僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

さんじゅうさんかいめ フェンラリアと一同の怒りかな?

―――その頃、コレムはルネックスにサプライズをしようと国に奴隷廃止命令を下した。奴隷商人たちで仕事がなくなってしまった者達には新しい仕事に就かせた。
 闇で奴隷商人をやっていた者達はしばらく調教・・してある程度の常識を身につけてから外に出すことになった。

 その裏で、その前に、それと同時に―――。
 全く喜べない事実が起きていたなんて、彼らは知らなかったのだった―――。

「ディステシアさま、どうして……? どうしてディステシアさまはしょけいされたの? どうしてかみたちはとめなかったの? どうして―――?」

「―――フェンラリア。その答えはただ単に神界が残忍なだけ……僕の分析によると聖神が動き出して彼らは聖神のことを信じてしまったということだと思う」

 震える声でルネックスの腕の中ですすり泣くフェンラリアを、ルネックスはその髪を撫でながらモニター画面が消えていった上空をただ眺めていた。
 シェリアは上空をにらみ、リーシャは心配そうにフェンラリアを見つめる。リンネは奥歯をかみしめ、カレンは無言無表情だがこぶしを握り締めている。フレアルは「くそっ」と叫び続けシェリアと同じように上空をにらみつけた。

 恐らく皆考えていることは同じ。
 しかし今のルネックスに彼女たちに考えを実現させてあげることはできない。

「前まで何で神にそうこだわるのか分からなかったぁ、でもぉこれで神々への恨みはぁ私も持ってるってことでぇ、お手伝いしなくちゃなぁ……」

 リンネは器用に目だけが笑っていない表情でそう語った。

【聖魔術耐性・極LV20、聖空間耐性・極LV20を取得しました】

 部屋に響いた彼女の、彼女たちのスキル獲得の音でルネックスもリンネの決意は伝わっている。しかしできないのだ。そのお手伝いの方法が。
 彼女たちのやりたいと思っていることが、今はできないのだ。
―――できるようになるための、能力がないのだ―――。

 ルネックスは上空を見るのを止め、そっと目を閉じて奥歯をかみしめる。こんな時にできないできない言っていてしかもそれが現状だということが悔しかった。

「聖魔術、聖空間が駄目な人たち……全員耐性取った……だからもう一回……神界、行く……? わたし……もう我慢できない……よ……?」

「私もそう思います! こんな時に何もしないでただ黙っていたら負けているのと一緒です。私もカレンさんに賛同します」

「勿論私も! 神界にはどでかい恨みが出来ちゃったからね。フェンラリアを泣かしたその時点で私はお前らを許さーん!!」

 カレンの言葉。シェリアの意気込み。フレアルの決意。そしてそれ以外の皆の視線。余計その希望を崩すことになる一言を言いにくいルネックス。
 一言、たった一言だけで言いたいことは終わる。しかし。

「―――神界には、行けない」

 自分で言った言葉を自分で咀嚼するように口を丁寧に動かして話したルネックス。それを聞いたフェンラリア達は思ってもいない返答に唖然とした。
 意味をまだ理解できていないのだろう。

 ルネックスは説明が足りなかった、と言って言葉を付け足す。

「力が足りないんだよ。前に戦ったことのある人なら知ってるけど、いまの僕でも聖神の足元にすら及ばない。君達が行ったとして勝てると思う?」

 シェリア達は顔を見合わせてルネックスの言葉を咀嚼する。
 フェンラリアは納得したようで、ルネックスを見つめている。

「なら、どうしたらいいの?」

 フェンラリアの口から出た抑揚のない声は冷たく、まるで別人のようだった。フェンラリアの中から何かが抜けたように見えた。
 シェリア達は驚いているが、ルネックスはそれを受けとめる。

 どうしたらいいの、と聞かれることはルネックスも想定内だったのだ。

「魔界に僕が行くよ。鬼族の居る場所も魔界だろうけど次元の離れた空間だから僕にはわからない。そこにはシェリアが行ってほしい」

「分かりました」

「魔女界にはリンネが行ってほしい。その際にリーシャも一緒に行ってもらうともっといいね。そして竜界も……僕が頼みに行くよ」

「うん、りょうかぁい!」

「分かりました―――ました! 頑張ります―――ます!」

「りあすさまがいるんだっけ、るねっくすならできるよ、がんばって」

 もしも神界が攻めてくるのなら。ありえないかもしれないがそんな場合もルネックスは考えていた。こんな形でその案を使うことになるとは思わなかったが。
 気のせいかフェンラリアも微笑んでいると思えた。

 リンネやシェリア、リーシャが元気の良い返事をする。

「あ、ねえルネックス。私はまた留守番なの?」

「わたしも……協力……したい……待ってなんて……いられない……」

「そうか……まずフェンラリアは精霊界を任せたよ。そのほかでも味方に出来る信頼できる人たちは遠慮なく誘って。カレンは僕と一緒に」

 こくん、とカレンが頷き、フェンラリアはグッドサインをルネックスに向ける。冷めていたフェンラリアの顔も今では明るくなっている。
 ただ、ルネックスとしてもフレアルを危ない所に行かせるのはやめたかった。

 元々村長の所から連れ出してしまったのは無理を言っていたため。できれば傷つけたくないし、都会的に言うと国王の孫のようなものだ。
 そんなものを危ない戦場に連れ出すわけには行かない。

