暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第165話 〜憧れ〜 津田友也目線


僕はいつも弱かった。
運動面ではなく精神的な意味で、僕はとても弱い。
ビビりであるといえば多少はわかりやすいだろうか。
人間関係なんて僕がこの世で一番怖いものだ。
そして、僕は僕自身がこの世で一番嫌いである。

日々男っぽくありたいと思っている僕だが、最近では初対面の人に女と間違われるのに慣れてきた。
嫌な慣れだとは思う。
おおよそ男にはふさわしくないような人間であるが、僕には憧れている人がいる。
同じクラスで、同じ剣道部の一年生の時からエースだった朝比奈京介君。
朝比奈君を初めて見たのは中学校の時だった。

中学校入学時の熱心な部活動勧誘を断ることができなかった僕は、初心者でありながら剣道部に入部した。
今でもそう思っているが、僕は自分のビビりなところが嫌いであり、直したい。
何かスポーツをすれば、何か武道を始めれば少しは自分に自信が持てるのではないかと、その時はそう信じていた。
……結果は御覧の通りだが。

幸いなことに中学校の剣道部は、こう言っては何だがそれほど強いチームではなく、女の子の方に小学校から始めていた経験者が一人いただけの弱小校だった。
稽古の内容も体力がない僕でもかろうじてついていけるようなもので、人数も少なかったので一年生の秋には初めて公式試合に出してもらった。
団体戦を副将として出た僕は、午前中にあった個人戦の部で一年生でありながら三年生たちを破って優勝した朝比奈君と、僕の初陣である一回戦で戦った。
初めての試合ということで体育館内に響く音や声に委縮してしまっていた僕は、個人戦をしっかりと見ていなくて、先輩に慰められて初めて朝比奈君が優勝者だと知ったのだが。
個人戦の部優勝者の経験者と、今回が初めての公式試合である初心者の僕では結果は火を見るより明らかで、試合が始まってから十秒も経たないうちに二本とられて負けた。
電光石火とはこのことを言うのだろうなと、どこかぼんやりと考えていたのを覚えている。
気が付けば僕は礼をして試合場を出ており、先輩の隣で面を外して、これまたいつの間にか試合が終わっていた先輩の隣で礼をしていた。
結果は惨敗。
僕の学校は相手校から一本すら取ることなく初戦敗退した。
次の試合が始まるため悔しいと思う暇も無く、慌てて防具をまとめた僕たちだったが、その時朝比奈君のチームで補欠だった人たちがこう言ったのだ。


「全然相手にならなかったな。これなら小学生と試合した方が有意義なんじゃねぇの?」


その言葉に生まれて初めて、頭が真っ白になるくらいの怒りを覚えた。
隣で黙っている先輩も悔しそうに唇を噛んでいる。
でも、僕は何も言えなかった。
怒りを感じているのに、自分の中のビビりな性格がストップをかけて反論すらできない。
人と話すのが苦手な自分が泣き寝入りを促してくる。
そんな自分を不甲斐なく感じて、僕は俯いた。


「小学生と試合したいのか?じゃあ退部でもしてその分近くにある道場に行ったらいいじゃないか」


思ってもみなかったところからの言葉に、僕はもちろんのこと、先輩たちも顔を上げてポカンと口を開いた。
というか、なぜか補欠の人もとても驚いている。
怒っているわけでもなく、ただ自分の思っていることを言ったその人は不思議そうな顔をして、まっすぐに補欠の人を見ていた。

自分の思っていることを、相手に素直に伝えるというのは勇気のいることだ。
普通の人はどうかは知らないけど、少なくとも僕の場合はそうなのだ。
朝比奈君はきっと何も考えていなかったのだろうが、下手をするとその人に嫌われるかもしれないという場面で、自分の思っていることをしっかりと目を見て言った朝比奈君を、僕はかっこいいと思った。

それ以来、学校すら違うのに時々試合会場で見る朝比奈君は僕の憧れとなった。
人は、自分にないものを持っている人がいると二つの反応を示すという。
嫉妬と憧れだ。
僕の場合は後者だった。
朝比奈君のように、はっきりとものを言えるようになりたい。
朝比奈君のように、男らしくなりたい。
僕が朝比奈君に憧れるなんておこがましいとは思うが、それでもこの感情は捨てることができなかった。

そんな憧れを抱えたまま僕の欠点が直ったわけでもなく、気が付けば同じ高校の同じクラスで同じ部活動に所属している。
朝比奈君は全国大会に出場するほどなのだから、剣道の強豪校に行くかと思っていたので同じ高校で朝比奈君を見つけた時は本当に驚いた。
風の噂では強豪校は家から遠いから嫌だったらしい。
本当にこの高校を勧めてくれてありがとう、中学校の時の担任の先生。
先生の数学は何を言っているのか一切わからなかったけど、高校選びの腕だけはピカイチだった。

それはともかく、僕は朝比奈君に憧れている。
あの天然な性格で話すたびに人の地雷を踏みまくっていくのはさすがにどうかとは思うが、まあそれも僕にできることではないのでいいなと思う。


そんな朝比奈君とこの世界に来て、さらにその距離が開いたように感じた。
戦闘のたびに怖がり、騎士という職業であるにもかかわらず僕がしていることは後衛職と変わらない。
出てくる魔物に対して佐藤君と朝比奈君が強すぎたというのもあるかもしれないが、僕は最初のカンティネン迷宮での戦い以外魔物の前に立っていなかった。
いや、立とうとしなかったのだ。
弱いままの自分を直したいと口では言うものの、結局は中学生のあの時から何一つ学んでいないし変わってもいない。
こちらの世界に来ても僕は自分に甘く、そして佐藤君と朝比奈君に守ってもらうばかりだった。

だから、こんな窮地に立たされたのだろう。


「司君!!司君動かんといて!傷口が開いてまう!」


かろうじて立ち上がれるのは僕だけ。
佐藤君は重傷で意識がなく、なのに僕たちを守ろうと立ち上がろうとしている。
それを必死に止めている上野さんも軽傷とは言い難いほどの傷を足に負っていて、逃げることができない。
僕が装備していた盾は先ほど粉々に砕け散った。
そして僕たちは今、木に擬態していた魔物に囲まれている。



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