僕のブレスレットの中が最強だったのですが
はちじゅうにかいめ 恩賞とこれから
地面を激しく照らす日差しを反射するように、またはそれ以上の輝きを放ってはじき返す王城の謁見の間では、コレムとルネックス、重臣達が謁見を行っていた。
その顔は皆穏やかで、コレムに至っては感情が表に出ないように必死に抑えつけているくらいである。勿論それが見えているルネックス一行は微笑んでしまうのを抑えている。
ただ、大賢者テーラは今スマホがあったらいいのにと暗に舌打ちをした。
国王様、一国の王のこのような緩い場面を携帯に記しておきたいのは、ちょっとゲス精神を持ったら誰もが持つような感情であった。
昔共に旅をしていた仲間の一人にゲスが居たためにテーラはその癖が移ったのかもしれない。
まあ、この世界に携帯があるのなら誰しもが写真を撮っていただろうが。
民衆たちは今日謁見が行われることを知っていて、特別に王城を解き放ち謁見の間の扉から数メートル離れたところには民が大量に集結していた。
やはり記念すべき今日は、皆で賑わうべきだとコレムが思ったらしい。
「……それでは今より、謁見を始めよう」
いつも通りの厳格で威厳を感じる声ではあるが、威圧感は全くと言っていいほど存在しなかった。楽しく、気が緩むべき日だからである。
それに扉の前には民がいる。威厳を刻み付けるのは構わないが、喜ばしい日も威圧感を与える国王だとは間違っても思われたくないのである。
誰よりも民を愛し民を思う、帝国の王だからこその願いなのであった。
重苦しさは欠片もないコレムの声に雰囲気を察したルネックスは経った姿勢から、大帝国カリファッツェラ特有の礼の姿勢を取る。
そして、偉大な存在である大賢者テーラを含め全員が同じ動作を取った。
大帝国カリファッツェラ―――元は帝国と呼ばれており、帝国やら大国やらがしっかりと定められていなかったこの世界アルティディア。
どの国が何を名乗ろうと、大帝国を名乗らなければ咎められることは無かった。しかし世界の巡回をチャンスに、様々な国が自らの国の名称を定めた。
英雄を生んだ国として、カリファッツェラは大帝国となったのである。
「勇者ルネックス・アレキとその御一行の英雄殿よ。貴殿は大帝国カリファッツェラ国王コレム・カリファッツェラの名において望む物を与えよう」
ばっ、とコレムが手を大きく広げた。それだけで大勢の貴族は気圧され、騒いでいた民が真に謁見の開始を感じ、瞬間―――全ての音が停止した。
コレム・カリファッツェラ。その元の名をコレム・フェイト。
カリファッツェラ大帝国が大帝国となったのをきっかけに、コレムは正式に苗字を改めこの国の歴史にこの大帝国で最も優れた王と刻まれるのだ。
「はっ。真に感謝いたします。私は、無限の平和を望みます。金も女も住処もいりません。私は、ただ平和を望みます。勿論、帝国の危機には救済しましょう、しかし、私はゆっくりと生きたいのです。そのための援助を、願います」
「……………ハッハッハ、貴殿は真に、何度も私を驚かせてくれる。初期、貴殿に会った時も私を驚かす答えをくれたな。鮮明に覚えておる。……良い、其方の望む物を与えよう」
カレン達は黙っている。テーラは相変わらず、携帯を再現できない物かと考えている。緊張している者は民くらいだろう。
ちなみに、この謁見は打ち合わせゼロである。ぶっつけ本番だが、誰一人として緊張することは無かった。
むしろ民の方が緊張している事に少し笑いを禁じ得ない。
ちなみにハイレフェアも功を成した一人として数えられているが、プログラムとしてはルネックスの後に恩賞が渡される。
そんなことを考えていると、コレムの話はまたひとつ続いた。
「しかし、それ以外何も与えぬのも我が国の勇者としては不足だ。山の中に、住処を建てる。無条件の常時協力。資金も与えよう。これは貴殿がなんと言っても、私が譲れぬ判断だ」
