操蟲の勇者

かずみ

第8話

 ランちゃんの武具店をあとにした僕が次に向かったのは『冒険者ギルド』と呼ばれる施設だった。
 冒険者ギルドとは依頼主と冒険者との仲介をしている組織のことである。その他には魔物の生態を調べたり、新たに発見された迷宮ダンジョンの調査。そして、職業を増やすことのできる唯一の場所でもある。
 この世界では職業を持つ人間は少ない。しかしレベルを上げてなにかしらの才能を開花させることによって後天的に職業を手に入れることができるのである。
 なぜ僕がそんな場所に行くのかというと職業を増やしたいだとかそんな理由ではなく、単純に身分証明書が必要だからである。
 この国を拠点にするのなら勇者ということで税はいらないだろうが他国に行く場合はわからない。しかし、冒険者になればその税金がかからないのである。なぜかというと冒険者ギルドは国家を超えた組織であるため組織内を移動するだけだということで税が免除されるらしい。
 そんなわけで僕の目の前にある木製の大きな建物が冒険者ギルド・シュガル王国支部である。
 早速中に入ってみると昼間だというのに酒を飲んでいる男女や紙が貼られた掲示板の前で掲示板を眺めながら話している男性達が見える。そして正面には綺麗な女性の受付が5人ほど並んでいる。
 僕は1番右の受付嬢の前に立つと受付嬢はニコリと笑って言った。


「こんにちは!冒険者ギルド・シュガル支部へようこそ!私は本日担当させていただきます。受付嬢のミリュです!ご依頼の方ですか?」
「いえ、登録に来たものです」
「かしこまりました!それではこちらの紙にご記入をお願いします!よろしければ銀貨2枚で代筆致しますがいかがですか?」


 僕はこの世界の文字が書けないため素直に代筆をお願いすることにする。


「かしこまりました。それでは料金の方ですけど登録料と代筆料を合わせまして銀貨8枚です!」
「それじゃあこれで。名前は冬原夏樹です。あ、それと道具袋ももらえませんか?」
「かしこまりました!フユハラナツキ様ですね。道具袋はCランクまで取り扱っておりますがどのランクにいたしますか?」


 道具袋というのはアイテムを大量に持ち運ぶことのできる便利な魔法の袋である。どんなアイテムを入れても容量内ならいくらでも入り、そして重さも変わらないというまさにファンタジーの定番ともいうべき袋である。
 これを扱っているのもまたギルドなのである。


「それじゃあランクFでお願いします」
「ランクFの道具袋で銀貨200枚になりますがよろしいでしょうか?」
「ああ、はい。大丈夫です」


 そう言って僕は銀貨を200枚取り出してミリュに渡す。
 ミリュは僕から銀貨の入ったを受け取るとカウンターに設置してある機械に銀貨を流し込む。
 この機械は簡単に硬貨を数えることのできる魔道具らしい。日本にもこんなのあったな。
 日本にあった機械を思い出しているとカウントが終わったようでミリュはニコッと笑って言った。


「はい、確かに銀貨200枚ですね!それではこちらをどうぞ!」
「ああ、どうも」


 そう言って手渡されたなにかしらの動物の皮でできた不自然なまでに繋ぎ目のない袋を手渡される。なんの皮なんだろう。


「あの…これって、なんの皮…」
「企業秘密です」
「あ、はい」


 微笑みを浮かべたままミリュはそう言う。
 これは聞き出せないやつだな…
 僕は早々に諦めると次の目的に移る。


「ところでギルドカードは?」
「あっ!すいません…うっかり忘れてました!」


 そう言ってミリュは奥へバタバタと走っていく。
 おいおい、しっかりしてくれよ。あ、転けた。
 そうやって眺めていると奥からミリュが小箱を抱えて戻ってくる。
 箱の中身は小ぶりのナイフと一枚の真っ黒なプレートだった。おそらくこれがギルドカードなのだろう、そしてこのナイフはテンプレ通りなら…アレだな。


「お、お待たせしました!それではこちらのプレートにナツキ様の血を垂らしていただいて登録完了となります!」
「えっと…このナイフで?」
「はい!グサリとやっちゃってください!」


 まじですか…うわ〜、絶対痛いじゃん。でもまあ、仕方ないか…
 やりたくはなかったが僕は指先を少し切りそこから流れる血液をプレートにグリグリと押し付ける。
 すると光の粒子がプレートから舞い上がったかと思うと次の瞬間にはプレートの中に吸い込まれる。そして、そこに残っていたのは青色のプレートだった。


「えっと…これは?」
「おめでとうございます!これでナツキ様の登録は完了しました!ランクはまだFですがこれからですよ!頑張ってください!」
「え?ああ、ありがとうございます」


 目の前のことに驚いているとミリュから声をかけられる。今ので冒険者としての登録は終わったようだ。いまいち実感が湧かない。
 そんな僕の様子に気がついていないのかミリュがさらに説明を続ける。
 ひとまず説明をまとめる。


 1.冒険者同士の争いには人死にが出るレベルでない限りギルドは一切関わらない。
 2.素行の悪い冒険者はギルドカードと冒険者としての権利を剥奪はくだつされる。依頼を一切受けずに1年間過ごすとこれも同じく権利の剥奪となる。ただし後者の場合延長金として銀貨3枚で1年間の延長が可能となる。
 3.冒険者のランクはF〜SSSまで存在する。依頼をこなしてそれに見合ったランクポイントを手に入れ、それを貯めることによって次のランクに上がることができる。ちなみに人類族最強の冒険者『英雄』のランクはSSである。
 4.依頼はランクに見合ったものしか受けられない。


