職業魔王にジョブチェンジ~それでも俺は天使です~

黒水晶

いつもの一時

※ヒロインはアリアとイザベラです。
閑話でしか出番がなくてもメインヒロインです。


「ぐえっ!?」

 次の日、クレアシオンは蛙の潰されたような声を発しながら目覚めた。

「くれあ!!あさだよ!!」

 エレノアが彼のお腹の上にダイブしてきたからだ。彼は普段朝早くから、鍛練をしていたが、さすがに眠るのが遅かったからか、寝坊していた。

「くーちゃんが寝坊なんて珍しいわね。ご飯できてるわよ」

 朝食のいい匂いがしてきた。サラも起こしにきたようだ。

「……おはよう」
「おはよ」
「おはよう、早くご飯たべるわよ、お父さんまってるわよ」

 クレアシオンはボーッとしながら、あいさつをしてベットから起きた。頭が働いていない。彼がリビングにいくと机の上には黒パンとスープとサラダが置いてあった。デザートに彼が取ってきた果物が切られていた。冷蔵できる魔道具は値段が高く、王都の王族か貴族や商人ぐらいしか持っておらず、生クリーム等を使ったデザートは作り置きが出来ないでいた。あと、パンケーキはエレノアがそれしか食べなくなりそうなので、おやつとして出されるようになっている。

「おはよう、クレア」
「おはよう、父さん」
「珍しく、寝坊したな?どうした?いつもなら素振りをしているのに?」

 席につくとアニスがどうしたのか聞いてきた。それほどまでに、クレアシオンが寝坊したのが珍しかった。いつも、素振りをしてから、畑仕事もやっていたからだ。

「寝付けなくって」

 まさか、夜に抜け出して森の中に入って行ったなんて言えるはずがない。バレればサラに正座をさせられてしまうから……。

「そうか、じゃあ、みんな揃ったから食べようか」

 全員が席につき、この世界の主神、女神フローラに祈りを捧げる。別にフローラに捧げる、という決まりはない。管理者である他の神、自分の信仰する神に祈りを捧げてから食事をとる、どこの世界にもある風習だ。クレアシオンもそれに見倣って祈りを捧げる。

 この時、女神フローラはそわそわしていたのは聖女しか知らない。神を神とも思わない天使が自分に向けて祈りを捧げている。なんとも居心地の悪いものだ。それに、クレアシオンは親友の天使であり、自分は助けられた身、感謝はすれど、祈られるような事はしていない。――密かに想っている人に祈られているので申し訳なく思いながら、悪い気はしていなかったが……。

――砂糖を寄越せ~~

 祈りなんて慎ましいものではなかったが……。

「おいしい?」
「「うん」」

 サラの問いかけにエレノアとクレアシオンはそう答えた。サラは料理が上手かった。クレアシオンには料理の腕では負けてしまうが、それは年季のさだろう。香辛料や調味料、そもそも食材が少ないのだが、それでも食材の味が生かされており、美味しかった。邪神に攻められた世界とは思えないほど平和な時間が過ぎていった。

◆◇◆◇◆

「じぁ、素振りしてくる」
  
 朝食が終わり、クレアシオンが席をたって日課である素振りをしに外に出ようとするが、

「クレア、あそぶやくそく」

 エレノアに呼び止められてしまった。確かに約束をしていた。いつも彼女と遊ぶために朝食前に素振りをしていたのだが、寝坊したせいで出来なかったので、食べ終わったらやるつもりだった。

「素振りして、野菜に水をやってからな」
「クレアのウソつき!!」

 エレノアは目に涙を浮かべてしまう。それを見かねたアニスが、

「クレア、寝坊したお前が悪い、約束は守らないとだめだぞ」

 こう言われては言い返せない。だが、ずっとやっていた素振りが出来ないのは少し気持ち悪い感じがしてしまう。

「じぁ、畑に水をやってから」

 そう言い、彼が育てている畑に行き、水をあげたあと、少しだけ素振りをしようとするが……。

「あーちゃんが代わりに水をあげてたわよ」

 サラが水やりはもうやってあると言う。あーちゃんとはアレクシスのことだ。クレアシオンが足元をみると彼の影から黒いスライムが顔をだし、触手をゆらゆらとさせる。まるで、代わりにやっといてやったぜ、とサムズアップしているようだ。