「はっ。真に感謝いたします」
ルネックスは上げた顔を下げた。これは、彼の恩賞の言い渡しが終わったことを指し示す。
そしてこの表彰は彼自身のための表彰であり―――。
「大賢者、テーラ殿、騎士セバスチャン殿、貴殿らには、無条件での研究所を作成しよう。人材は国から自由に引き出す事を許可する」
「本当ですかぁ! やったー!」
ルネックスとは大きくかけ離れた、王の前で不敬な態度だと打ち首になりそうな言葉だが、テーラを咎める者は誰一人としていなかった。
二十年前まではこの世界でもよく遊んでいたため、テーラの性格はよく知っている者が多いし、何せ彼女は民からの人気が絶大なのである。
「英雄、シェリア殿。其方には『絶勝の黒乙女』の二つ名、無条件でのギルドパーティそのもののSランク昇格を与える」
「はっ。謹んで受け取らせていただきます」
基本ルネックスと同行動なことはコレムも見て居ればわかる事なので、彼女自体への恩賞はそれなりとしか言えない物になっている。
ただ、二つ名、そして国王から与えられたという事は相当な名誉である。仕事はすぐに見つかるし、ギルドでも便利を測ってもらえる。
ちなみにだがテーラの研究所許可。
そこでは魔道具の研究だけをするつもりではない。歴史の研究もするのである。歴史改革は、そう簡単にできることではない。
大賢者であれど、汚名を着せられこの国から消え去ることもあり得るのだ。危ない橋を渡ってはいるが、諦めるなんてバカなことは決して言わない。
今も、この先も、その後も。
表彰が終われば、謁見の間に瞬間の沈黙が降りた。その隙を突いて民衆たちが騒がしいというほどではなく、程よい声で騒ぎ始める。
「―――また、ミレドゥイ家の無償の協力を与えよう」
その騒ぎ声がひと段落したとき、コレムの声が鮮明に響いた。シェリア、ルネックス、テーラにセバスチャンの四人に、ミレドゥイ家が無償の協力と。
ミレドゥイ家は公爵家で、国にも多大な影響を与えられる爵位だ。
昔奴隷征服を目指したときに、協力してくれたのも当主であるハンスと令嬢ノイシレイカであった。それは忘れていないのだが。
まさか、ここでもミレドゥイ家が出てくるとは思わなかった。
此処で、ミレドゥイ家当主ハンス、ミレドゥイ家令嬢ノイシレイカ、とコレムから名が挙げられた二人はルネックス一行の隣、やや前に跪いた。
「街の修復に多大な貢献をした貴殿らに、そして勇者殿らとの貿易に協力してくれた貴殿らに、大帝国からの無償の協力を与えよう」
「「はっ。謹んで受け取りさせていただきます」」
金の混じった銀髪を腰に揺らした令嬢ノイシレイカは、純潔なる乙女と隣国から呼ばれているほどの風貌を持っている。
色気要素も、子どもらしい天然な要素も持ち合わせているという、今しかない彼女の一番美しい時期であった。
そんな彼女が顔を伏せると共に、計算されたかのように髪の毛が揺れ動く。
ハンスは六十代だ。それでも若さが出ている。その理由は少年時代から精霊剣に選ばれていたからであるのだが、彼自身の精神が若いからでもある。
彼らが自らの席に戻っていくと、ルネックス一行も下がる許可が与えられる。
それからはハイレフェアや貴族達、ハーライト達の表彰がされ、ルネックス達は正午を回ってようやく部屋に戻る事が出来た。
謁見が始まったのは朝の八時。現在は正午を回った一時三十分である。
どれだけ長い間同じ場所で固まっていただけなのか、そう思うと疲れがどっと押し寄せてきた。まあ、これから山に隠居するのなら王城に来る機会も減るが。
シェリアとテーラたちがルネックスの部屋に集まり、ぐでー、という効果音がするほどだらけた姿勢で地面やベッドに寝そべっていた。
テーラは地面にうつぶせで寝転がり、セバスチャンは虚ろな目で机にだらけており、ルネックスとシェリアはベッドで今にも溶けそうであった。
