僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

にじゅうよんかいめ 魔物大殺戮かな?

 ブッシャァ……。
 ゴキッ……。バキッ、グシャッ。

 鈍い音、残酷な音、つぶれる音、刺される音、血が飛び散る音……。
 様々な音がする中で、その音を作り出している人物達はさほど動じてはいないようだ。血の中に佇んでその象徴である鬼の角を光らせている少女は、たまに手で服をぬぐうだけ。
 魔物を押しつぶしたり、スキルで対処してそれほど返り血が飛んでいなく、戦い方が防守的な少年は真顔でたまに顔を引きつらせていた。
 圧倒的な力で聖なる光を飛ばしている小さな精霊の少女は、大面積で魔物を屠っていき、その白いワンピースも今では真っ赤に染まっている。その表情は笑っていた。

「そろそろいいー? あたしもっとおくにすすみたいんだけどー」

「うん、そうだね。全部殺しちゃうと冒険者達が困っちゃうよね」

『ご主人様。この先少し深い所に入っても敵う魔物はいません、ご遠慮なく』

「少々私も殺し疲れました、歩きながら休憩したいですね」

 向かってくる魔物を容赦なく叩きつけて少年に向かって話しているのはアルティディアなら誰でも知っているご存知大精霊フェンラリア。それの主であり慕われている少年、ルネックス。
 スライムダンジョンのコアでもあり、今ではルネックスのナビとなっている恐らく少女、アーナーが分析をする。それに意見を出したのはルネックスの最初である人間の仲間であり、鬼族の少女であるシェリア。

 そろそろ森の今いるあたりの場所の魔物は結構減らすことができただろう。

 今は恐らく八時あたり。七時に王城を出て、今の所一時間は戦っている。今戦っている場所は冒険者Cランクまでが入ることを許されている場所。
 一時間もそんな簡単な場所で戦ったのだから、そろそろもっと入ってもいいだろう。

 勿論簡単だと言えるのはルネックス達だからこそである。

 ちなみにカレンを送り出してからここに来たため、カレンは今恐らく二度目の水配りをしているのだろう。相変わらずやり方は想像もつかないのだが。

「深く行って帰ってこられなかったらっていう想像しちゃった」

「ルネックスさん……私たちの実力で帰られないわけがないですよ」

「それでもあたしのきょうりょくがなきゃなんじかんもかかるけど?」

「「すみませんでしたッ」」

 何かとツッコミどころのある掛け合いをしながら、三人(アーナーを入れて四人)は森の深部へと着実に足を進めていた。迷いはない。この程度で迷っていたら、ラグナログどころではない。

 今歩いている場所は、冒険者ランクCランク以上の者しか入れない場所だ。
 ルネックス達はDランクだが、今回はコレムの命令のため許可をもらっている。実際は命令ではなくルネックス達で考え出し、お願いした結果なのだが。

『ご安心くださいご主人様。あたちには転移機能もありますので、大精霊様の転移スキルが万が一なくなってもご心配なさる必要はございません』

「あーなーすごいね! でもあんしんして、なくなったりしないから!」

「フェンラリアの転移スキルが無くなるほどの事態が起こったとしたら僕は逃げたくなるだろうね……少なくとも今の強さの僕じゃ、逃げたいよ」

「ルネックスさんが逃げるのでしたら私も逃げますね……ルネックスさんに敵う人物が現れたのなら私は時間稼ぎくらいしかできないでしょうね」

 なぜネガティブな話題になっているのかは、誰にもわからない。
 深部に入ってきてから追いかけてくる魔物もいなくなった。

 そして、強力な魔力が漂っている。これならばCランク以下の者は立っていられないだろう。
 Cランク以上の設定にした理由も考えつく。

「それにしてもこの密度……ちょっと強力な魔物でもいるのかな?」

『このくらいの深さではご主人様に敵う敵などありませんが、これはもう少し深い所の魔物が来た……或いは逃げてきた、と考えられますね』

「にげてきたのならやっかいだよね。それよりつよいのがいるってことだから」

『大量発生の理由にもつながるのではないでしょうか。この先に居るのが強力なま物だとしたら……測ってみましたが、その強さは未知数です。上回る可能性も……低くはありません』

