僕のブレスレットの中が最強だったのですが
ごじゅっかいめ 戦闘開始かな?
目を閉じて、耳を澄ませる。きれいで、見る者の心を奪っていく天界の景色は、魔界かと思うほど混沌の闇に包まれていた。
ドォオオン、と度々広がる爆裂音。これは、始発点。
ルネックス達が全ての準備を整えている間を支配して欲しいと頼んだ者達、それぞれの奴隷兵から十人ずつ抜擢した強くも弱くもない者達。
十分でも時間が稼げたらそれでいい。ルネックスは情報を頭に叩き込む。
「おい、ルネックス、俺ぁさっさとやりたくなっちまったぜ……」
「待ってくださいよヴァルテリアさん。情報が足りなければ始まりませんから。向こうは前衛に天使、後衛もいるようですね。中衛になにやら素晴らしいオーラを持った強敵が居ます。中衛に神が集まっているので、背中を警戒する必要があるかと」
「……うぃっす、ルネックスの背中はボクに任せな!」
テーラがブイサインをしながら、ルネックスの後ろに回り込む。ヴァルテリアの剣、神剣大地剣ガイアは刃が大きすぎて、ルネックスの顔二倍ほどある。
それを軽々と持ち上げて肩に担いでいるが、ヴァルテリアによると選ばれた相手以外が持つととてつもなく重くなるらしい。
ちなみに、神級鍛冶師であるベアトリアから、神雷霆ゼウスを作ってもらっているルネックスだが、強い武器過ぎて操るのに苦労した。
ちなみに神雷霆ゼウスについてだが、ご本人様も満足の品である。
ルネックスは瞑っていた目を開け、神雷霆ゼウスを振る。構える。それを合図に、前衛にいる天使たちが一斉に動き始めた。
「……ふん。動きは単調。攻撃も直行。んなもん面白みがねぇだろ? なあ、少しくらいは楽しませてくれよ天使たちよぉ……ちょっと格が高い奴持ってこいや! 血が騒ぐぜ!」
「ヴァルテリアさん! 性格変わってますよ!」
ルネックスは神雷霆ゼウスを振るいながらもヴァルテリアと談笑する。天使たちが塵となって消えていく。思ったより奴隷兵たちが強く、想いを糧にした見たこともない魔術たちは、ステータス画面を超えて噴射されていく。
笑い事ではないな、とルネックスは苦笑いと期待を表情に浮かべた。
ヴァルテリアの大地剣ガイアが真っ赤な炎を纏っていく。これはヴァルテリアが本気を出し始めたという表しだ。
ルネックスは気を引き締めて、向かってくる一際上の相手を見据える。
「わたしはアルファ。天使階級は五よ! 勝てるかはあなたにもよるわ―――」
「あなたが僕に挑んできたことは間違いだったよ。一から五が全部来たら、僕だって負けたかもしれないのに。まぁ、無理だよね。全部僕に来させるのは。一はヴァルテリアさんのところにいるし……二と三は後衛のところかな。意外なのは四が中衛に行った所だけど―――攻略は無理だよ」
神雷霆ゼウスを慣れた手つきで振るい、五階級の女天使を切り裂き塵となって魂そのものを消し去る。雄叫びを上げて向かってきた相手もついでに。
雷を纏う、刃とも剣とも槍ともなるその武器に、勝てる相手は存在しない。
そこで、煩わしく思ったのかルネックスがブレスレットを―――リアスの方ではないブレスレットをかざし、大爆発、とぼそりと唱えた。
「お、エクスプロージョンか! やるじゃないか……昔を思い出させるなぁ」
「昔ですか? そういえば大英雄様達の時代の者達は全員不老不死を取得していましたよね。何をしていたんですか?」
背と背を預け合って、二人は天使たちを切り崩しながら未だ談笑を続ける。その原因は、テーラのおかげであまり天使たちがここまで来れないからだ。
魔力温存ですよ! と叫んでも、問題ない、と必ず返される。テーラも温存したいのだが、ルネックスには傷ひとつ付けさせないつもりだ。
「……ウォーミングアップも、ここまでだよ。ねえ英雄さん? ボクらがキミの進行を許さないよ……ふふふふうっふっふふふふふ……」
