僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

はちじゅうきゅうかいめ 竜界だね?

 雲と雲の間に挟まれた煌めく太陽の光。蒼い柱が無限に続く先は高くそびえたつ竜界の王宮があった。
 昔はカレンとルネックスで来たので、見たことがないシェリアは目を輝かせながら道を進んでいった。柱の両脇には竜たちが歓迎している。
 頭を下げている者もいれば、挨拶をしてくれる者もいる。この柱は一直線に王宮に続く道であり、神聖とされるため普段は通らない。

 つまりルネックス一行が到着を知らせられる前に一足先に到着するゲート本体を見たとき、竜界はルネックス一行が来ることを察していたのだ。
 ゲートを使ってここに来る人間はそもそも少ないし、竜界の文明をよく知る者ばかりなので、初めての訪問にこの道にゲートを到着させる者はいない。
 という事は、竜界に親族がいるルネックスのいるゲートだと思ったのだ。

 なので、ゲートが開く直前まで竜界の者の招集が行われていた。勿論それはルネックス一行は知らず、いつもこんなに賑わっているのかとだけ思っていたが。
 ただテーラは何かに気付いたようで、口角を軽く上げて微笑みを浮かべていた。

「よく来たな。オレは戦いに参加できなかったから、久しく顔を見る」

「うん。僕も久々にここに来るよ。まあ当たり前だけど……それで、本題に入ってもいいかな?」

「ちょ、さすがに本殿に招かせてくれよ。ここで話を始めようとするなっ」

「冗談だよ。さすがに僕もそこまでバカじゃないから。お願いする」

 宮殿の方から風が爽やかに吹くと共に、いつも通り神秘的に登場してきたルネックスの父にあたるリアスが息子の言葉に取り乱す。
 竜界では威厳が有り余るほどの異色の王なのだが、話し上手(ただし本人はそう思っていない)の息子に適当にあしらわれる様子は見ていた竜たちも唖然とした。
 シェリアはそんな二人の様子を微笑ましそうに、くすくすと笑いながら見ていた。

 テーラとセバスチャンはその様子を見て何も言わない。セバスチャンはそもそも『作り出された者』であるのだし、テーラの親はあまり顔を見ない。
 二人の謎はまた深くなるのだが、特筆はしない。ただ、三人とも父と子の温かい会話を見て和んでいるのは確かであった。
 そんな空気のまま、ルネックス一行は竜界の宮殿に案内されたのだった。

 そのまま宮殿の中を歩くこと数分。威厳に満ちた木の扉を押し開けると、明かりのついていない重厚な雰囲気漂う事務室がそこにあった。
 まあ、見ればそこがリアスの事務室であることは一目瞭然であろう。
 特に質問することもなく、彼らは竜人のメイドに案内され用意されていた事務机に向かい合う形で置かれている五人座りのソファーに腰かけた。

 勿論リアスは事務机よりもなお目立っている椅子に腰かける。丁度太陽が彼の背中を照らす形になり、まるで後光が差しているようだった。
 此処で竜人のメイドが灯りを開けたようで、部屋が途端に明るくなった。
 神秘的な雰囲気があった部屋がとたんにしてちょっと豪華な事務室という雰囲気へ姿を変えてしまった。

「それで息子よ。今日は何をしに此処に来たんだ?」

「貿易の話をしたくてね。今までももうたくさんの世界を回ってるんだけど……」

 息子に弄られていた時とは違い威厳にあふれた表情で問うリアスの変化に敏感に気づき、ルネックスは答える。
 ほお、とリネスが瞠目する。気弱な彼が頼みこんでくるのもそうだが、勇者たちの世界巡回後に成し遂げる業の中にも異例な事をしているからだ。

 おそらくは彼もその自覚があるのだろう、頬を恥ずかしそうにかきながら、仲間に見守られて話をすすめていく。

「竜界が冥界とつながりを持ち随時それぞれの貿易をするのと引き換えに、僕の全力協力。無償の協力には多数の制限があるけど、それが全くなくなるね」

「ああ。例え用事があったとしても、全てを捨ててこちらに来なければならない。つまりオレらの手駒になると同じじゃないか」

 リアスは苦笑いする。無償の協力は『無償』なだけあって断る事が出来るし、後回しにしたり悪用はなしという多数の制限がある。
 しかし、この場合例え竜界がルネックスの力を悪用しようとしても、ルネックスに何か用事があったとしてもお構いなしになる。
 そのため、ルネックスも彼なりに考えている。全力協力するのは彼一人。シェリア達は竜界に力を貸すことは無い。

 そして後は信頼。用事くらいは考えてくれるだろうという信頼と、自分の父なら悪用はしないだろうという信用。
 過大な評価だな、とリアスは笑うがまんざらでもなさそうだった。
 ルネックスはふっと薄く笑うと、シェリアに手渡された資料をリアスに渡す。

「これは後で読んでくれると嬉しいよ。それじゃあ、特に用事がないのなら僕は帰るけど」

「ちょっと待った。実はシェリアちゃんの方に用事があってな」

「わ、私ですか?」

「あぁ。ちょっと来てくれ。多分全員で来た方がいいとは思うが……」

 リアスは席を立ち、そこに空気を消して立っていた侍女に声をかけると、彼女はルネックス達に向かって頭を下げる。
 ルネックス達が立ち上がると、彼女は彼らの前を歩き道を示す。いわゆる道案内という奴だなとテーラは遠い目でそれを見ながら思った。
 その後ろをリアスが歩いているのを気配察知したテーラはちらりと後ろを見る。

