ラトキア騎士団悲恋譚

とびらの

新人騎士アレイニ②

 ラトキア王都で暴れるテロ集団は、自らを『光の騎士団』と名乗っていた。

  テンションだけが加熱して、その訴えがどうにも聞こえづらい彼らの言い分を聞けたのは、ラトキア騎士団が制圧に動いてからのことである。

  捕虜にしたテロリストらは、ほとんどが民間人である。簡単な尋問で、一様に同じようなことを口にした。

 「星帝は玉座を降りるべきだ。今の政治家をみなクビにして、民間人から新たな人材をいれよう」
 「そして『旧体制の復活』という、『新しい風』を入れよう」
 「現星帝がこのラトキアの王である歴史は過ちだ。その証拠に今の政治になってから、ラトキアの民は苦しんでいる。
  貴族からスラムの民衆までもがみな生活苦にあえぎ、つらい生活を余儀なくされているのだから!」

 「……はあ」

  アレイニは嘆息した。

  尋問と、ときには自白剤も利用して聞けた彼らの言い分は、おおむねこんなものだった。

  とにかく現在の政治が気に入らない。だから変わって欲しい。しかし具体的に改正案があるわけではなく、ましてその試算などなく、代わりに立てたい人材がいるわけでもなく、とりあえず自分たちに良いようになればそれでいい。

  ――かような言い分を調書にまとめ、もう一度嘆息。

  一般騎士共用の執務室。長机の上で書類をまとめ、アレイニは首を回して伸びをした。
  我ながら、中身のない調書だ。こんなものを出してナニカの役に立つのだろうか。

 「よくわからないなあ。良いようになれば……って。現星帝が即位して、オストワルド将軍と政治を始めてからずっとラトキア経済は黒字だし、餓死者も失業者も減り続けているのになあ……」

 「そこがポイントなんだよ、アレイニ」

  後ろから、柔らかな男の声。振り向くと、深い緑の髪をした男が立っていた。

  長身に、戦士らしい引き締まった体躯。年長者らしい穏和な笑みを浮かべ、当たり前のように近づき、当たり前のように隣に座った。

  独り言を聞かれた気恥ずかしさに身を縮め、アレイニはとりあえず、卑屈な愛想笑いだけ浮かべて見せた。

 (ええと……見たことがあるような無いような。軍服だし、騎士なのは間違いないけど、名前……名前が、ええと……)

 「バンドラゴラ。心配しないで、古株なだけで役職なんかないヒラの騎士、通りすがりのモブキャラだから。名前なんて覚えなくってかまわない」

  笑顔のまま、彼。
  いや、この笑顔は生来の造形だ。たれ気味の眉に細い目、持ち上がった口角が、男のそのまま素の顔なのだった。

 (……毒薬みたいな名前だけど、優しそうなヒトだ)

  アレイニはそう思った。

  それより少し、気になることを言っていた。肩は縮めたまま、アレイニは視線だけで男を仰ぐ。

 「えっと、そこがポイントって、なんのことですか?」
 「テロリストたちの言い分。事実、現星帝の政治経済は成功している。景気は上向き、貧民は減った。しかし生きづらくなったというひとがいる。このロジックがわかる?」

  む、とアレイニはうめく。そんなこと、戦闘集団の騎士ごときに煽られなくたってわかる。

 「増税されたんでしょう。それで福祉が充実しても、働いてる人間からはやりがいを奪ってしまいますね」
 「逆だよアレイニ。さっき自分で言っただろう? 失業者が減ったと。つまりは労働者が増えた。それによって国庫には所得税が入り込み、無収入の世帯への福祉――いわゆる生活保護という費用が減った」
 「――じゃあ、彼らはつまり……その、保護を受けていたひとたち? 今まではのんびり暮らしていたのに、働かされるようになったからっ?」