「うっわ十二女神? 聖神タチが悪いよー……ってことで、十二女神と戦うとさすがにボクもやばいからセバスチャン呼んでくる」
「おいおいテーラ……セバスチャンならいいってのかよ?」
「うん。ボクの計画の中でセバスチャンは使い捨て道具みたいなのだから」
そうは言っているが、セバスチャンが捨て道具だというのは少しの冗談であり、時間稼ぎ専用の人間であることは本当だ。
ルネックスは一瞬固まったが、すぐにその意味を理解し頷いた。
テーラの姿が消え、セバスチャンが転移させられる。またか、とセバスチャンはこめかみを押えながら十二女神を見据えた。
簡単な相手ではない。それはテーラの雰囲気から安易に察せる。
「……僕は、退くことはしないよ。十二女神、ルイス……」
女神の中でも「闇」属性を司る、片目を真っ黒な髪で隠し、漆黒の魔導書を持ち、ゆらゆらと揺れる、十二女神最弱、ルイス。
まあ、女神なのだから人間にとって特別弱いも強いもないのだが。
オリジナル属性を持つことが多い女神の中でも、ルイスは今ある属性なのでルネックスにとって警戒するには足りないのだが。
女神とは、信者の数で強くなったり自分でステータスを高めたりと強くなる方法が人間よりも種類が多いのは確かだ。
信者数約4500人のルイス教。魔法陣のような彼女の瞳をモチーフにした腕輪を教徒はいつもつけているようだが。
「何故なら君は、僕にとって脅威にはならない。僕は、君を待っているんじゃないんだ。退いてくれるかい?」
「煽る目的じゃないのわかってる。私達に挑むのは無謀……わかる?」
ルイスの前に出てきた、煌びやかなロングヘアーを持つ、テーラくらい、いやテーラ以上かもしれない美しさを持つ女性。
十二女神リーダー、アシェリアだ。オリジナル、「華」属性。
そして、信者数は二番目に多い二百万。
十京人いるこの世界だが、女神を信仰する者は少ない世界でもあるのだ。だが、アシェリアという存在はルイスの何十倍も力を手に入れている。
だが、ルネックスはアシェリア達に挑むのを無謀だとは思っていない。
「分からないよ。……でも、そうだね。煽る目的じゃないよ。僕は負けるわけにはいかないし、この状況を早く終わらせて先に行きたい。アシェリアさん、僕は、無神経に神界を攻めているわけじゃないんだよ……」
「わかる。ラグナロク起こす目的、知ってる。でも私はあなたと戦う。戦いたい。バトルジャンキーな一面という奴」
アシェリアの言葉に、彼女の後ろにいるほか十人の女神が驚愕する。だが、一人だけ何もしないで薄い笑みを顔に張り付けた少女が居た。
メルシィア、属性は『自由』。いわゆる自由ならば何でもいいという主義者だ。
アルティディアは少し差別に偏りがある世界なので、メルシィアを信仰する者は多い。五千万人という驚愕の数だ。
「わたし達の自由を壊す者……通さない」
前髪で両目を隠した、光り輝く杖を持った少女は笑みをかたどったままそう言う。張り付けた笑みは思わずルネックスの背中につう、と冷汗が流れ落ちるほど不気味な威圧感を持っていた。
一応メルシィアは副リーダーだが、本気を出せばアシェリアを凌ぐ実力を持っている。リーダーをやらない原因は、やはり『自由』の尊重。
彼女曰く「副の方が発音がいいから」という気まぐれなのだそうだ。
並びに、メルシィアとは救世主の進化した言葉で、元はメシアという名の象徴だったことから生まれた意識体。
その力は絶大と言っていいほどの特別な存在なのだ。
アシェリアの言う事を聞くが、この場合はルネックスが女神たちの自由を壊しに来たという視点で見ているらしい。
「自由を壊しに来たんじゃないよ……自由を取り戻しに来たんだ。僕らの、ね」
「……何も分からない者が自由を名乗るなよ――わたしはそう思わない」
ルネックスが神雷霆ゼウスを構え、メルシィアが杖を構える。腰と肩の真ん中ほどに伸ばされた髪がふわりと重力に逆らった。
