僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

じゅうきゅうかいめ フレアルとシェリアとカレンかな?

 タッタッタッタ。
 森の裏側にある敵の本陣に向かってフレアル、シェリア、カレンは突進する。三人の表情は皆本気で、ルネックスの期待を裏切りたくないという感情だった。

 一方本陣は最終戦まで負けてしまったことを聞きつけ、姉リュスタと側近ドネスが慌てた様子でテントを行ったり来たりしていた。
 しかしドネスはそうでもない表情だ。

「オイドネス、何か知恵を出すんだ。このままでは惨敗してしまう!」

「リュスタ様。その辺の魔物をすべてアンドロイド化させましょう」

「……最後の手段か」

 できればそれは魔力を消費するためそこまでやりたくなかった手段だ。それはドネスも十分わかっている。リュスタもこれが最終手段だということを理解した。
 なぜか追い込まれてしまったこの状況、二人は何の準備もしていなかったのだ。

「私が甘かったのか……ありえない、コレムに負けるなどありえない」

「現国王様が何かをしたという手も考えられますがね。さあお考えになるのは一旦御止めになってください。決めたことを行動しなければなりません」

 そうだな、と言ってテントから出ようとしたとき。

「わぁ!?」

 テントが上から破れ、その辺の騎士たちは一瞬でなぎ倒された。一瞬訳が分からなくなり、リュスタは情けない声を出してしまった。

 にやり、と口角を上げたのは侵入した一人の少女である。

「わたし……荒い手順、取りたくない……でも、仕方ない……」

「な!? この私を捕まえられると言いたいのか、えぇい!! 【遠隔・魔物アンドロイド化!】」

「最終手段……回り込んでる……」

「リュスタ様!! 相手の計画にはまってしまいました!!!」

 遠隔アンドロイド化は、半径五メートル以内に居る魔物全てを自分の物にするアンドロイド化科の進化版魔術だ。しかしそれも回り込まれている。

 カレンはリュスタに見下すような目をしながら器用に微笑み、紐を存在感薄く取り出し、力いっぱい放り投げるとそれはリュスタに巻き付き、しっかりと固定された。
 ドネスが助けようとするとその紐はもっと強く縛り続ける。

 此処に居る一同の答えは決まった。

……
。。。

 やっぱり。
 アンドロイドとなった魔物の大群を見ている少女はやけに冷静で、これだけの強化された魔物を目の当たりにしても眉ひとつ動かさない。

「ま、狙い通りってことかな? 私としては、嬉しい限りだけど、ねっ!!」

 背中に装備していた弓を抜いて、魔物の群衆の中心を狙う。魔物たちは少女、もといフレアルが動いたことを瞬時に察知し、各自散らばって警戒する。
 弓は一頭ずつ当てるしかない。
 しかし、その先に魔力を内包していれば、話は別だ。

「ふふん、もう少し学んでおくべきだったんだね、可哀そうだけどさようなら!」

 ちなみに今言った「可哀そう」は嘘というわけではない。こんな近くに居なかったらもしくはフレアルに殺されずに済んだかもしれなかった。もっと長く生きられるかもしれなかった。しかしフレアルもこの魔物たちが街を襲うかもしれない可能性を考えると、手加減などできなかった。

 弓が放たれる。美しい銀の軌道を創り出し、魔力のおかげで範囲が広がる。

 約半数の魔物たちが撃破された。
 フレアルは満足そうにうなずくと、

「【炎弾フレイムバレット】……っと、我ながらイイ感じ!」

 ちなみに、フレアルの属性は火であって、風もあるのだが未だに使い方がわからなくて使えない状態だ。勿論そんなものがなくても強いため問題はない。
 今フレアルが放った攻撃は魔物を全滅させている。
 何故弓を使わない、とルネックスならそう突っ込んだかもしれない。

「さて、合流しなきゃかな?」

 魔物大殺戮の後だとは思えないほどにっこりと微笑み、フレアルはその場を後にした。

……
。。。

「テントは小さいので三つに分かれていますね、音を立てずにどこから攻めましょう……それとも一撃で全滅させますか? いや、真ん中だけ避けるのも難しいですね」

 四つのテントが建っているその遥か後方で少女がテントの中心を見つめていた。
 中心にはほかの三つよりも大きなテントがある。

 恐らくそれが今カレンが攻めているはずのリュスタとドネスがいるテントだろう。

「っと、暗殺でもしますかね? それとも久しぶりに……鬼の力を使いますか?」

 にやり、と笑ったシェリアの口からは光る牙が覗いていた。鬼族の象徴である角と牙は鋭く何もかもをも砕いてしまう実力を持つ。勿論それはただの建前だが。

「【鬼の威圧LV12】……こんなもんですかね、これで中の者たちは動けないはずです」

 そう言ってシェリアは手あたり次第一番近いテントの扉をめくる。
 中では震えている大臣たちと難しい表情をしている者がいた。容赦はしなく、縄を出して縛る。ルネックスと約束したのは、いかなる場合でも殺すことだけはないということ。
 三人の大臣を縛り終えると、シェリアは動作不能眼を使って三人を動けなくする。

 テントから出て、同じように二番目、三番目……

 ルネックスが予想していた通り、大臣たちはそれほど強くなかった。

「さて、行きますか」

「あ、シェリア! 私は今終わらせたよー魔物とか完璧に消し去っちゃった」

「やれやれ、短い間でとんでもない威力になりましたね。私も終わりました」

 苦笑いをしながらもフレアルはシェリアの手元を見る。笑えない。

「これをやってで私に強いとか言ったら屈辱にしか聞こえないね」

「仕方ないですよ、これが任務ですから」

 シェリアの手には七人の気絶した大臣が眠っている。皆怯えた顔をしていて、恐らくそれはシェリアに向けられた気持ちだろう。
 一体どれだけのことをしたらこんなに降伏させられるのかフレアルには考えつかない。

