僕のブレスレットの中が最強だったのですが
じゅうよんかいめ 国王と信頼かな?
「ドラゴン、見事に退治されているな。お前がやったのは見ていた、感謝する。」
地上に降り立ったハーライトはまず声をかけるだけにした。
冒険者などは本来態度が悪いで有名なため、下手に怒らせてはいけないと思ったからである。
ルネックスは振り返り、四人の冒険者パーティであろう者達をハーライトに受け渡した。
ハーライトは灰色の髪のごく普通の少年だったが、その威圧感がまるで違う。
ルネックスは表面上動じずに応じたつもりだが、内心では冷汗を流している。
「えっと。宮廷魔術師さんですね? その前に彼ら、怪我しているらしいので治療をしてあげてください。最低限の治療はこちらでしておきました」
「あ、あぁ、分かった」
治療は念のために持ってきたあのポーションで行ったのである。しかも丁度四つあるとは。
ルネックスが完全に治療しなかったのはハーライトに関係を築くきっかけを作るためにわざと行ったことである。
この四人には少し無茶をさせてしまうが、負担を抱えない微妙な点まで治療されているためもう体に負荷はないだろう。
それに驚いたのはハーライトだ。
同年代くらいの少年が傷を塞ぐほどの治療をしたのは人生で初めて見たのである。そう、ハーライトは回復系魔術が使えないのだ。
「お前はドラゴンを倒した功績者だから、一緒に連れていくことになるが、良いな?」
「えぇ、もちろんです。シェリア、フレアル、いいよね?」
「私はルネックスがいいならなんでもいい!」
「私ももちろんオッケーです。ルネックスさんがやりたいことなら」
ハーライトは少女たちの少年に対するあこがれの熱情を見ながら、密かに自分もルネックスに対して憧れを抱いていた。
そしてハーライトが連れてきた部下に担架を用意しろと伝え、担架に少女二人少年二人が載せられ運ばれていく。
ルネックスはそれを見て安心し、ほっと一息ついた。
一方のハーライトは「なんて優しい方なんだ」とそれを見て感嘆の息を漏らしていた。
「馬車は向こうに用意させてあるぜ。元々は俺の帰りのためなんだがな……俺はハーライトだ。宮廷魔術師の副団長を務めている」
「そうなんですか!? 僕はルネックスです、冒険者にはこれからなるつもりですが」
「まだ冒険者じゃないのか? あの強さ、絶対Aランクはあると思ったのだがな」
ルネックスはハーライトが宮廷魔術師の副団長だということに驚いた。
上の人物なのはその気取りと服装の装飾で分かるが、副団長とは国王に会うのも珍しくないくらい上にいる人物なのだ。
計画の実行が早めになりそうで嬉しい限りである。
一方のハーライトはルネックスが冒険者ではなかったことに驚いていた。
あの負傷者四人はこの街で希少なBランク冒険者である。
Aランクはこの国のギルドでは6人いて、Sランクは2人。SSランクに至ってはだれもいない。
他の国を見てもSSランクが一人以上いる国はない。
何故ならここアルティディアこそが全世界で一番発達しているからだ。
そのBランクは14人。
それを越す強さなのだから、少なくともAランク以上ではあると思ったのに。
「すみません……常識に関しては、まだ全然ですので。近頃には登録しようと思います」
「おぉ、そうか! 俺は応援するぜ、最大限にな」
話しながら歩いているうちに、ハーライトが言っていた馬車が見えた。
少し遠慮しながらもハーライトに背中を押されてルネックスは入り込んだ。
その後を追ってシェリアとフレアルも入る。
中は綺麗な装飾が付いていてソファーが椅子になっており、それは感じたこともないふかふかな感じがした。
どこかの王室の一室みたいだ。
そう感じるのも本物を見たことがなく、まだその本当の凄さを知らないからだ。
王室の一室とこの馬車は本当は比べられないほどの差があることに。
「どうだ?? この感覚初めてだろ?」
「えぇ、とても気持ちがいいです。ハーライトさんはこれを誇りにしているんですね」
ハーライトの口調から、ルネックスはそれを察したのである。
とても十代の子供でしかも冒険者ではない者がとる態度だとは思えなかった。
