暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第155話 〜邂逅〜
"グラム"
男はそう名乗って笑った。
アメリアを攫おうとした魔族をブルート迷宮に迎え入れ、コンテストで優勝したアメリアをバラバラにして売りさばこうとし、クロウの妹を殺した奴。
どれも直接的ではないしアメリア関係は未遂で終わったが、それでも俺たちの害であることには間違いない。
いつもの俺ならこいつの一人称を突っ込むところだが、そんなことを言ってる場合ではないようだ。
どうやってここから出ようか。
できれば平和的に出ることができるといいのだが。
脂ぎった顔がぬちゃりと音を立てたような気がしたのは、俺がこいつのことを生理的に拒否しているからか、ともかく顔を直視したくない。
そんな顔を見せたくなくて、俺はアメリアを自分の後ろにやった。
「おや、君は誰ですかな?我輩はアメリア様とお話ししているのですが」
今度はアメリアを後ろに隠した俺にその目が向けられる。
ぞわりと鳥肌が立った。
ここまで俺が他人を嫌うのは珍しい。
訳の分からない授業をする先生も、怒鳴りまくる先生もこれほど嫌うことはなかったのに。
俺が口を開かないでいると俺の服装を見てグラムは手を打った。
「そうか、君はアメリア様の護衛ですな。では、ここまでご苦労。あとは故郷にでも帰ってゆっくりとするといい」
何言ってんだこいつ。
護衛というのを否定するつもりはないが、問題はそのあとの言葉だ。
まるで、ここからは自分がアメリアのそばにいるから俺は用済みだと、そう言っているような言い方だ。
「は?」
地を這うような低い声が口から出てきて、自分でも驚いた。
俺の近くにいたラウルとケリアがびくりと体を震わせる。
わずかながら殺気が漏れ出てしまったようだ。
残念ながらグラムはそれを感じ取れなかったらしく、薄ら笑いのまま同じ口調で続けた。
「なんだ、報酬がまだだと?エルフ族の王はいくら出すと言ったのですかな?我輩がその倍支払うので、もう君は用済み。そもそも、人族の分際でどうやってアメリア様に近づいたのですかな?体か?」
どうやらこいつも人族は格下だと思っているらしい。
自分の言い分が絶対的に正しいと思っている奴ほど面倒なのはいない。
そして、俺を侮辱するような言葉にラウルが黙っていられるわけがなかった。
「口を慎め。いくらギルドマスターいえども、勇者召喚でこの世界に来た"闇の暗殺者"様を侮辱するのは許さん」
前に出て胸を張りながら俺のことをご丁寧に説明してくれる。
だが、それは言わなくて良かったな。
明らかにグラムの目の色が変わった。
「勇者召喚で来た勇者様であると?それはおかしいですな」
「何がだ」
何か予感がして俺はようやく口を開いた。
「我輩が聞いた話では勇者様方はレイティス国の城から出たことは一度だけ、カンティネン迷宮に向かった時だけであり、それからは城にこもり続けているという話でしたが?どうしてその勇者様がここにいるので?魔王を殺す気になりましたかな?」
歴代勇者たちはこの世界の発展に貢献してきた。
中には魔王を倒していない勇者もいるが、それでも何らかのこの世界の人の為になることをしたのは確かだ。
この世界にあるカメラなどの、この世界にあるのことがどこかおかしく感じる物たちは、勇者たちがこの世界にもたらしたもの。
が、俺たちは召喚されてから何もせず、俺や勇者たち以外は戦いを拒否して城にこもり続けているため、人族からの評価は"穀潰し"だ。
実際その情報に誤りはない。
俺たちはこの世界に来て戦い方を身に着け、カンティネン迷宮に行っただけだ。
だが、彼らは勇者召喚がどれほど理不尽なものか知らない。
平和な世界から来たことも、戦いなど知らないことも。
自分たちの為に勇者たちが何かするのが普通だと思っている。
それがどれほど自分勝手なのか知らない。
「まず、俺は勇者召喚されてここにいるが勇者ではない。そして俺たちが魔王を殺すこともない」
「勇者ではないのか。しかし、何をふざけたことを。勇者召喚者が魔王を殺す。それは当然のことであり、この世界の理ですぞ」
どうしてこの世界の人間は自分にできないことを他人にさせようとするのか。
本当に困っていて、心の底から助力を乞うているのならまだ分かる。
だが、実際に魔王を倒すように頼んできたレイティス王は俺たちを利用する気だった。
俺たちは命令だけを聞く人形ではない。
感情も、人を殺すことへの抵抗だってある。
だから王女を使って俺たちに呪いをかけようとしたのだろう。
"勇者様には勇者様らしい仕草を、行動を、言葉を"というのはあの王女が勇者にかけていた呪いの言葉。
つまりはこの世界の住人が望む勇者であれということだ。
俺はそんなのごめんだね。
「この世界の理なんか知ったこっちゃない。俺たちは平和な世界で暮らしていたのにこの世界に無理矢理連れてこられた。この世界の問題はお前たちで解決してみせろよ。他の世界の住人に縋るな」
俺は歴代勇者のように聖人君子ではない。
まあ、他の勇者も呪いなんかによって強制的にさせられていたということもあるかもしれないが。
俺は他人の為に無償で何かをするのは嫌だし、見返りがないなら動かない。
この世界の人間がどうなろうと知ったことか。
グラムはそうかと呟くと、にやりと笑って俺に顔を近づけてきた。
俺は一歩後ろに下がる。
グラムは周りの人間に聞こえないように俺に囁いてきた。