  アレイニは目を丸くして叫んだ。頷くバンドラゴラ。

 「そういうこと。もちろんその本音は綺麗な大義名分で覆われてるし、彼ら自身、自覚していなかったりするけどね。
  ラトキア王都ではそもそも就労の義務があるけども、『働けない理由』があれば致し方なしとしていた。その基準が極端に厳しくなったんだよ。足が痛いならデスクワークをやれ、右手がないなら左手で電話番をやれ。頭が悪いなら鉱山を掘れ、対人恐怖症なら役所地下で倉庫管理、前科者は兵士になりなさいと。よく言えば職業斡旋という、福祉なわけだけど」
 「……悪く言えば?」
 「強制連行、奴隷徴集。拒否し続けたら逮捕懲役、刑務所で強制労働っていうオチがつく。斡旋先はぜんぶ国営の公共事業で、生活保護と大差ない薄給だしさ」

  アレイニは思わず、笑ってしまった。

 「それで、公務員の給料という支出も節約ですか。……うーん。まあ、相互利益ってことだとは思いますけど、つらいひとにはつらいでしょうね」
 「それと、まあこれは増税の一種だけども、貴族や大商家の連中には莫大な相続税がかかることになったんだ。跡継ぎに正当な財産後継理由がなければ、総資産のおよそ76%もが国に持って行かれる」
 「それは……聞いたことがないです……」
 「ほんとに八割弱もとられる間抜けはいないよ。しかしその跡継ぎが、文字通りちゃんと跡を継ぐ――仕事を引き継ぐ、すなわち『働いていれば』、その相続税は二割にまで減る」
 「となると当然、親は子を働かせますね」
 「ああ。よほどの大貴族でもなければ、八割り引きされた資産を兄弟で分配すると、一生食べてはいけないだろうしね。まあこれらは全部、脅しみたいなもんなんだよ。徴集や財産差し押さえが嫌なら、とにかくちゃんと就活しろと」

  つまり、とバンドラゴラ。

 「国の支出要因を、そのままクルリと収益要因に変えた。人材豊富な公共事業で、道路や上下水道も整った。介護や保育事業も人手を確保して、そうして世帯収入が安定した――このサイクルがラトキア経済発展の秘密さ。あと、治癒見込みのない重病患者と七十歳以上の老人に、安楽死を認めることになった。これがけっこうデカいらしい」
 「あら、それは、王都設立以来ずっとあったのでは? 赤ん坊が生まれてくるのとおなじだけ、死にゆくものにもその権利を――ラトキアの、神話時代から続く概念でしょう。それに実行するヒトはとても少ない――」
 「施設はあった。けど、通知がいくようになったんだよ。病気なら医者から、年寄りには年に一度。安楽死しませんか? って広告が」

 アレイニは目を見開いた。これは本当に知らないことだ。しばらく絶句し、震える声でつぶやく。

 「そんな……ひどい。安楽死だって、ようするに自殺じゃないの。それを国が応援するようなことを……」
 「選択は本人の自由だ。ああそうだ、その費用が完全無料になったんだ。安楽死すれば、前日のパーティ、安らかな眠りに、火葬、葬式代まで国が出すって。いままでは七十代で二割、八十代で四割くらいで、自然に死にたいという勢が多いけど……ここから年々、安楽死希望者は増えている。そのうち、年齢関係なく心身の障害者は受け付けるようになるんじゃないかとおれは思うね。その善し悪しは別としてさ」

  アレイニは息をのんだ。

 「……よく……ご存じなんですね」
 「ん? 騎士には参政権がある。このくらいの政治経済はみんな覚えさせられるよ」

  こともなげに、バンドラゴラ。

  バンドラゴラの話は、去年や今年に出来た法ではなく、ずっと以前から施行されていたことだろう。しかし自分は、そんなこと何も知らなかった。アレイニが無知なわけではなく、多くのラトキア人が自覚をしていないはずだ。身内にその『通告』を受け取って、初めて存在を知るのではなかろうか。