バチバチと神雷霆ゼウスが雷の気持ちよい音を奏でる。ヴァルテリアが大地剣ガイアを振るい構え、アシェリアの相手をする準備を整える。
後ろで控える女神たちがいつ行動をするかなど分からない。それに、この状況だと天使の小さな攻撃も脅威となりかねないのだ。
「……そう簡単には終わらせない」
かつての救世主は世界の巡回を巡らせられなかったが、神格化された。その力をそのまま引き継いだメルシィア。
彼女が杖を掲げると、天界そのものが轟いた。雲は割け、地は割れ、激しく歪んで揺れる。ルネックスは必死とはいかないが神雷霆ゼウスをしっかり握る。
一方のヴァルテリアも地が割れたせいで前がよく見えず、歯を噛み締める。爆炎、轟音、殺生、美しい天界は闇となり果てた。
「ほら……敵にすることつまり壊してる……だから、通さない」
「行きましょう。メルシィア。思い知らせてあげなさい、救世主と煌めく華の力というものを、罪深き侵入者どもに―――!」
アシェリアの周りに花が咲く。その花は皆毒を持っており、蔦は動くことができしつこく追い回してくる。花びらに当たれば肉が裂け、華が彼女の周りにいるがゆえに近づくことすらままならない。
加えて、メルシィアの破壊力に花に包まれるヴァルテリアを助けることすらできない。メルシィアの杖は魔術のためにあるものではない。
自分以外のものを「自由に」操るためにあるのだ。空気がなくなり、ルネックスは一瞬動きを止めるがすぐにこの場に体質を融合する。
空気を操られ衝撃で地に膝をつく寸前に、根性で這い上がる。セバスチャンが後ろで援護しているのだ、問題はない。
「翻天之力――遥昔混沌の闇を司る逢魔なる神が見せつけたその力を解放し、見事目の前の敵を翻弄せよ」
神なる槍である神雷霆ゼウスが持ってはならない詠唱だと思うが、遥か昔ゼウスは混沌の闇を司る神の力をそのまま槍に封じたのだ。
万の鎖が、空気を置き去りにして音が悲鳴を上げるまでに、真っ暗な闇夜を切り裂いてかつての救世主に向かっていく。
メルシィアは極めて冷静だ。杖をいつも通り掲げる。ただ、その心に驚きはあった。
「正義の鉄槌――我が名は救世主……自由を壊す者、正義を揺るがす者、赦しはしない、破壊の限りを許そう、壊しつくせ」
月光、一言で例えるならばそのような優しい光。闇を切り裂かんばかりに猛突進するその光。明らかに勝負が決まる場だった。
「おいてめえ、向かってくるなら向かってきやがれ、俺は待たねぇぞ」
これは、ルネックスとメルシィアの決着が決まる瞬間より少しだけ前の話に巻き戻る。負けるわけにはいかないし、負ける気もない。
そんな覇気をまとったヴァルテリアが、英雄らしく剣を構えた。
アシェリアはそれを鼻で笑い、花の蔦を伸ばしてヴァルテリアを傷つけようと試みる。だが、大英雄はそんな簡単ではない。
「地割――大地の母、天空の主、大英雄の名を借りて此処にて唄おう。全てを切り裂かんとする敵が我が前に立ちはだかる、願うはそれを突破する力、世界を轟かす名よ、此処に響け」
「……ふん、野蛮な! 紅蓮の炎――乙女の象徴、華のようにきらめき輝き、我が前の敵は一滴残らず浄化されるだろう、静粛になさい、お行きなさい、我が紋章!」
アシェリアが前に手を突き出す。爆風にあおられ足に付きそうなほど長い彼女の髪が激しくはためき、ヴァルテリアの剣が地面を割っていく。
剣にまとう竜が一直線にアシェリアに向かっていく。他十人の女神が五人五人に別れてメルシィアとアシェリアを援護しようとする。
こちらも決着の瞬間だった―――。
―――だが、やはりそう甘くはいかないし簡単には終わらなかった。
地面が揺らめいた。先ほどの揺らめきとは比べ物にならないほどの揺れに、ルネックスは神雷霆ゼウスを地面に突き刺し体制を低くして神雷霆に手をかけて支えられる形になる。
ヴァルテリアも同じく体制を低くして衝撃を待つ。
『正義よ、光よ、救世主よ、我が名の下にひれ伏すがいい―――!』
