僕のブレスレットの中が最強だったのですが
よんじゅうさんかいめ 聖女家征服(仮)かな?
聖女フィリアの家に行く前に、魔物に襲われたりもしたし、上位魔物の豚も巨人も出たが、正直言って弱かった。
リエイスの一撃で終わってしまうし、フレアルの相手になどならない。
リエイスは自分の破壊神かのような一撃に興奮していたが、フレアルの攻撃を見て完全に固まったのは余談である。
今二人はフィリアの家の前でフレアルが門番に交渉している。
「レーイティア・ピュスとフィリア・ピュスに会わせなさい。フレアルが来たって言えば分かるわよ……さっさと済ませて」
「あの、フレアル様。聖女家を相手に口調が崩れすぎやしませんか」
「いいのよ、これで。強引な手段に出ないとあのレーイティアは現れないからね」
フレアルも高圧的な態度をとるのには慣れていない。だがレーイティアはたとえ目上の相手に対してでも威圧をかけられないと乱暴は治らない。
リエイスはそれを聞いて納得し、同時にフレアルを哀れんだ。
「ルネックスのためだから、仕方ないよ」
「そうですね。御主人様のためなら……そうですよね―――」
「ふ、フレアルさんが来ただとぉおおおお!?」
リエイスが言葉を繋ごうとしたその時、奥から金髪にものすごい寝ぐせの身なりだけが素晴らしい男性が出てきた。
どうやらあれがレーイティアとみて間違いなさそう。
聖女の息子がこれだとは、きっとレーイティアの姿を知らぬ者は考えつかないだろう。
「そうよ、フレアルさんが来たのよ、ちょっと中に通しなさい」
「お、おう! 皆道を開けやがれ!」
「「「「はっ」」」」
「レーイティア……お行儀が悪いですよ? わたくしどう教えましたっけ……」
「痛い痛い痛いやめろ母さん!」
衛兵が道を開ける中、青い衣装に身を包んだ聖女―――フィリア・ピュスが現れ、レーイティアの耳を掴んで引きずる。
フレアルは慣れているものの、やはり微笑みながら自分の息子を引きずる聖女フィリアに引いてしまう。
ちなみにリエイスはすでに固まっている。
衛兵たちはいつもの情景を見るかのように微笑ましい笑顔だ。
「それではフレアルさん、どうぞ」
「ええ。それにしても、親子仲が変わらないわね……」
「そうなんです、このバカ息子が」
「いでででで、何でまだつかんでんだよ、放せよー!」
仲がいいのか悪いのか分からないが、これは仲がいい親子の喧嘩である。いざとなっての二人の連携ぶりは今の情景を覆す。
フレアルはリエイスにそう説明すると、彼女も理解したようだ。
つまりはツンデレ!
……少し違った角度に理解しているようだが、問題は無いだろう。
「さて」
中に入り、客専用の部屋のソファーに座ると、フィリアから話を切りだされた。
フィリアの横にはレーイティアが申し訳なさそうに座っている。
フレアルとリエイスの前には、メイドが丁寧にお茶を差し出してくれた。
「フレアルさん、久しぶりにここに来ますね」
「うん。そうね。実は今日はお願いがあって来たんだよね」
「あら、そんな時にまた私のバカ息子が……」
「ツンデレ……ツンデレェ……」
またリエイスが小声で暴走しているが、フレアルは苦笑いしながらも放っておく。フィリアは冗談ではなさそうな顔だ。
しかし回復を使う者は隠すのが得意だと言われるのはだてではない。
フレアルから見ればその猫かぶりな笑顔はすぐに嘘だとバレるくらいだ。
「私たちの活動を知ってる?」
「ええ。神界に反乱を起こしたり、とか。いろいろ騒がせていますね」
「ひとつ聞きたいんだけど。それに協力してみる気はない? まあ平和な生活を望んでいるのは私も分かってるよ?」
「協力、ですかぁ……」
「難しいことはしなくていいの。ただ、神界への攻撃によって出る負傷者に治療をしてほしいだけ。それならあまり神にも怒りを買わないし、ちゃんと征服できるのなら怒りを買っても買わなくても意味は無いしね」
うぅ~ん、とフィリアは考え込む。
そのたびに揺れる美しい髪は、まるで計算でもしているのではないかと思える。しかしそれに見惚れてしまっては任務が全うできない。
リエイスはすでに見惚れてしまっているようだが、まあいいだろう。
フィリアは神を信じているので、簡単に決断することはできないと思う。
「私が神を信じるのを知ったうえで、来ているんですよね……」
