氷上の軌跡

峠のシェルパ

第二話 奮闘?第五十ー小隊

ルイーズ上等兵と共に森の中腹付近までそう早くないスピードで持って走ってきたが彼女が何も言わないので男である俺のペースので走ってきたのは少しばかし失敗だったかな…?

「…基礎訓練を怠っていたとは思いたくないけどもやっぱり堪えるよなこの森の中は」
高低差と傾斜が有るこの森の中は幾つもの道が分岐しては交差し初めて侵入したものを拒む、この森の中を目的地を持って進むというのは中々至難の業だ。

「……問題無し、むしろもっと急いでもいいですよ隊長」

とは言いながらも少しだけルイーズは肩で息をしているのが分かってやはり男と女は違うんだなと心のなかで思う、
「いや、フラッグのある地点までそう距離はないし、此処まで結構急いだから敵との遭遇もなし。
少しうまく行きすぎだろって思わなくもないんだけどこれ罠ってこと考えられるのかね?」
 「罠…の可能性…?」
簡単に言えば相手の小隊は作戦として防御に人員を割いて一方に五人配置をする、なんてことも考えられる訳で、
「悲観的すぎますね」

率直で悲しい反応ありがとうなルイーズ上等兵そこはほら用心深いとか計算高いとかもっと言い方が有るんじゃないかって思うんだけど、隊長打たれ弱いから手加減しような?
やめてくれよとジェスチャーで表現したら「何故?」って素に近いトーンで言われたんだけど何このポテト大好きっ子怖い!?

「まぁ、なんだこんな見ず知らずのやつと一緒に戦争するかもしれないなんてゾッとしない話だもんな…」
公国の中にも自分の国の現体制を支持する派閥と新たな東の帝国から連邦になった動きを倣っていわゆる
「革命」を起こそうとする連中もいるのだ。
不安定化する公国に連邦は世界革命主義を掲げ手ぐすねを引いてる、2つの考え方が互いに対立し闘争を始めそうな緊張感があり、連邦の介入が待ったなしといったところが今の公国の現状だ。
連邦から地理的影響力の強さも有るがもう2つ、老帝国と新帝国が有る。
この2つの帝国は毛色が全く違うが反連邦という点が一致し公国への援助を表明している、
この国の中で内乱が発生したとしてもそれは帝国と連邦の代理戦争の体を表しているようだ。
と難しい話ばかりしても仕方ないのでルイーズ上等兵は新帝国からやって来た肝いりだということを覚えておこう、隊長とのお約束だぞ☆

「何故隊長が虚空に向かってピースサインをしているのか分かりかねます」

淡々とした反応だがルイーズ上等兵は無口なものとばかり今まで思っていたがツッコミどころがあればちゃんと会話が成立するのか…てっきり鉄仮面でも被ったかのようにまつげすら微動だにしないかと思っていたが…ターラーの奴、でまかせ言いやがって。

「目測での敵との遭遇もなしとなると…これ本当にがら空きってことにならないか?」
ルイーズも辺りにアンテナを張って(比喩的意味なのであしからず)はみるものの辺りに気配も無く人影すらない、
獣道を使って道なき道を来た訳でもなし、これはいったいどういった事だろうか…

「そのような場合は恐らく待ち伏せされている可能性が高いと思われます。」
なるほど、その手も考えられるか…そしたら此方の行動は果たしてどこまで筒抜けなんだろうな?

「とは言いながらも周辺警戒する気がないんだがな…」
うちの小隊に言えることだが女性が多いためあまリに重い銃は持てないし携帯できたとしても接近戦になれば一体どうなるか想像は容易であるから女性の身体能力の向上には何か使えないかと各国は考えている。

表立って大国間が睨みあうような行動をしている国は少ないにしても大国間の軋轢の根の深さは建国当初から今に至るまで遡るものも有って此処最近の戦争の無さは嵐の前の静けさだと俺の小さなときから先生が言っていたな…

連邦は巨大な乗り物を作っているとは聞いたこと有るが実際に軍事式典の様子を探りに行った連中の話によるとそんなのはいないと太鼓判をおされたし実際に式典の様子を写した写真にも見せた貰ったが姿も形もなくただの風のウワサなのかもしれない。

「新兵器と言えばルイーズ上等兵の国は工業が今盛んらしいが何か情報とか無いの?」
ルイーズ上等兵は自分の国の話はあまりしないが余り好きではないのか重く口を閉ざすばかりだ。

「まぁ、こんな辺鄙なところに送られるんだから訳有ってのは分かっているけれど国があるってのはいい事だよ、その地に文化があって言葉があっても国を持てない連中だっているんだから」
言ってから気付いた俺は馬鹿としか言えないのはこういう所で新帝国自体がかなり荒業を使って成立した国なのでその中にはそのことを快くは思っていない人々もいると言うことだ。
ルイーズ上等兵が祖国を余り好きではないと思ったばかりなのにその感情を増幅させてしまうような言動は避けるべきだった。
気まずい沈黙が俺たちの間に流れるかと思いきや、それはけたたましい銃声によって中断される。
ルイーズも何時も何を考えているのか俺にはよく分からないその表情のまま横っ飛びに上手く回避していた。
「敵は真正面十二時方向、ブッシュに隠れた火点があるな!! 今までうんともすんとも言わなかったのは確実に有効射程に入れるためか!?」

