僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

にじゅうななかいめ ルネックスの怒りかな?

 気を引き締めていないと凍てついてしまうかのような冷気を持つ雲。
 周りには真っ赤な業火を纏わせた鎖が交互に舞い続ける。
 魔術の初心者ならばこの場に来ただけでショック死するかのような圧力。
 見渡せば触れることができないはずの雲にはひびが入っている。業火の鎖も、凍てつくような雲も全て一点をめがけて放射されていた。

 中心には、少年が一人と少女が二人。雑魚を見るような目で「彼ら」の攻撃をさばいていく。
 何故彼が敵対されているのか、それは彼が侵入者だからだ。この場所は人間が勝手に入っていい場所ではないからでもある。

「きゃああ!?」

「うわぁ!!」

「なんてやつだ、ば、化けもんじゃねぇか!?」

「るねっくす、むこうに!」

「フェンラリア、死角を狙って!」

 勇者、勇者副代表、賢者、大賢者。
 下から難しくなっているが、この範囲は人間でも目指すことのできる範囲。人間では目指せない範囲は簡単なものから「竜、天使、精霊、虚無精霊、女神、神、聖神、大聖神、創造神クリエイトマスター創造全能神クリエイトエンジェルマスター」となる。

 そして女神から上の者達が住む場所、此処は神界である。

 フェンラリアとルネックス、カレンとリーシャは朝早くからディステシアに頼み込んで神界に送り込んでもらった。その際意外にもディステシアは二つ返事で承諾した。

 カレンとリーシャは向かってくる神たちの足止めをしていて、ルネックスとフェンラリアは聖神の居るはずの方向へ向かっている。そこで止められるのもまあおかしくはない。
 神は多い、どれだけいてもおかしくはない。しかしそれも押し通る。
 何段階も上のはずの神という座を、力任せに押し通す。

 ルネックス・アレキ
 レベル:56
 魔力:3000
 体力:8500
 運:8500
 属性「水、風、火、土、闇、光、???」半覚醒
 称号「魔物殺戮者、紳士、神を超える者、???」半覚醒
 スキル「魔眼LV62、射線LV48、ステータス偽造LV12、気配消しlv73、聖神召喚LV1、記憶分析アカシックレコードLV5、ステータス鑑定LV30、アイテムボックスLV2、封印LV15、感情斬りLV3、呪いLV55、業火の鎖LV12、スキル取得LV52、治癒魔術LV6、聖光LV20、混沌の黒道LV1、黒煙LV5、???、???、???」半覚醒

 現在のルネックスのステータスはこうなっている。
 最近鑑定していなかったが、結構強くなっているし色々と増えている。

「神様! 貴方達、邪魔なんですッ! 【魔眼LV62】【スキル取得LV30】」

 ルネックスの魔眼が次々に向かってくる神たちを貫いていく。大罪なのは知っている。しかし聖神という一応でも神を敵に回した分、神界も敵だということは理解している。
 聖神派が最近増えているというのもその理由のひとつだ。

 スキル取得、とは対象のスキルをひとつだけ奪い取るというレアスキルだ。全て奪うというスキルももちろんブレスレットにあるのだが、今彼はブレスレットに頼りたくはなかった。

「るねっくすをくるわせたぶん―――!! 【精霊魔術LVXXXXXXXXX】

 まとわりつく緑の蔦は木の精霊の証。業火の火は火の精霊の証。全てを包む形のない洪水は水の精霊の証。切り裂く風の刃は風の精霊の証。聖なる槍は光の精霊の証。混沌の闇は闇の精霊の証。
 そのすべての魔術を一気に放出することができ、そしてそのレベルはカンスト。

 その威力。そのスペック。その均等な魔力。

 それが大精霊の怒りの本気で、それは全てを破壊し尽くすかのように飛ばされる。

 フェンラリアは自分が聖神に敵わないのは知っている。ならばそれと関係のある神界に八つ当たりしようと思ったのだ。理不尽なのは分かっている、それを聞いた者達がどういう目を向けて来るかもわかっている。
 しかし、彼女は神界を許すことはできなかった。

「ぱぱ……! 終わ、らせて、きました―――ました!!」

「全部……倒して……き……きたよ……」

「カレン、リーシャ! 大丈夫!? 【治癒魔術LV6】」

「はあっ! ……かれん、りーしゃ!」

 カレンとリーシャの実力はルネックスもフェンラリアも皆に追いついていて、追い越しているという評価を出している。
 二人合わせたらもしかしたらルネックスに追いつくのではないかというくらいだ。
 しかし、人間では耐えられない地域に踏み込んだというのも事実。
 伝説という使命を背負った、そして光属性を持っているルネックスと大精霊であるフェンラリアはともかく、彼女たちはこの威圧を全て耐えきれる体までにはなっていない。

 しかしカレン達は自分達に任せられた仕事を終えて、死なずに無事帰ってきた。

 カレンは肩に深い傷が刻まれ、太ももには痛々しく剣が刺さっていて貫かれている。リーシャは細かく深い傷が数えきれないほどにあり、腹にレイピアが刺さっている。
 何故天界なのにそのような武器が使われているのかは未だ分からない。

「大丈夫……でも……リーシャを……完全には……守れなかった……」

「うん、今はいいから、治療をしなきゃ」

「こっちはあたしがひきうけたから、いまはちりょうにせんねんして!」

 カレンは立っているのも億劫で、ルネックスが駆け寄って治療魔術をかけるとふらりと倒れこんだ。彼女は自力で刺さっている剣を抜いて謝罪の言葉を口にする。
 リーシャは首を振って、ルネックスは治療を続ける。レベルが足りなくて傷が完全に塞がらないのだ。