  いや――アレイニは、きっと、知っていた。もしかしたら学校で習ったかもしれない。だが記憶していなかった。アレイニが受ける試験には出なかったし、自身には関係のない話だ。教科書を一読し字面だけをなぞっても、己の生活の中に落とし込んではいなかった。

 「……肉辞典……」

  ぼそりと、つぶやくアレイニ。首を傾げるバンドラゴラに、苦笑して言った。

 「肉辞典って、かつての上司が、私にそう言ったんです。知識をつめこんだだけなら、百科事典のほうが軽いだけ便利だって。……その通りですね。やっぱり私は、なんの役にも立てない……」

  バンドラゴラが笑う。

 「なんだそれ、ひっどいアダナつけるなぁそいつ。ただのドSでしょー」

  生まれつき笑顔のこの男は、本当に笑うとなぜかちょっとした凄みを帯びる。声を立てて大きく笑うと、突然、アレイニの背中をバシンと叩いた。

 「まっ、おれ達はあのテロリスト共みたく『働きたくないでござる』なんて言ってられない、これからも毎日アタマとカラダとココロを使っていかなきゃならんわけだから。元気出していきましょう。
  そんなに背中丸めて座ってたら、肺がつぶれて息苦しいだろ。食い物もつかえちゃう。あんたが騎士団に来てから一週間、ずっと一人でメシ食ってるのみんなちゃんと気にしてるからな」
 「えっ?」
 「……雌体優位みたいだし、男臭い世界で、絡みづらいかもしれないけど。みんな一緒に働く仲間だ。ゆるーくね。てきとーにね。のんびり仲良くやりませんかというお誘いで、隣に座ってみたわけ」

  そう言って、彼は立ち上がった。丁寧にイスを戻して、若干照れくさそうに頬を掻く。

 「そんだけ。お邪魔しました。……おれたちは食堂じゃ大体、ドリンクサーバーのそばを陣取ってるから。時間が合ったらまたね」

  バイバイと軽く手を振ると、少しだけ早足で去っていく。

  扉の向こうに消える背中、遠ざかる足音――バンドラゴラの残した気配を追いかけながら――

 アレイニは、ぼそりとつぶやいた。

 「……あれは……タラシだな。……気をつけとこう」

 バンドラゴラの助けもあり、調書と報告書はそれなりに見栄えが良くなった。

  団長執務室へ届けに行くと、黒髪の騎士団長は留守であった。留守番のシェノクに預ける。
  なんとなく、クーガの居場所を訪ねてみる――と、テロ鎮圧に出征しているという。

 「……一昨日、どこかの遠征から帰って、昨日アジトをひとつ潰したところじゃなかったです?」
 「こういうのはなるべく一気に制圧した方がいいんだ」

  そういうことじゃないんだけどなー、と思いながらも、口に出すのはおこがましいだろう。

  シェノク自身なにやら忙しそうである。紙の報告書と将軍や警察へのメールとを同時進行で作成しながら、顔も上げずに言う。

 「これでも、あんたが来てくれて助かってるよ。調書をとるのは時間を食う」
 「……雑用の下請けしか、出来ませんので」
 「そういう意味じゃない。自白剤の効果が高いんだよ。民間人上がりの捕虜には拷問もできないし、ダメージも与えられないからな。あんたの、相手の体重やアレルギー体質に合わせた調合は的確で速い。大したもんだ」

  久しぶりに褒められた気がした。
  嬉しくなる――だが、それはキリコの残したレシピによるものだと気がついて、アレイニはすぐにまた落ち込んだ。

  赤い髪の青年は、アレイニのほうを見もしない。
  作業を続けながら、そのままの口調で続けた。

 「情報は兵器だぞ。俺たちは強い。負けるなよアレイニ」
 「……。失礼します」

  アレイニは立ち去った。


(……俺たちは強い……か……)

 歩きながら、アレイニは騎士達の言葉を反芻していた。

  騎士団詰所と、寮棟とをつなぐ渡り廊下だ。空はすでに、夕焼け色に染まっていた。
  夏の宵である。就業定時は過ぎ、残業理由がなければ、自室でくつろいでもかまわない。

