浦島太郎になっちゃった?
神に問いたい。お姉ちゃんキャラは好きですか?
姫候補五人とのデートを終えた俺は、歩き回って疲れた足で城に帰り、自室のベッドに身を倒れさせた。
今日はこのまま寝てしまおうかと考えたが、ドアがノックされ沙汰止めになった。
「シュンくん入っていい?」
「どうぞー」
ドアをノックしたのはクリナさんのようで、声から疲れは感じない。
「シュンくん宛に招待状が届いてたよ、私が読んであげようか?」
室内に入ってきたクリナさんは、折り畳まれた紙片を掲げてみせながらお姉さん口調で言う。
自分で読めますよ、と嘯いて紙片を奪い取った。
流し書きだが読みやすい文字で書き付けてあった。
次期王シュン君へ
僕は君のことが気になっています。一度、話をしてみたいです。
怪しい者ではありません、建築家みたいなことを生業にしている者です。
名前くらいは見聞したことあるかも知れません。
君が王になったら、建築家として雇ってもらおうと思っています。
是非、僕の仕事場にご足労してください。明日の一回目の鐘の後ならいつの時間でもいいですから。
時計台の右道の最奥で待ってます。
マリン・ハリックより
マリン・ハリック……見たことある名前だ。
確か、時計台のパンフレットに同じ名前が記載されていたはず。
俺はポケットから、マリと二人で時計台に登る前に受け取ったパンフレットを掴み出して広げる。
やっぱりだ。
パンフレットの左下に、製作者らの名前が載った一項があった。
いろんな名前が縦に並んでいる最下に、紛れもなく招待状主のマリン・ハリックの名が載っていた。
俺は肩越しに招待状を覗き込んでいるクリナさんに、マリン・ハリックについて尋ねることにした。
「マリン・ハリックって、どんな人物か知ってます?」
「知ってるもなにも、竜宮じゃ知らない人はいないくらい有名人よ。まさか招待状を宛ててきたのが、マリン・ハリックなんて信じられないわ」
「なんで、この人は有名なんですか?」
「毎度今まで無い物を生み出すのに、人々が異を唱えるような物は絶対に生み出さない。革新的で客観的、そんな物産の天才よ」
天才か、ひがみがこもった皮肉な言葉だ。
いつの時代も、天才は潰される。ただの凡才達に。
潰されない天才があるとすれば、それは才能を上積みさせていった認めざるを得ない努力家だ。
俺はなおも、質問を続ける。
「この人、年齢はどれくらいなんです?」
「その質問をされてもねぇ、答えられないのよ」
「なんで?」
クリナさんは表情を柔らかくさせ、答える。
「ままの姿を目にした人が、ほとんどいないからよ」
「時計台建設の関係者も?」
ええ、と気重そうに頷いて、
「私、快く思ってないのよねマリン・ハリックって人のこと。だって、その……なんていうの、目的がわからないの。物を生み出すだけで、その先のことを視野に入れていない、漠然とそんな気がするのよ……この人好きじゃないから、話は終わりにしましょう。ね?」
クリナさんの言葉に、冗談めかした気軽さは感じられない。
俺はすまなく思った。書かれてある待ち合い場所に明日、行こうと考えたから。
クリナさんが好きじゃない、と述べたマリン・ハリックという人物に、俺は興味をそそられている。
俺が人生で最高に心を打たれた、あの時計台の製作者。会って話をしてみたい。
「ごめんなさいクリナさん」
「……突然、謝ってきてどうしたのよ」
急に謝った俺に、クリナさんは困惑を露に微かに笑む。
俺は考えていたことを、一切の躊躇なく口にした。
「明日俺、マリン・ハリックに会ってきます」
「いいじゃないの、シュン君らしいわ」
意外にも、クリナさんはあっさりしていた。
「嫌いじゃないんですか? マリン・ハリックって人」
「正直に言ったら嫌いなんだけど、シュン君の好きなようにすればいいわよ。だって私、シュン君のそういう自分に素直な所と、それなのに人のことに気を遣ってくれる優しい所が、好きですからね」
俺の瞳を真っ直ぐ見捉ると、頬をやんわりと桃色に染めて柔らかく微笑み、そう告白してきた。
あまりにも、不意打ち過ぎて返す言葉が見つからない。
俺が言葉を失って口を開けたままにしていると、クリナさんの表情がいつものに戻る。
「私、自分の部屋に帰ってるわね」
それだけ言うと、クリナさんは部屋を出ていった。
__今の『好き』に深い意味はないよな。きっと、俺を励そうとしてくれたのだろう。
俺って、ミクミの言う通り辛気くさく見えるのかな?