周囲が開けた道に沿って此方はまんまと敵の拠点近くまでに来てしまったがこれは下手をすると孤立化して包囲殲滅される流れではないのか…?!
頭のなかには嫌な予感しかしないが一先ずはルイーズ上等兵と共に12時方向からの射線を切らなくてはなるまい。
ころころと道の脇の木の陰に隠れるためなるべく小さくなって移動したのはいいが、隊長である俺に向けてではなく、依然としてルイーズが咄嗟に隠れた方向に向けて色の着いた弾が飛んで行くのは何か腹立つ。

こういう時は柔軟に臨機応変になんて言うやつが居たらそいつを俺は蹴飛ばしてやりたい。
此方の動きが読まれていて戦力比が異なる時点でその作戦を考えたやつの責任で撤退を始めるべきなのだ
「それを考えると今回の戦犯は俺になるな…」
ルイーズを援護するために撃てれている方向の茂みに適当に援護射撃でもしてやろうかと思ってはみるが他の戦況が動いているのかも気になるところでは有るし…

「隊長、発砲許可を下さい。」

小さくしかしはっきりとした低めの声の主は間違いなくルイーズ上等兵のものであった、
二つ返事で首を縦に振り小銃を構える、片膝を立て茂みの切れ目から冷静に敵の射線を観察しているのは俺にも分かる、(そんなことをしている暇があるなら自分も援護に回ればいいだろとあとになって気づいた)
確かルイーズ上等兵が本国から持ち込んだ小銃は確か旧式のボルトアクション式のだった気がするが、それで本当に戦えるのかと言えば疑問が残るのであるが…
相手取っている恐らく定点に置くタイプの重機関銃に対しては分が悪すぎやしませんかね?

「kein problem」
以前ルイーズがこう言っていた時は作戦が一応成功したのだが攻め抜く前に守備隊が全滅してしまったという苦い過去を持つ。

静かに放たれた小銃の銃弾が一度ルイーズへの弾幕が途絶えたのには驚いたがその代わり此方に攻撃対象が切り替わったのは相手の隊員許すまじと思ったよね。

「此方はビクトリア少尉です、高台に向っていた敵兵およそ三名と思われますが、撤退を開始しているように見えます。」
「各員状況報告、此方小隊長敵陣にて重機関銃拠点と交戦中だが膠着する可能性あり、どうぞ」
定時の報告は許可していないが的に動きがあったので報告をしてきたのだろう。無線は二人一組のどちらかに渡してあるが敵弾に倒れると無線は使用不可能となる、陣地戦の設定上はの注釈はあるが…

「了解、高台の周辺をスポットできる近くにはサルランネン軍曹がいるだろうから合流後付近の捜索を頼む。」
「ターラーだけどよ、いいか隊長殿。」「どうした?」「残念ながらこっちは無傷とは行かなかった、
一名が脱落したぜ、」「…ルイネンか…」「すまん、止めたんだが敵の裏かこうとして失敗したみたいだ。
」「まぁ、通信もできないからこっちからはなんとも言えないが状況を打破しに行っての返り討ちならまだ褒め様は有る、誰かさんみたく撤退するときに敵に背中向けて堂々退場するなんてのは流石に信じがたいからな~。」

情報共有のため無線は俺の操作でチャンネルを操作できるが俺とターラーのこのやり取りだけはわざと全てのチャンネルに流したのは過去にそんな出来事が起こってしまったからである。
もちろん、今脱落してしまったルイネン上等兵の事ではないということを彼女の名誉のために言っておこう、俺達が言いたいのは
我が小隊の陣地を守っている俺よりも階級が上な癖リーダーシップを取りたがらない幹部生の事なのだが当の本人は全く気にしていない様子でこの訓練に参加しているのが俺とターラーは気に入らないのだ。

「昼寝に忙しい幹部候補生殿にはわからんだろうがやることはいっぱいあるからな、こっちは忙しいのでターラー隊は高台を押さえつつ迂回してくるであろう舞台に対して威嚇射撃を行い上手いことサルライネン軍曹やビクトリア少尉の射程範囲内に上手いこと誘導してあげてくれ、今回ばかりは勝っておかないと俺の名前に最弱とか無勝とか付いて来そうだから隊長さんにそんな二つ名付けたくない方は是非検討してくれたまえ、オーバー」

さて、一先ずは街道上を射線としている固定式の重機関銃をどうにかしないといけないな、
それ以外に敵陣地へ向かうルートは高台の近くまでいかないと明示されている敵陣には向かうことができない。

「かと言ってなぁ、街道に見張られていない場所を探すってのも…」
時間を無駄に使ってしまうだろう、その間にも敵は増援を要求する可能性もある。

「最小限の戦闘をおこない防御線を踏破または突破する必要あり、と判断いたします」

やるしか無いとは思うが実践演習も兼ねた本物の銃を片手に味方になるべき友軍と銃撃戦するってのはなんともやる気が起きない事だ。

「よっし、ルイーズ上等兵、敵の斉射した方向を観測せよ、俺が露出して過度に移動する、有無は言わさずその方向へ攻撃を開始しろ」

こう言ってやれば隊長危険です、私が行きますとか勝手に飛び出すルイーズ上等兵の姿が見られ…

「そうですか、では行ってらっしゃいませ」

え…マジ?