  アレイニとすれ違いに、何人もの騎士が忙しそうに棟を行き来していた。定時であがる騎士は自分だけなのかもしれない。

  騎士団長どのの活躍により、次々に潰えていくアジト、増え続ける捕虜。一枚岩の組織ではないために、彼らひとりひとりから調書を取らなくてならない。そうして得た情報をもとに、騎士団は対策を練っているのだ。

  小走りで自分の横を抜けた騎士、その後ろ姿をなんとなく見送って――
 不意打ちの衝撃に体が揺らぐ。
  後方から走ってきた騎士と衝突したらしい。

 「どこ見て歩いてるんだ。気をつけろ」
 「す、すみません」

  自分こそよそ見してたからぶつかったのでは――と、一瞬口に出そうになったが、とりあえず素直に謝っておく。

  下げた頭を戻しても、騎士はまだそこにいた。アレイニの前に立ちふさがり、そのまま、アレイニを見下ろしている。

 「……? あの……すみませんでした」

  もう一度謝る。くすんだ水色の髪の男は口元をゆがめ、アレイニを上から下まで眺めた。
  ぞくりと総毛立つ。こういう視線は、アレイニの半生でなじみ深い。

 「……雌体優位か。お前が研究所から来た新人だろ。噂は聞いてたが……美人だな」

  そら来た、と鼻で笑う。不思議なことに、雄体化しているときのほうが雌体時よりも下卑た視線をもらうことが多い。
  アレイニは毅然と胸を張った。

 「褒めていただきありがとうございます。しばらく騎士団でお世話になります。よろしくお願いします。では――」

 「今度雌体化するのはいつだ?」

  さすがに、アレイニは眉をしかめた。

  雌雄同体のラトキア人に、性転換の時期を尋ねる――それはこれ以上なくストレートな口説き文句であった。場合によってひどい侮辱になりえる。

  そう、踏むべき手順、重ねるべき親交を飛ばしてのこの言葉はただの侮辱だった。

  ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた騎士。

 (……なんだ。やっぱり、騎士は紳士貴族の集団、清廉なる聖徒だなんて大嘘だったんだ。三女神への誓いなんて形だけなんだ)

  下衆な目つきは、下町のチンピラとなんら変わりはない。
  アレイニは無言で唇を結び、騎士をにらむ。瑠璃玉のように美しい瞳は、男を震え上がらせる力など全くなかった。騎士の手がアレイニの腕を掴む。

 「痛っ――!」

  指先が二の腕に食い込み、アレイニは小さくうめいた。

 「柔らかい腕だな」

  男が笑う。戦士の握力に潰されて、アレイニの腕が骨まで軋んだ。

 「は、離してください!」
 「こんな女のような肉で、ラトキアの騎士だなんて名乗ってもらっちゃ困るなあ。出向してきた科学者だって、場合によっちゃ駐屯地にも出るんだろう。足手まといだぜ」
 「私は、私は戦いなんて――」
 「お前はもう戦っている。戦場には出なくても、町でさらわれるかもしれないぞ?」