そんな彼らの部屋の扉が、優雅な音を立てて数回叩かれた。
『入っても良いだろうか?』
―――国王コレムの威厳を含んだ声が鮮明に部屋全体に響いた。
ぐでぐでとした室内は瞬間引き締められ、構いません、とルネックスが凛とした声を上げて返した。すると扉がゆっくりと開かれる。
ハーライトの時とは一味も二味も違う洗練された動作であった。
「疲れているところ邪魔してすまんな。やはり久しいもので、ゆっくり個人的に話したいと思ったのだよ」
「近衛騎士も連れてきていないようですが……」
「む。個人的な話には邪魔だと思ったのだが、やはり危なかったか。側近のメイドにも止められてしまったのだが強引に来た」
「それはだめじゃないですか!? 次からは安全に気を付けてくださいよ」
やはり帝国の国王と言う表側の威厳たっぷりな表情とは違い、個人的な表情は少しドジ天然な要素が含まれている。
ルネックスに注意され、コレムは「すまんな」と声を上げる。
さりげなく簡単に謝ってしまった王コレムに、テーラが威厳の欠片もないと呆れた目をしながら、王を手なずけたルネックスを褒めるのだった。
世間話もそこそこに、コレムが此処に来た本題が語られる。
「山に隠居すると言っていたな。王城にはまた戻ってくるのか?」
「たまにはですけどね。ギルドにもまだ通いたいですし、コレムさん達にもまだ会いたいので。僕は勇者になりましたので、不死身ですし」
「そうか。……これから、明日からどうするつもりなんだ?」
「人間界に不都合の無いように、色々仕掛けてくるつもりです。システムは改変されましたが、人々の心は変わりませんし」
ルネックスの言葉には自信があった。絶対に成し遂げる、と。具体的に何をするのかと聞いたが、後のお楽しみと言ってルネックスが教えることは無かった。
まあ、離したくないことは誰だってあるだろうとコレムは諦める。
人間界にとって得となる事なのだから、拒否するなどはしない。
「ああ、人間界にフレデリカさんを守護神的な者として置きましたけど、問題ありませんか?」
「心強いぞ。民も喜んでいる。貴殿にはまことに感謝するよ」
「いえ、大丈夫です。僕は、人間界に何かあって欲しくはないですからね。……僕はこれから、安静に暮らしたいんです」
少しそれた話題を元に戻したルネックスにコレムが応じる。勿論二人は机に向かい合わせに座っている。
テーラはベッドでまたぐでー、の姿勢をしており、セバスチャンも同様だ。ただ、シェリアだけは地面に体操座りをしながら真剣に聞いていた。
「安静に、か。具体的には?」
「たまに街を歩いて買い物をしたリ、ギルドで依頼を受けたり、料理を作ったり。たまに何かあったら出動したり―――そんな生活をしたいんです」
此処に来るまで、ずっとハードな生活をしてきた。戦いは常に隣り合わせで、同時に命の危険だって数えきれないほどあった。
だから、平和になったこの大帝国でゆっくり暮らしたいというのだ。
システムを常時改めていきながら、英雄たちと会ったりしながら、ほのぼのな生活をしていくと。
それは悪くない生活だ、とコレムは言う。国王、否、帝王として彼は昔のルネックスとの生活と同様にハードな生活をしていくだろう。
彼ももう歳だ。王位継承権という息子や娘たちの行動の監視も出てくるだろう。ルネックスの言うようなほのぼのな生活にも憧れてはいるのだが。
「私もそろそろ退位しようかね。私の娘と息子はどれも将来有望な者ばかりだからな……この帝国を任せられる」
「それはいいですね。もし叶いましたら、僕らと共に色んな世界を観光したりしませんか? コレムさんの時間を二十年前くらいに戻しますよ」
「それも悪くない案だな……もしできたら。約束しよう、ルネックス」
〇
<王と勇者の制約が結ばれました>
<四天世界第三世界アルティディアのアップロードを始めます>
<人口ニ十京人。アップロード完了しました>
