僕のブレスレットの中が最強だったのですが
よんじゅうにかいめ 魔女界征服かな?
黒い霧が視界を遮る中で、一か所だけ何もない所があった。その中心から一キロ、霧は入ってこられないようになっている。
その肝心の中心には少女が二人。
―――リーシャが手を掲げて魔術を詠唱するリンネを見守っている。
「我が主―――アルト様、その姿をお現し下さいませ」
「ん……リンネじゃないか! それとこの子は、僕の鑑定によるとリーシャちゃんかな? 二人とも僕より強くなっているようだけど、今日は何か用なのかな?」
「はい。今日は魔女界に関わるくらいの大事で用がありますぅっ!」
「うーん。あまり今は魔女界の深部にには入らない方がいいと思う。聖神の魔力はさすがに僕も解くことができないからね……」
「あのぉ、私達、神と戦うんですぅ、それでぇ、少しでも勢力を多くしたいのでぇ、協力を要請したいんですぅ」
「僕らがそうする理由はあるのかな?」
「は、はいっ! 聖神が好き勝手魔女界で魔力を暴れさせている理由からです―――です。目覚めた聖神を神々は放っておいて、逆に聖神の話を聞き入れてしまったのです―――です」
「つまり、深部が荒れているのは神様のせい、と言いたいのかな?」
いきなり話を切りだしたリーシャとリンネについては何も言わず、紫の魔法陣から姿を現したアルトは手を顎に当てて考え込む。
アルトは魔女界の王で、魔女界イチの魔力、魔力強度を誇っている。
昔彼が王ではなかったときも、リンネが彼に勝てたことは一度もない。
アルトの右と左隣には、黒いローブを着た金髪のショートボブの双子が控えている。彼女らは今のリンネとワンランクしか違わない実力を持っている。
その正体は、アルトが開発した『ミライ式リーザート』という種類のロボット。
ミライ式リーザートの中でも戦闘能力に長けた彼女らは、感情というモノがある。
アルトいわく、彼の作ったリーザートの中で一番の出来だ。
「アルト様。ボクは賛成だ」
「アルト様。ボクは不安だ」
「そうか。ミライ、ミレイ。僕はリンネとリーシャちゃんの言葉を信じようと思うよ。ミレイの不安な気持ちもわかるけど、仲間を信じたい」
「アルト様。とても良い判断」
「アルト様。誇れたらいいね」
「うん。そうだね。全部終わったあと、自分のやったことを誇れるといいね」
まだうまく自分たちの意思を伝えられないミレイとミライの言葉を補助して、アルトが正しい言葉で繰り返す。
するとミライは「こう言ったらいい」とノートに記入していた。
リーシャは何から何までが初めて見る風景で、終始目が輝き続けていた。
「そうだ、リンネ、リーシャちゃん。せっかく来たんだからゆっくりしていかないかい? 僕も君のしてきたことが気になるんだ」
「アルト様! 私、大切な人が出来たんですぅっ!!」
「そうかい。でも僕は君のこと、今でも―――――」
「!!」
アルトが微笑みを崩さず発した、絶対にリンネを傷つけるだろう言葉は、リーシャの目を丸くさせざるを得なかった。
仲がよさそうに見えた二人には、実は因縁があるのだ。
絶対に放すことができない、切ることができない、そんな魂の因縁が。
「仲良くできないんですか―――ですか」
そっと呟いたリーシャの言葉が、俯きながら「分かってますよぉ」と言っているリンネの耳に届いたかはわからない。
なおも微笑み、「そうかい」というアルトの耳に届いたかもわからない。
しかし、仲がよさそうに話したり、ここだよとアルトが案内したり、リーシャが転びそうになったアルトを支えたり。
どうしてアルトが『――だいきらい』なんて言うのか、リーシャにはわからない。
しばらく歩いていると、青くて緑色の混ざった煌びやかな木が広がっていた。目には完全に入らないくらいの大きさで、リーシャは思わず見入った。
「何で此処に来たんですかぁ?」
「思い出してほしくてね……? 僕、ちょっと僕を抜いての最高責任者ちゃんを呼んでくるから、思い出に浸って待っていてね」
「思い出というかぁ、この場所は―――いえ」
何でもないですぅ、とリンネが微笑み、アルトが肩をすくませると、魔法陣を展開させ、双子と共にその奥へと消えていった。
リーシャはこの重苦しい雰囲気にどうすればいいのかわからない。
目の前の木はとても綺麗なのに、思い出があるはずの少女はとても悲しそうだ。
『リンネよ。よく、来たな……』
「樹さん。約束通り来ましたよぉ」
