職業魔王にジョブチェンジ~それでも俺は天使です~

黒水晶

この土塊どもに祝福を

「ダンジョンの攻略法を教えてやるよ」
 
 そう言いながら、笑顔を見せる。

 ダンジョンが邪気を放っていた。この瞬間、彼の中でこのダンジョンは攻略対照から殲滅対照に変わったのだ。

 クレアシオンは邪神のダンジョンや堕ちたダンジョンを攻略するのも仕事の内だった。それらのダンジョンを放置すると悪魔が次々と生まれて、魔王が生まれてくるからだ。見つけたら潰す。これはほぼ、条件反射のようなものだ。

 だが、数多ある世界にはダンジョンが無数にあり、邪神のダンジョンも数え切れない。ダンジョンを造る側もバカではなかった。創意工夫を凝らし、侵入者から我が身とダンジョンコアを守ろうとしている。

 真っ正面から挑んでいたら時間がいくら合っても足りない。そこで、考えられたのが『クレアシオン考案リーゼちゃんでも出来る!!楽々ダンジョン殲滅法』だ。

 シュヴァルツやヴァイス、ギルなど、騎士道精神を持つ鬼狐の魔物は真っ向勝負を挑んでダンジョンを潰して回っていたが、他の鬼狐の魔物達はこの方法を使っていた。早く潰して次のダンジョンに行かないと一つ潰している間に違うダンジョンが造られていることがあるからだ。それに、真っ向勝負をしている間にダンジョンコアを持って逃げられる、ということすら起こりうる。なら、素早く潰した方が早い。

――リーゼちゃん元気かな?パパは出張で異世界に邪神狩りに来ています。数十年は帰ってこれないけど、いい子にしてるんだよ。

 リーゼ=ゼーレ=サリュアンジュ=シュヴァーレン。クレアシオンの愛する子供だ。と言っても実の子供ではない。邪神によって滅びかけた世界で、邪神狩りの帰りに彼が拾ったバスケットボールサイズの卵から生まれた鋭い牙と爪を持ち、鞭の様な尻尾を振り回す――――まるっこい鳥だ。種族不明。

 魔素の濃い場所にいる魔物や、高い保有魔力を持つ魔物が住む周辺の魔物が強い傾向がある。魔素が先か、魔物が先か……。

 何が言いたいかと言うと、神界で屈指の保有魔力を誇るクレアシオンが戦闘中も、お風呂に入る時も、寝るときも、ご飯の時も常に肌身離さず何十年と、抱いて温め続けていたのだ。

 それだけに留まらず、常に魔力を与え続けていた。

 これがどういう事かと言うと、クレアシオンの魔力による影響を諸に受ける、と言うことだ。生まれながらにSSランクの強さを持っていた。

 こうして、魔力の扱いに長け、あらゆる属性を操る真ん丸な鳥が生まれることになった。

 クレアシオンが転生する前は単純な力だけは鬼狐の誰よりも強くなっていた。

 彼の後ろを『パパ~』と一生懸命ついて来るのがとても可愛かった。

 転生前は時間が無く、別れの挨拶は出来なかったので泣きわめいてるかも知れない。クレアシオンは親バカだった。これでもか、と言うほど、リーゼを可愛がり、甘やかすだけでなく、生きる術を教えてきた。だが、寂しがってないか心配になる。

――大丈夫かな?……鬼狐の皆。

 駄々をこねて怪我を死者を出してなければいいけど、とクレアシオンは今は遠く離れた鬼狐の無事を祈るのだった。リーゼは強すぎるので、鬼狐たちの方が心配になってきたのだ。

――だって、リーゼちゃんはパパ大好きっ子だから……。

 だが、今は会えないリーゼの心配より、エレノアの薬が先だ。残った料理を掻き込んでいく。

「さぁ、やるか」

 料理を食べ終わったクレアシオンは立ち上がり、右手を伸ばし、呪文を紡いでいく。

 地面に魔法陣が浮かび上がり、魔素が魔法陣に吸い込まれていく。

 ダンジョンを手早く潰す方法。ダンジョンの上空から強力な魔術で丸ごと潰す。ただし、人がダンジョン内にいる場合、街が近くにある場合は使えない。

「大地を砕き」

 ダンジョンを手早く潰す方法。ダンジョンを物理的、魔法的に地面ごと粉々に割り砕く。この場合はダンジョンコアが無事な場合があるので見つけて割りましょう。ただし、人がいる場合、街が近くにある場合は使えない。