『敵なし。完全無敗。無限のカタチ。曰く』
―――魔王と英雄が合わされば最強になるのだ。
世界の巡回へ近づく歯車が、かちり、と音を立ててひとつ先へ動いた。
ドォオオン、と度々広がる爆裂音。これは、始発点。
ルネックス達が全ての準備を整えている間を支配して欲しいと頼んだ者達、それぞれの奴隷兵から十人ずつ抜擢した強くも弱くもない者達。
十分でも時間が稼げたらそれでいい。ルネックスは情報を頭に叩き込む。
「おい、ルネックス、俺ぁさっさとやりたくなっちまったぜ……」
「待ってくださいよヴァルテリアさん。情報が足りなければ始まりませんから。向こうは前衛に天使、後衛もいるようですね。中衛になにやら素晴らしいオーラを持った強敵が居ます。中衛に神が集まっているので、背中を警戒する必要があるかと」
「……うぃっす、ルネックスの背中はボクに任せな!」
テーラがブイサインをしながら、ルネックスの後ろに回り込む。ヴァルテリアの剣、神剣大地剣ガイアは刃が大きすぎて、ルネックスの顔二倍ほどある。
それを軽々と持ち上げて肩に担いでいるが、ヴァルテリアによると選ばれた相手以外が持つととてつもなく重くなるらしい。
ちなみに、神級鍛冶師であるベアトリアから、神雷霆ゼウスを作ってもらっているルネックスだが、強い武器過ぎて操るのに苦労した。
ちなみに神雷霆ゼウスについてだが、ご本人様も満足の品である。
ルネックスは瞑っていた目を開け、神雷霆ゼウスを振る。構える。それを合図に、前衛にいる天使たちが一斉に動き始めた。
「……ふん。動きは単調。攻撃も直行。んなもん面白みがねぇだろ? なあ、少しくらいは楽しませてくれよ天使たちよぉ……ちょっと格が高い奴持ってこいや! 血が騒ぐぜ!」
「ヴァルテリアさん! 性格変わってますよ!」
ルネックスは神雷霆ゼウスを振るいながらもヴァルテリアと談笑する。天使たちが塵となって消えていく。思ったより奴隷兵たちが強く、想いを糧にした見たこともない魔術たちは、ステータス画面を超えて噴射されていく。
笑い事ではないな、とルネックスは苦笑いと期待を表情に浮かべた。
ヴァルテリアの大地剣ガイアが真っ赤な炎を纏っていく。これはヴァルテリアが本気を出し始めたという表しだ。
ルネックスは気を引き締めて、向かってくる一際上の相手を見据える。
「わたしはアルファ。天使階級は五よ! 勝てるかはあなたにもよるわ―――」
「あなたが僕に挑んできたことは間違いだったよ。一から五が全部来たら、僕だって負けたかもしれないのに。まぁ、無理だよね。全部僕に来させるのは。一はヴァルテリアさんのところにいるし……二と三は後衛のところかな。意外なのは四が中衛に行った所だけど―――攻略は無理だよ」
神雷霆ゼウスを慣れた手つきで振るい、五階級の女天使を切り裂き塵となって魂そのものを消し去る。雄叫びを上げて向かってきた相手もついでに。
雷を纏う、刃とも剣とも槍ともなるその武器に、勝てる相手は存在しない。
そこで、煩わしく思ったのかルネックスがブレスレットを―――リアスの方ではないブレスレットをかざし、大爆発、とぼそりと唱えた。
「お、エクスプロージョンか! やるじゃないか……昔を思い出させるなぁ」
「昔ですか? そういえば大英雄様達の時代の者達は全員不老不死を取得していましたよね。何をしていたんですか?」
背と背を預け合って、二人は天使たちを切り崩しながら未だ談笑を続ける。その原因は、テーラのおかげであまり天使たちがここまで来れないからだ。
魔力温存ですよ! と叫んでも、問題ない、と必ず返される。テーラも温存したいのだが、ルネックスには傷ひとつ付けさせないつもりだ。
「……ウォーミングアップも、ここまでだよ。ねえ英雄さん? ボクらがキミの進行を許さないよ……ふふふふうっふっふふふふふ……」
「うっわ十二女神? 聖神タチが悪いよー……ってことで、十二女神と戦うとさすがにボクもやばいからセバスチャン呼んでくる」
