僕のブレスレットの中が最強だったのですが
さんじゅうきゅうかいめ 奴隷育成計画かな?⑤
バッシーン!!
第五グループ―――フレアルのチームの場所から鞭の甲高い音が響いた。
「がはあっ」
「できない、じゃないの! できるでしょ!? やりなさい!」
こちらは見ての通りスパルタである。
奴隷たちの大半は少しいけないものに目覚めており、もう半分は痛み耐性を取得していたり限界を超えることができていたり。
この場合スパルタが重要になるというのは否定できない。
限界を超えさせるためにスパルタ以外の方法を使うのは時間がかかるし下手したら失敗する可能性も上がる。
彼らに限ってあり得ないのだが、人間基準に考えると、だ。
フレアルの鞭が振り下ろされた。
悲鳴の声を漏らした男性はどうやら魔力の動きが鈍かったようで叱られている。
「俺が代わりてえ……」
「クソ、羨ましいじゃねえかあいつ」
目覚めた者達は代わりたいと言っているが彼らに限って魔力操作は良く出来ている。フレアルは能力が低めなので才能がある者達を彼女に担当させている。
スパルタをミックスさせれば覚醒させるのは簡単だった。
「まあ、あとは説明するだけか」
男性が完璧に魔力を操作できたのを見ると、フレアルは微笑んだ。
「できれば、引かないで欲しいんだけどね。ひとつ、今やっていることの目的にもかかわる大切なことを説明したいの」
「何だったとしても付いていきますぜ! あの罵倒を受けるために……」
「あんだと!? 貴様だけずるいな、俺もだぜ姉貴!」
「あ、あはは」
この人たちは本当に奴隷出身なのか、とフレアルは苦笑いを浮かべる。何かに目覚めてしまったのか、この状況に不快感は感じない。
これを何と言ったのか、ルネックスに聞いたような気もするが思い出せない。
ふふ、と笑ってフレアルは計画の全貌を明かす。
それを聞いても奴隷達の態度は変わらないし、罵倒を夢見て『くれている』。
「あれ。私もやっぱり何かに目覚めちゃったのかな? というかいけないもののような気がするんだけど……ま、まあいいよね、いいの、かな?」
「姉貴! 訓練を続けてくだせえ!」
「うん。分かった。覚悟しなさい!! えーぃ!」
「イエーイ! ごっふぅ幸せですぅ!!」
鞭を振り回して目覚めている代表の男性に当てる。喜んでくれているのだから良い、というのがフレアルの見解だ。
しかしどう見ても彼女も何かに目覚めている。
何が、とは言わないし言ったとて彼女もきっと認めたくはないだろう。
「トルネードを発射しなさい」
風属性上級魔術【トルネード】が一斉に上空に向かって放たれる。と共にいくつかの鞭の音が聞こえ嬉しそうに叫ぶ声も混ざる。
トルネードは遠距離に長けているが、近距離ではその長所が表現されない。
「イフリートを召喚しなさい」
火炎召喚属性最上級魔術【イフリート召喚】が一斉に行われる。イフリートはなにも一人だけではない、分身すれば彼女は何人でもいる。
『神が』作り出せばイフリートは何人でも作られる。
しかしそれが神の作るものではなく、自らで作るものだとしたら。
神に頼らず、神の作るものを否定する。
完全なる宣戦布告であり、大罪とも言える行動だ。
「尊敬してなきゃ、意味ないでしょ。ルールを守るのって」
フレアルはもう一度鞭を振り回す。
「氷雪吐息を放出しなさい」
聖水仙氷属性上級魔術【氷雪吐息】が一斉に行われる。広範囲に広がる魔術であるが、遠距離は得意としない。
地面が氷となり、すぐにフレアルがまた普通の地面に戻す。
全属性をマスターし、神にしか扱えない属性も扱わせ、最終的には―――。
「スキルを創りたいか属性を創りたいか、二つに別れなさい」
フレアルがそう言うとしばらくの喧噪。するとその後彼らは速やかに左と右に別れた。恐らく左がスキルで右が属性だ。
属性の方が人が少なかった。
それもそうだろう、作ったスキルを使ってみたいというのはフレアルも同じだ。
「イメージよ、イメージ。スキルの人は属性よりも難しいわ。でも、イメージがあれば両方できるはずよ。思いを込めなさい、出来なかったら……分かる?」
ひゅんひゅん、とフレアルの鞭がまた風を切って音を鳴らす。
「できた人からお願いをひとつ聞いてあげる」
「「「うおあああっ!!!」」」