自分のような宮廷魔術師ならばあり得るのだが、ふつうの人間がこれほどとは。
「あぁ……そうだ、いきなり国王様に会ってもいいか?」
「えぇ、もちろんです。むしろそれがうれしいくらいですよ……」
馬車に揺られて進んでゆく。
そうは言ってもそこまで揺れることがなく、優しい感覚である。しかし進みは早い方である。
ルネックスの言葉にちょっとした意味が込められていたこと、きっとハーライトのみが気づいただろう、彼の黒い笑みに。
しかしそれに害がない事。
ハーライトはさらにルネックスに怖気が刺したのだった。
(なんて子だ……俺なんかカスじゃねぇか)
悔しさよりも、素直な敗北感を覚えた。
もう自分は勝てることは無い、と素直にそう思ったのだった。
「僕は……国王様に会いたいとは思っていたので」
「そ、そうか。ちなみに国王様のお名前はコレム・フェイト様だ。覚えておくように……」
偉そうなセリフを言うのも本当はこの場の状況に似合わないと思っていた。
しかし、宮廷魔術師の副団長として舐められる態度は許されない。
ルネックスは逆に好感を覚えていたのは、またフェンラリアのみが知る。
シェリアとフレアルは密かにハーライトに舌打ちをしていた。
馬車の中に黙々とただ直立不動をしている騎士たちはシェリアとフレアルには好感を抱いていないようだが、ルネックスには相当な好感を抱いているようだ。
「ハーライトさん。此処から国王様の場所まではどれほどの距離があるのですか?」
「王都エーリュネスなら、この街からが一番近いため何時間もかからないな」
「そう、ですか」
地名というのは皆長いのだろう、ルネックスが今まで見てきたものも全て長めの名前だった。人の名前はそれぞればらけているため少し分別をつけるためだろう。
最も、最近は長ったらしい名前が流行っていてもう必要がなさそうなのだが。
馬車の外を見てみると、はるか向こうにきれいな霧がかかっていた。
その先には王都があり、きらりと金色に光る城の先端が見えた。
国王たちは皆このような城に住んで居るのだろうか、ルネックスはただただ口をぽかんと開けることしかできなかった。
想像以上、いや想像できる範疇そのものを超えている。
「はは、この国カリファッツェラの城っつーのはな、ちょいと豪華なんだよ」
「へぇ。僕はまるで神様の造った建物のように見えますが」
「これを創った者は神様のような奴だったよ……聖神に殺されたりはしたけどな」
「そうなんですか!? 実は僕、ちょっと聖神と喧嘩になっていてですね」
勿論会ったこともないし喧嘩になるわけはないのだが、「聖神に滅ぼされるけれども国で保護してください」とは言えないだろう。
それを聞いたハーライトはルネックスの強さにも納得した。
聖神と戦うならば、それくらいの強さはないと逆に殺されるからだ。
可能性などではなく、確定として。
ルネックスは聖神に対して思い切り反感を抱いていた。
「神様のような奴」をきっと簡単に殺した情景が眼に浮かぶ。
しかも話していたハーライトの表情はとても淋しそうだった。きっと大切な人だったのだろう。
ハーライトの思いも背負って、ルネックスは神界を敵に回すことを決めた。
勿論神界は聖神に味方してはいないのだが、ルネックスが聖神に比敵する力があると知れば征服されるのを恐れ、味方になる可能性もあると感じたからだ。
「そりゃ、大変だな。まぁルネックスの強さならいけるだろうよ。頑張りな」
「ありがとうございます。僕も精々頑張ります」
ルネックスは微笑んだ。
そして話が続けられなくなり、二時間の間黙々と馬車に揺られ続けた。
シェリアとフレアルは絶えず二人で話し合いをしている。
実は王であるコレムにどう振舞おうか考えているとは誰も気付かなかった。
「おい、着いたぞ。降りて中にはいれ」
「は、はい!」
目の前には真っ白な、視界に映りきらないほどの建物。たてはまるで空に届くかのように。横はまるで世界を包み込むかのように。
敷地は広かった。
本城と呼ばれるところはルネックスが今立っているところがその門である。
そのほかに側面にまた二つの建物がある。