<―――アルティディアの新たな伝説よ、誕生しなさい>
―――全ての開始のための音が、次元を置き去りにして鮮明に奏でられた。
その顔は皆穏やかで、コレムに至っては感情が表に出ないように必死に抑えつけているくらいである。勿論それが見えているルネックス一行は微笑んでしまうのを抑えている。
ただ、大賢者テーラは今スマホがあったらいいのにと暗に舌打ちをした。
国王様、一国の王のこのような緩い場面を携帯に記しておきたいのは、ちょっとゲス精神を持ったら誰もが持つような感情であった。
昔共に旅をしていた仲間の一人にゲスが居たためにテーラはその癖が移ったのかもしれない。
まあ、この世界に携帯があるのなら誰しもが写真を撮っていただろうが。
民衆たちは今日謁見が行われることを知っていて、特別に王城を解き放ち謁見の間の扉から数メートル離れたところには民が大量に集結していた。
やはり記念すべき今日は、皆で賑わうべきだとコレムが思ったらしい。
「……それでは今より、謁見を始めよう」
いつも通りの厳格で威厳を感じる声ではあるが、威圧感は全くと言っていいほど存在しなかった。楽しく、気が緩むべき日だからである。
それに扉の前には民がいる。威厳を刻み付けるのは構わないが、喜ばしい日も威圧感を与える国王だとは間違っても思われたくないのである。
誰よりも民を愛し民を思う、帝国の王だからこその願いなのであった。
重苦しさは欠片もないコレムの声に雰囲気を察したルネックスは経った姿勢から、大帝国カリファッツェラ特有の礼の姿勢を取る。
そして、偉大な存在である大賢者テーラを含め全員が同じ動作を取った。
大帝国カリファッツェラ―――元は帝国と呼ばれており、帝国やら大国やらがしっかりと定められていなかったこの世界アルティディア。
どの国が何を名乗ろうと、大帝国を名乗らなければ咎められることは無かった。しかし世界の巡回をチャンスに、様々な国が自らの国の名称を定めた。
英雄を生んだ国として、カリファッツェラは大帝国となったのである。
「勇者ルネックス・アレキとその御一行の英雄殿よ。貴殿は大帝国カリファッツェラ国王コレム・カリファッツェラの名において望む物を与えよう」
ばっ、とコレムが手を大きく広げた。それだけで大勢の貴族は気圧され、騒いでいた民が真に謁見の開始を感じ、瞬間―――全ての音が停止した。
コレム・カリファッツェラ。その元の名をコレム・フェイト。
カリファッツェラ大帝国が大帝国となったのをきっかけに、コレムは正式に苗字を改めこの国の歴史にこの大帝国で最も優れた王と刻まれるのだ。
「はっ。真に感謝いたします。私は、無限の平和を望みます。金も女も住処もいりません。私は、ただ平和を望みます。勿論、帝国の危機には救済しましょう、しかし、私はゆっくりと生きたいのです。そのための援助を、願います」
「……………ハッハッハ、貴殿は真に、何度も私を驚かせてくれる。初期、貴殿に会った時も私を驚かす答えをくれたな。鮮明に覚えておる。……良い、其方の望む物を与えよう」
カレン達は黙っている。テーラは相変わらず、携帯を再現できない物かと考えている。緊張している者は民くらいだろう。
ちなみに、この謁見は打ち合わせゼロである。ぶっつけ本番だが、誰一人として緊張することは無かった。
むしろ民の方が緊張している事に少し笑いを禁じ得ない。
ちなみにハイレフェアも功を成した一人として数えられているが、プログラムとしてはルネックスの後に恩賞が渡される。
そんなことを考えていると、コレムの話はまたひとつ続いた。
「しかし、それ以外何も与えぬのも我が国の勇者としては不足だ。山の中に、住処を建てる。無条件の常時協力。資金も与えよう。これは貴殿がなんと言っても、私が譲れぬ判断だ」
「はっ。真に感謝いたします」