「ええ、そうよ。貴方の信じる神は―――」
さっきは言えなかった。今は。
「ゼウス様は、この戦闘に参加することは無いでしょ?」
「え、ええ。良く知っているのですね。ゼウス様たち十二神に関しては、私に協力してくれるとは思いますが」
言えた。
フレアルは言葉の封印が解かれたことに、若干の計画性を感じながらも、話を進めていく。フィリアは相変わらず悩んでいる。
レーイティアは口を出そうか出さないか迷っている。
しかし何分か過ぎた後、レーイティアが決心を付けたように姿勢を正した。
「俺はやってみたい」
「レーイティア。これは遊びではないのです」
「聞いてくれ。今言うことはゼウス様たち十二神には関係がないが、俺は一度、天罰を受けたことがある―――」
「そ、そんなの知らなかったですよ……!?」
苦い顔をして、レーイティアは話し始めた。フィリアにすら話したことのない、いわゆる『秘密』の話をゆっくりと口にする。
――――――――――――――――
十三年ほど前、いわゆるガキ大将のようなものであったレーイティアは弱い者を見つけてはいじめていた。その中の一人こそ、彼が天罰を受けることになった原因だ。
レーイティアは強くなりすぎて、いつしか自分と同等に戦える相手を探し始めた。
ある日、レーイティアは自分より三歳も年下の少女にぼこぼこにされてしまった。
『お。お前、何者なんだよ……?』
『私に話しかけないで。早く逃げて。私は、貴方にガキ大将を止めて欲しから《監獄から抜け出した》の。分かったらこれでおしまい。じゃあね』
『おい! ったく―――勝手な奴だな』
自分から話しかけてボコボコにしたあげく、監獄者ときたものだ。それに少女は自分からレーイティアが近づくのを拒んだ。
監獄者とは、何らかの罪を犯した者が入れられる場所だ。
中には主に天罰を貰ってしまった者が多い。天罰をもらったからと言って監獄者になるわけではないが、何故か比較的割合が高いのだ。
―――ある日、監獄者を監禁する監獄が何者かによって破られた。
『うわぁあっ!』
『逃げろっ!』
とある、監禁に不満を持っていた強大な力を持つ者達は、監獄から出て暴れた。少女はしかし、監獄のあった場所で正座していた。
レーイティアはそんな少女を見て、疑問を持った。
『オマエ、何で監禁されてんだよ?』
『お父さんとお母さんを殺したからよ。それで親の神様的なのから天罰を受けたわ。でもここから出たいとは思わないの』
『りょーかい。お前も色々あったんだな』
これはこれで、少女は大丈夫だろうと思っていた。
しかし。
村の者たちが冒険者を雇って、監獄者狩りをはじめた。
『やばくねえのか、お前』
『ううんヤバくないわ。私はきっと死ぬもの。でもあなたの方がやばいわ。貴方は無罪なのよ。早く私から離れなさ……』
『うわ、冒険者来やがった!』
少女と何回も戦いをこなしてきたレーイティアも少女も、冒険者と太刀打ちできるくらいには強くなっていた。
でも冒険者の大群に抗えるほどの強さは持ち合わせていない。
『おーい少年! 早くこっちへ来い! 何をされるかわかんねーぞー!』
『ほら、早く行きなさい』
『こら待て監獄者ぁああああああっ―――――――!』
冒険者に手を引っ張られ後ろに後退し、前からは冒険者が少女をとらえた。レーイティアと少女の手がわずかに届かなかった。
少女は絶望の色を目に宿し、全ての力を振り絞って叫んだ。
『私はイーリア! イーリアと呼びなさい、レーイティアぁああっ!!』
『―――』
『ふん。力づくで叫んで返事すらもらえんか。つくづく哀れな監獄者だよ、はぁーっはっは!!』
冒険者の一人の声は、レーイティアに届くことは無かった。
レーイティアは、絶望していた。
あの時レーイティアとイーリアの間には天罰の雷が落ちて、二人の手を引き離していたのだ。
咄嗟に体ごと引き裂かれる感じを受け、手を引っ込めてしまったのだ。
―――自分はまだ足りない。
日に日に薄くなる痛みを抱えながらも、レーイティアは強くなろうとしている。
神を憎み、ゼウス様を信じ救いを求めることを、生きる目的にして―――
―――――――――――――――――――――
「あれ、ゼウス様ってどんな関係があったの?」
「後から知ったんだ。監獄者をかばった罪は、本当は死罪だってことを。それを和らげられるのは、ゼウス様だけなんだ」