やった、と叫ぼうとしているのだろうが伝わったのはただの叫びだ。何を願おうとしているのかはフレアルも分かっていることだ。
ただ、『彼らにとっては』これが一番やる気を出しやすいのだ。
「ウォアコラ出ろや!」
「ご褒美!! ご褒美を俺にぃいい!」
「私も! 私も早くやりたいのぉぉ!」
「……先着30名様でーす!」
フレアルが先着を設定するとさらに彼らのやる気が上がる。
「全く。奴隷なのかそうじゃないのか分からないな!」
作られた属性・スキルを全てフレアル一人の目で通すのは難しい。しかし一番いい出来のいくつかなら目に深く焼き付けることができる。
『全部属性』は全ての属性とスキルを内包している属性だ。属性の中でも一番良く出来ていると思う。
『絶対防御』『一刀両断』『衝撃』の三つもいいものだ。絶対防御はいかなる技でもたとえ神が放った技でも絶対に防ぐ。
一刀両断は自分より上の存在でも神でもたとえゼロでも切り裂くことができる。
衝撃は対象を爆破させ完全消滅させる。対象の半径一メートル以内に入っている者たちは皆同じ状況が起きるようにも設定されている。
「うん、満足だよ。私はね」
あとはルネックスがどうするか、ルネックスがどう考えるかで勝敗はすべて決まる。やるべきことは皆やったし全員が限界を超えた。
決めるのはルネックスだ、フレアルは彼にどこまでも従う。
「たとえたどり着く先が、失敗する未来だったとしてもね」
そうつぶやいてフレアルは先着三十名の『ご褒美』を終わらせる。やはりみんなが鞭でやられるのを期待していたようで、フレアルはその期待に応えていた。
そういえば、フレアルは今思い出した。
やられるのを生きがいとする者はどえむとよびやる事を生きがいとする者はどえすと呼ぶのだった。
「てことは私はどえすね」
過去の異世界人が作り出した言葉だが、意外にも馴染んでいないのだ。
「じゃ、解散。私はまだ少し、やる事があるからね」
「うっす!」
フレアルは解散を始める彼らに見向きもせず高台から飛び降りてポケットからある真っ黒な物体を出す。
人によってはそういうだろう。
―――通信機、と。
これはフィリアが彼女に預けた連絡用の通信機だ。
「それにしてもこれ何で通信機って言うんだろ? フィリアは異世界の人に会ったことがあるって言ってけど……それ、かな?」
「フレアル様! お呼びですか?」
異世界に関する言葉を口にしたとき、まるでタイミングを合わせるかのように、ルネックスがフレアルの護衛に任せた奴隷が走ってきた。
それによりフレアルは考えを中断せざるを得なかった。
誰かにまだ世界は操られている、その考えをどうしても揉み消すことができない。
「うん。私の護衛をしてほしいんだけど」
「了解しました、フレアル様。御主人様からの命令なので、全うさせていただきます」
「あ、あはは」
そう、彼女―――リエイスはルネックスのグループの奴隷で、御主人様命だ。どこまでもルネックス派で、彼の話なら何でも聞くのだという。
と、リエイスから説明されたので、知るのは簡単だったのだが。
「ねえ、リエイス? 異世界人って知ってる?」
フィリアの家は家ではなく神殿だ。聖女なので神の味方なのかもしれないが彼女の信仰する神―――全能神は恐らく―――。
先の言葉が出ない。フレアルの思考が強制的に遮断された。
(やっぱり、居る―――!! いる! いる! クッソォ……)
フレアルは奥歯をかみしめて上空を見た。
「異世界人、ですか。会ったことはありませんが、聞いたことならあります。莫大なる力を持ってこの世界を征服した、名前は確か―――テーラ、だったような」
「う、そ……?」
テーラ。その名前に聞き覚えの無い者はいない。童話にされて彼女の英雄伝は多くの子供たちの目標だ。かつてフレアルだって憧れた。
そんな誰もが知る有名人―――大賢者テーラは異世界人なのか。
「異世界人というかですね。異世界そのものというか……すべての世界を操れるんです、彼女は。凄かったんですよ……この世界の人間でもあるんですけどね」
「どの世界の人間でもある……ファイナルヒューマン……」
どこかの文献で確かにその文字を見たことがあった。その意味の詳細を考えようとして、また思考が強制的に遮断される。
まさか、これも関わるのか……?