  ギクリと身をこわばらせる。騎士は声を立てて笑い、アレイニの腕をさすると、腰を撫で、立ち去った。

  小さくなっていく背中を、アレイニは全力で睨んだ――睨むことしかできなかった。


  枕に顔を伏せ、脱力する。
  これまでの自分なら、ただ打ちひしがれ、涙ぐんでいただけかもしれない。
  だが、今日はなにか腹の中に、熱くくすぶるものがある。

 情報は兵器――
 肉辞典。

  シェノクの言葉と、かつて言われた侮辱の声が重なる。

  酷い侮辱だと思っていた。しかし今は、ようやくわかってきた気がする。知識は使わなければ意味がない。己が得するために、利用しなければいけないのだ。

  ――法律とは、それを知らぬ者から搾取して、知っている者だけに恩恵を与えるものである――

「……私は馬鹿だ。賢くならなくちゃ。……本当の意味で、もっと、賢い人間に……」

  そのことを、アレイニは社会人となり、ようやく理解しつつあった。

  
  それから、ひと月後のことだった。

  朝の支度中、己の長い髪に、蜘蛛がついているのを発見。アレイニが悲鳴を上げるより早く、ミルドがひょいとつまんで取ってくれた。

 「あ……ありがとう」
 「ラッキー。今朝のデザートはメロンケーキだ」

  アレイニは今度こそ悲鳴を上げた。

 「ちょっと! 頼んでないことを勝手にして、騎士団寮生活ではなにより貴重なスイーツを横取りしないでくださいよ!」

  ミルドは笑った。

 「だったら早く、虫けらくらい平気になりな。このラトキア星で、虫や獣が滅多に出ないのは王都内だけなんだから。フィールドワークはもちろん、戦場になんて一生いけないだろう」

 「私は……戦わないから。オニシデムシが集る死骸の道なんて行きません」
 「? どういうこと」

  問われて、初めてアレイニは、己の立場を同僚に会かしていないことを思い出した。

  己は臨時でやってきた科学者。正式に騎士になったわけではないこと、今回のテロが制圧できれば、じきに騎士団を離れること――

 妙に長くなってしまった話を、ミルドは黙って聞いていた。そしてすべてを聞き終えた、彼の言葉は短かった。

 「そうだったのか」

  それでもう、何も言わない。軍服を羽織ると、勝手にひとり、部屋を出ていく。これはいつものことだった。いつでもマイペースで愛想のない男。彼の去ったあとを、アレイニは何となく見つめていた。

  ――朝食のバトンから、メロンケーキを避けておく。
  ここしばらく、アレイニはバンドラゴラのグループの末席に座らせてもらっていた。だが今日は、すこし離れた、寂しくて目立つ位置に着く。そうしてしばらく、アレイニは待った。
  いつもなら、アレイニが席に着くより前に、どこからともなく現れるミルド。今日はなぜか、完食してもまだやってこない。
  食べ終えた騎士達が去り、食堂からひとが減っていく。ひとかげもまばらという頃になって、アレイニはあきらめて席を立った。

 「ごちそうさまでした」

  カウンターに食器を返す。手つかずのメロンケーキを、愛想の悪いスタッフが黙って受け取り、ゴミ箱へ落とした。


  ミルドがこのとき、食堂にいたのかどうかは、いくら時が経ってもわからないままだった。

  ――先日確保し、帝都中央の拘置所へ護送中だったテロリスト達が脱走、同時に拘置所が何者かによって爆破、襲撃。それにより、テロ団幹部を含むおよそ250名が脱走。
  護送車の運転手と警備員を殺害。
  内部手引き者がいたらしい、宇宙船保管施設へ進入。管理担当を脅して船を稼働させた後、殺害。
  そして駆けつけた騎士ひとりを殺害し、彼らは宇宙へと飛び立った。

  騎士団詰め所は、蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。残党狩りに出ていた騎士団長も戻り、警察総監、兵隊長、将軍オストワルドが執務室に詰める。

  シェノクはその補佐にまわり、もしかしたら彼が一番忙しく動いていたかもしれない。

  ゆえに、展開の説明と、ラトキアの騎士ミルドへの黙祷は、ヴァルクスの指揮によって行われた。

  彼の口から、元騎士であるディフティグ、おそらく内通者であったのだろう事務次官ヒム、そしてキリコの名前があがった。少なくとも彼らは絶対に確保せなばならない、と声を張る。

  アレイニはその口上を、なかばぼんやりと聞いていた。
  宇宙船がどこへ進路をとったのか分析せよと、アレイニが名指して命じられたのも、了解と簡単に頷いた。

  忙しい一日になった。
  明日からもきっと忙しくなるだろう。


  疲れ果てて、部屋へと戻ったアレイニ。

  彼が声を上げて泣いたのは、暗闇の中、たったひとりになったときだった。


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