「全てを蹂躙する古の兵士」

 ダンジョンを手早く潰す方法。ダンジョン内の壁や天井、床等を土属性魔術で棘に換えて全てを刺殺する。人がダンジョン内にいる場合使えないが、ダンジョン外に影響はない。

「其は大地の鼓動」

 ダンジョンを手早く潰す方法。ダンジョン内を水魔術で水で満たし、氷魔術で凍らせたのち、氷を叩き割る。人がダンジョン内にいる場合使えないが、ダンジョン外に影響はない。

「我が魔力を糧に土塊に仮初めの命を与えん」

 どれもこれも、規格外の力を持つ鬼狐たちだから出来る所業だ。ダンジョンは普通の床や壁より頑丈に出来ていて壊せないのが常識だ。

 だが、これ等の方法は今は使えない。クレアシオンのレベル的に無理だ。それに、出来たとしても薬草ごと無くなってしまうのでこれ等の方法は使えない。

 なら、どうするか?答えは簡単だ。

「――――――――――我が僕たちよ、今、長き眠りより醒めよ」

 ダンジョンを手早く潰す方法。数で殲滅せよ。これが最も周りに被害を与えない。

「クリエイト・ゴーレム」

 彼の目の前の魔法陣の中の土が盛り上がり、土塊で出来た歪な人形が何体も這い出てくる。その数は二十を越えた。

 ゴーレム製造。【無機の王】であるゴーレムのレキに彼が教わった魔術だ。ゴーレムには二種類ある。意思を持つ魔物のゴーレムと魔術で作り上げられた意思を持たない擬似魔物のゴーレムだ。前者は魔素から生まれ、後者は魔術によって生まれる。

 魔術で造る方法は土や金属、死体などを使い、人の形にして、魔術を使いゴーレムにする方法と全て魔術でやる方法があり、前者が一般的だ。

 だが、神域の魔物であるレキ直伝の魔術だ。普通ではない。レキはあらゆる無機物をゴーレムに変え、その数と強さが普通ではなかった。ゴーレムの一体の強さがSランクに匹敵する。その上、数が数千を越えていた。

 急造品のゴーレムでこれだ。時間をかけて作ったレキの眷属のゴーレムはSSSランクに匹敵していた。

 現れたゴーレム達は全て騎士のように跪いていた。

「……これは?」
「ゴーレム」

 跪いていたゴーレム達は顔を上げ、クレアシオンを見たあと、少し驚いたような様子を見せ、次に自分達の姿をくるくると見渡して、クレアシオンを指さし

「ゴー」
「……転生したからしょうがないだろ?」

 次に自分達を指さす。

「……レベルが下がってスキルレベル低いから仕方ないだろ?」

 するとゴーレム達は顔を見合せ、そして――――大げさに肩をすくませた。

『ゴ、ゴー……』
「落ちぶれてねぇよ!!」
「ご主人様、何自分の魔術とケンカしてるのですか?」

 ソフィアは意志のない魔術のゴーレムとケンカしている自分の主を諌めるが、その間にゴーレム達は自分達の数を数えてから再びクレアシオンを見て大げさに溜め息をはく。

「……意思は――」
「――ない」

 ゴーレム達の様子を見て意思を持ってるのでは?と思ったがクレアシオンに被せ気味に否定された。 

 魔術で造られたゴーレムは意思を持たない。それはレキの魔術で造られたゴーレムも例外ではない。眷属のゴーレムですら、意思は無かった。

 例え、記憶を持ち越しているような言動をしていても、段々馴れ馴れしくなってきていても、クレアシオンの魔術の腕が上がり、造れる数が増えて新しく増えた分のゴーレムがミスを必ずやらかすとしても、ミスをしたゴーレムを他のゴーレムが叱り、ミスをカバーし、指導している様子があったとしても、魔術で出来たゴーレムに意思はないはずだ。

