僕のブレスレットの中が最強だったのですが

なぁ~やん♡

じゅっかいめ 夢と村かな?

 そう言えば、人間界も征服しなければならない。
 そう気づいたのは、フェンラリアだった。
 村長の家へ行く最中に、もう一度ラグナロクの話をしたところ、人間界を忘れていたことに気が付いた。
 そしてルネックスは「やりやすそう」と言って目標を人間界に定めたのであった。

 そんなほのぼの(?)した会話ももう終わりである。

 村長の家は屋根が石で、家は立派な木で作られている。
 ルネックスと比べる術もない。

「あーこんにちは」

「……何しに来た、汚れ者め」

「あ」

 村長はルネックスをにらみ、手当たり次第で探った墨汁を彼の頭の上から落とす。
 シェリアは思わず攻撃しそうになるがルネックスに止められる。

 フェンラリアもイライラしている。
 ロゼス達は笑い、フレアルは苦しそうな顔で交互にそれを見つめている。

「今日は話があるんです。墨汁は気にしません」

「ずいぶん変わったな、ロゼス」

「りょーかいでーす」

 ロゼスとその取り巻き達は一斉にルネックスの手と足を縛り、念のためにシェリアを追い出した。
 きっと攻撃されないためだろう。

 ルネックスは、耐えている。

「村を出ていくことになりましたので、その報告ですね」

「ふ、出て行ってくれて逆に感謝だ。しかし此処は村長としての威厳がある。何のために行くのだ? そして戻ってくることはあるのか? それはいつ頃だ?」

「僕は冒険者になりに行きますね」

「ぷっ、あはははは!」

 正直に言ったルネックスだったが、ロゼスは爆笑していた。
 フレアルはそれを憎そうに睨んでいるが、それに気づく者はいなかった。

 これもめずらしい事ではなかったため、ルネックスはそこまで気にしない。

「まあそういうことなので、出て行っていいということですね?」

「ああ。一旦の確認だ」

「それじゃあ僕らは行きますね」

 態度も何も全く気にせず、ルネックスは村長の家に背を向ける。

 フレアルが、動いた。

「待って! ルネックス待って!」

 一瞬でこの場がざわめいた。
 ロゼスのフレアルを止めようとしたその手は、フレアルによって払われた。
 村長は人を呼び、フレアルを捕まえようとするが。

「女の子に手を出すんですか?」

 シェリアの眼によって動きが制された。

「ルネックス! 私も連れて行って、私も行きたいの」

「いやでも。フレアルはこの村に必要な人でしょ? 僕みたいな汚れ者が連れていけないよ」

「ルネックスは汚れ者なんかじゃないわ! みんな村の、あいつらの嘘よ!」

 よく見ると、フレアルはすでに涙目。

 ちなみにフレアルは村長の孫であるため、村長は額に血管を浮かべ、歯をかみしめて怒りをこらえていた。

 さすがのルネックスもどうすればいいかわからなくなり、シェリアに助けを求めた。
 シェリアは追い出されたが、また上がってきた。

「ルネックスさん。ここは認めてもらうしかないのです」

「え? 連れてくの?」

「当たり前じゃないですかっ! 女心わかりませんか?」

「いやぁ、本当に分からないんだなあ」

 ルネックスは恥ずかしそうに頭をばりばりとかいた。
 村長は少し考え、ルネックスを指さした。

「わたしは嘗てこの村で最強なる魔術師ともいわれた身だ。勝負してみろ。傷ひとつでも与えられたらフレアルを渡そうではないか」

「ええ!? そ、村長と勝負ですか?」

 心配しているのは、負けるというわけではない。村長の威厳というものを損ねてしまわないかの心配なのだ。
 ルネックスの今の強さは、この村で敵う者などはいないだろう。

 中心都市の者達と比べたらまだ程遠いが、村長を倒すのはそれほど難しくはないだろう。

「フレアルは渡さんぞ?」

「ルネックスさん! もういいじゃないですか能力くらい」

 気づかれないようにポケットを覗いてみると、フェンラリアが「頑張って!」という顔をして親指を立てている。
 仕方ないのでルネックスは頑張ってくることにする。

 このままいってしまえばフレアルが気の毒だ。

「……分かりました。その勝負、受けて立ちましょう」

(これでルネックスが消せる……)