「一体何があるの?」

「これは大賢者殿。実は闇属性……鬼族の秘宝でもある双刀が見つかったのです。なので自分から息子たちに会いに行こうと思っていたのですが……」

「父さん。テーラさんばかりにぺこぺこしてるね。閻魔大王に会った時は余裕に満ち溢れてたのに」

「待て、何故それを知っている!?」

「アカシックレコードがあるんだよね。記憶とか全部丸わかりなんだ」

「ちょっと待ってください、鬼族の秘宝って何ですか!?」

 テーラにリアスにルネックスにシェリア。絡み合って合わさってぐちゃぐちゃになってしまう場に侍女の少女が苦笑いする。
 その間に問題の部屋についたようだ。シェリアの使っていた杖は覚醒と共に別のグレードアップした物になったが、彼女の知る鬼族の秘宝はそれに及ぶほどの物だ。
 ならば鬼界に返さなくてはならないのではないか、とシェリアは眉をひそめる。

 一応この後鬼界に行くつもりなので、返すには勿論返せるのだが。一度鬼界の主に聞いてみればわかるかと彼女は自身を納得させる。
 侍女がその問題の部屋を開けると、凄まじい濃度の魔力が室内に充満していることが分かった。それが広がるが、一向に霧散する様子がない。

 いったいどれほどの魔力があるのか。シェリアは魔術を使い盾を生み出すと、恐る恐るそれに近づいて持ち上げてみる。
 それは一向に強く魔力を放った後、静かに魔力を霧散させた。

「……これ、私を主人に認めちゃったみたいです。返すにも返せないと思います……それでもやはり主に見せておきましょうかね?」

「う、うん。そうした方がいいと思う。それが呪いだったら色々複雑だし」

「えぇ!? 呪いの可能性があるんですか……私死んだりしないですよね……」

 勿論シェリアに呪いがかかったとしてもテーラでもルネックスでも、解呪は可能である。どれだけ難しい呪いでも、天を超えた彼らの力に及ぶことは無い。
 侍女は膨大過ぎる魔力に座り込んでいる。怪しく紫に煌めく双刀を見ていると、ルネックスやテーラでも吸い込まれそうになる。
 まるで体力や魔力を全て吸われるような感覚に襲われ、リアスは顔をしかめる。

「シェリアちゃんは魔力を吸われる感じとかないのか?」

「はい。ありません。恐らく、主人と認めた者以外は魔力を吸うのではないでしょうか……とりあえず、収納しておいた方がいいと思われますが」

「ああ。そうしてくれ。こんなのあっても使えないし、竜に武器はいらないしな」

「うん。僕もそう思う。ところで父さんは武器とか要らないの?」

「はっはっは。オレは無詠唱魔術だけで十分だよ。武器なんてあってないもんだ」

 シェリアとリアスが話をすれば、ルネックスとリアスで新たな話題が繰り広げられる。
 リアスに武器が要らないのは本当だ。半分竜の血が流れた彼は竜化することもできて、竜の膨大な魔力も引き継いでいる。
 その魔力を放つだけで、大抵の生物は相手にならない。人外であり語るのも無駄な英雄達はどうにもならないが、どの世界の人民も王を抜いて相手に出来る。

 聖界を例にしよう。本気を出せばリアスはリリスアルファレットと互角である。さすがにシャルに追いつくのは不可能だが、それでも竜界の王としては十分すぎる。
 あの光の原点、聖界の王のマネージャーと、本気を出せばだとしても互角に戦える者は英雄を抜いて両手で数えられる数居るかどうか。
 つまりリアスに武器だのなんだの言っても、無駄なだけという事なのである。

「分かった。ひとまずこれは鬼界の王に見せに行くことにするよ。時間が空いたらまた来る、他に用事はない?」

「ないぞ。今は時間がないのは分かっているが、オレとしても息子が居ないのは寂しくてな……時間があれば来るんだぞ? 約束だぞ?」

「……竜界の王がそんなに弱気になってどうするの? 勿論来るよ、今は勇者である僕が、約束を反故にするわけがないじゃないか」

 そんなリアスの答えが分かっていたのか、ルネックスの背後ではすでにテーラがゲートを呼び寄せた状態で待機していた。

「次の到着場所はランダムだから、鬼界のどこかになるね。お楽しみだよ」

「えぇっ!?」

「き、禁忌の場に踏み入れたら私の命がありません……!」

 リアスが何か言う前に話が繰り広げられていく。曰く、大人になった自分の息子の全ての関係に親が踏み込むことは不可能。
 ある一部の過保護親を除いて、ほとんどの親が賛同する現象なのであった。
 それを知っていたリアスは薄く微笑み、出来るだけ寂しさを見せぬように柔らかく、威厳に満ち溢れた姿で、手を差し出した。

「健闘を祈っている。勇者ルネックス・アレキ。その名に恥じない出来を期待しているぞ」

「勿論。今や竜界の王の父さんの息子なんだからね」

 紛れもなく、リアスそのものを誇りに思う発言。リアスが瞠目し、侍女が微笑ましい目という表情を作る頃には―――

 ―――ゲートは忽然と、最初からなかったかのように姿を消していた。

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