「そうだったんですか。だからあんなにすんなりと……」
痛みだけを伴う罪ならば、隠し通していける。あの後レーイティアはフィリアに連れていかれたが、フィリアは一部始終を見ていない。
ちなみに今レーイティアの『痛み』はまだ少しだけ存在している。
「イーリアの敵討ちをするのもかねて―――俺は協力したい」
「いくらバカ息子でも、うちの息子を悲しませた罪は重いです。それにフレアルさんからのお願いと来たし、簡単なことだけすればいいということなので―――分かりました。私も協力しましょう」
「ありがとう、フィリア!」
人間にそこまでやらせるつもりはない―――きっとルネックスが此処に居たらそう言っていただろうな、とフレアルは予想する。
リエイスは『でれた……!』と感激しているがフレアルには何のことかわからない。
フレアルはとりあえず持ってきたデータを机にちりばめた。
「これが、まあ、計画書ってヤツ? 全部持って行っていいから、作戦練るといいよ。突然来たけど突然帰るね」
「はい、分かりました。嵐のような方なのは昔から知っていますよ」
「む。そうだったんだ、私、嵐みたいな人だったんだね……」
知らなかったのか、とこの場に居たフレアル以外の全員が目を丸くした。一番早くこの場に意識を戻したのはフィリアだ。
次にそこに居た騎士が現実に戻り、フレアルとリエイスに頭を下げる。
「どうぞ」
「うん。ありがとう」
フレアルは小さく礼をして歩き、リエイスはそれに小走りで付いて行く。
門から出ていくフレアルとリエイスを、フィリアは嬉しそうに見つめていた。
レーイティアは思わぬところから迎えた復讐のチャンスに、明らかに目を輝かせていた。
「早く行かないと遅れちゃう!」
「ふぇ!? 急がなくてもルネックス様はもっと遅れますよー、待ってー!」
びゅん、と走り去っていくフレアルとリエイス。
純粋な少女達は、世界の常識を覆そうとする計画を立てていた――――――。 
リエイスの一撃で終わってしまうし、フレアルの相手になどならない。
リエイスは自分の破壊神かのような一撃に興奮していたが、フレアルの攻撃を見て完全に固まったのは余談である。
今二人はフィリアの家の前でフレアルが門番に交渉している。
「レーイティア・ピュスとフィリア・ピュスに会わせなさい。フレアルが来たって言えば分かるわよ……さっさと済ませて」
「あの、フレアル様。聖女家を相手に口調が崩れすぎやしませんか」
「いいのよ、これで。強引な手段に出ないとあのレーイティアは現れないからね」
フレアルも高圧的な態度をとるのには慣れていない。だがレーイティアはたとえ目上の相手に対してでも威圧をかけられないと乱暴は治らない。
リエイスはそれを聞いて納得し、同時にフレアルを哀れんだ。
「ルネックスのためだから、仕方ないよ」
「そうですね。御主人様のためなら……そうですよね―――」
「ふ、フレアルさんが来ただとぉおおおお!?」
リエイスが言葉を繋ごうとしたその時、奥から金髪にものすごい寝ぐせの身なりだけが素晴らしい男性が出てきた。
どうやらあれがレーイティアとみて間違いなさそう。
聖女の息子がこれだとは、きっとレーイティアの姿を知らぬ者は考えつかないだろう。
「そうよ、フレアルさんが来たのよ、ちょっと中に通しなさい」
「お、おう! 皆道を開けやがれ!」
「「「「はっ」」」」
「レーイティア……お行儀が悪いですよ? わたくしどう教えましたっけ……」
「痛い痛い痛いやめろ母さん!」
衛兵が道を開ける中、青い衣装に身を包んだ聖女―――フィリア・ピュスが現れ、レーイティアの耳を掴んで引きずる。
フレアルは慣れているものの、やはり微笑みながら自分の息子を引きずる聖女フィリアに引いてしまう。
ちなみにリエイスはすでに固まっている。
衛兵たちはいつもの情景を見るかのように微笑ましい笑顔だ。
「それではフレアルさん、どうぞ」
「ええ。それにしても、親子仲が変わらないわね……」
「そうなんです、このバカ息子が」
「いでででで、何でまだつかんでんだよ、放せよー!」
仲がいいのか悪いのか分からないが、これは仲がいい親子の喧嘩である。いざとなっての二人の連携ぶりは今の情景を覆す。
フレアルはリエイスにそう説明すると、彼女も理解したようだ。
つまりはツンデレ!