「おいおいテーラ……セバスチャンならいいってのかよ?」
「うん。ボクの計画の中でセバスチャンは使い捨て道具みたいなのだから」
そうは言っているが、セバスチャンが捨て道具だというのは少しの冗談であり、時間稼ぎ専用の人間であることは本当だ。
ルネックスは一瞬固まったが、すぐにその意味を理解し頷いた。
テーラの姿が消え、セバスチャンが転移させられる。またか、とセバスチャンはこめかみを押えながら十二女神を見据えた。
簡単な相手ではない。それはテーラの雰囲気から安易に察せる。
「……僕は、退くことはしないよ。十二女神、ルイス……」
女神の中でも「闇」属性を司る、片目を真っ黒な髪で隠し、漆黒の魔導書を持ち、ゆらゆらと揺れる、十二女神最弱、ルイス。
まあ、女神なのだから人間にとって特別弱いも強いもないのだが。
オリジナル属性を持つことが多い女神の中でも、ルイスは今ある属性なのでルネックスにとって警戒するには足りないのだが。
女神とは、信者の数で強くなったり自分でステータスを高めたりと強くなる方法が人間よりも種類が多いのは確かだ。
信者数約4500人のルイス教。魔法陣のような彼女の瞳をモチーフにした腕輪を教徒はいつもつけているようだが。
「何故なら君は、僕にとって脅威にはならない。僕は、君を待っているんじゃないんだ。退いてくれるかい?」
「煽る目的じゃないのわかってる。私達に挑むのは無謀……わかる?」
ルイスの前に出てきた、煌びやかなロングヘアーを持つ、テーラくらい、いやテーラ以上かもしれない美しさを持つ女性。
十二女神リーダー、アシェリアだ。オリジナル、「華」属性。
そして、信者数は二番目に多い二百万。
十京人いるこの世界だが、女神を信仰する者は少ない世界でもあるのだ。だが、アシェリアという存在はルイスの何十倍も力を手に入れている。
だが、ルネックスはアシェリア達に挑むのを無謀だとは思っていない。
「分からないよ。……でも、そうだね。煽る目的じゃないよ。僕は負けるわけにはいかないし、この状況を早く終わらせて先に行きたい。アシェリアさん、僕は、無神経に神界を攻めているわけじゃないんだよ……」
「わかる。ラグナロク起こす目的、知ってる。でも私はあなたと戦う。戦いたい。バトルジャンキーな一面という奴」
アシェリアの言葉に、彼女の後ろにいるほか十人の女神が驚愕する。だが、一人だけ何もしないで薄い笑みを顔に張り付けた少女が居た。
メルシィア、属性は『自由』。いわゆる自由ならば何でもいいという主義者だ。
アルティディアは少し差別に偏りがある世界なので、メルシィアを信仰する者は多い。五千万人という驚愕の数だ。
「わたし達の自由を壊す者……通さない」
前髪で両目を隠した、光り輝く杖を持った少女は笑みをかたどったままそう言う。張り付けた笑みは思わずルネックスの背中につう、と冷汗が流れ落ちるほど不気味な威圧感を持っていた。
一応メルシィアは副リーダーだが、本気を出せばアシェリアを凌ぐ実力を持っている。リーダーをやらない原因は、やはり『自由』の尊重。
彼女曰く「副の方が発音がいいから」という気まぐれなのだそうだ。
並びに、メルシィアとは救世主の進化した言葉で、元はメシアという名の象徴だったことから生まれた意識体。
その力は絶大と言っていいほどの特別な存在なのだ。
アシェリアの言う事を聞くが、この場合はルネックスが女神たちの自由を壊しに来たという視点で見ているらしい。
「自由を壊しに来たんじゃないよ……自由を取り戻しに来たんだ。僕らの、ね」
「……何も分からない者が自由を名乗るなよ――わたしはそう思わない」
ルネックスが神雷霆ゼウスを構え、メルシィアが杖を構える。腰と肩の真ん中ほどに伸ばされた髪がふわりと重力に逆らった。
バチバチと神雷霆ゼウスが雷の気持ちよい音を奏でる。ヴァルテリアが大地剣ガイアを振るい構え、アシェリアの相手をする準備を整える。