「あ、あの、リンネさん、私はどうすればいいのでしょうか―――でしょうか」
目の前の木が話している。
リーシャはどこかの魔導書で、千年生きた木は霊力が宿り、感情が何らかの衝撃で宿ることによって話すことが出来るようになる。
「もしかしてこの木が話せるのって、リンネさんのおかげですか―――ですか」
「そうだよぉっ。そして、私とアルト様が―――」
『その話はもうせんほうが良い。言いなおそう。リンネ、君が口に出さん方が良い……小娘よ、君だけ私の木の中に入れ』
「えぇ!? ど、どうすれば―――すれば!?」
『踏み込んでくるんだ』
リンネがリーシャに微笑み、リーシャが恐る恐る木に触れると、木全体が激しく光り、リーシャは真っ白な空間へ転移された。
何もない、真っ白な空間で、ただひとつだけ光が灯された。
―――――――――――――――――――――――――――――
昔々、それは千年前の話。
魔女界が出来上がり、魔女界の主―――樹と呼ばれた男性が生まれた。
魔女界の主の側近―――リンネ、アルトの二人が生まれた。
その二人から、魔女界の住民が連なるように次々と生まれた。
魔女界はいつも平和だった。
しかしある日、神が罰を下すと言ってにこりと微笑みながら雷を落とした。
樹は耐えようと踏ん張るものの、リンネを守るために木へと姿を変える。
リンネは木になってしまった樹の前で、ただただ叫び続けた。
アルトが駆けつけるとそこに樹の姿は無く、木へと姿を変えた樹の前で座り込みながら涙を流すリンネがいた。
アルトは何が起きたのだ、とリンネに問い詰めるが、彼女はただ涙を流す。
『どうしてか言ってくれないとわからないよ!? なんで何も言ってくれないんだ、どうして! 樹さんはどうして!?』
『わかんない、無理、いやだ、樹さん……』
樹と特に仲が良かったアルトは何も言えないリンネを許すことが出来ず、その魔女の力を使ってリンネを半殺しにした。
その後リンネの涙で感情をとりもどした樹が罰としてアルトとリンネを偽りの絆で強制的に結び付けた。
仲がよさそうに見えるのは、きっとそれのせいだ。
『平和な魔女界で、主の後を継ぐ貴様らがそんな顔をしてたまるかっ!』
それは樹が初めて怒った瞬間であった。
そして樹の死、アルトへの天罰、アルトとリンネの残酷な戦い、そのすべての現場がこの木の宿る―――今リンネとリーシャの立っていた場所だった。
リンネが何も言えなかったのは、神が唯一真実を知るリンネの口を封じるために彼女に与えた呪いのおかげだ。
しかしその呪いをかけられたのはリンネの不注意。
それを償うためにも、リンネは一方的に強力な魔術を受け続けた。
『リンネ。その口癖は何だか可愛いよ』
『本当!? じゃあこれ続けるぅ!!』
リンネと樹は平和だった。
『アルト。君は―――』
『何も言わなくてもいいですよ―――分かっていますから』
しかしアルトとリンネと樹の仲は、今も歪んだままである。
―――――――――――――――――――――――――――――
「そんなの悲しすぎます―――ます! 樹さんもアルトさんもリンネさんも、悪くないじゃないですか―――ですか!?」
『アルトがすんなりと神界討伐の意見を受けたのもきっとそれだろう』
「誤解を解かなきゃ! 解かなくちゃだめですよ―――ですよ!!」
樹とリーシャがこうして会話している場所は既にあの真っ白な空間ではなく、残酷な現場であった、あの綺麗な木の下だった。
この木を見ているだけでリーシャは涙がこみ上げてくる。どうして二人ばっかりが神のせいでここまで悲しい思いをする必要があるのか。
子供だからだろうか、無性に二人を助けたくなるのは―――。
「リーシャ、私は大丈夫。大丈夫だからぁっ……」
『リンネ。君が大丈夫なはずがないだろう? 昔から知っていた、君は優しい、優しいからこそたくさんの過ちを犯してしまう』
「樹さん、貴方もまさか真実を言いたいのですかぁ!?」
「リンネさん。部外者ですみません……けど、話を聞いて、これ以上二人を悲しませてはいけないなと思いました―――ました!」
『君はいい友達を持った。だからその友達の思いに答えてやってくれ』
サワサワ、と樹の本体である木が彼の言葉に併せてゆったりと動く。リンネは唇をかみしめていて、恐らくもっと嫌われることが怖いのだろう。
樹の言う通り、リンネは優しくて、その関係だったらそれ以上もそれ以下も望まない。
でもだからこそ、リーシャは彼女を助けたいと思った。