『レベルが7になりました、レベルが8になりました、レベルが9に……』

 レベルが上がっていく音を、今は無視する。
 しばらくして二人の治療が八割ほど終わった所で、フェンラリアが吹き飛ばされた。

 最初ルネックスも特別神界の敵になりたいわけではなかった。ただ聖神を探して、問い詰めて、何なら倒して知らしめてやりたかった。
 しかしこの一撃で、ルネックスだけではなくカレン達も神界を敵に回すことを決めた。

「フェンラリア、ここからは僕が行くよ。休んでいて……」

「で、でも、るねっくす……」

「いいから、休んでいてね。すぐに終わらせる」

 表情が、見えなかった。ルネックスの表情は影になっていて、見えなかった。
 フェンラリアは唇をかみしめて神たちの中心部に突っ込むルネックスの背中を見つめた。

「あああああああ!! 【大精霊魔力・極】!! うああああああああぁ!!」

 聞いたこともないフェンラリアの必死の叫びにルネックスが驚いて後ろを見つめた。
 手のひらサイズの少女が放出したとは思えないほどの魔力の量。明らかな攻撃がルネックスの居る範囲だけをくり抜いて放出される。
 しばらくして立っていたのは上位の神三人だけだった。

「ふふふ……君、やるねぇ、でも所詮人間なのを自覚なさい?」

「超えれるもんなら、僕はなんだって超えるさ、人間なんて範囲、超えてやるさあああ!!」

「甘い」

 ルネックスの意味をなさない、フェンラリアと同じように全魔力を放出して真ん中の一人の神に打ち込んだ。しかし人間は人間。片手で彼の全魔力を受けとめられて投げ返された。そしてそのまま何十メートルもダメージを受けながら転がっていく。

「大罪だということも、自覚なさい。【極熱……】」

『【術式封印】……ルネックス、立ち上がって! 全てを超えたいと言ったあなたならできるよ! ボクをも超えられる、全部超えられる、たとえ今じゃなくても!!! あ、ちょ』

 上から降りかかってきた声と詠唱はまるで何でもないかのように神の詠唱を強制的に解除し、ルネックスに助言をする。ただし最後の辺りには突っ込んではいけない。
 渾身の術式を解除された神は悔しそうに声が降りかかってきた方を見つめた。

 ルネックスは、立ち上がる。
 魔力も空っけつで、身体的にも精神的にも通常人ではありえないほどのダメージを受けている。それでも彼は立ち上がる。全てを超えるために。

――――――大賢者をも、超えるために。

「僕を……なめるな……いつか……いつかぁ……」

「ふん、人間風情がぁ!! 【神槌雷】」

 ビシィ。
 空気が一瞬で張りつめられた。後ろに居た二人の神もやや苦しそうにしている。

 ルネックスは降ってきた雷に抗うこともできずに受けてしまう。カレン達も同様に。この雷はダメージを与えると共に対象を下界に落とす役目を持っている。
 渾身の術式を解除されたためにこの詠唱をする魔力しか残っていなかったのだ。

 そして、四人の姿は消え去っていったのだった。








「ルネックス!? だ、大丈夫なの! 今すぐ治療をかけるから【治療魔術LV12】」

「フレ……アル……そのスキル……持ってたんだね」

 転移した先はベッドの上だった。乱暴に放り投げられ、ルネックスは一度血を吐く。雷を受けたときにカレン達は守ろうとその身を挺してほとんどのダメージを一人で受けたためだ。
 治療魔術は治癒魔術の劣化版だが、レベルを上げればそのスペックは劣らない。

 ルネックス以外の者たちは身体強化をしてベッドの衝撃を和らげた。
 そして涙を流してルネックスの名前を連呼している。

(僕が……負けた……そっか……忘れていたんだ……僕だって万能じゃない……僕は人間だ……出来ることとできないことがある……突っ走ってしまったことに違いはない……しかも……僕は大切な仲間までもを巻き込んだんだ……)

 暖かく体を包む治療魔術に身を任せてルネックスは目を閉じる。

「あの時……声が聞こえた……ルネックスを……応援してた……」

「リーシャも聞こえました―――ました!! 大賢者っぽい声です―――です!」

「うぅーん。思うんだけどさ「っぽい」じゃなくて本当に大賢者なんじゃない?」

「あたしは、だいけんじゃさまだと、おもうよ。あの、おっちょこちょいなこえ」

「ふぇ、フェンラリアさん、知ってるんですか?」

「うん。むかしに、あったことが、あってね……」

 神界での戦いはさすがの大精霊フェンラリアでも息が切れている。あの時ルネックスを応援してくれていた声が大賢者ならば、彼女が神界に居るという噂は間違っていないということだ。
 そして彼女がルネックスを応援・・してくれていたのならば。

 ふふ、とルネックスは傷だらけの体で微笑んだ。その傷も瞬く間に消えていく。

「もう無茶は止めるよ……もっと力を付けてからにする」

「力をつけても無茶はだめだよぉ?」

『ご主人様。その通りです。今回あたちは役に立てませんでしたが無茶は禁物です』

 今回、強いけれどもダンジョンのコアであるアーナーは神界の威圧に耐えるだけで精一杯、ルネックス達のように攻撃や、ナビをしたリということをしている場合ではなかった。
 最もそれが人間の限界で、ルネックス達が異常だと言っても良かった。

「まあ……そうだね。無茶は止めるよ」

 神界に殴り込むのは、もう少し高レベルな仲間をつけてからにすることにした。

 今は、しっかり休んで明日コレムの部屋に行く準備に専念する。
 ちなみにコレムの部屋についてはシェリアがハーライトから話を貰ったそうだ。

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