使用人や国王以外の者の住まいであったり、客人を案内する場所もそこにある。
今のルネックスには、綺麗と言う言葉しか出なかった。
中に入ってみると、普段使えるものではないレッドカーペット。
ちょうどいい空間を開けて立っているメイド。
綺麗な机の上に飾られている奇妙な模様の花瓶と可憐な花。
感嘆の息を漏らすしかなかった。
「すごい……」
その声は、シェリアのものだった。
ハーライトやその後ろに控えている騎士たちもその言葉に嬉しいという感情を抱いていた。
自分たちが苦労して設計や計画をして完成させた城を褒められているのだ。
ハーライトは初期ではなく、増築にしか参加していないのだが、それでもだ。
「今から中に入る。此処は様々な貴族が集まるところだが、今日は特別に誰もいない」
「僕のことはすでに話が通してあるのですか?」
「あぁ、もちろんだ。中にはコレム様が控えているからな」
そう言ってハーライトが手を乗せたのは木で作られた立派なドア。
手で回すのではなく、手を当てると自動的に開くというものを魔術で再現したものだ。
自動ドアの魔術が組み込まれている。
これを実行したのは国王コレムだったのだが。
ハーライトが手を当てると、ドアが自動的に開いた。
「うっ……」
最初に見えたのは存在感溢れる王冠。
そしてそれ以上に。
コレムの王としての威圧が、ルネックスを気押したのだった。
よく見てみるとシェリアとフレアルも、そしてハーライトまでもが押されていた。
その威圧は王として、人民の上に立つ者として、適切なものだったのだろう。
コレムは漆黒の髪を長く伸ばした恐らく5から60歳辺りの男性だった。
彼の口が開かれ、威圧感が部屋に充満した。
「入れ」
それだけで周囲に「ゴォ」と風もないのに威圧の風が吹いた気がした。
空気も、植物も、風も、全てがコレムに同化した気がした。
しかしなぜかルネックスは最初のように押されることは無かった。
ずかずかと中に入り込み、その後をハーライト達が驚きながら入ってくる。
「……貴様が、例のドラゴンを倒したという」
「ルネックスです。確かにドラゴンを倒したのは間違いありません」
「はははは! おもしろい! 私に気圧されなかった者はこれが初めてだ」
ルネックスが全く動じずに話したとき、コレムは大きく笑った。
その威圧はハーライトをも制圧したのだが、ルネックスがその身を動かすことは無かった。
「ほう、これでも動かぬか。さすがはドラゴンを倒した者、とみていいだろう。そして貴様で間違いはないと思っていいだろう。貴様は私に、何を求める」
「僕はただあなたに、貴方からの信頼を求めます」
そんなルネックスの答えに周りは瞬時にざわりとうごめいた。
これまでに功を奏した者達は皆、金や女、奴隷……物を要求してきた。
しかし、「信頼」を求めるというのは前代未聞の回答で、コレムですらも予想外だった。
「それでは足りぬだろう? 私は貴様のために住所も用意した。良い値段の金銭も用意してある。良いのならば私の方から貴様の宿を切ってやろう」
「そうですね。金銭については要らないのですが、住所は、その、ちょっと……てへへ」
今まで格好つけていたものの、住所の所に差し掛かるとルネックスは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
コレムはもう一度高笑いした。
ハーライト達はまた制圧されて倒れこむ。
同じようにルネックスは全く動じない。
これでコレムの信頼は完全に勝ち取ったと言えるだろう。
しかしまだ付き合って何時間しかたっていない。これから深めればいいと思う。
「うむ、分かった。では貴様の宿をこちらから切ろう。その代わりこれからまた我々が手に負えぬことがあればまた手を煩わせる可能性があるが良いか?」
「もちろん、コレム様のお役に立てることがうれしいです」
十代で、これほどの言葉が出るとは。
ハーライトは驚くことすらできずに、ただただそれを口を開けて見つめていた。
「ルネックスさん! さすがです!」
「ルネックス! 私は信じてるよー」