……
。。。
「まぁーた大胆なことをする」
流れるような銀髪。袖の広い所々に均等ではない青い線が付いた服を着て靴を履いていない少女。長い靴下を履いている。
莫大の引力があるはずの神界より上の上空に彼女は浮いている。
「全くだ。何か禁忌に触れるとかそういうのは考えず、好奇心だけを優先させるとは」
「危なっかしいね。セバスチャン。でもボク達にとっては絶好だよ」
「テーラ」
「分かってるって、無茶なんかしないよ。ボクが死ぬなんて、そんな話は存在するはずがないよ。あっはは。あ、ちょ、冷ややかな目で見ないで」
絶対に無茶をする、という意味で彼女―――大賢者テーラ―――に冷ややかな目を向けた執事服を着こなすセバスチャン。
テーラは手で彼の目を塞ぐと、またそっと手を下ろした。
「ボクの任務が増えそうだよ。ですよね? ゼウス様?」
「……そうだな。フィリアがどんな仕事をしているか期待をしよう」
テーラはルネックスの味方だ。神が直接人間に手は出せなくても、敵対してくる人間には攻撃できる。しかしテーラに戦う意思はない。
そのためテーラの味方であるゼウスは常時狙われている。
その信仰者であるフィリアも一時期神たちに命を狙われていたが、テーラとゼウスとセバスチャンの三人の天才によって止められている。
「もう手を離すはずがない」
手を目にかざすと、テーラの銀髪に向けて風が一筋通り、髪が巻き上がってばさりと広がる。薄い青の入った銀色の目、それが彼女の証。
そして、彼女が守りたいものを刻みつけたその証でもある。
第五グループ―――フレアルのチームの場所から鞭の甲高い音が響いた。
「がはあっ」
「できない、じゃないの! できるでしょ!? やりなさい!」
こちらは見ての通りスパルタである。
奴隷たちの大半は少しいけないものに目覚めており、もう半分は痛み耐性を取得していたり限界を超えることができていたり。
この場合スパルタが重要になるというのは否定できない。
限界を超えさせるためにスパルタ以外の方法を使うのは時間がかかるし下手したら失敗する可能性も上がる。
彼らに限ってあり得ないのだが、人間基準に考えると、だ。
フレアルの鞭が振り下ろされた。
悲鳴の声を漏らした男性はどうやら魔力の動きが鈍かったようで叱られている。
「俺が代わりてえ……」
「クソ、羨ましいじゃねえかあいつ」
目覚めた者達は代わりたいと言っているが彼らに限って魔力操作は良く出来ている。フレアルは能力が低めなので才能がある者達を彼女に担当させている。
スパルタをミックスさせれば覚醒させるのは簡単だった。
「まあ、あとは説明するだけか」
男性が完璧に魔力を操作できたのを見ると、フレアルは微笑んだ。
「できれば、引かないで欲しいんだけどね。ひとつ、今やっていることの目的にもかかわる大切なことを説明したいの」
「何だったとしても付いていきますぜ! あの罵倒を受けるために……」
「あんだと!? 貴様だけずるいな、俺もだぜ姉貴!」
「あ、あはは」
この人たちは本当に奴隷出身なのか、とフレアルは苦笑いを浮かべる。何かに目覚めてしまったのか、この状況に不快感は感じない。
これを何と言ったのか、ルネックスに聞いたような気もするが思い出せない。
ふふ、と笑ってフレアルは計画の全貌を明かす。
それを聞いても奴隷達の態度は変わらないし、罵倒を夢見て『くれている』。
「あれ。私もやっぱり何かに目覚めちゃったのかな? というかいけないもののような気がするんだけど……ま、まあいいよね、いいの、かな?」
「姉貴! 訓練を続けてくだせえ!」
「うん。分かった。覚悟しなさい!! えーぃ!」
「イエーイ! ごっふぅ幸せですぅ!!」
鞭を振り回して目覚めている代表の男性に当てる。喜んでくれているのだから良い、というのがフレアルの見解だ。
しかしどう見ても彼女も何かに目覚めている。