「そうか。ではお前を城から逃がすために犠牲となった愚かな男の願いを叶えるつもりはないと。あの男が最期に何と言ったか教えて差し上げましょうかな?"アキラ君"とは君のことでしょう?」
一瞬で体中を流れる血管が沸騰したような気がした。
「面白い寸劇を見ているようでしたぞ。"夜鴉"どもにカメラをつけておいて正解でしたな」
「やっぱり、サラン団長はお前が……」
俺はサラン団長の最期を見ていない。
もちろん最期の言葉がなんであるかとても気になるが、それよりも目の前の男がサラン団長の仇だと知れたことがうれしかった。
「さあ、知りたくないですかな?教えてほしいならアメリア様と共に来ていただきましょう」
もう一度グラムが言ってきた。
俺は嗤って首を振る。
「お前は一つ勘違いをしている。俺にそのことを告げたのは間違いだったな」
俺は今度は自分から顔を近づけた。
「今夜、寝るときは気を付けることだ」
ようやく見つけた。
俺の殺すべき相手。
暗殺する相手が。
「……残念ですな。我輩は諸君たちを逃がす気はない」
そう言ってグラムが指を鳴らした瞬間、どこからか黒い服を着た男たちが三人現れた。
その目はどこか虚ろで、例の"強化薬"で操られているのだと分かる。
冒険者ギルドの中にはこいつらの他に俺とアメリア、そしてラウルたちしかいない。
他の職員は危機察知能力が鋭いのか、早々に避難したらしい。
まあ、やりやすくなっていいが。
様子を見ようと思った矢先、止めるまもなくケリアが車椅子に座ったままグラムの前に出た。
「ギルドマスター、これは一体どういうことですか!冒険者に一体何を……」
「民草の分際で、人族の分際で王族である我輩に声を掛けるとは無礼千万。そこの生意気な人族もろとも殺せ。我輩は我輩の所有物を返していただく」
その言葉の後、ケリアが車椅子ごと黒服の一人に吹き飛ばされた。
ただ拳を振るっただけのように見えたが、それだけでは人間ひとりと車椅子を吹き飛ばせるわけがない。
強化人間は厄介だな。
「ケリア!!!」
吹き飛ばされたケリアをラウルが受け止めるの横目で見て、俺は自分に振り下ろされた拳を受け止める。
さすが旋風の二つ名を持っているだけはあるな。
動きに躊躇いがなく、はやい。
「大切のものの手はしっかり握っとけよ、ラウル」
「っす!」
俺はアメリアを抱き寄せた。
「ひれ伏しなさい!」
こちらは重力魔法で周りの黒服と応戦できるが、ケリアは一切戦えないようだ。
ケリアはラウルが片手で抱き上げているが、両手が使えないためか動きが鈍い。
こちらはアメリアと黒服二人を相手しているが、一人だけのあちらの方が苦戦しているな。
「夜、こっちはいいからラウルの方を頼んだ。殺すなよ」
『了解した』
俺の肩の上にいる夜にそう声を掛けると、『変身』でブルート迷宮でも見たターチーに姿を変えた夜がラウルたちの加勢に行った。
「その方は我輩の所有物!返していただきますぞ」
さて黒服を倒そうかと前を向くと、こちらに手を差し出してグラムがやってきた。
俺は顔を顰めてその手を弾く。
「アメリアはお前の所有物じゃない!俺のだ触んな!!」
俺は受け止めたままの黒服の手をさらに握りしめる。
「『影魔法』起動!!」
俺と、手で繋がった黒服の影が蠢き、湧き上がる。
「出入口を喰らえ!」
バキバキと音を立てて冒険者ギルドの出入口が食い破られた。
「夜、アメリア、出るぞ!」
「ん!」
『了解した!!』
アメリアの『重力魔法』で黒服三人とグラムが床に沈み、その隙にターチーの夜がラウルとケリアを背中に乗せて開いた出入口から外に飛び出る。
「くそ!追え!逃がすな!何をモタモタしているんだ!早く追え!!」
グラムが喚いている声をバックに俺たちも冒険者ギルドからでる。
周りを囲むくらいはしていると思ったが、黒服は全くいない。
そこには騒ぎを聞き付けてやってきた冒険者と野次馬がいるだけだった。
すでに夜の姿はなく、俺は道を覚えていないためどちらに行けばいいのか分からない。
「ちょ、こっちだよ!主君!!」
ラティスネイルの声に顔を上げると、なにかに掴まったラティスネイルが空を飛んでおり、こちらに手を差し出していた。
「アメリア!」
「ん!!」
アメリアの手を握り、地面を蹴って反対の手でラティスネイルの手を握った。
ラティスネイルの手を握った瞬間、グンっと体が浮き上がり、空を飛ぶ。
「いやぁ、やっぱり飛ぶのは楽しいねぇ」
二人分の体重を支えているとは思えないほど穏やかな声でラティスネイルが言った。
下を見ると、黒服の強化人間が四人ほどこちらを見上げている。
「強化人間といえど空は飛べないみたい」
「……ありがとな、ラティスネイル」
俺はその体のところどころについた傷を見て言った。
恐らく、冒険者ギルドの周りは囲まれていたのだろう。
ギルドの建物に入るタイミングでそれに気づいていたのかは分からないが、それを排除してくれていたようだ。
「べっつにー!君が死んだら寝覚めが悪いし、君は僕のお気に入りだからね!」
得意げにラティスネイルが言う。
本当に助かった。
地面を走っていればいつか追いつかれていただろう。
「綺麗」
高度がどんどん高くなり、水の町ウルクの全体が見渡せる。
水路には船がゆっくりと進んでおり、米粒ほどの大きさの人々が道を歩いている。
水路の水がキラキラと反射して宝石のようだった。
「ああ、綺麗だな」
同時刻、別の場所でクロウとリアがこちらを見上げているのも知らず、俺はその言葉を呟いた。
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