……少し違った角度に理解しているようだが、問題は無いだろう。
「さて」
中に入り、客専用の部屋のソファーに座ると、フィリアから話を切りだされた。
フィリアの横にはレーイティアが申し訳なさそうに座っている。
フレアルとリエイスの前には、メイドが丁寧にお茶を差し出してくれた。
「フレアルさん、久しぶりにここに来ますね」
「うん。そうね。実は今日はお願いがあって来たんだよね」
「あら、そんな時にまた私のバカ息子が……」
「ツンデレ……ツンデレェ……」
またリエイスが小声で暴走しているが、フレアルは苦笑いしながらも放っておく。フィリアは冗談ではなさそうな顔だ。
しかし回復を使う者は隠すのが得意だと言われるのはだてではない。
フレアルから見ればその猫かぶりな笑顔はすぐに嘘だとバレるくらいだ。
「私たちの活動を知ってる?」
「ええ。神界に反乱を起こしたり、とか。いろいろ騒がせていますね」
「ひとつ聞きたいんだけど。それに協力してみる気はない? まあ平和な生活を望んでいるのは私も分かってるよ?」
「協力、ですかぁ……」
「難しいことはしなくていいの。ただ、神界への攻撃によって出る負傷者に治療をしてほしいだけ。それならあまり神にも怒りを買わないし、ちゃんと征服できるのなら怒りを買っても買わなくても意味は無いしね」
うぅ~ん、とフィリアは考え込む。
そのたびに揺れる美しい髪は、まるで計算でもしているのではないかと思える。しかしそれに見惚れてしまっては任務が全うできない。
リエイスはすでに見惚れてしまっているようだが、まあいいだろう。
フィリアは神を信じているので、簡単に決断することはできないと思う。
「私が神を信じるのを知ったうえで、来ているんですよね……」
「ええ、そうよ。貴方の信じる神は―――」
さっきは言えなかった。今は。
「ゼウス様は、この戦闘に参加することは無いでしょ?」
「え、ええ。良く知っているのですね。ゼウス様たち十二神に関しては、私に協力してくれるとは思いますが」
言えた。
フレアルは言葉の封印が解かれたことに、若干の計画性を感じながらも、話を進めていく。フィリアは相変わらず悩んでいる。
レーイティアは口を出そうか出さないか迷っている。
しかし何分か過ぎた後、レーイティアが決心を付けたように姿勢を正した。
「俺はやってみたい」
「レーイティア。これは遊びではないのです」
「聞いてくれ。今言うことはゼウス様たち十二神には関係がないが、俺は一度、天罰を受けたことがある―――」
「そ、そんなの知らなかったですよ……!?」
苦い顔をして、レーイティアは話し始めた。フィリアにすら話したことのない、いわゆる『秘密』の話をゆっくりと口にする。
――――――――――――――――
十三年ほど前、いわゆるガキ大将のようなものであったレーイティアは弱い者を見つけてはいじめていた。その中の一人こそ、彼が天罰を受けることになった原因だ。
レーイティアは強くなりすぎて、いつしか自分と同等に戦える相手を探し始めた。
ある日、レーイティアは自分より三歳も年下の少女にぼこぼこにされてしまった。
『お。お前、何者なんだよ……?』
『私に話しかけないで。早く逃げて。私は、貴方にガキ大将を止めて欲しから《監獄から抜け出した》の。分かったらこれでおしまい。じゃあね』
『おい! ったく―――勝手な奴だな』
自分から話しかけてボコボコにしたあげく、監獄者ときたものだ。それに少女は自分からレーイティアが近づくのを拒んだ。
監獄者とは、何らかの罪を犯した者が入れられる場所だ。
中には主に天罰を貰ってしまった者が多い。天罰をもらったからと言って監獄者になるわけではないが、何故か比較的割合が高いのだ。
―――ある日、監獄者を監禁する監獄が何者かによって破られた。
『うわぁあっ!』
『逃げろっ!』
とある、監禁に不満を持っていた強大な力を持つ者達は、監獄から出て暴れた。少女はしかし、監獄のあった場所で正座していた。
レーイティアはそんな少女を見て、疑問を持った。
『オマエ、何で監禁されてんだよ?』