そしてこの緊張した雰囲気にも構わずに飛び出したシェリアとフレアルにも驚いたのだった。
ぶっ飛んだ者達だ。
コレムは密かにそう思い、苦笑いを浮かべるのだった。
地上に降り立ったハーライトはまず声をかけるだけにした。
冒険者などは本来態度が悪いで有名なため、下手に怒らせてはいけないと思ったからである。
ルネックスは振り返り、四人の冒険者パーティであろう者達をハーライトに受け渡した。
ハーライトは灰色の髪のごく普通の少年だったが、その威圧感がまるで違う。
ルネックスは表面上動じずに応じたつもりだが、内心では冷汗を流している。
「えっと。宮廷魔術師さんですね? その前に彼ら、怪我しているらしいので治療をしてあげてください。最低限の治療はこちらでしておきました」
「あ、あぁ、分かった」
治療は念のために持ってきたあのポーションで行ったのである。しかも丁度四つあるとは。
ルネックスが完全に治療しなかったのはハーライトに関係を築くきっかけを作るためにわざと行ったことである。
この四人には少し無茶をさせてしまうが、負担を抱えない微妙な点まで治療されているためもう体に負荷はないだろう。
それに驚いたのはハーライトだ。
同年代くらいの少年が傷を塞ぐほどの治療をしたのは人生で初めて見たのである。そう、ハーライトは回復系魔術が使えないのだ。
「お前はドラゴンを倒した功績者だから、一緒に連れていくことになるが、良いな?」
「えぇ、もちろんです。シェリア、フレアル、いいよね?」
「私はルネックスがいいならなんでもいい!」
「私ももちろんオッケーです。ルネックスさんがやりたいことなら」
ハーライトは少女たちの少年に対するあこがれの熱情を見ながら、密かに自分もルネックスに対して憧れを抱いていた。
そしてハーライトが連れてきた部下に担架を用意しろと伝え、担架に少女二人少年二人が載せられ運ばれていく。
ルネックスはそれを見て安心し、ほっと一息ついた。
一方のハーライトは「なんて優しい方なんだ」とそれを見て感嘆の息を漏らしていた。
「馬車は向こうに用意させてあるぜ。元々は俺の帰りのためなんだがな……俺はハーライトだ。宮廷魔術師の副団長を務めている」
「そうなんですか!? 僕はルネックスです、冒険者にはこれからなるつもりですが」
「まだ冒険者じゃないのか? あの強さ、絶対Aランクはあると思ったのだがな」
ルネックスはハーライトが宮廷魔術師の副団長だということに驚いた。
上の人物なのはその気取りと服装の装飾で分かるが、副団長とは国王に会うのも珍しくないくらい上にいる人物なのだ。
計画の実行が早めになりそうで嬉しい限りである。
一方のハーライトはルネックスが冒険者ではなかったことに驚いていた。
あの負傷者四人はこの街で希少なBランク冒険者である。
Aランクはこの国のギルドでは6人いて、Sランクは2人。SSランクに至ってはだれもいない。
他の国を見てもSSランクが一人以上いる国はない。
何故ならここアルティディアこそが全世界で一番発達しているからだ。
そのBランクは14人。
それを越す強さなのだから、少なくともAランク以上ではあると思ったのに。
「すみません……常識に関しては、まだ全然ですので。近頃には登録しようと思います」
「おぉ、そうか! 俺は応援するぜ、最大限にな」
話しながら歩いているうちに、ハーライトが言っていた馬車が見えた。
少し遠慮しながらもハーライトに背中を押されてルネックスは入り込んだ。
その後を追ってシェリアとフレアルも入る。
中は綺麗な装飾が付いていてソファーが椅子になっており、それは感じたこともないふかふかな感じがした。
どこかの王室の一室みたいだ。
そう感じるのも本物を見たことがなく、まだその本当の凄さを知らないからだ。
王室の一室とこの馬車は本当は比べられないほどの差があることに。
「どうだ?? この感覚初めてだろ?」
「えぇ、とても気持ちがいいです。ハーライトさんはこれを誇りにしているんですね」
ハーライトの口調から、ルネックスはそれを察したのである。
とても十代の子供でしかも冒険者ではない者がとる態度だとは思えなかった。
