浦島太郎になっちゃった?

青キング

欲情の発散

 クリナは次期王の部屋の前で、急かされるような緊張を感じていた。

 告白を断るなら早く断って欲しい、とそんな後ろ向きな考えだった。

「ごめん、待たせたね」

 いつの間にか俯いていた顔を上げて、クリナは声のした方を見た。

「シュンくん……遅かったね」

「そう? そんなことないと思うけどな。変なこと聞くんだね」

「だって、私は」

 不安で、とは口に出ず喉の奥でつっかかった。

 クリナのいつもとは違う、弱気な様子を気にすることもなくシュンに化けたハリックは照れたように笑い、

「とりあえず、中に入ろう?」

 微かな不安を抱きつつも、クリナは頷いた。

 ハリックは部屋にクリナを入れると、ベッドに座ってと勧めた。

 ハリック本人も、座ったクリナの横に腰を据える。

「そのまま倒れて、天井を見てごらん」

「何か、見えるの?」

「いいから」

「うん、わかったわ」

 クリナは座った姿勢から後ろに倒れて、木目調の天井をはたと見つめた。
 いろんな形の木目調があるが、面白味も美しさも何もない。

「ねぇシュン君、このたくさんの形の中に何かあるの?」

「いや」

「シュン君?」

 ベッドの窪みがクリナの近隣まで、寄ってきた。

 クリナが天井を捉えていた視界に、ひょいとシュンの顔が現れ影をつくる。

「どうしたの、シュン君」

 問いには答えず、顔を近づけた。息がかかりそうな程だ。

「近い! 近いよ、シュン君!」

 クリナは思いがけず、狼狽した。がしと右肩を掴まれる。

「君のことが好きだ」

「えっ……」

 彼女が虚をつかれて返す言葉を口に出せないでいると、ハリックの手は彼女のTシャツの裾から中に入り込んでいた。

「きゃあん」

 嬌羞の声を出して、退こうとするようにクリナは身をよじる。

 手は体の上へ上へと這っていく。

「俺のこと、好きか?」

 尋ねて手を止めた。

 クリナは泣きそうな目で、こわごわ見返した。

「そんなこと聞かないで、手を退かして」

「俺は君の気持ちに応えたい。だから、その艶やかな唇で言って欲しいんだ」

 クリナの口が何かを言おうとして震える。

 止まっていた手がまた這い始めて、くびれを摩る。

「うっ、あっあ」

「俺はいつでも、君の思いを受け止めれるよ」

「お願い、手を」

「うん、何かな? よく聞こえなかったな」

 クリナの眼前に、さらにぐっと顔が近づいた。

「手を退かし…………」

 クリナの口が何か柔らかく潤ったものに塞がれた。

 その何かが、スッと離れた。

「虚心で物言う君の唇を塞いでやった。もう、本心のままに言っちゃって」

 クリナは目と鼻の先にある愛してやまない人の顔を、突然のことで霧がかかったようになった意識で漫然と見つめた。

「好……」

 知らず知らずのうちに出始めた台詞を、ふと思い直して寸断する。

 クリナの意識は霧が消散して、眉根がきゅっと寄り真剣な表情を湛えさせた。

「好きになれません。むしろ嫌いだわ!」

 この人はシュン君じゃない、そう確信したのだ。

 しかし、気がつくのが遅かった。

「そうか、俺のことが嫌いか」

 シュンに外貌を化けたハリックは急に押しだまり、掴んでいた肩をきつく握って締め付けた。

「痛い」

「何を言ってるんだ! 君の目は節穴なのか!」

「それよ」

 肩の痛みに顔を歪めめるも、毅然としてクリナは睨み返す。

「あなたは私の名前を答えられるの? 無理でしょ、私を君って呼んでるんだものね」

「このアマ……」

 ハリックは激憤し、押し殺した声で愚弄した。しかし、彼の声にはまだ余裕があった。

「ふふ、今の状況考えてみろ。どうみても有利なのは俺だな。絞め殺してもいいし、時間をかけていたぶってもいい」

 クリナの上にハリックが、ベッドに両手をついて覆い被さっている体勢だ。クリナは思うように動けない。

 それでも彼女は毅然としていた。

「つまらない冗談ね、ネクラ男」

 ハリックのこめかみがピクッと微動し、明らかな剣幕が顔筋を強張らせる。

「黙らせた方が早そうだな」

 彼のついていた右手が、クリナの喉を力のあらんばかりに絞めた。

 気道が塞がれ、呼吸が細くなる。

「うぐ…………」

「苦しいだろ。苦しいだろ、な? なんか喋ってみろよ、そのうるさい減らず口でよ」

 クリナの目の端から激烈な苦痛と恐怖で涙が溢れ出た。
























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