ルネックスは上げた顔を下げた。これは、彼の恩賞の言い渡しが終わったことを指し示す。
そしてこの表彰は彼自身のための表彰であり―――。
「大賢者、テーラ殿、騎士セバスチャン殿、貴殿らには、無条件での研究所を作成しよう。人材は国から自由に引き出す事を許可する」
「本当ですかぁ! やったー!」
ルネックスとは大きくかけ離れた、王の前で不敬な態度だと打ち首になりそうな言葉だが、テーラを咎める者は誰一人としていなかった。
二十年前まではこの世界でもよく遊んでいたため、テーラの性格はよく知っている者が多いし、何せ彼女は民からの人気が絶大なのである。
「英雄、シェリア殿。其方には『絶勝の黒乙女』の二つ名、無条件でのギルドパーティそのもののSランク昇格を与える」
「はっ。謹んで受け取らせていただきます」
基本ルネックスと同行動なことはコレムも見て居ればわかる事なので、彼女自体への恩賞はそれなりとしか言えない物になっている。
ただ、二つ名、そして国王から与えられたという事は相当な名誉である。仕事はすぐに見つかるし、ギルドでも便利を測ってもらえる。
ちなみにだがテーラの研究所許可。
そこでは魔道具の研究だけをするつもりではない。歴史の研究もするのである。歴史改革は、そう簡単にできることではない。
大賢者であれど、汚名を着せられこの国から消え去ることもあり得るのだ。危ない橋を渡ってはいるが、諦めるなんてバカなことは決して言わない。
今も、この先も、その後も。
表彰が終われば、謁見の間に瞬間の沈黙が降りた。その隙を突いて民衆たちが騒がしいというほどではなく、程よい声で騒ぎ始める。
「―――また、ミレドゥイ家の無償の協力を与えよう」
その騒ぎ声がひと段落したとき、コレムの声が鮮明に響いた。シェリア、ルネックス、テーラにセバスチャンの四人に、ミレドゥイ家が無償の協力と。
ミレドゥイ家は公爵家で、国にも多大な影響を与えられる爵位だ。
昔奴隷征服を目指したときに、協力してくれたのも当主であるハンスと令嬢ノイシレイカであった。それは忘れていないのだが。
まさか、ここでもミレドゥイ家が出てくるとは思わなかった。
此処で、ミレドゥイ家当主ハンス、ミレドゥイ家令嬢ノイシレイカ、とコレムから名が挙げられた二人はルネックス一行の隣、やや前に跪いた。
「街の修復に多大な貢献をした貴殿らに、そして勇者殿らとの貿易に協力してくれた貴殿らに、大帝国からの無償の協力を与えよう」
「「はっ。謹んで受け取りさせていただきます」」
金の混じった銀髪を腰に揺らした令嬢ノイシレイカは、純潔なる乙女と隣国から呼ばれているほどの風貌を持っている。
色気要素も、子どもらしい天然な要素も持ち合わせているという、今しかない彼女の一番美しい時期であった。
そんな彼女が顔を伏せると共に、計算されたかのように髪の毛が揺れ動く。
ハンスは六十代だ。それでも若さが出ている。その理由は少年時代から精霊剣に選ばれていたからであるのだが、彼自身の精神が若いからでもある。
彼らが自らの席に戻っていくと、ルネックス一行も下がる許可が与えられる。
それからはハイレフェアや貴族達、ハーライト達の表彰がされ、ルネックス達は正午を回ってようやく部屋に戻る事が出来た。
謁見が始まったのは朝の八時。現在は正午を回った一時三十分である。
どれだけ長い間同じ場所で固まっていただけなのか、そう思うと疲れがどっと押し寄せてきた。まあ、これから山に隠居するのなら王城に来る機会も減るが。
シェリアとテーラたちがルネックスの部屋に集まり、ぐでー、という効果音がするほどだらけた姿勢で地面やベッドに寝そべっていた。
テーラは地面にうつぶせで寝転がり、セバスチャンは虚ろな目で机にだらけており、ルネックスとシェリアはベッドで今にも溶けそうであった。
そんな彼らの部屋の扉が、優雅な音を立てて数回叩かれた。
『入っても良いだろうか?』