どんな意味でも、目の前で『好き』なんて告げられたら……
恥ずかしいに決まってるじゃないか!
今日はこのまま寝てしまおうかと考えたが、ドアがノックされ沙汰止めになった。
「シュンくん入っていい?」
「どうぞー」
ドアをノックしたのはクリナさんのようで、声から疲れは感じない。
「シュンくん宛に招待状が届いてたよ、私が読んであげようか?」
室内に入ってきたクリナさんは、折り畳まれた紙片を掲げてみせながらお姉さん口調で言う。
自分で読めますよ、と嘯いて紙片を奪い取った。
流し書きだが読みやすい文字で書き付けてあった。
次期王シュン君へ
僕は君のことが気になっています。一度、話をしてみたいです。
怪しい者ではありません、建築家みたいなことを生業にしている者です。
名前くらいは見聞したことあるかも知れません。
君が王になったら、建築家として雇ってもらおうと思っています。
是非、僕の仕事場にご足労してください。明日の一回目の鐘の後ならいつの時間でもいいですから。
時計台の右道の最奥で待ってます。
マリン・ハリックより
マリン・ハリック……見たことある名前だ。
確か、時計台のパンフレットに同じ名前が記載されていたはず。
俺はポケットから、マリと二人で時計台に登る前に受け取ったパンフレットを掴み出して広げる。
やっぱりだ。
パンフレットの左下に、製作者らの名前が載った一項があった。
いろんな名前が縦に並んでいる最下に、紛れもなく招待状主のマリン・ハリックの名が載っていた。
俺は肩越しに招待状を覗き込んでいるクリナさんに、マリン・ハリックについて尋ねることにした。
「マリン・ハリックって、どんな人物か知ってます?」
「知ってるもなにも、竜宮じゃ知らない人はいないくらい有名人よ。まさか招待状を宛ててきたのが、マリン・ハリックなんて信じられないわ」
「なんで、この人は有名なんですか?」
「毎度今まで無い物を生み出すのに、人々が異を唱えるような物は絶対に生み出さない。革新的で客観的、そんな物産の天才よ」
天才か、ひがみがこもった皮肉な言葉だ。
いつの時代も、天才は潰される。ただの凡才達に。
潰されない天才があるとすれば、それは才能を上積みさせていった認めざるを得ない努力家だ。
俺はなおも、質問を続ける。
「この人、年齢はどれくらいなんです?」
「その質問をされてもねぇ、答えられないのよ」
「なんで?」
クリナさんは表情を柔らかくさせ、答える。
「ままの姿を目にした人が、ほとんどいないからよ」
「時計台建設の関係者も?」
ええ、と気重そうに頷いて、
「私、快く思ってないのよねマリン・ハリックって人のこと。だって、その……なんていうの、目的がわからないの。物を生み出すだけで、その先のことを視野に入れていない、漠然とそんな気がするのよ……この人好きじゃないから、話は終わりにしましょう。ね?」
クリナさんの言葉に、冗談めかした気軽さは感じられない。
俺はすまなく思った。書かれてある待ち合い場所に明日、行こうと考えたから。
クリナさんが好きじゃない、と述べたマリン・ハリックという人物に、俺は興味をそそられている。
俺が人生で最高に心を打たれた、あの時計台の製作者。会って話をしてみたい。
「ごめんなさいクリナさん」
「……突然、謝ってきてどうしたのよ」
急に謝った俺に、クリナさんは困惑を露に微かに笑む。
俺は考えていたことを、一切の躊躇なく口にした。
「明日俺、マリン・ハリックに会ってきます」
「いいじゃないの、シュン君らしいわ」
意外にも、クリナさんはあっさりしていた。
「嫌いじゃないんですか? マリン・ハリックって人」
「正直に言ったら嫌いなんだけど、シュン君の好きなようにすればいいわよ。だって私、シュン君のそういう自分に素直な所と、それなのに人のことに気を遣ってくれる優しい所が、好きですからね」
俺の瞳を真っ直ぐ見捉ると、頬をやんわりと桃色に染めて柔らかく微笑み、そう告白してきた。
あまりにも、不意打ち過ぎて返す言葉が見つからない。
俺が言葉を失って口を開けたままにしていると、クリナさんの表情がいつものに戻る。
「私、自分の部屋に帰ってるわね」
それだけ言うと、クリナさんは部屋を出ていった。
__今の『好き』に深い意味はないよな。きっと、俺を励そうとしてくれたのだろう。
俺って、ミクミの言う通り辛気くさく見えるのかな?
どんな意味でも、目の前で『好き』なんて告げられたら……
恥ずかしいに決まってるじゃないか!
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