何が、とは言わないし言ったとて彼女もきっと認めたくはないだろう。
「トルネードを発射しなさい」
風属性上級魔術【トルネード】が一斉に上空に向かって放たれる。と共にいくつかの鞭の音が聞こえ嬉しそうに叫ぶ声も混ざる。
トルネードは遠距離に長けているが、近距離ではその長所が表現されない。
「イフリートを召喚しなさい」
火炎召喚属性最上級魔術【イフリート召喚】が一斉に行われる。イフリートはなにも一人だけではない、分身すれば彼女は何人でもいる。
『神が』作り出せばイフリートは何人でも作られる。
しかしそれが神の作るものではなく、自らで作るものだとしたら。
神に頼らず、神の作るものを否定する。
完全なる宣戦布告であり、大罪とも言える行動だ。
「尊敬してなきゃ、意味ないでしょ。ルールを守るのって」
フレアルはもう一度鞭を振り回す。
「氷雪吐息を放出しなさい」
聖水仙氷属性上級魔術【氷雪吐息】が一斉に行われる。広範囲に広がる魔術であるが、遠距離は得意としない。
地面が氷となり、すぐにフレアルがまた普通の地面に戻す。
全属性をマスターし、神にしか扱えない属性も扱わせ、最終的には―――。
「スキルを創りたいか属性を創りたいか、二つに別れなさい」
フレアルがそう言うとしばらくの喧噪。するとその後彼らは速やかに左と右に別れた。恐らく左がスキルで右が属性だ。
属性の方が人が少なかった。
それもそうだろう、作ったスキルを使ってみたいというのはフレアルも同じだ。
「イメージよ、イメージ。スキルの人は属性よりも難しいわ。でも、イメージがあれば両方できるはずよ。思いを込めなさい、出来なかったら……分かる?」
ひゅんひゅん、とフレアルの鞭がまた風を切って音を鳴らす。
「できた人からお願いをひとつ聞いてあげる」
「「「うおあああっ!!!」」」
やった、と叫ぼうとしているのだろうが伝わったのはただの叫びだ。何を願おうとしているのかはフレアルも分かっていることだ。
ただ、『彼らにとっては』これが一番やる気を出しやすいのだ。
「ウォアコラ出ろや!」
「ご褒美!! ご褒美を俺にぃいい!」
「私も! 私も早くやりたいのぉぉ!」
「……先着30名様でーす!」
フレアルが先着を設定するとさらに彼らのやる気が上がる。
「全く。奴隷なのかそうじゃないのか分からないな!」
作られた属性・スキルを全てフレアル一人の目で通すのは難しい。しかし一番いい出来のいくつかなら目に深く焼き付けることができる。
『全部属性』は全ての属性とスキルを内包している属性だ。属性の中でも一番良く出来ていると思う。
『絶対防御』『一刀両断』『衝撃』の三つもいいものだ。絶対防御はいかなる技でもたとえ神が放った技でも絶対に防ぐ。
一刀両断は自分より上の存在でも神でもたとえゼロでも切り裂くことができる。
衝撃は対象を爆破させ完全消滅させる。対象の半径一メートル以内に入っている者たちは皆同じ状況が起きるようにも設定されている。
「うん、満足だよ。私はね」
あとはルネックスがどうするか、ルネックスがどう考えるかで勝敗はすべて決まる。やるべきことは皆やったし全員が限界を超えた。
決めるのはルネックスだ、フレアルは彼にどこまでも従う。
「たとえたどり着く先が、失敗する未来だったとしてもね」
そうつぶやいてフレアルは先着三十名の『ご褒美』を終わらせる。やはりみんなが鞭でやられるのを期待していたようで、フレアルはその期待に応えていた。
そういえば、フレアルは今思い出した。
やられるのを生きがいとする者はどえむとよびやる事を生きがいとする者はどえすと呼ぶのだった。
「てことは私はどえすね」
過去の異世界人が作り出した言葉だが、意外にも馴染んでいないのだ。
「じゃ、解散。私はまだ少し、やる事があるからね」
「うっす!」
フレアルは解散を始める彼らに見向きもせず高台から飛び降りてポケットからある真っ黒な物体を出す。