「うわぁ……」

「ルネックスさん、いざという時に逃げる準備もしておきましょう!」

 自分の能力を想像のつく限りまで変えることができる能力というのはフェンラリアも聞いたことがある。しかもそれは人間界の中に限定するならば魔物しか持つことが許されていない。
 神界に行けば、もしくは持っている人がいるかもしれない。

 想像力は此処に居る皆そこまでではない。
 そのため万が一のためにフェンラリアが転移魔術の準備をしておいている。そして万が一のためにアーナーも準備をしている。

「こ、これで準備万端? かな」

「私にもわかりませんが……準備万端……って! ファイナルオーガ!?」

 オーガ。
 全身が真っ青でとにかく大きいという魔物。物理攻撃に優れており、同じ属性であるスライムの比べ物にもならない強力な体を持っている。
 そしてファイナルオーガ。
 魔術属性、人間のようなステータスを持っていて、スキルも持っている。いわゆる人間の魔物……魔人の人間化していないバージョンだ。

「これはてこずるかもねー『しぇりあだったら』だけど」

「む、私でも殺せますよ、一撃とはいきませんけどね?」

「じゃあシェリアの訓練のためにシェリアに行ってもらおうかな?」

「了解しました!」

 ファイナルオーガ三体。
 他の二体はフェンラリアが引き受け、ルネックスとアーナーは引き続きこの先の調査を続ける。

 シェリアが真ん中のファイナルオーガ目がけて目に留まらぬ速さで駆け抜けていく。
 勿論、相手がルネックスだとしたらその動作は止まっているようにしか見えない。

 最初に彼女が使ったのは動作不能眼。しかしさすがはファイナルオーガというもので、少しは動けるようだ。そしてその強靭な体を使って撃たれる魔術を耐えている。
 そして避けられる攻撃はそのまま避けてしまっている。

「はぁぁぁああああっ!! 【鬼の角LV5】……はっ!」

 シェリアの鬼の角がもっと長くなり、青色の光に包まれた。そこから見えない風を使ったシェリアにしか見えない刃がファイナルオーガに迫る。

「できればこの方法は使いたくありませんでしたけれどね」

 何百本、何千本の風の刃に切り刻まれたファイナルオーガはもはやその原型すらも分からないほど破壊されていた。
 このスキルは自身にかけられた呪いを深めるとともに、使える属性を一時増やし、その力を二倍にするというもの。鬼族には代々闇属性が生まれる代わりに、角を使うときに体に痛みが伴うという呪いをかけられている。角を使うたび、その痛みの強さは増していく。

「くっ……あぁぁあっ」

「GUEEEEEEEEEEッ!!」

 声を上げなかったファイナルオーガ。しかしシェリアの見えない刃がもっと加速し、量がもっと増えてしまった時。ファイナルオーガの命が散るその時。
 抵抗するように、まるでこの世界を連れていくかのように手を伸ばして、倒れた。

 最後のファイナルオーガの叫びは、恐らく……。

「ルネックスさん、来ます! 準備をしていてください」

「分かった。アーナー、よろしく!」

『了解しました、ご主人様』

「じゃああたしもかつやくするー! あ、きたよきたよ~♪」

 恐らく、死ぬ寸前に仲間を呼ぶための叫びだったのだろう。
 ズザァ、と砂をまき散らして後方へ下がったシェリアと交代するようにルネックスが前へ出る。位置を変えないポジションであるフェンラリアはどことなく楽しそうだ。
 人間界の魔物とは戦ったことがなかったし、そもそも人間界へ来るのも初めて。

 ラグナログ以来戦ったことがない彼女は今、その力を存分に発揮したいらしい。

 最も、このグループの中でも辛うじて相手になるのはルネックスくらいだろう。

「あれ? 意外にも雑魚ばっかりだね」

「油断しないでください。奥に子鬼ゴブリンキングがいます」

「あー」

 ルネックスが明らかに面倒くさそうな顔に一変する。集められた魔物オーガたちはルネックス達に近づきながらも彼らから僅かに余裕を感じていた。そして怖がっていた。
 しかし、彼らのボスであるファイナルオーガに逆らうことはできない。