 実際にはそれほどのことはしていないが、その成果は大きい。

「そこに……跪いて……」

 ドン、という音がして騎士二人とリュスタとドネスが二人の前に跪く。それと共にやってきたのは来た時と同じ表情を浮かべているカレンだった。
 どうやら彼女も彼女に割り当てられた任務を終えたようだ。

 私に任せて、とフレアルは騎士たちと大臣たちを連れて火魔法でルネックスを追いかける。「とんでもない腕力だ」と言いながらもカレンがリュスタとドネスを抱えてルネックスと合流に向かう。

「さて、私はコレム様にご報告といきましょうか【暗黒転移ダークスリップ】」

 地面に手を向けて、黒い光がシェリアの体を包むとともに彼女の体は消えていった。

……
。。。

 空を飛行していたフレアルとカレンが見つけたのは大量の敵の兵士や宮廷魔術師、騎士たちを降伏させて平然と立っているルネックスと姿を消したフェンラリアだった。
 その背後には呆然とほかのリーダーたちが立ち尽くしている。

 どれだけ過激な戦闘をしたのだろう、それか一瞬で終わらせたのか。

 何も想像がつかなく、二人の背中からは一筋の冷汗が流れた。あぁ、この方だけは敵にしてはいけないと心からそう思ったのだ。

「る、ルネックス! 割り当てられた任務は終わったよ」

「あ、ありがとう。こっちも終わった。この兵士たちはハーライト達に任せて、僕らは先にコレム様の所へ行こう、あとこっちはリンネ、新しい仲間だよ」

「はぁーい! リンネですぅ! 反乱の意志は全くありませェンので安心してくださぁい」

「まぁ……ルネックスが……そういうなら……良い」

 歩み寄ってきたルネックスとリンネを見て、カレンとフレアルは一瞬嫌悪感と興味を覚え、しかしルネックスの保証によってそれはかき消された。

 ハーライトに確認を取り、ルネックス達は宮殿に向かう。

 飛行の最中、リンネの魔女特有のほうきが気になって仕方がなかったためフレアルがその後ろに乗って空の旅を味わったのは余談である。

「コレム様。ただいま戻りました……シェリア、そっちも終わったんだね」

「うむ……リュスタ様とドネスは無事に今此処に居る。お疲れ様だ」

「こんにちはぁコレム様ぁ! 新たに仲間になったリンネと申しますぅ!」

「彼女が仲間なのは僕の保証付きなので心配しないでください」

 コレムの意識と体調は大臣たちの懸命な治療により今では万全に回復しており、元気が余っているくらいだ。
 シェリアはリュスタとドネスの後ろに立ってコレムを見つめていた。
 大臣たちはルネックス達を興味、嫌悪、羨望と三種類の目で見ていた。

「そうか。貴様たちのおかげで反乱は無事収まった。疲れていると思うため皆はいったん解散する。すべての判決は明日下すとする」

 コレムがそういうと兵士、騎士たちは各自散っていった。シェリア達も部屋に戻る。しかしルネックスは動かないままだった。

「コレム様。判決はどうしますか?」

「うむ……」

「私に情けを出すな! 殺すなら殺せばいいではないか!?」

 プライドが高いリュスタはどうしても気付かなかったのだろう。コレムの心に一筋残った姉への愛情というものを。

 ルネックスはコレムの目から察していた。
 今回の判決は非公式で、二人で行うということ。これが信頼である。

「まあ僕が深く口出しできることではないと思いますが、死刑をコレム様が望まないのならば、しかし反乱は大罪なのでせめて閉じ込める的なのはどうでしょう」

 いつもなら不敬罪に問われるところだが、信頼関係となればそれは違う。

「確かにそれが一番かもしれん」

「そしてリュスタ様側についていた者達は降伏する者はこちらにもう一度再利用するのはどうです? ドネス様とリュスタ様は……」

「分かった。姉リュスタとドネスは監獄にて一生を過ごし、それに加担した者達は私の下でもう一度再利用するというのが貴様の考えだな?」

「リュスタ様とドネス様の監禁場所は、もう少し豪華な部屋でどうでしょう?」

 ルネックスももちろんその目からコレムがリュスタへの愛情、ドネスへの申し訳なさが見えていた。しかし無罪にすると国王の威厳に関わるため、最低限、その最低限に挑んでいるのだ。

 コレムの目つきが変わる。リュスタもドネスも信じられない顔をしていた。

 彼らのような人物でも、何故か考えつかなかったのだ。
 それほどの愛情をもってしても、コレムは考えつかなかったのだ。

「それだ!! 貴様の部屋と同じ設計のされている部屋で、客と同じ対応を、ただしそこから出すことは命令がなければ不可能」

「そういうことですね」

……
。。。

「はぁ……意見出しは何よりも難しいよ」

 部屋に戻ったルネックスはベッドに倒れこみ、愚痴をこぼした。
 先程も冷静に意見を出していたように見えるが、脳漿を絞り出すほど努力して考えついた意見だったのだ。

 事情を知ったカレン達も仕方ない、と口を揃えていた。

「けいかくをじつげんするためとはいっても、さすがにつかれたよね」

「私はねー体力づくりに役立ったと思うよ」

「めったにない対人戦だしね、有効利用しなきゃ」

「もうとりあえず今日は寝なぁい?」

 リンネの提案はとてもよく、全員それに賛成した。
 何があっても明日だ、ていうかもう何も起こってほしくない。


 だって明日の課題はもう決まっているのだから。

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