人によってはそういうだろう。
―――通信機、と。
これはフィリアが彼女に預けた連絡用の通信機だ。
「それにしてもこれ何で通信機って言うんだろ? フィリアは異世界の人に会ったことがあるって言ってけど……それ、かな?」
「フレアル様! お呼びですか?」
異世界に関する言葉を口にしたとき、まるでタイミングを合わせるかのように、ルネックスがフレアルの護衛に任せた奴隷が走ってきた。
それによりフレアルは考えを中断せざるを得なかった。
誰かにまだ世界は操られている、その考えをどうしても揉み消すことができない。
「うん。私の護衛をしてほしいんだけど」
「了解しました、フレアル様。御主人様からの命令なので、全うさせていただきます」
「あ、あはは」
そう、彼女―――リエイスはルネックスのグループの奴隷で、御主人様命だ。どこまでもルネックス派で、彼の話なら何でも聞くのだという。
と、リエイスから説明されたので、知るのは簡単だったのだが。
「ねえ、リエイス? 異世界人って知ってる?」
フィリアの家は家ではなく神殿だ。聖女なので神の味方なのかもしれないが彼女の信仰する神―――全能神は恐らく―――。
先の言葉が出ない。フレアルの思考が強制的に遮断された。
(やっぱり、居る―――!! いる! いる! クッソォ……)
フレアルは奥歯をかみしめて上空を見た。
「異世界人、ですか。会ったことはありませんが、聞いたことならあります。莫大なる力を持ってこの世界を征服した、名前は確か―――テーラ、だったような」
「う、そ……?」
テーラ。その名前に聞き覚えの無い者はいない。童話にされて彼女の英雄伝は多くの子供たちの目標だ。かつてフレアルだって憧れた。
そんな誰もが知る有名人―――大賢者テーラは異世界人なのか。
「異世界人というかですね。異世界そのものというか……すべての世界を操れるんです、彼女は。凄かったんですよ……この世界の人間でもあるんですけどね」
「どの世界の人間でもある……ファイナルヒューマン……」
どこかの文献で確かにその文字を見たことがあった。その意味の詳細を考えようとして、また思考が強制的に遮断される。
まさか、これも関わるのか……?
……
。。。
「まぁーた大胆なことをする」
流れるような銀髪。袖の広い所々に均等ではない青い線が付いた服を着て靴を履いていない少女。長い靴下を履いている。
莫大の引力があるはずの神界より上の上空に彼女は浮いている。
「全くだ。何か禁忌に触れるとかそういうのは考えず、好奇心だけを優先させるとは」
「危なっかしいね。セバスチャン。でもボク達にとっては絶好だよ」
「テーラ」
「分かってるって、無茶なんかしないよ。ボクが死ぬなんて、そんな話は存在するはずがないよ。あっはは。あ、ちょ、冷ややかな目で見ないで」
絶対に無茶をする、という意味で彼女―――大賢者テーラ―――に冷ややかな目を向けた執事服を着こなすセバスチャン。
テーラは手で彼の目を塞ぐと、またそっと手を下ろした。
「ボクの任務が増えそうだよ。ですよね? ゼウス様?」
「……そうだな。フィリアがどんな仕事をしているか期待をしよう」
テーラはルネックスの味方だ。神が直接人間に手は出せなくても、敵対してくる人間には攻撃できる。しかしテーラに戦う意思はない。
そのためテーラの味方であるゼウスは常時狙われている。
その信仰者であるフィリアも一時期神たちに命を狙われていたが、テーラとゼウスとセバスチャンの三人の天才によって止められている。
「もう手を離すはずがない」
手を目にかざすと、テーラの銀髪に向けて風が一筋通り、髪が巻き上がってばさりと広がる。薄い青の入った銀色の目、それが彼女の証。
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