「ごめんリンネ。最高責任者ちゃんいなかったよ。彼女も忙しいからね―――それで、思い出の場所の聖地巡礼はどうだった?」
「―――いい思い出になりました。マイパートナー」
「っ……何のつもりだ。偽善者」
ゆったりと歩み寄ってきたアルトに、リンネが微笑みながら昔と同じ話し方でアルトに話しかける。彼はなんと思ったのか、握り締めた拳を震わせた。
そしてすぐにもっと強く握りしめ、リンネを微笑みながらも睨み付けた。
「誤解を解きましょうマイパートナー。私は今でもあの時の真実を話すことはできません。何故だか、本当の意味で分かりますか?」
「それはっ……貴様が……っ」
『真実は違う。違うんだ。アルト』
「何、をっ―――」
部外者のリーシャでは説得力が沸きにくいし、アルトの恨みの対象のリンネではいくら説得しても性格が硬いアルトが納得しない。
なので彼と仲がいい樹に任せることにして、最後は二人で頭を下げる。
まだ説得に抵抗があるリンネはそれでようやく頭を縦に振ったのだ。
アルトが言い終わる前に、樹が強制的に彼を木の中へ転移させた。
どうか上手く行ってくれ―――リーシャはそう祈るしかなかった。
部外者の方が本人たちより心配する、とはこのことを表す言葉であった。
「行けるかどうかぁ、分かんないけどぉ」
「どうか―――どうか」
しばらくして出てきたアルトはいつもの余裕とは反対に、呆けた顔をしてリンネの方をずっとずっと見つめていた。
神のかけた呪いはそう簡単に見破ることはできない。
しかし、現実から背くために一度も使ってこなかった『魔女の眼』を使って見たところ、リンネに本当に呪いがあることが分かったのだ。
謝りたくない。だって半殺しまでにした相手なのだから―――。
いや、違う。ただ許されないかもしれないその可能性がアルトは怖いだけなのだ。
「―――っさい、ごめ―――さい」
目に溜まった涙を止めるために目を瞑るが、耐えきれなくて一筋流れてしまう。
「勿論、いいですよっ!」
嬉しそうにアルトと握手するリンネを見てリーシャは微笑んだ。今の樹に表情は無いけれど、優しく揺れる木の葉はどこか嬉しそうだった。
―――この日、主の後を継いだ者達の友情は、偽りではなく、本物となった。
その肝心の中心には少女が二人。
―――リーシャが手を掲げて魔術を詠唱するリンネを見守っている。
「我が主―――アルト様、その姿をお現し下さいませ」
「ん……リンネじゃないか! それとこの子は、僕の鑑定によるとリーシャちゃんかな? 二人とも僕より強くなっているようだけど、今日は何か用なのかな?」
「はい。今日は魔女界に関わるくらいの大事で用がありますぅっ!」
「うーん。あまり今は魔女界の深部にには入らない方がいいと思う。聖神の魔力はさすがに僕も解くことができないからね……」
「あのぉ、私達、神と戦うんですぅ、それでぇ、少しでも勢力を多くしたいのでぇ、協力を要請したいんですぅ」
「僕らがそうする理由はあるのかな?」
「は、はいっ! 聖神が好き勝手魔女界で魔力を暴れさせている理由からです―――です。目覚めた聖神を神々は放っておいて、逆に聖神の話を聞き入れてしまったのです―――です」
「つまり、深部が荒れているのは神様のせい、と言いたいのかな?」
いきなり話を切りだしたリーシャとリンネについては何も言わず、紫の魔法陣から姿を現したアルトは手を顎に当てて考え込む。
アルトは魔女界の王で、魔女界イチの魔力、魔力強度を誇っている。
昔彼が王ではなかったときも、リンネが彼に勝てたことは一度もない。
アルトの右と左隣には、黒いローブを着た金髪のショートボブの双子が控えている。彼女らは今のリンネとワンランクしか違わない実力を持っている。
その正体は、アルトが開発した『ミライ式リーザート』という種類のロボット。
ミライ式リーザートの中でも戦闘能力に長けた彼女らは、感情というモノがある。
アルトいわく、彼の作ったリーザートの中で一番の出来だ。
「アルト様。ボクは賛成だ」
「アルト様。ボクは不安だ」
「そうか。ミライ、ミレイ。僕はリンネとリーシャちゃんの言葉を信じようと思うよ。ミレイの不安な気持ちもわかるけど、仲間を信じたい」
「アルト様。とても良い判断」
「アルト様。誇れたらいいね」
「うん。そうだね。全部終わったあと、自分のやったことを誇れるといいね」