「私、ある貴族を倒して手なずけたの。結構前の話、私から勝負を仕掛けたんだけどね。ただイケメンが憎かったからって理由で」

「ん? フレアルずいぶん荒れてたのかな?」

「まあね。それで彼はそれから私の犬みたいになっちゃったんだよね。私のお願いならきっと聞くと思うから……」

「でもこの計画は機密計画……話しちゃっていいの?」

「話しても問題ないと思うよ、聖女様フィリア・ピュスの次男だからね」

 フィリアはアルティディアでも有名なとても優しく美しく強い聖女だ。その功績を称えられ、爵位を貰ったというのは有名な話だ。
 そんなフィリアの次男もイケメンで剣の才能があった。

 レーイティア・ピュス。
 そんな彼を倒したというフレアル。どうやって倒したのかは謎だが、聖女の家系ならば神界に行くのも難しくはなさそうだ。
 それにフィリアは今でも生きていてピュス家当主は彼女だ。
 こうすると当主とは言わなくなるのだが……夫はいるがいないことになっている。なぜならドラゴンハンターであちこちを飛び回っているため貴族のように色々管理するようなことができないのだ。

「フィリアさんにもお願いしなきゃダメなんじゃないの?」

「大丈夫。私はフィリアの友達でもあるから」

 フレアルが一瞬怖くなってしまったのは責められないだろう。自分からここまで進んで出てきたのだし、行くところはそこまで危険な所でもない。
 ルネックスはハァ、とため息をつき、フレアルを指さした。

「なら、フレアルにも行かせるよ。ただ絶対無茶はしちゃだめ。良かったら奴隷の中から護衛でもつけようか迷ってるところだよ」

「護衛かぁ、私は別に要らないと思うけど……やっぱり不安だからつけたいかも。一人じゃちょっと寂しいしね」

 てへ、と可愛く舌を出したフレアル。
 こういう寂しがり屋な所があって萌えるな、とルネックスは思っていたりなかったり。

「僕らは先に奴隷の訓練をさせなければならないけど、フェンラリアの場合急ぎたいよね。じゃあこうしよう。僕らが奴隷の訓練をしている間にフェンラリアは精霊界に交渉しに行って」

「あたしがさきに行っていいの?」

「勿論。フェンラリアが来てからシェリアと合流して。大精霊が一緒に交渉するだけでもずいぶん違うと思うから」

「うん!」

 黙って聞いていたフェンラリアに話題を振ると、彼女は嬉しそうに返事をした。ディステシアに深い恩があるフェンラリアには先に計画を完成させてもらった方がいいだろう。
 フレアルのことは想定外だったが、全員成功する前提で考えると神界攻略も難しく無いように思えるが。

「なんでだろう、何か胸騒ぎがするよ。どうもこう簡単には行かないような感じがする。ブレスレットも最近使わないし……」

「アカシックレコード」

「え?」

「記憶分析、アカシックレコード。これはね、もうひとつみらいをみるっていう力もあるすきるなんだよ! そこまでたくさん見れないけど力になるんじゃないのかな」

 フェンラリアに言われた通りブレスレットの力を借りて記憶分析アカシックレコードを進化させてスキルを発動させた。
 脳裏にロゼス達が映り、映像は消えていった。

 そして聖神が映り、また映像は消えていく。

「またロゼス達が一枚噛んでるみたい……」

「あんの……ロゼスめ! どこまでもどこまでもぉ!!」

「しかも僕より強くなってる」

「ルネックスより……? わからない……それ以前に……許せない……」

 フレアルは拳を握り締めて呻き、ルネックスは冷静と話しながらも冷汗が額から流れている。カレンは無表情だがやはり奥歯をかみしめているのがわかる。
 他の者達も面を見合わせて不安そうにしている。

「それじゃあ奴隷たちは五つのグループに分けてあるから僕は一人で、カレンとリーシャが二人で、リンネが一人で、フレアルが一人で、シェリアが一人でひとつずつグループを担当してくれる?」

「ん、了解……」

「分かった!」

「分かりました!」

「了解です――です!」

「分かったよぉ」

「じゃああたしはもう精霊界にいくね! ―――【転移】!!」

 それぞれ返事をして、フェンラリアも精霊界に転移した。
 担当グループの名簿を担当する人に渡して、ルネックスは自分の名簿を握り締める。

 絶対にあきらめるわけには行かないし、絶対に負けるわけにもいかない。

 奴隷たちには街の広場に集合させてある。
 勿論広場は五つあり、各グループひとつの広場に集うように言ってある。

「行くよ。―――みんな」

 振り返ってすべてが決まったとでも言うように微笑んだルネックスに皆は頷くという方法で応じた。ルネックスは満足そうに広場へと踵を返す。
 その後ろから彼の仲間たちが付いて行く。

―――ああこの世界の終わりと始まりはいつ迎えられるのだろう。


 人形を抱いたピンク色のツインテールの少女。フリルのピンクのドレスを着てピンク一色のベッドの上で熊の人形をいじっている。

『さてこのワタシはどうすればいいんですの……?』

 ふふ、と笑った彼女にクマの人形は答えた。

―――この世界の始まりと終わりは我々の手に握られている。

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