浦島太郎になっちゃった?

青キング

神に問いたい。この人は誰ですか?

 俺は自室のドアを開けた。

「キャアャ」

 突然、足元に誰かがドンとぶつかっきた。ななな、なんだ!?

「しゅ、俊君」

 見下ろすと泣きそうな顔をして、クリナさんが驚く俺を見上げていた。

「どうしてここに」

「助けてっ!」

 躊躇いなく抱きついてくる。何があった?

「何故おまえがいる」

 ベットの方から、ドスを利かせた男の声がして顔を上げる。

 思わず目を疑った。

「俺?」

 俺とそっくり、というかもはや俺だ。

「驚いたか、無理もない」

「クリナさん、これは?」

 脚にしがみつくクリナさんに、訳を訊く。

「偽者……」

 弱い声で答えて、一層抱きつく力を強める。

 にわかには信じがたいが、むやみに否定もできない。

「ほう、やはりそいつのことが好きだったんだな」

「とりあえず、誰ですか?」

 偽者は冷えた笑みを作った。

「なんだい、ハーレム次期王君」

「……誰ですか?」

「名乗る必要はない」

 ふざけた手ぶりで肩をすくめて偽者は言う。

 なんかこいつ、、鼻につく。

「誰ですかって聞いてんだよ」

 いらつきが声に乗らないように、抑えて問いただした。

 なおも態度を変えず、冷えた笑みのままこめかみをトントンと触れる。

「青筋を立たせてもいいんだよ、ハーレム次期王君」

 世のすべてを傍観しているような言い方だ。すごいむかつく。

「あれ、言い返すこともできないのかい? 興ざめだね」

「何がしたいんですか?」

「君が羨ましい、単純だろ」

 ますます理解が難しくなった。俺が羨ましい? 

「思い当たる節はないのかな。好意に対してとても鈍感なんだね」

「好意?」

「姫候補たちやそこの美人さんも、次期王君に多大なる恋慕を持ってるんだ。だから羨ましいんだ」

 偽者は俺の足元のクリナさんに目を向けて、ふっと鼻を鳴らす。

「鈍感な次期王君に代わって、俺が次期王になるよ。そうして好意を全部受け止める。どう、天才的に幸せな関係だろ?」

 両手を広げて、そう問い掛けてきた。

「そんなの女たらしが考えることよ」

 クリナさんが唐突に力強く言い放った。偽者の眉間にしわが寄る。

「うるさい女は気障りだ。口を開くなメスがっ」

 あからさまな嫌悪が、その声から感じられた。

 なんだよこいつ、言いたい放題。
 ふつふつと体の内から怒りが湧いてきて、右拳に流れてくる。あいつの顔面をぐしゃぐしゃさせてやりたい。

 握り込んだ右拳を、不意にクリナさんがやさしく包んだ。

 クリナさんは俺を見つめて首を横に振る。

「落ち着いてシュン君。殴ろうなんて怒りの感情に流されちゃダメ。あの偽者、なんだか危険な雰囲気がある。だから、ね……この手の力を抜いて」

「……すいません、それは従えません」

 止めようしてくれているクリナさんに、俺は逆らった。包んでいる手を振り払った。

 俺の足は偽者の方に踏み出していた。

 紛らわせない怒りを携えて、俺は右拳を振りかぶった。

 偽者の見てて虫酸が走る顔の鼻柱を、力を抜くことなくぶん殴った。硬く骨張っていてズキズキ甲が痛かった。

 ん?

 左脇腹の内側からチクチク刺されるような痛みがして、思わず歯を食いしばった。なんだ?

 俺は自分の左脇腹がどうなっているのか見ようと、首をひねった。

 ビリッと頭に突然の鈍痛が襲ってきて、巨石を頭に乗せているそんな重さを感じて、俺は床に手をつくことも考えられず倒れてしまった。

 頭がグワングワンして、とにかく気持ち悪い。

「シュン君、シュン君聞こえてる? 聞こえてるなら何かしゃべって」

クリナさんの声がひどく差し迫っていて、何事もなく大丈夫だと返したいがあいにく大丈夫でない。脳内がいじくりまわされているみたいで、思考することがままならない。

次第に目の焦点もぼやけてきた。

「さらばだ、次期王君」

「さらばって、どういうこと......嫌だ」

最後に聞こえたのは、クリナさんの沈んだ訴えるみたいな叫びだった。 
















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