自分のような宮廷魔術師ならばあり得るのだが、ふつうの人間がこれほどとは。
「あぁ……そうだ、いきなり国王様に会ってもいいか?」
「えぇ、もちろんです。むしろそれがうれしいくらいですよ……」
馬車に揺られて進んでゆく。
そうは言ってもそこまで揺れることがなく、優しい感覚である。しかし進みは早い方である。
ルネックスの言葉にちょっとした意味が込められていたこと、きっとハーライトのみが気づいただろう、彼の黒い笑みに。
しかしそれに害がない事。
ハーライトはさらにルネックスに怖気が刺したのだった。
(なんて子だ……俺なんかカスじゃねぇか)
悔しさよりも、素直な敗北感を覚えた。
もう自分は勝てることは無い、と素直にそう思ったのだった。
「僕は……国王様に会いたいとは思っていたので」
「そ、そうか。ちなみに国王様のお名前はコレム・フェイト様だ。覚えておくように……」
偉そうなセリフを言うのも本当はこの場の状況に似合わないと思っていた。
しかし、宮廷魔術師の副団長として舐められる態度は許されない。
ルネックスは逆に好感を覚えていたのは、またフェンラリアのみが知る。
シェリアとフレアルは密かにハーライトに舌打ちをしていた。
馬車の中に黙々とただ直立不動をしている騎士たちはシェリアとフレアルには好感を抱いていないようだが、ルネックスには相当な好感を抱いているようだ。
「ハーライトさん。此処から国王様の場所まではどれほどの距離があるのですか?」
「王都エーリュネスなら、この街からが一番近いため何時間もかからないな」
「そう、ですか」
地名というのは皆長いのだろう、ルネックスが今まで見てきたものも全て長めの名前だった。人の名前はそれぞればらけているため少し分別をつけるためだろう。
最も、最近は長ったらしい名前が流行っていてもう必要がなさそうなのだが。
馬車の外を見てみると、はるか向こうにきれいな霧がかかっていた。
その先には王都があり、きらりと金色に光る城の先端が見えた。
国王たちは皆このような城に住んで居るのだろうか、ルネックスはただただ口をぽかんと開けることしかできなかった。
想像以上、いや想像できる範疇そのものを超えている。
「はは、この国カリファッツェラの城っつーのはな、ちょいと豪華なんだよ」
「へぇ。僕はまるで神様の造った建物のように見えますが」
「これを創った者は神様のような奴だったよ……聖神に殺されたりはしたけどな」
「そうなんですか!? 実は僕、ちょっと聖神と喧嘩になっていてですね」
勿論会ったこともないし喧嘩になるわけはないのだが、「聖神に滅ぼされるけれども国で保護してください」とは言えないだろう。
それを聞いたハーライトはルネックスの強さにも納得した。
聖神と戦うならば、それくらいの強さはないと逆に殺されるからだ。
可能性などではなく、確定として。
ルネックスは聖神に対して思い切り反感を抱いていた。
「神様のような奴」をきっと簡単に殺した情景が眼に浮かぶ。
しかも話していたハーライトの表情はとても淋しそうだった。きっと大切な人だったのだろう。
ハーライトの思いも背負って、ルネックスは神界を敵に回すことを決めた。
勿論神界は聖神に味方してはいないのだが、ルネックスが聖神に比敵する力があると知れば征服されるのを恐れ、味方になる可能性もあると感じたからだ。
「そりゃ、大変だな。まぁルネックスの強さならいけるだろうよ。頑張りな」
「ありがとうございます。僕も精々頑張ります」
ルネックスは微笑んだ。
そして話が続けられなくなり、二時間の間黙々と馬車に揺られ続けた。
シェリアとフレアルは絶えず二人で話し合いをしている。
実は王であるコレムにどう振舞おうか考えているとは誰も気付かなかった。
「おい、着いたぞ。降りて中にはいれ」
「は、はい!」
目の前には真っ白な、視界に映りきらないほどの建物。たてはまるで空に届くかのように。横はまるで世界を包み込むかのように。
敷地は広かった。
本城と呼ばれるところはルネックスが今立っているところがその門である。
そのほかに側面にまた二つの建物がある。
