ラトキア騎士団悲恋譚

とびらの

おまけの挿話

「……ん。シェノク、この書類……バンドラゴラの婚姻申請書。妻の名前が、トロワとあるが……」

 「ああ、俺も驚きました。あの兵士長のトロワですよ」

 「そうか。……そうか……」

 「? どうしましたか」

 「口惜しいとまでは言わないが、正直残念だ」

 「ああ、彼女は優秀な教官でもありましたからね。いますぐ辞職するわけではないでしょうが――」

 「ちょっと狙っていた」

 「ぶふぉっ」

 「可愛いよな彼女。小柄で丸くてふわふわで、でも物怖じしていなくて、ああいうのが家にいたらいいなあと」

 「そ、そそそ、そうですか、そうですね。そうですかそうでしたか。そういえば大した用もないのに直参したりしてましたね」

 「折りを見て口説いてみようかなと思っていた」

 「ぶほっ」

 「……けど、折りが来なかった。というか雑談が始まらなかった」

 「そ、そですね……彼女も無口なほうですからね……団長とだと会話にならないでしょうねねね……」

 「少しお喋りが過ぎる、あちらから強引に話しかけてくるくらいのほうが、俺には合うのかもしれない」

 「……そうですかね(あなたにそれが出来る生物がいるのか?)」

 「……シェノク」

 「はい?」

 「……前から思っていたのだけど……全ラトキア星人に、俺が普通に恋人が欲しいって願望くらいあるのだと理解させるには、どうすればいいんだろう」

 「無理だと思います」

 「……。そうか」

 「ですね」

 「…………。……どこかの星に、可愛い子落ちてないかな……」

 「……。見つかるといいですね」

 「……」
 「…………」

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