 といった4つある。それにしても『英雄』か…敵対しないように気をつけよう。そして冒険者登録をしたおかげで僕は新しく『冒険者』の称号を手に入れていた。これは特に効果はなくただの称号のようだ。ちなみに称号『勇者』は全ステータスに3倍のパッシブである。とても強い。
 さて、ここでテンプレ通りならばたいした実力もなく昼間から飲んでる冒険者バカに絡まれるのだが__


「おい新人ルーキー!」


 はい絡まれました。ここまでテンプレ通りだといっそ笑えてくるな。
 僕が己の不幸を笑っていると声をかけてきた毛むくじゃらの冒険者が近づいてくる。僕はその男を見て固まってしまった。


「ざ、ザン○エフ…」
「あ?なに言ってんだオメェ」


 そう、彼の装備はレスラーのようでさらに髪型は俗に言うモヒカンという、まさに某格闘ゲームに出てくるキャラクター、大人から子供まで世代を超えて名が知れ渡っているかの投げキャラにそっくりなのである。
 そんなザンさん(仮)は僕の硬直をどう捉えたのかニヤニヤしながら近づいてくる。


「おう坊主お前今日登録したばかりだな?」
「ええ、そうですが」


 見てたんならわかるだろ、バカなのか?
 内心でいつも他人にするようにバカにしているとザンさんは続ける。


「それなら先輩に挨拶するのが筋ってもんじゃねえのか?」


 なるほどそういうことか、郷に入れば郷に従えという言葉もあることだし挨拶をしておくか…
 仕方がないので僕は急いで表情を作りすっと頭を下げる。式典なんかでやるアレだ。


「なるほど、そうでしたか。私は冬原夏樹と申します、どうぞよろしくお願いします」


 そして顔を上げそう言うとニコリととびきりの作り笑顔をする。


「…お、おう」
「なんで引いてるんだよ」


 はっ、しまった。素が出てしまった、イカンイカンしっかりしろ、僕。
 ちらっとザンさんを見るが特に気にした様子はなく未だに引いたままだった。てか、しつこいよ。
 これ以上は特になにもなさそうなのでくるりと踵を返すと僕はギルドの外に出ようとする。すると目の前に3人の男達が立ち塞がる。


「通していただけませんか?」
「へっへっへ、来たばっかりだってのにもう帰るのか?」
「歓迎会でも開かねえか?」
「まあ、料金はお前持ちだけどな!」


 そう言って男達はげらげらと笑い出す。
 …ああ、面倒だ。なんでこうもテンプレばっかりなんだろう。僕はこんなこと求めてないのに…誰か助けてくれねえかな…
 周囲を見渡すとみんな眼を逸らす。畜生、僕の味方はいないのか…てか、ザンさんはいつまで引きずってんだ、どんだけ頭の回転遅いんだよ。


「おい!新人、早く払えよ」
「なぁに、参加費はたったの銀貨40枚だぜ」
「まあ、1番高い酒でも銀貨2枚程度だけどな」


 そう言って男達はまた笑い出す、面倒なので僕は銀貨を40枚取り出す。すると男達はニヤリと笑ってこう言う。


「なんだ、利口じゃねえか!」
「くっくっく、今日はいい酒が飲めるな」
「おい、新人お前も参加するんだろ?」
「ああ、いえ僕はいいです」


 男達が誘ってきたので僕は断る。
 僕が断るのは想定内だったのか先頭にいたヒョロイ男は笑いながら銀貨の乗った手の下にただの巾着袋を開いたのを見て僕はそれに銀貨を入れる。
 するとヒョロ男はニヤニヤと笑いながら僕の肩に手を置き言う。


「まあ、今回は残念だったがまたよろしくな?新人君」


 そう言って男達は何かを話しながらどこかへ歩いて行った。大方手に入った金の使い道だろう。
 まあ、ここであいつらを切り刻んでもよかったのだが流石にギルド内でやるのはまずいだろう。


「さて、次に進むか…」
「おい待てお前」


 面倒事が去ったのでギルドを出て行こうとするとそんな風にザンさんから声をかけられる。
 なんだろう、ザンさんもお金が欲しいのだろうか。


「どうかしたんですか?」
「ああ、いや…いいのか?あんなにあっさり、銀貨40枚なんて贅沢を重ねても1ヶ月生活できるぞ?」
「え?マジですか?」


 知らなかった、そんなに高価だったのか…だとしたら惜しいことをしたな、これは是が非でも取り返さねば。
 にしてもこの人はいい人なんだな。確かにザン○エフも子供や弱いものに優しい、という設定だったからな。
 未だに僕を心配そうに見ているザンさんに対し僕は笑いながらこう言う。


「大丈夫です、後で取り返しますから」
「本当に大丈夫か?なんなら手伝ってやるぞ?」


 なんと、そんなことまでしてくれるのか。めちゃくちゃいい人じゃないか。僕が女子なら惚れてるぞ、嘘だけど。
 まあ、それに彼らでは実験をするつもりなので人の目があると困るのだ。だから断らせてもらうことにしよう。


「ザンさん、ありがたいのですが一人で大丈夫です」
「誰だザンさんって、俺の名前はガイルだぞ」


 なんでそっちなんだよ!
 喉まで出かかったその言葉をなんとか我慢した僕だったが次の言葉でその努力もむなしく終わってしまう。


「それに遠慮するな、俺はこう見えても弓の名手でな『必中』のガイルとは俺の事よ!」
「遠距離攻撃じゃなくて投げ技で闘えよ!」


 その日以来ギルドの修練所で投げ技をするガイルさんを見たとか見なかったとか…これはまた別のお話。          

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