 実は村長はそんなことを考えていたのだった。
 もちろん有言実行なため約束は守るつもりだが、まずルネックスが自分に勝てるとは思っていなかったのだろう。

 この場では村長の立派な家が壊れるかもしれないため外へ移動する。

 ロゼスたちも興味津々にみに来ている。
 フレアルは力いっぱい応援している。

(これ勝たないと終わる!!!)

 そう確信したルネックスだった。
 いくらなんでもプライドくらいはあるのだ。

「先攻はどっちから行く?」

「もちろん村長からでよろしくお願いします」

「ふむ……【黒剣】」

 実は内心では感心などしていないがそれらしい顔で村長は禍々しい雰囲気の漂う剣を創り出した。
 完全にルネックスを殺す気満々である。

 シェリアは協力しないようにまた縛られ、強制的に後方へ下がらせられている。
 いざという時は、フェンラリアが身体強化をしてくれるらしい。

 これは、負ける気がしなくなってしまった。
 思わず余裕の表情を浮かべてしまった。

「なかなか余裕そうだな。しかしこの剣の威力を見たら言えんぞッ!」

 村長はルネックスにその禍々しい気が漂う剣を向けた。
 フェンラリアがルネックスの心に語り掛ける。

『どこからえたか知らないけど、それは聖神のつくりだした最下級のけんだよ。あの・・けんをつかわないとかてないとおもう』

 最下級でも今のルネックスの実力を上回るほどの力を持っている。
 実はそこまで差はないが、操っている人が村長ならばまた一味違う。

 ルネックスは小声で了承し、「あの」剣。通称精霊剣を構える。

 力がシェリアより弱い者は見えないだろう、その神聖なる光を。

「ふむん。わたしと真逆の剣か……果たしてお前にそれを操れるのか?」

「分かりませんね。ただ、練習だけはしましたよ」

 真面目に話すのはそれまでだ。

 両者の剣が振り上げられる。
 その瞬間ルネックスは自分の魔力、体力のほぼ全部を使って剣に強化をした。

 その理由は単純。
 早く旅をしに行きたいのと、単なる村の外への興味。

「えいやっ……」

 そこまで体力はなくなってしまったが、その振り下ろされた一撃は重い。

『ありゃ……こわれちゃうかな? まああたしにとってはいいことなんだけどね』

 そのフェンラリアの言葉と共に、両者の剣はぶつかり合う……


 その前に、ルネックスの剣は「気」だけで村長の剣を折ってしまった。
 いくら聖神が創ったものでも、所詮は最下級。

 大精霊の創り出した精霊剣と比べるべくもない。
 ましてやルネックスが全力で剣に強化をかけて振り下ろしたのだから、また威力は一回り強まる。

 ルネックスの剣は村長の額すれすれのところで止められた。

「どうです? 行かせてくれる気になりましたか?」

「ぐっ……こうなってしまっては何も言えんな、許可を出そう」

「凄いよルネックスー! 私尊敬するッ!」

「ルネックスさんは最強なのです!」

 シェリアは力だけでその拘束を解き、ルネックスに抱きついた。
 ルネックスは剣を仕舞い、シェリアの髪をくしゃくしゃと撫でる。

 フレアルも駆けつけて嬉しそうに目を輝かせていた。

 村長はもはや完敗である。

「それじゃあ私行ってもいいってことでしょ? ルネックスもきて! 一緒に荷物整理をしに行こうよ!」

「あ、待ってよフレアルー! は、早いよ!?」

「ルネックスさんもっと遅く遅くー! 私遅れちゃいますぅ!!」

 テンションMAXでルネックスの腕を引っ張り自宅に走るフレアルに、シェリアは慌てて付いて行く。

 村長は苦笑いで、ロゼス達は憎しみのこもった目でその情景を見つめ続けていた。
 まるでこれを、目に焼き付けるかのように。

……
。。。


 フレアルに聞くと、今日親は少し遠めの畑に出ていていないのだそう。