 子鬼ゴブリンキングは何故か火魔法を取得していて、何故か火を触手に変えることができ、ねちねちと絡んできて面倒くさいのだ。
 ルネックス達の相手にはならないが、足を取られて襲われて……という事故ならば何回も聞いたことがある。

「おーがたちはあたしにまかせて! きんぐはるねっくすやってー」

「了解! シェリアはそこで休んでて」

『ご主人様。前方、オーガ達に紛れてキングが近づいてきています』

 先程シェリアが呪いの力を深めてしまったことにルネックスも戸惑っていたが、フェンラリアが「死ぬわけではない」と言ったので城に帰るまでは休んでもらうことにした。
 それに戦った反動で結構な体力を消費してしまっている。

 シェリアの初期体力はルネックスと同じように無いに等しかった。
 今でも自分から動こうとしないので結構体力がないのである。

「それ。あーこれ短剣で足りるね」

『ご主人様。ゴブリンキングをあっさり倒さないでください』

 ルネックスが短剣をゴブリンキングに向け。彼が反応する直前にその胸に深く深く突き刺した。短剣だから深く突き刺せないわけではない。
 短剣の中に保有する魔力を放出すれば、貫くことだって可能なのだ。

 アーナーのツッコミは最もだが、すでにオーガを全滅させているフェンラリアに言ってほしい。何が常識は分かった、だ、常識がオーガを一撃で全滅させられるわけがない。
 帰ったら対人戦に対して叩き込まなければならないと思ったルネックスだった。

「ねえねえるねっくす、これいじょうしんぶにいってもいみないとおもうよ!」

「そうだね。オーガ以上の魔物は奥から出てこないタイプだからね」

「ルネックスさん。そろそろ体力が回復しました。もう帰りますか?」

 オーガやゴブリンキングとの戦いも終わり、ルネックスはこれ以上踏み込むのは危険だと判断した。ただでさえこの森に関しては何も知らないのだ。
 それに、もう魔物が街に溢れることは無いくらい狩ってしまっている。

 素材などを全てとってフェンラリアの異空間に入れる。これで結構稼げそうだ。

「ん。わかったかえる! 【転移】」

「わっ、あーフェンラリア、また勝手に転移したね!?」

 ルネックスの決意が固まったのを表情から読み取ってフェンラリアが全員をいきなり転移する。その行動には少々のいたずらと早く帰りたいという気持ちがあった。






 家に帰ると、すでに真っ暗でカレンも帰ってきていた。
 カレンはリンネに渡されたお茶を優雅に飲んでおり、ルネックスを見つけると微笑んだ。

「終わったよ……宿のみんなに……水魔術……植え付けてきた……」

「うっそぉ、そんなスキルあったの」

「あ、るねっくす。そういえばあたしそのすきるしってる」

 カレンの一言でどうやらフェンラリアはどのスキルの事を言っているのか分かったようだ。ルネックスはスキルまでは分からないが効果は分かったようだ。

「カレンお姉ちゃん凄いんですよ―――ですよ!」

「へえ、そんなの取得してたんだね」

 ルネックスが魔物を狩った結果は恐らく明日コレムもしくはハーライトから連絡が来るだろう、フェンラリア達は待っていればいい。
 リーシャが輝く目でルネックスに語っている。カレンの凄さを。

 どうやら今日一日で好感度が上がったようだ。

「ルネックスはパパで、カレンがままなのです―――です!」

「え!?」

「リーシャ……間違ってない……」

 どうやら好感度が上がりすぎて両親認定されてしまったようだった。それはそれでルネックスも悪い気がしなかった。とりあえず「ぱぱ」「まま」と呼ばせておこう。
 どうやらリンネとシェリアが嫉妬したようだ、主にカレンに。

「私もままって呼ばれてみたかったです……」

「シェリアはお姉さんなのです―――です! リンネは……?」

「ひどいぃ!?」

――――――思い出と。
 新しく入って来た暖かい仲間と共に、ルネックス達は眠りについた。

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