使用人や国王以外の者の住まいであったり、客人を案内する場所もそこにある。
今のルネックスには、綺麗と言う言葉しか出なかった。
中に入ってみると、普段使えるものではないレッドカーペット。
ちょうどいい空間を開けて立っているメイド。
綺麗な机の上に飾られている奇妙な模様の花瓶と可憐な花。
感嘆の息を漏らすしかなかった。
「すごい……」
その声は、シェリアのものだった。
ハーライトやその後ろに控えている騎士たちもその言葉に嬉しいという感情を抱いていた。
自分たちが苦労して設計や計画をして完成させた城を褒められているのだ。
ハーライトは初期ではなく、増築にしか参加していないのだが、それでもだ。
「今から中に入る。此処は様々な貴族が集まるところだが、今日は特別に誰もいない」
「僕のことはすでに話が通してあるのですか?」
「あぁ、もちろんだ。中にはコレム様が控えているからな」
そう言ってハーライトが手を乗せたのは木で作られた立派なドア。
手で回すのではなく、手を当てると自動的に開くというものを魔術で再現したものだ。
自動ドアの魔術が組み込まれている。
これを実行したのは国王コレムだったのだが。
ハーライトが手を当てると、ドアが自動的に開いた。
「うっ……」
最初に見えたのは存在感溢れる王冠。
そしてそれ以上に。
コレムの王としての威圧が、ルネックスを気押したのだった。
よく見てみるとシェリアとフレアルも、そしてハーライトまでもが押されていた。
その威圧は王として、人民の上に立つ者として、適切なものだったのだろう。
コレムは漆黒の髪を長く伸ばした恐らく5から60歳辺りの男性だった。
彼の口が開かれ、威圧感が部屋に充満した。
「入れ」
それだけで周囲に「ゴォ」と風もないのに威圧の風が吹いた気がした。
空気も、植物も、風も、全てがコレムに同化した気がした。
しかしなぜかルネックスは最初のように押されることは無かった。
ずかずかと中に入り込み、その後をハーライト達が驚きながら入ってくる。
「……貴様が、例のドラゴンを倒したという」
「ルネックスです。確かにドラゴンを倒したのは間違いありません」
「はははは! おもしろい! 私に気圧されなかった者はこれが初めてだ」
ルネックスが全く動じずに話したとき、コレムは大きく笑った。
その威圧はハーライトをも制圧したのだが、ルネックスがその身を動かすことは無かった。
「ほう、これでも動かぬか。さすがはドラゴンを倒した者、とみていいだろう。そして貴様で間違いはないと思っていいだろう。貴様は私に、何を求める」
「僕はただあなたに、貴方からの信頼を求めます」
そんなルネックスの答えに周りは瞬時にざわりとうごめいた。
これまでに功を奏した者達は皆、金や女、奴隷……物を要求してきた。
しかし、「信頼」を求めるというのは前代未聞の回答で、コレムですらも予想外だった。
「それでは足りぬだろう? 私は貴様のために住所も用意した。良い値段の金銭も用意してある。良いのならば私の方から貴様の宿を切ってやろう」
「そうですね。金銭については要らないのですが、住所は、その、ちょっと……てへへ」
今まで格好つけていたものの、住所の所に差し掛かるとルネックスは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
コレムはもう一度高笑いした。
ハーライト達はまた制圧されて倒れこむ。
同じようにルネックスは全く動じない。
これでコレムの信頼は完全に勝ち取ったと言えるだろう。
しかしまだ付き合って何時間しかたっていない。これから深めればいいと思う。
「うむ、分かった。では貴様の宿をこちらから切ろう。その代わりこれからまた我々が手に負えぬことがあればまた手を煩わせる可能性があるが良いか?」
「もちろん、コレム様のお役に立てることがうれしいです」
十代で、これほどの言葉が出るとは。
ハーライトは驚くことすらできずに、ただただそれを口を開けて見つめていた。
「ルネックスさん! さすがです!」
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