「あーちゃんが川から水を汲んで、雑草も食べてたわよ」

 本当に賢いわね~、とサラが言うとアレクシスはぷるん、と揺れた。これで素振りを隠れてやる口実は消えてしまった。眷属とは主が疲れていたら代わりにやらなければいけないことをやり、ゆっくり寝かせてあげるのも仕事なのだ。

「おさんぽいこ」
「ぐっ!?」

 クレアシオンがアレクシスを恨みがましく見ていると、話の内容から、遊んでもいいと考えたエレノアが、彼の襟を掴んで引っ張っていく。勿論、子供の筋力だ、突然後ろから引っ張られた彼を後ろに倒すことしか出来ない。だが、アレクシスも手伝って引っ張っていく。エレノアとアレクシスは仲良しだった。

「アレク!?え、ちょっと?」

 そのまま、引きずられて退場していくクレアシオンを見て、

「仲良しね」
「クレア、強く生きろよ」 

 それぞれの感想を口にした。サラはエレノアがクレアシオンによくなついているのを微笑ましそうに見て、アニスは引きずられているクレアシオンを見て、日に日に尻に敷かれていく彼に声援を送った。

 神界の神はこの光景を見ると混乱するだろう。だが、クレアシオンの知人は微笑ましく見ていただろう。

◆◇◆◇◆

 キラキラと朝日を反射しながら流れる小川の横をクレアシオンとエレノアは歩いていた。いかにもエルフの村、という感じの村だ。大きな木々の生い茂る森の中央にある広場に村がある。朝から畑仕事をしている者たちの声が聞こえてくる。森の中には見張りの者たちがおり、村にくる危険な魔物や獣はすぐに狩られてしまうので平和だった。

「きもちいね~」
「そうだな」

 水の流れる音、鳥の囀ずり、木漏れ日を浴びながら進んでいく。

「アレク、あれやって」

 エレノアがあれ、と言うとクレアシオンの足元の影が大きくなり、水面から這い出るようにアレクシスが出てきて、彼女を触手で持ち上げた。そして、アレクシスの形が変わっていく。流れるような流線形をし、屈強な四肢で大地を踏み締める。大きな蜥蜴、いや、地竜のような姿になった。背中には二人用のスポーツカーのような座席がある。

 その座席にエレノアを座らせて、アレクシスはクレアシオンに乗れ、とでも言うように見る。

――なんで、『あれ』で通じるんだよ!?

 エレノアとアレクシスは仲良しだった。水やりも確実にエレノアのためにやったのか?とクレアシオンが考えていると触手に掴まれて背中に座らされた。

「ごー」

 走るのに適した体をしているというのに、アレクシスはゆっくり歩みを進めた。エレノアは背中の上からの景色を楽しんでいた。彼女の普段見ていた視線からは見えなかった景色が広がっている。

◆◇◆◇◆

「おーい、クレアシオン!!オークの群れがきた。アレクシスを貸してくれ!!」

 クレアシオンたちがアレクシスに乗って散歩をしていると見張りのエルフが急いでやって来ていた。

「アレク頼んだ」
「ガアァァアー」

 クレアシオンがアレクシスに命じるとアレクシスの形が再び変わる。背中から蝙蝠のような皮膜が生え、走るのに適した地竜の姿からドラコンの姿に変わる。

「エレノア、待っててくれ」
「お前もだ。子供は待ってろ」
「くれあ、いえのちかくであそぼ」

 見張りとアレクシスは村の外に行ってしまった。クレアシオンのレベルが上がらず、アレクシスのレベルが上がった理由がこれだった。村人たちが当たり前だが、まだ四歳の彼を狩りや魔物の撃退に参加させなかった。

――それにしても、アレクシスに助けを求める事が多くなってきたな……。オークか、集落でも近くにできたか?

 
 クレアシオンは今夜辺り、狩りに行こうか、と考えるのだった。オーク、邪に属する平均でDランクに相等する魔物だ。邪神のいる世界では邪に属する魔物が多くなってしまう。早めに狩っておく必要があるだろう。上位種が生まれでもしたらアレクシスだけではキツイかも知れない。

 アレクシスはドラゴンなどの強い魔物に擬態し、擬態した魔物と同じ威圧を放つことは出来るが、同じ強さではない。今のレベルでは精々、Cランクの魔物と戦って勝てるぐらいだろう。クレアシオンの記憶にあるSSSランクドラゴンや神域の魔物に擬態できても、Bランクの劣飛龍(ワイバーン)には勝てないのだから。


ありがとうございました。

クレアシオンをヒャッハーさせたい。

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