暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第175話 〜希望〜 和木大輔目線
“情けない”。
俺の今の心情を表すのにこれほど的確な表現はないだろう。
この森に入ってから……いや、佐藤たちと城を逃げ出し、初めての戦闘をしてからこの思いは俺の心の中でくすぶっていた。
男子が俺以外全員戦える中、俺は女子たちと一緒に津田の盾の後ろにいる。
調教師は基本戦闘に参加できない職業であるが、魔物を使役できた場合はそうではない。
だというのに、俺が使役できるのは今現在動物だけ。
レベルを上げなければ使役できないというのはわかっている。
だけど、心が逸ってしまうのは仕方のないことではないだろうか。
俺がレベルを上げても他の奴らはその時間でさらにレベルを上げていた。
同じパーティ内に居ようが、魔物と戦闘している者としていない者のレベルはどうしても差が開いてしまう。
それを訓練で上げようとしても魔物との戦闘の方が経験値が多いのは仕方のないことだった。
今までならそういう言い訳ならいくらでもできたのに。
「だとしても、こりゃあねぇよな」
クジラの魔物との戦闘で致命傷を与えたのは細山だった。
治癒師で、俺よりも基本ステータス値が低いはずの職業にもかかわらずあんなに大きな魔物を指一本で倒してしまった。
言い訳が効かなくなってしまった。
俺が今まで自分に言い聞かせてきた、職業の違いのせいという言い訳が使えなくなってしまった。
治癒師である細山ができたのなら俺にできないわけない。
細山が使っていたスキル『悪食』じゃなくても、俺にだって戦えるはずだ。
「……でも俺馬鹿だからなぁ」
中学も高校も勉強をする場所ではなく部活をしに来る場所だったから、テスト前の部活動禁止期間と出された課題以外に勉強をしたことがない。
特に、柔軟な考えが必要な教科が苦手だし。
「和木君、どうかしたの?」
俺と一緒に食事を作るのに使った道具を近くの川で洗っていた津田が、俺の呟きに反応して顔を上げた。
そういえばこいつ近くにいたな。
クラスにいた頃から空気薄いというか、織田ほどじゃないけど気配が分かりずらい。
というか、こいつとあまり喋った記憶がない。
その上に女顔で首を傾げて上目遣いで見てくるもんだから変な気分になる。
「いや、なんでも……」
「あ、さっきの細山さんのスキルの話で何か悩んでた?」
何でもないと言った俺の声はさえぎられ、さらに図星をつかれた。
そうでしょ!とキラキラとした目で見てくる津田に、こいつこんなキャラだっただろうかと首を傾げる。
いや、俺が見てないだけで近くの友達にはこんな姿を見せていたのかもしれない。
案外人懐っこいんだな。
この際、腹をくくって相談してみようかと俺は口を開いた。
きっと俺よりは頭がいいだろう。
「非戦闘職業の治癒師が生命力を奪うことで魔物を倒せるなら、俺もどうにかして倒すことができないかって思ったんだよ。俺そんなに頭良くないし、なんかいい考えないか?」
「うーん、調教師の戦い方……」
津田は腕を組んで首を傾げながら真剣に考えてくれた。
俺は少し笑ってその様子を見ている。
教室の隅の方でひっそりと生活していた津田と、教室の中央でバカ騒ぎしていた俺が一緒に旅をすることになるとは思ってもみなかった。
俺は意外とこの生活に満足している。
家に帰りたいかと言われれば、そりゃあたまに母親が作ったご飯が懐かしくなるときもあるが、ぐちぐちとうるさい声が聞こえずに清々している。
あれだけ毎日頑張っていた部活も、こんなことがあったからにはレギュラーを降ろされてるだろうし、そもそもこちらとあちらの時間の流れが同じとは限らない。
目指していた大会も終わっているかもしれないし、もしかしたら浦島太郎のように何百年もあとの世界になっている可能性だってある。
異世界があったのだから、そちらの可能性も有り得るのではないだろうか。
「僕が思うに、調教師って魔物を殺すことに致命的に向いていないと思うんだ」
俺はハッと顔を上げた。
そういえば津田に相談している最中だった。
「どうしてそう思う?」
足元にこつんと何かが当たるような感触がしたので見ると、相棒と言っても差し支えないくらい一緒にいる猫が俺の膝に頭を擦り付けていた。
猿より先に、城の中で使役したんだったか。
俺は猫を抱き上げて優しく頭を撫でてやる。
ゴロゴロとリラックスした音が猫からした。
「多分だけど、調教師ってそうやって動物や魔物を手懐けるっていうか、飼い慣らす職業でしょ?だから和木君が考えるべきなのは魔物を殺すことじゃなくて手懐けることだと思う」
俺は首を傾げた。
そうなれば、はじめに考えていたことに戻ってしまう。
まだレベルが足りなくて魔物を使役するとはできない。
結局俺は今どうすればいいんだ?
「調教師ができることって、使役するだけじゃないと思う。だってその子は心の底から和木君を信頼してここまでついてきてるもん。無理やり使役されてるからじゃなくて。そういうのを初対面の魔物相手にするのは無理かな?」
俺にもだんだんわかってきた。
要は俺と猫が築いた信頼を、魔法で魔物相手に一撃ですればいいわけだ。
ただの手練手管では無理だけど、魔法ならできるんじゃないか。
おそらく完成すれば洗脳に近い効果を生むことになるだろう。
「魔法は僕たちが考える不可能を可能にする手段だから。考えれば考えただけ、思えば思うだけ魔法は返してくれるよ。そう僕を城で教えてくれた騎士の人が言ってたからね」
俺は見えてきた希望に笑った。
そこでやっと、自分が今まで笑えてなかったことに気付く。
他のみんなにも心配をかけてしまったかもしれない。
腕の中で寝てしまった猫を抱える手とは反対の手で津田の背中を叩いた。
津田は女のように華奢なのでもちろん手加減をしてだ。
「わっ!?」
「サンキューな!お前のおかげで理想像は見えてきた!」
俺は洗い終わった道具と猫を抱えて立ち上がる。
「それと、男で“もん”はやめといた方がいいぞ。お前は似合うけど、それが嫌なんだろ?」
教室では関わることがなかったけど、こっちに来てからは一緒に生活をしていたのだ。
みんなの努力も、何を目標としているのかも、見ていればわかった。
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