後ろで控える女神たちがいつ行動をするかなど分からない。それに、この状況だと天使の小さな攻撃も脅威となりかねないのだ。
「……そう簡単には終わらせない」
かつての救世主は世界の巡回を巡らせられなかったが、神格化された。その力をそのまま引き継いだメルシィア。
彼女が杖を掲げると、天界そのものが轟いた。雲は割け、地は割れ、激しく歪んで揺れる。ルネックスは必死とはいかないが神雷霆ゼウスをしっかり握る。
一方のヴァルテリアも地が割れたせいで前がよく見えず、歯を噛み締める。爆炎、轟音、殺生、美しい天界は闇となり果てた。
「ほら……敵にすることつまり壊してる……だから、通さない」
「行きましょう。メルシィア。思い知らせてあげなさい、救世主と煌めく華の力というものを、罪深き侵入者どもに―――!」
アシェリアの周りに花が咲く。その花は皆毒を持っており、蔦は動くことができしつこく追い回してくる。花びらに当たれば肉が裂け、華が彼女の周りにいるがゆえに近づくことすらままならない。
加えて、メルシィアの破壊力に花に包まれるヴァルテリアを助けることすらできない。メルシィアの杖は魔術のためにあるものではない。
自分以外のものを「自由に」操るためにあるのだ。空気がなくなり、ルネックスは一瞬動きを止めるがすぐにこの場に体質を融合する。
空気を操られ衝撃で地に膝をつく寸前に、根性で這い上がる。セバスチャンが後ろで援護しているのだ、問題はない。
「翻天之力――遥昔混沌の闇を司る逢魔なる神が見せつけたその力を解放し、見事目の前の敵を翻弄せよ」
神なる槍である神雷霆ゼウスが持ってはならない詠唱だと思うが、遥か昔ゼウスは混沌の闇を司る神の力をそのまま槍に封じたのだ。
万の鎖が、空気を置き去りにして音が悲鳴を上げるまでに、真っ暗な闇夜を切り裂いてかつての救世主に向かっていく。
メルシィアは極めて冷静だ。杖をいつも通り掲げる。ただ、その心に驚きはあった。
「正義の鉄槌――我が名は救世主……自由を壊す者、正義を揺るがす者、赦しはしない、破壊の限りを許そう、壊しつくせ」
月光、一言で例えるならばそのような優しい光。闇を切り裂かんばかりに猛突進するその光。明らかに勝負が決まる場だった。
「おいてめえ、向かってくるなら向かってきやがれ、俺は待たねぇぞ」
これは、ルネックスとメルシィアの決着が決まる瞬間より少しだけ前の話に巻き戻る。負けるわけにはいかないし、負ける気もない。
そんな覇気をまとったヴァルテリアが、英雄らしく剣を構えた。
アシェリアはそれを鼻で笑い、花の蔦を伸ばしてヴァルテリアを傷つけようと試みる。だが、大英雄はそんな簡単ではない。
「地割――大地の母、天空の主、大英雄の名を借りて此処にて唄おう。全てを切り裂かんとする敵が我が前に立ちはだかる、願うはそれを突破する力、世界を轟かす名よ、此処に響け」
「……ふん、野蛮な! 紅蓮の炎――乙女の象徴、華のようにきらめき輝き、我が前の敵は一滴残らず浄化されるだろう、静粛になさい、お行きなさい、我が紋章!」
アシェリアが前に手を突き出す。爆風にあおられ足に付きそうなほど長い彼女の髪が激しくはためき、ヴァルテリアの剣が地面を割っていく。
剣にまとう竜が一直線にアシェリアに向かっていく。他十人の女神が五人五人に別れてメルシィアとアシェリアを援護しようとする。
こちらも決着の瞬間だった―――。
―――だが、やはりそう甘くはいかないし簡単には終わらなかった。
地面が揺らめいた。先ほどの揺らめきとは比べ物にならないほどの揺れに、ルネックスは神雷霆ゼウスを地面に突き刺し体制を低くして神雷霆に手をかけて支えられる形になる。
ヴァルテリアも同じく体制を低くして衝撃を待つ。
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