―――国王コレムの威厳を含んだ声が鮮明に部屋全体に響いた。
ぐでぐでとした室内は瞬間引き締められ、構いません、とルネックスが凛とした声を上げて返した。すると扉がゆっくりと開かれる。
ハーライトの時とは一味も二味も違う洗練された動作であった。
「疲れているところ邪魔してすまんな。やはり久しいもので、ゆっくり個人的に話したいと思ったのだよ」
「近衛騎士も連れてきていないようですが……」
「む。個人的な話には邪魔だと思ったのだが、やはり危なかったか。側近のメイドにも止められてしまったのだが強引に来た」
「それはだめじゃないですか!? 次からは安全に気を付けてくださいよ」
やはり帝国の国王と言う表側の威厳たっぷりな表情とは違い、個人的な表情は少しドジ天然な要素が含まれている。
ルネックスに注意され、コレムは「すまんな」と声を上げる。
さりげなく簡単に謝ってしまった王コレムに、テーラが威厳の欠片もないと呆れた目をしながら、王を手なずけたルネックスを褒めるのだった。
世間話もそこそこに、コレムが此処に来た本題が語られる。
「山に隠居すると言っていたな。王城にはまた戻ってくるのか?」
「たまにはですけどね。ギルドにもまだ通いたいですし、コレムさん達にもまだ会いたいので。僕は勇者になりましたので、不死身ですし」
「そうか。……これから、明日からどうするつもりなんだ?」
「人間界に不都合の無いように、色々仕掛けてくるつもりです。システムは改変されましたが、人々の心は変わりませんし」
ルネックスの言葉には自信があった。絶対に成し遂げる、と。具体的に何をするのかと聞いたが、後のお楽しみと言ってルネックスが教えることは無かった。
まあ、離したくないことは誰だってあるだろうとコレムは諦める。
人間界にとって得となる事なのだから、拒否するなどはしない。
「ああ、人間界にフレデリカさんを守護神的な者として置きましたけど、問題ありませんか?」
「心強いぞ。民も喜んでいる。貴殿にはまことに感謝するよ」
「いえ、大丈夫です。僕は、人間界に何かあって欲しくはないですからね。……僕はこれから、安静に暮らしたいんです」
少しそれた話題を元に戻したルネックスにコレムが応じる。勿論二人は机に向かい合わせに座っている。
テーラはベッドでまたぐでー、の姿勢をしており、セバスチャンも同様だ。ただ、シェリアだけは地面に体操座りをしながら真剣に聞いていた。
「安静に、か。具体的には?」
「たまに街を歩いて買い物をしたリ、ギルドで依頼を受けたり、料理を作ったり。たまに何かあったら出動したり―――そんな生活をしたいんです」
此処に来るまで、ずっとハードな生活をしてきた。戦いは常に隣り合わせで、同時に命の危険だって数えきれないほどあった。
だから、平和になったこの大帝国でゆっくり暮らしたいというのだ。
システムを常時改めていきながら、英雄たちと会ったりしながら、ほのぼのな生活をしていくと。
それは悪くない生活だ、とコレムは言う。国王、否、帝王として彼は昔のルネックスとの生活と同様にハードな生活をしていくだろう。
彼ももう歳だ。王位継承権という息子や娘たちの行動の監視も出てくるだろう。ルネックスの言うようなほのぼのな生活にも憧れてはいるのだが。
「私もそろそろ退位しようかね。私の娘と息子はどれも将来有望な者ばかりだからな……この帝国を任せられる」
「それはいいですね。もし叶いましたら、僕らと共に色んな世界を観光したりしませんか? コレムさんの時間を二十年前くらいに戻しますよ」
「それも悪くない案だな……もしできたら。約束しよう、ルネックス」
〇
<王と勇者の制約が結ばれました>
<四天世界第三世界アルティディアのアップロードを始めます>
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