『お父さんとお母さんを殺したからよ。それで親の神様的なのから天罰を受けたわ。でもここから出たいとは思わないの』
『りょーかい。お前も色々あったんだな』
これはこれで、少女は大丈夫だろうと思っていた。
しかし。
村の者たちが冒険者を雇って、監獄者狩りをはじめた。
『やばくねえのか、お前』
『ううんヤバくないわ。私はきっと死ぬもの。でもあなたの方がやばいわ。貴方は無罪なのよ。早く私から離れなさ……』
『うわ、冒険者来やがった!』
少女と何回も戦いをこなしてきたレーイティアも少女も、冒険者と太刀打ちできるくらいには強くなっていた。
でも冒険者の大群に抗えるほどの強さは持ち合わせていない。
『おーい少年! 早くこっちへ来い! 何をされるかわかんねーぞー!』
『ほら、早く行きなさい』
『こら待て監獄者ぁああああああっ―――――――!』
冒険者に手を引っ張られ後ろに後退し、前からは冒険者が少女をとらえた。レーイティアと少女の手がわずかに届かなかった。
少女は絶望の色を目に宿し、全ての力を振り絞って叫んだ。
『私はイーリア! イーリアと呼びなさい、レーイティアぁああっ!!』
『―――』
『ふん。力づくで叫んで返事すらもらえんか。つくづく哀れな監獄者だよ、はぁーっはっは!!』
冒険者の一人の声は、レーイティアに届くことは無かった。
レーイティアは、絶望していた。
あの時レーイティアとイーリアの間には天罰の雷が落ちて、二人の手を引き離していたのだ。
咄嗟に体ごと引き裂かれる感じを受け、手を引っ込めてしまったのだ。
―――自分はまだ足りない。
日に日に薄くなる痛みを抱えながらも、レーイティアは強くなろうとしている。
神を憎み、ゼウス様を信じ救いを求めることを、生きる目的にして―――
―――――――――――――――――――――
「あれ、ゼウス様ってどんな関係があったの?」
「後から知ったんだ。監獄者をかばった罪は、本当は死罪だってことを。それを和らげられるのは、ゼウス様だけなんだ」
「そうだったんですか。だからあんなにすんなりと……」
痛みだけを伴う罪ならば、隠し通していける。あの後レーイティアはフィリアに連れていかれたが、フィリアは一部始終を見ていない。
ちなみに今レーイティアの『痛み』はまだ少しだけ存在している。
「イーリアの敵討ちをするのもかねて―――俺は協力したい」
「いくらバカ息子でも、うちの息子を悲しませた罪は重いです。それにフレアルさんからのお願いと来たし、簡単なことだけすればいいということなので―――分かりました。私も協力しましょう」
「ありがとう、フィリア!」
人間にそこまでやらせるつもりはない―――きっとルネックスが此処に居たらそう言っていただろうな、とフレアルは予想する。
リエイスは『でれた……!』と感激しているがフレアルには何のことかわからない。
フレアルはとりあえず持ってきたデータを机にちりばめた。
「これが、まあ、計画書ってヤツ? 全部持って行っていいから、作戦練るといいよ。突然来たけど突然帰るね」
「はい、分かりました。嵐のような方なのは昔から知っていますよ」
「む。そうだったんだ、私、嵐みたいな人だったんだね……」
知らなかったのか、とこの場に居たフレアル以外の全員が目を丸くした。一番早くこの場に意識を戻したのはフィリアだ。
次にそこに居た騎士が現実に戻り、フレアルとリエイスに頭を下げる。
「どうぞ」
「うん。ありがとう」
フレアルは小さく礼をして歩き、リエイスはそれに小走りで付いて行く。
門から出ていくフレアルとリエイスを、フィリアは嬉しそうに見つめていた。
レーイティアは思わぬところから迎えた復讐のチャンスに、明らかに目を輝かせていた。
「早く行かないと遅れちゃう!」
「ふぇ!? 急がなくてもルネックス様はもっと遅れますよー、待ってー!」
びゅん、と走り去っていくフレアルとリエイス。
純粋な少女達は、世界の常識を覆そうとする計画を立てていた――――――。 
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