 話はきっと村長がしてくれる、とフレアルはニコニコ笑ってそう言った。

 しかしルネックスはちょっと心配である。

「るねっくすー! はーれむおめでとー!」

「ちょ、フェンラリア!? なんで出てきたの!?」

「なんでって、なかまでしょ? ばれちゃわるい?」

 確かにフレアルとはもう仲間だ。
 しかしそのフレアルはすでに驚きの目でこちらを見ながら固まっている。

 仕方ないのでルネックスはブレスレッドの事からドラゴンの事、旅をするに至ったまでのいきさつとシェリアにどう出会ったか、あの五年間何があったかすべて話した。
 それを聞いたフレアルは感動し、ルネックスに抱きついた。

「ちょっとフレアルさんずるいです! 私も!」

 そういえば「はーれむ」が何なのかは分からないが、この情景の事を言うということはわかった。
 そしてフェンラリアのニヤニヤしている表情を見ると、誉め言葉ではないということも分かった。

 シェリアはフレアルを押しのけ、ルネックスに抱きついた。

「……ちょっとみんな、旅出るの遅くなるよ?」

「あー! そうだった! ごめんねルネックス、私ちょっと奥に行ってくるね」

 お金のことはすでに話してあるため、必要ないことはフレアルも分かっている。

 そう。
 装備の問題なのだ。
 ワンピース姿で冒険者になると言われても少し気になるところがある。
 そのため着替えて武器もそろえることにしたのだ。

 フレアルの家は比較的金持ちなため、弓を持ってくる、と立ち去ったのだ。
 ちなみに着替えのためでもある。

「はあ……ずいぶんメンバーが大規模になったものだね」

「あたしはけいさんにいれなくていいよー? ふだんはぽけっとのなかだしね」

「呼吸できるのですか? それ」

「大精霊はもともとこきゅうなしでもいきていけるよ!」

 それはヤバすぎるのではないか、とメンバーそろって顔面蒼白だったのは間違いないだろう。

 絶対的に敵には回したくない。

 しばらくして、フレアルが出てきた。

「みんな! お待たせ」

 身軽なシャツにショートパンツ、それに弓を背負ったフレアルの姿は息をのむほど美しかった。
 横でシェリアが「うらめしやあ……」とつぶやいてしまったのも無理はないだろう。

 フレアルはその情景に微笑んだ。
 自分も驚かされてばかりだったのだ、せめてここは仕返しがしたかったのだろう。

「それじゃあもう行かない?」

「あ、そうだフレアル、お腹とか空いてない? 長旅になると思うから、しっかり腹ごしらえはした方がいいと思うんだ」

「そう。カプラーメンお願いできる?」

 この世界での間食はカプラーメンが一般的なのである。

 フェンラリアが頷き、四人分のカプラーメンを創り出した。それを見てまたもフレアルは驚いていた。
 しばらくの間、ラーメンをすする「ずるずる」という音が部屋に響き渡っていた。

「んん! おいしい! 私って旅とか初めてなんだよね、大丈夫かなあ」

「それなら大丈夫ですよ、私、過酷な旅とか……たくさんしたことありますしね……」

「ああシェリアさんごめんなさい、気に障るよね……そりゃ」

 ちなみにシェリアは17歳、フレアルは16歳と、二人ともルネックスより年下だったのである。

 そんなことも駄弁りながら、フレアルの両親が帰らぬうちに旅へでることにする。
 帰ってきたらまたネチネチ言われて止められる、とフレアルがいったためだ。

 日が沈みそうになって、四人はフレアルの家から出て、速足で草原に向かう。
 ちなみに目立たないように裏の道から。

 そう。
 シェリアを監禁していた場所を通って。

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