 魔術で作ったゴーレムが意思を持つのなら、レキは孤独に苦しまなかっただろう。

「じゃあ、強化するからそこに集まれ」
『ゴー』

 ゴーレムたちは気だるげに返事をしながら集まってくる。

「……やっぱり、意――」
「――ない!!」

 クレアシオンは食い気味に否定してからゴーレムたちに向けて右手を向けて、強化魔術を使う。彼の右手に魔素が集まり始める。

「――――――――我、クレアシオン=ゼーレ=シュヴァーレンの名の下に加護を与えん。カオス・ブレッシング」

 全属性のあらゆる強化魔術がゴーレムたちを包んだ。土塊だったゴーレム達は禍々しい鎧を着こんだ騎士のようになっていた。

 ゴーレム達はそれぞれ異なる武器を腰に携えている。それらの武器は魔法や魔術を扱えないゴーレム達に物理攻撃が効かない相手ように彼が持たせた武器だ。

「……禍々しいですね」

 ソフィアがそう言うのも当然だろう。あらゆる魔術という魔術が混ざり合い、不気味なオーラを身に纏っていた。

「カッコいいだろ!!」
『ゴーゴ!!』

 クレアシオンがサムズアップし、ゴーレム達が後ろで戦隊もののようにポーズを決めた。

――いえ、禍々しいです。

 ソフィアは口にでかかった言葉を飲み込んだ。

 彼女がそう思うのも無理はなかった。神界で彼のゴーレムがなんと呼ばれていたか、それは『堕天の使徒』だ。彼が転生する前のゴーレム達の数は数百を越え、個体の強さはSSランクの魔物に匹敵し、強化後は神域の魔物に匹敵していた。さらに驚くべきはその戦闘技術だ。一糸乱れぬ訓練された兵のように動き、個々の技術も彼の影響を受けたのか各武器や武術のエキスパートの集まりだった。

 禍々しい鎧を着込み、禍々しい武器を振るい、クレアシオンの指示を見事に遂行するその姿は正に『使徒』だ。

 因みに命名はアリアとイザベラだ。

「いつも通り頼むぞ」
『ゴー!』

 彼がいつも通りと言うとゴーレム達はサムズアップで答えた。いつも通りが通じている時点で記憶を持ち越している。

「……やっぱり、意思――」
「――ない!」

 やはり、彼は頑なに認めようとしない。そんな彼を見てゴーレム達はやれやれ、とでも言いたいのか、大げさに両手を上げ首を振るう。

「……色々言いたいことがあるが、お前達の任務はダンジョン内部の殲滅だ。邪に堕ちた魔物どもを殲滅しろ!!」

 クレアシオンが命じた瞬間、ゴーレム達の纏う雰囲気が一変した。そう、研ぎ澄まされたナイフのような濁りない殺気。息が苦しくなるようなプレッシャーを放つ。クレアシオンが弱体化して、ゴーレムの強さも下がってはいるが、研ぎ澄まされた技も殺気も本物だ。

 ゴーレムは列を整え、敬礼をした後、ダンジョンに向けて走っていった。ソフィアとアレクシスはゴーレム達の殺気に当てられてしまい、ただ、ダンジョンに進む後ろ姿を見送ることしか出来ないでいた。

 


ありがとうございました。

「リーゼちゃん、おいし?」
「おいし~~!!」

 アリアが口元に運んだケーキをイザベラの膝の上にちょこんと座っているリーゼが食べ、嬉しそうに尻尾を振って、羽をパタパタと羽ばたかせた。

「良かったですね。イザベラ」
「口に合ってよかった。クレアにはまだまだ敵わないがな……」

 美味しそうに自分達が作ったケーキを食べるリーゼに二人は笑みを溢す。

「お父さん嫌い。どっか行っちゃった!」

 クレアシオンの名前が出てきて、思い出したかのようにそっぽを向く。突然居なくなって帰って来ない彼の事を起こっている様だ。

「……リーゼちゃん、機嫌直してください。クレアは仕事で暫く帰ってこれないのです」
「それまで、私たちが遊んでやるからな」

 アリアはそっぽを向くリーゼをケーキで元気付けようとし、イザベラは慌てて、励ました。

「アリアお母さん、イザベラお母さん大好き!!」
『か、可愛い~~』

 クレアシオンが気にする程でも無かった。

 アリア、イザベラ>ケーキ>クレアシオンだった様だ。

 良かったな、クレアシオン。血は繋がって無くても、立派に甘党は受け継がれているぞ!!

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