まだうまく自分たちの意思を伝えられないミレイとミライの言葉を補助して、アルトが正しい言葉で繰り返す。
するとミライは「こう言ったらいい」とノートに記入していた。
リーシャは何から何までが初めて見る風景で、終始目が輝き続けていた。
「そうだ、リンネ、リーシャちゃん。せっかく来たんだからゆっくりしていかないかい? 僕も君のしてきたことが気になるんだ」
「アルト様! 私、大切な人が出来たんですぅっ!!」
「そうかい。でも僕は君のこと、今でも―――――」
「!!」
アルトが微笑みを崩さず発した、絶対にリンネを傷つけるだろう言葉は、リーシャの目を丸くさせざるを得なかった。
仲がよさそうに見えた二人には、実は因縁があるのだ。
絶対に放すことができない、切ることができない、そんな魂の因縁が。
「仲良くできないんですか―――ですか」
そっと呟いたリーシャの言葉が、俯きながら「分かってますよぉ」と言っているリンネの耳に届いたかはわからない。
なおも微笑み、「そうかい」というアルトの耳に届いたかもわからない。
しかし、仲がよさそうに話したり、ここだよとアルトが案内したり、リーシャが転びそうになったアルトを支えたり。
どうしてアルトが『――だいきらい』なんて言うのか、リーシャにはわからない。
しばらく歩いていると、青くて緑色の混ざった煌びやかな木が広がっていた。目には完全に入らないくらいの大きさで、リーシャは思わず見入った。
「何で此処に来たんですかぁ?」
「思い出してほしくてね……? 僕、ちょっと僕を抜いての最高責任者ちゃんを呼んでくるから、思い出に浸って待っていてね」
「思い出というかぁ、この場所は―――いえ」
何でもないですぅ、とリンネが微笑み、アルトが肩をすくませると、魔法陣を展開させ、双子と共にその奥へと消えていった。
リーシャはこの重苦しい雰囲気にどうすればいいのかわからない。
目の前の木はとても綺麗なのに、思い出があるはずの少女はとても悲しそうだ。
『リンネよ。よく、来たな……』
「樹さん。約束通り来ましたよぉ」
「あ、あの、リンネさん、私はどうすればいいのでしょうか―――でしょうか」
目の前の木が話している。
リーシャはどこかの魔導書で、千年生きた木は霊力が宿り、感情が何らかの衝撃で宿ることによって話すことが出来るようになる。
「もしかしてこの木が話せるのって、リンネさんのおかげですか―――ですか」
「そうだよぉっ。そして、私とアルト様が―――」
『その話はもうせんほうが良い。言いなおそう。リンネ、君が口に出さん方が良い……小娘よ、君だけ私の木の中に入れ』
「えぇ!? ど、どうすれば―――すれば!?」
『踏み込んでくるんだ』
リンネがリーシャに微笑み、リーシャが恐る恐る木に触れると、木全体が激しく光り、リーシャは真っ白な空間へ転移された。
何もない、真っ白な空間で、ただひとつだけ光が灯された。
―――――――――――――――――――――――――――――
昔々、それは千年前の話。
魔女界が出来上がり、魔女界の主―――樹と呼ばれた男性が生まれた。
魔女界の主の側近―――リンネ、アルトの二人が生まれた。
その二人から、魔女界の住民が連なるように次々と生まれた。
魔女界はいつも平和だった。
しかしある日、神が罰を下すと言ってにこりと微笑みながら雷を落とした。
樹は耐えようと踏ん張るものの、リンネを守るために木へと姿を変える。
リンネは木になってしまった樹の前で、ただただ叫び続けた。
アルトが駆けつけるとそこに樹の姿は無く、木へと姿を変えた樹の前で座り込みながら涙を流すリンネがいた。
アルトは何が起きたのだ、とリンネに問い詰めるが、彼女はただ涙を流す。
『どうしてか言ってくれないとわからないよ!? なんで何も言ってくれないんだ、どうして! 樹さんはどうして!?』
『わかんない、無理、いやだ、樹さん……』
樹と特に仲が良かったアルトは何も言えないリンネを許すことが出来ず、その魔女の力を使ってリンネを半殺しにした。
その後リンネの涙で感情をとりもどした樹が罰としてアルトとリンネを偽りの絆で強制的に結び付けた。
仲がよさそうに見えるのは、きっとそれのせいだ。
『平和な魔女界で、主の後を継ぐ貴様らがそんな顔をしてたまるかっ!』
それは樹が初めて怒った瞬間であった。
そして樹の死、アルトへの天罰、アルトとリンネの残酷な戦い、そのすべての現場がこの木の宿る―――今リンネとリーシャの立っていた場所だった。