おい、こっちを見ながらキョトンとするんじゃねえよおおおお!!
とかなんともノリが悪いルイネン上等兵と軽口でそんなことを言った自分を恨みながら全力疾走でダダダッ
っと銃撃の飛び交う中を上手いこと街道を出来るだけ早く走り抜け無くてはならない、分が悪い賭けだが
東洋には兵は神速を尊ぶという格言も有るそうでターラー隊が優位な地点を押さえている内にこの模擬戦を終わらせてしまいたいのである。

回避運動でジグザグになんとか銃撃を交わし走り抜ける、反撃も一切できないのが癪だが辺り構わず撃っても銃弾の無駄である、俺は不経済的なことは嫌いだ。

重機関銃と言っても撃ってきた方向は何とか分かっているし、射手さえ撃ってしまえば無力化出来るしこっちが利用する事も可能だ。
少し大きな木の裏に隠れるか隠れないかのタイミングでルイネン上等兵が一発だけ攻撃をした後には暫く警戒してももう一発も銃弾も此方に向けて来ることはなかった。

「至近弾にでもビビって退散したのか、それとも…」
油断して頭を出すとか言う馬鹿な真似はしないがあれだけ威勢良くぶっぱなしていた奴にしては大人しくなりすぎでは無いだろうか?

「周囲を策敵する…と言うのは?」
分散するのも手だがルイーズ等兵は突っ込みすぎるところがあるからなぁ、相手は定点に置かねばいけないと予想される重機関銃、ルイネンが予想した位置とずれていて此方が出てくるのを待ち伏せていたら…?

「隊長、本末転倒です…今は間違う事の出来るチャンスなんですから」

…なんだよ上等兵に一隊長が諌められるとか格好つかねーしやだやだ、これはターラーには言えねぇな。
「そうだな上等兵、俺はこんなに思い悩む様なタイプじゃないし大層な事を考えるような頭は生憎持ち合わせていないのだった」 
獣道を回り道をしてルイーズが把握した地点に回り込んでやろうかとも思ったがそんなのはやめだ、こっからは見えないが先の街道へ戻り重機関銃を陣地から分断することにしよう、
それもリスクを伴う事は間違いないが高台を押さえてる連中からも報告も無い、ここは少し強硬な手に転じないと連携という基本的にな性能差で崩される恐れがある。
「上等兵、これより接敵の追撃及び本拠地の制圧へ尽力する、援護せよ」 「…いえっさー」

なんか、いやに素っ気ないんだが…何時ものこととして処理しようそうしよう…
白兵戦で大事なことは兵の統率力とか勝負処を見極める事だ、
一番いいのは戦う前から勝負が決まっていることで相手の無条件降伏なんだが、そんなことが起こるわけがないのは俺だって分かっている…が最悪のシナリオが起こった場合に備えて俺たちはこうして日々を浪費してこんなことをしているんだ少しは誉めてくれよ?
「実は色々と補助金が結構付くからなんて言えないよなぁ…」
衣食住そろってるしそんなに悪くも無いんじゃないかとは思うんだが、下手したら死ぬなんてのはどんな仕事しててもある訳だしな
「思考はクリアにすること…雑念は思考を鈍らせる」
上等兵が駆け出すのを見て隊長が遅れをとるわけにはいかないと
この間に先の重機関銃が位置を変えて此方を狙っていないことを祈りながらルイネンを追いかけていく、 
「方角としてこっちで合っているはずだからこのまま事前に協議した予想位置を近い方から回る、攻めづらい場所に敵陣地があったら厄介だなー」
作戦の立案する際に相手の布陣を考えて陣地がどこに決めるかは大体の予想をつけるのだが、その条件はお相手にも当然当てはまるわけで先に拠点を制圧するか相手の全滅が条件のこの実践演習、体力戦の意味合いもあるので男女混成隊のこの小隊には不安が残るが…ここで
「隊長、ヘッドショット決めましたわ」
「…撃破スコア1」
そんな不安を払拭するかのように撃破報告が無線端末から確認できた、
狙撃において我が小隊には無類の変jin…もとい天才と天才的な二人がいるので遊撃隊としては大いに活躍が期待される。
なんかあの二人ライバル意識でも芽生えてるんじゃね?

「こっちの脱落はルイネンだけか…?」
守備隊との連絡が依然としてないのは気になるところではある、
あの幹部候補生様報告サボってるわけじゃないよなー

「遠距離用の双眼鏡にて敵影を捜索中…!
隊長、敵陣地を発見しました」

「此方陣地守備隊ー隊長さーん、すまーないねー」
隣から勝ち筋を見つけた淡白な声と
無線から露骨に人を小馬鹿にする様な声がした。

次回へ続く…第五十一中隊前進せよ。

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