大鎌使いの死神少女と辛辣な魔女 〜二人に好かれた場合俺はどちらを好きになればいいのだろうか?〜

片山樹

3

 ドキドキと胸が高鳴る音がエレベーター内で響くんじゃないのだろうかと思う程に相手への恐怖心と緊張が高まっていた。これはまずい。
もしかしたら、今殺されるかも知れないと思って、死神さんの背後を奪い、相手の出方を伺う。しかし、何も無いのが今の現状。
それに姿が一般人には見えてないと自負する魔女が俺の隣にいる。さっきは汚らわしいとかなんとか言ってたのに、調子が良いやつだ。そんな事を思っているとエレベーターが開いた。

「お先にどうぞ」
機械的な声に俺は「は、はい……」と少し怯えながら返事を返し、エレベーターを降りた。
そして後ろに何か違和感がすると思い、振り向いてみると死神さんの視線があった。

「な、なんですか?」
「いえ……別に。ただ、貴方憑いてますよって事をお伝えしたかっただけです……」
死神さんはそう言って、スタスタと学校に向かって歩き始めた。

俺はそんな彼女の背中を目で追いながら、溜息をつく。命だけは助かったみたいだ。

「おい、お前の事バレてるっぽいな」

「そうみたいね。これは少し厄介な事になりそうだわ。ゴミムシ」
ゴミが少し、あ、違った。
語尾が少し違っている。
ゴミムシとか言ってたけど、魔女の言葉は色々と変な語尾であるなぁー。

「そうだな。それで魔女さん、名前を教えてくれるかな?」

「貴方……人に名前を聞くときは自分から名乗らないといけないと親に習わなかったの?」

習わなかった。いや、習う事ができなかった。

「習わなかったよ。親は第二次厄災セカンドディザストロで死んだから」

「そ、それは……お気の毒様ね」
彼女が俯き、顔を曇らせながら言った。

「いや、いいよ。俺はもう割り切りついたから。それにもう終わった事だ。そんな事を今でも思い続けるのは何か違うと思うんだ」

まだ、終わってない。
全く終わってなんかない。
俺にとってはまだ第二次厄災は始まったばっかりなんだよ。

「そ、そう……それならいいわ。だけどね、貴方親の死を『そんな事』として割り切るのは良くないわ。それだけ教えてあげる」
彼女の目は決して笑ってなかった。
それは自分が言っていることに反省しているのか、それとも俺が『そんな事』として割り切った事に怒っているのか分からない。
でも一つだけ言うと、彼女の目はとても鋭かった。ガラスの様に。そして氷の様に冷たく。

「俺の名前は佳苗翼だ。とりあえず、よろしくって言っておけばこういう時はいいのか? よく分かんねぇーけどとりあえずよろしくな」
 俺が手を前に出す。
すると魔女さんが俺の手を握りしめた。

「私の名前はエリス。本名は長いから全部言わないわ。どうせ言った所で『エリス』と呼ばれるのが関の山だから。それに貴方の単細胞でできた脳では覚える事ができないと思うから。まぁ、そんな事はどうでもいいわ。これから貴方の監視をさせて頂く、いや違いました。もう既に監視はさせて貰ってますけど。とりあえずよろしくお願いしますね」

 目と目が合い、謎の距離感と気恥ずかしさを感じ、頬が熱くなる。相手の顔は赤色で染まっている。相手の事を言えるか分からないけど。

「なぁ、それよりもこれからどうするんだ?」

「どうするもこうするもどうしようも無いでしょうね。今の段階では」

「でも……どうにかしないと俺の魂は……」

「確かにそうね。だけどいいじゃない。汚物は早めに浄化されるべきよ」
色々と酷い言葉を放つ奴だ。
一応、こいつは俺と朝に初めて会ったばかりなんだけど。

「はいはい、とりあえずそうだな。俺は汚物だよ。だから浄化されるべきだよな」
わざとらしく肩を落とし、「はぁ……人生疲れたな」とぼそっと呟く。

「そんなに落ち込まなくていいわよ。人生は皆そんなものなんだから! しっかりしなさい!」
意外とこいつ良い奴?
もしかして落ち込んだりしたら、心配してくれる系のめっちゃ優しい奴?

