大鎌使いの死神少女と辛辣な魔女 〜二人に好かれた場合俺はどちらを好きになればいいのだろうか?〜

片山樹

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「何だよ……これは」
それが俺の口から出る最低限であり、エネルギーを再低減で抑えるのに必要な言葉数であると長年の勘が教えてくれた。更にその勘という名の当てずっぽう的な何かは俺に恐怖というものを植え付けていた。まぁ、それもそのはずだ。
血の水溜りが何ヶ所かあり、人の遺体が痛い程に惨殺に残虐に転がっていたのだから。あまりにも唐突であまりにも理不尽でファンタジー過ぎる現実。それが自分の目の前にあるというのに納得できないのが今の心境である。そして大きな鎌を持った少女が一人。少女は雨がガンガンと降っていて身体が濡れていた。過激なロックを聞いているのかと錯覚してしまいそうな程の雨音だった。それでも少女はこの屋上という閉鎖空間で不気味に高笑いしながら空を見上げていたのだ。それも大きな鎌を持って。おまけに鎌に血を大量につけて。
俺の気配に元々気づいていたのかは知らないが、空を見上げるのを止め、首だけを傾けて言った。
「う・そ・つ・き」
「どういうことだよ?」
俺は彼女に尋ねる。
でも、彼女は何も言わなかった。
代わりに彼女は俺の首をその大きな鎌で切り落とした。自分の頭がクルクルと空中を彷徨い、アスファルトに重力によって叩き落される。俺は人間の意識って案外首を切り落とされてもあるんだなと関心と感心を持ったのも束の間、俺、佳苗かなえつばさは絶命した。

❈❈❈
「起きてください! 起きてください!」
小さな手が俺の身体を揺さぶる様な感覚がした。それが様な感覚では無く、現実の感覚だと自覚するまでに2秒もかからなかった。俺はとりあえず、揺さぶる小さな手を軽く握りしめる。セクハラ罪として逮捕されるかもしれないが、それは大丈夫である。なにせ、相手の方から俺に触れてきたのだから。つまり、握りしめているこの小さな手を、小さな手を伸ばしている相手を、どうしても良いということである。
それはとどのつまり、俺がどんなにセクハラ行為をしても、正当防衛と見なされるか、朝の寝惚けとして捉えられるのかの二択と俺の言い訳がましい様な事実を嘘と決めつけるかの三択ということである。でも手を掛けてきたのは相手側だったという訳なので、俺に否はないとも言えないのである。要するに完全犯罪ということである。という感じで俺の朝が始まっていくわけだけど、俺はそんなハレンチな行動を朝からする気はないし、やる気も無い。体力の無駄でしかないのだ。それに俺の身体を揺さぶるのは俺の妹である、美穂みほなので俄然、やる気は起きない。兄弟間に愛はあるが、それは家族愛というものであり、決して如何わしいものが無いというのがリアルである。それはわきまえて置いてほしい。そして現実をもっと知っておいてほしい。俺はそんな事を思いながらも身体を起こす。そして目の前にいる妹に挨拶をしよう。
「おはようー、美穂。今日も早いな」
「お、おはよう。お兄ちゃん!」
美穂は俺に満面の笑みを零した。
そして更に「朝ご飯の準備、出来てるから早くしてね」と催促付きだ。
美穂が部屋から出ていき、二度寝でもするかと思った時だった。
俺は変な事に気がついた。
「太陽が黒い……」
今日は日食でも月食でも無い。
夜のニュースにでもこんな事は言ってなかった。ような気がする。でもはっきりと正確には思い出せない。昨日の事ではあるのに随分と昔みたいに感じてしまう。それにしてもこんなにもはっきりと黒いとなると、誰かが気づいて大騒ぎになるはずだ。誰かはこの世界の滅亡だと宣い、また誰かはこの世界は既に滅亡したと言う哲学的な考え方を持っている人がいたり、はたまた誰かは身体に及ぼす紫外線問題と言うものもいるだろう。まぁ、そんな事をただの高校三年生の俺が考えても何の意味も無いのが確かで、時間の浪費になる。だからこの話は無かった事。いや、終わった事としておこう。
部屋を出るついでに自分の部屋の壁に立てかけられている時計を確認してみると、6時45分45秒。最速だった。
日に日に起きる時間が早くなっている気がするようなしない様な感覚に襲われる。もしかして、これはデジャヴか? そんな空想科学起きるはずは無いだろう。自分に一瞬だけ過った可能性を頭の中から切り捨て、新しい情報を蓄える為に容量を広げた。どうでもいい話だけど、俺は人間の脳の中に入る情報量というものは決まっていると考えている。それは即ち、覚える能力というのは限界があるという考え方だ。それが間違っているのか、当たっているのかそれは未だ現代のテクノロジーというものを用いたとしても解明は愚か、何も分かっていないのである。まぁ、俺が何故こんな結論を導き出したのかというと、それは寝ている間に記憶を消すから。それが理由だ。別に情報量が入る容量に限界というものが無ければ、記憶を消す理由が分からないのだ。どこかの研究チームの出した結論によると、その記憶を消える理由は忘れたい事を忘れる為。ただ、それだけの理由らしい。例えば、悲しい事や苦しかったことなどのトラウマ体験、そのようなものの記憶を消すため。それが理由と見えられる。だが、先にも言ったけど、誰にもそれは分からない。故に、人間の脳のメカニズムは謎が多いという事だ。
朝起きてから少しだけ、首の調子がおかしい気もするけど、どうせ寝違えてしまっていたのだろう。俺はそう勝手に自己解釈という分かりやすくて傲慢な手段を使って、洗面台で顔を洗う。冷たい水が刺激となり、寝ぼけていた脳が少しずつ戻っていく。そして鏡を見るとそこには自分の姿が写っていなかった。写っていない。そして代わりのものが写っていた。自分では無い自分。自分だけど自分じゃない。そんな言葉が正しいだろう。鏡に写っていたのは黒く上品な絹をそのまま織り込んで作った様な髪と日焼けを一度もしたことが無いと思う程の純白な肌。そして誰もが二度見をする程の容姿が整った美少女がいたのだ。その美少女は勿論、俺では無い。俺の身体があるべき場所の真後ろに立っているだけなのだ。後ろを振り返り俺は彼女を一瞥する。そして彼女に問う。
「君は何者だ?」
「魔女よ」
彼女の薄っすらと両端の口が緩む。
「魔女……?」
「そうよ。魔女なの。そして私は貴方の監視を頼まれた監視官でもあるの。ほら、脚とか舐めてみない?」
監視? 監視官?
俺を監視するとか言ったか?
どういうことだろう。
それよりも強烈なキャラだな。
「貴方は世界を変える能力を持っている。貴方自身がそれを最も知っているんでしょ?」
ふっ、なるほど。全て知っているという訳か。
「あぁ、知っているな。それで俺を監視して何をする気だ?」
「簡単な事。貴方がこの世界に何を望むのか。気になるだけ。裁定者さん?」
「ああ、いいだろう。魔女さん、貴方に俺の望む世界を見せてあげよう。勿論、異論は認めない。何故なら、俺が裁定者だから」

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