は出来るだけ家族一纏まりでご購入いただけるよう取り計らいますし、お年寄りは残りやすいので売れ残ったそういう商品は我々の持つ土地で農作業に当てています。」
ローデンさんの話を聞いて、俺の中でのローデンさんの印象は一段階良くなった。
確かにこの人は奴隷屋なんてものを運営して金を稼いではいるが、俺と会ってから一度も奴隷達、と言わず商品達、と言っている。俺が奴隷屋に忌避感を抱いたことに気を使ったのかも知れないが、この気遣いは悪くない。
それにこのテントもだ。
奴隷を拘束しない。無理矢理奴隷に落とされた者ではなく災害で村を失った者を家族毎回収して家族毎売る。
言い方はあれだが、心意気は認める。普通なら災害や盗賊に襲われた村の人たちを助ける義理なんて無いしな。
俺は少し横道に反れた思考を戻し、杏子かもしれない人に会うべく渡されたピアスを付ける。
「っ!?」
そこで俺は体の自由を失った。
「ふふふ。ダメですよ?初対面の人の話をホイホイと信じちゃ。あぁ、違いました。初対面の魔族の話を、でした。」
ピアスを付けて体の自由が効かなくなって焦っていると、隣のローデンさんが薄ら笑いを浮かべながら目の前に回ってくる。
「おやぁ?分かってないですか?貴方は私とあのメイドに化けた魔族に、デーモン・ロード足る我々の見事な策に陥ったんですよ。」
デーモン・ロード、魔族だと!?
・・・アナグラムかよっ!
デーモン・ロード
ドーモ・ローデン
気づくか!
なら、杏子の話は!?
「何故アンズという名を知っているのか、といった顔ですね。大事な話しは部屋でしちゃダメですよ。あそこの壁は薄いんですから。少し耳のいい人なら呟きすら聞こえるほど、ね。」
くそっ、俺の独り言を廊下のメイドに化けた魔族に聞かれていたってことかよ。
まずい。あのメイドが魔族だってことは誰も知らないんだ。
誰かに伝えないと。
「おやおやー?拘束を解こうと頑張ってるようですね?無理ですよ。過去の勇者ですら掛かれば逃げられなかったんですからね。精々我々の計画の立役者となってくださいね?これから国王を殺してしまう指名手配犯さん?まぁ殺すのはあなたの姿をした人形ですが。ふふふ。」
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