「お、おう……ありがとうな。何か元気でたぜ」
まぁーフリでしたけどね。

「そ、そう。それならいいのよ。で、私も一緒に考えてあげるからどうしたら良いかはこれから考えましょう」

「そうだな。それがいい。じゃあ、今日は学校をサボる事にする」

「貴方、やっぱり馬鹿ね。学校には行くべきよ。もしかしたら相手の弱点を知るチャンスがあるかもしれないわ」

「確かにそうかもしれない。だけどあいつと接触したら死ぬ確率が増えるんじゃ?」

「まぁ、そうかもしれないわ。でも大丈夫だと思うわ。だってさっき現に貴方は殺されなかったじゃない」

「ま、そうかもしれないけど……さっきはきまぐれだったかもしれないだろ?」

「きまぐれね。もしかしたらさっきの死神は朝が弱いのかもしれないわ!」

「多分だけどそれは無いと思うぜ」

「なんで?」

「いや、なんとなくだよ」

「根拠も無いくせにそんな事を述べるのは筋違いよ。自分の意見を述べない小論文並に貴方の言っている事は間違っているわよ」
地味に受験生ネタを使ってきやがる。
こいつ、俺の学力を分かって言ってるのか?
国語だけは偏差値70なんだぜ。
まぁ、他教科は偏差値40だけどな。

「逆に死神さんが何故朝が弱いと思ったんだ?」

「それは簡単な事よ。さっき、あの子は喋り方が不自然だったもの。多分だけどアレは確実に朝が弱い人の特徴よ。それにしてもほんっとに、貴方って馬鹿ね。馬鹿の骨頂と言ってもいい程の馬鹿でアホで間抜けでドジでナルシね」

色々と俺の設定を積み足すのはやめてほしい。
それにさっきも言ったけど、この魔女さんと出逢ったのは朝なんだぜ。そんな奴から馬鹿でアホで間抜けでドジでナルシね、だなんて言われる筋合いは無い。馬鹿は適切だと思うが、他は論外だ。

「あ、ってかそれよりもさっきの『死神さん』って何よ! 貴方、もしかして知り合い? それとも……彼女?」

「なわけねぇーだろ! いきなり知り合いから彼女になるわけねぇーだろ!」

「まぁ、確かにそうね。貴方に彼女とかできるはずも無いわよね。それにどうせ貴方の事だから、女の子とも喋った事なんて無いんじゃないの?」

「あ、わりぃー。俺、一応学校ではモテるんだね。男子からはパンを買ってこいとか女子からはこの椅子には座りたくないよぉー、だってオーラが全然違うじゃんとか言われるんだよなぁー。やっぱり持つものを違う人は困るわぁー。オーラが違うから、ハハハ」

あれ? なぜか分からないけど魔女さんが涙を目頭に溜めているぞ。
どういうことだ?

「もう、貴方の事はいいわ。人生色々とあるから今は我慢よ。将来、貴方は見返しなさい。大学に入って奴等を見返すのよ」

「あ、うん……そうするよ」
俺はとりあえずエリスの勢いに負け、頷く事しかできなかった。

「そ、それで本論に戻るけど貴方は何者なのかしら?」

本論とかあったのかよ。
まぁーそれはどうでもいいけど。

「何者? それはどういう意味だ?」

「どういう意味だ? じゃ、無いわよね。誤魔化さないで!」

「バレてるってわけか……しょうが無いな」

「では答えてください。貴方は何者ですか?」

「俺は……偽者だよ」

「誤魔化さないでください! 真剣に答えてください! 貴方は何者なんですか?」

「なんて自分でも言えばいいのか、分からないんだ。人間を超えた存在。そんなもんだよ。だからこそ、俺は偽者なんだ」

「人間を超えた存在……? それはミュータントって事ですか?」

「ミュータント。いい響きだね。だけど俺の場合はサヴァン症候群とかギフテッドとかそっち系の派生だと思うんだよ」

「それで?」

「俺は要するに、とある死神と契約し、呪われてしまった人間なんだよ」

「呪われた人間ですか……これは本当の様ですね」

「分かるのか?」

「えぇ、まぁー。私、人の心が分かるんです」

「もしかして心理学とか習ってた人?」

「いいえ、違いますよ。私もギフテッドなのなもしれません。人の心を読むという分野において。余談ですが、心理学を習っても相手の心は読めませんよ」

「人の心を読む魔女か。悪くないな。
悪いけどその心理学を習っても相手の心を読めないってのはドヤ顔されながら言われたけど、知ってたから」

「むぅぅ!! 貴方、やっぱり女心を分かっていませんわ。これだからモテ……クッ……」

モテナイ奴は、とか言いたかったみたいだけど無理でしたね。俺はモテるから。
それにそれが心を読んで分かっていたから。
だけどね、心を読む能力がどんなにあったとしても俺の本当の心は読めねぇーよ。
だって、俺の感情は死神と契約した時に奪われたまま何だからさ。


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