リンネが何も言えなかったのは、神が唯一真実を知るリンネの口を封じるために彼女に与えた呪いのおかげだ。
しかしその呪いをかけられたのはリンネの不注意。
それを償うためにも、リンネは一方的に強力な魔術を受け続けた。
『リンネ。その口癖は何だか可愛いよ』
『本当!? じゃあこれ続けるぅ!!』
リンネと樹は平和だった。
『アルト。君は―――』
『何も言わなくてもいいですよ―――分かっていますから』
しかしアルトとリンネと樹の仲は、今も歪んだままである。
―――――――――――――――――――――――――――――
「そんなの悲しすぎます―――ます! 樹さんもアルトさんもリンネさんも、悪くないじゃないですか―――ですか!?」
『アルトがすんなりと神界討伐の意見を受けたのもきっとそれだろう』
「誤解を解かなきゃ! 解かなくちゃだめですよ―――ですよ!!」
樹とリーシャがこうして会話している場所は既にあの真っ白な空間ではなく、残酷な現場であった、あの綺麗な木の下だった。
この木を見ているだけでリーシャは涙がこみ上げてくる。どうして二人ばっかりが神のせいでここまで悲しい思いをする必要があるのか。
子供だからだろうか、無性に二人を助けたくなるのは―――。
「リーシャ、私は大丈夫。大丈夫だからぁっ……」
『リンネ。君が大丈夫なはずがないだろう? 昔から知っていた、君は優しい、優しいからこそたくさんの過ちを犯してしまう』
「樹さん、貴方もまさか真実を言いたいのですかぁ!?」
「リンネさん。部外者ですみません……けど、話を聞いて、これ以上二人を悲しませてはいけないなと思いました―――ました!」
『君はいい友達を持った。だからその友達の思いに答えてやってくれ』
サワサワ、と樹の本体である木が彼の言葉に併せてゆったりと動く。リンネは唇をかみしめていて、恐らくもっと嫌われることが怖いのだろう。
樹の言う通り、リンネは優しくて、その関係だったらそれ以上もそれ以下も望まない。
でもだからこそ、リーシャは彼女を助けたいと思った。
「ごめんリンネ。最高責任者ちゃんいなかったよ。彼女も忙しいからね―――それで、思い出の場所の聖地巡礼はどうだった?」
「―――いい思い出になりました。マイパートナー」
「っ……何のつもりだ。偽善者」
ゆったりと歩み寄ってきたアルトに、リンネが微笑みながら昔と同じ話し方でアルトに話しかける。彼はなんと思ったのか、握り締めた拳を震わせた。
そしてすぐにもっと強く握りしめ、リンネを微笑みながらも睨み付けた。
「誤解を解きましょうマイパートナー。私は今でもあの時の真実を話すことはできません。何故だか、本当の意味で分かりますか?」
「それはっ……貴様が……っ」
『真実は違う。違うんだ。アルト』
「何、をっ―――」
部外者のリーシャでは説得力が沸きにくいし、アルトの恨みの対象のリンネではいくら説得しても性格が硬いアルトが納得しない。
なので彼と仲がいい樹に任せることにして、最後は二人で頭を下げる。
まだ説得に抵抗があるリンネはそれでようやく頭を縦に振ったのだ。
アルトが言い終わる前に、樹が強制的に彼を木の中へ転移させた。
どうか上手く行ってくれ―――リーシャはそう祈るしかなかった。
部外者の方が本人たちより心配する、とはこのことを表す言葉であった。
「行けるかどうかぁ、分かんないけどぉ」
「どうか―――どうか」
しばらくして出てきたアルトはいつもの余裕とは反対に、呆けた顔をしてリンネの方をずっとずっと見つめていた。
神のかけた呪いはそう簡単に見破ることはできない。
しかし、現実から背くために一度も使ってこなかった『魔女の眼』を使って見たところ、リンネに本当に呪いがあることが分かったのだ。
謝りたくない。だって半殺しまでにした相手なのだから―――。
いや、違う。ただ許されないかもしれないその可能性がアルトは怖いだけなのだ。
「―――っさい、ごめ―――さい」
目に溜まった涙を止めるために目を瞑るが、耐えきれなくて一筋流れてしまう。
「勿論、いいですよっ!」
嬉しそうにアルトと握手するリンネを見てリーシャは微笑んだ。今の樹に表情は無いけれど、優しく揺れる木の葉はどこか嬉しそうだった。
―――この日、主の後を継いだ者達の友情は、偽りではなく、本物となった。
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