暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第144話 〜堕ちろ〜
「今のお前があるのはあいつがいろいろと教えてくれていたおかげだらしいな。おまけにお前を逃がすのを手伝ったと。自分の命が狙われているというのに他人優先の偽善。……あいつらしい」
クロウはそう言って鼻で笑う。
最近はとくにデレクロウが多かったせいか、久しぶりの毒舌にどこか感動した。
「ときにアキラ、その暗殺部隊だが、会話はしたか?」
俺は少し考えて、首を振った。
「いや。というか、どれがその暗殺部隊の人間か分からなかった。俺があの城を出た時に囲んできた兵士は確かに見覚えがなかったけど見なかっただけかもしれないし」
その"夜鴉"という部隊が一目見て分かるような服装だったら良かったのだが、生憎とそんな人たちはいなかった。
目立たずに紛れ込むのが暗殺者の本分なのだから、そう簡単に見つかっては王家お抱えの名が泣くというものだろう。
「実は、グラムのことを調べているうちに面白いことが分かってな」
考え込んでいたクロウがそう言って顔を上げた。
俺は首を傾げてクロウを見る。
珍しく、その口元は弧を描いていた。
「グラムが使っている人間を強化する薬、そうだなそのまま"強化薬"とでも呼ぼうか。その"強化薬"で分かったことが二つある。性能と輸出ルートだ」
それが暗殺部隊とどう関係があるのだろう。
「まず、"強化薬"は戦闘職業、非戦闘職業関わらず人間の戦闘力を上げる代わりに喜怒哀楽を失い、命令を忠実にこなす戦闘人形に仕立て上げる薬だ。一回の服用でそうなってしまうのか、継続的な服用が必要なのかはまだ分かっていない」
俺とアメリアが頷くのを見てクロウは続ける。
「今のところグラムの"強化薬"傭兵は獣人族のみだが、"強化薬"が人族にも作用することは分かっていて、調べたところ十年ほど前に人族のレイティス国に一度だけ輸出されたそうだ。受取人は一見ただの薬師だったそうだが、そいつは今レイティス王の側近として城にいる」
つまり、薬の受取人は実質王様だったということか。
「サランは魔王が認めるほど強かった。あいつがただの人族に負けるわけがない。ましてや、光魔法師の得意技は結界と浄化だ。普通の暗殺など万に一つも成功するはずがない。……あり得るとすれば、薬で強化された人間のみ」
俺は唇を噛む。
「……つまり、暗殺部隊"夜鴉"はグラムの傭兵と同じく"強化薬"の戦闘人形だと?……でももしそうだとしたら、サラン・ミスレイを殺したのは自我のない人形を作りだしたレイティス王とグラムということになる?」
アメリアが何気なく呟いた言葉に目を見開く。
バッとクロウを見ると、口元は弧を描いたまま俺の顔を観察していた。
「お前、最近よく情報収集をしていたのはこの為か?」
クロウを睨みつけると、クロウは肩を竦めた。
「お前の情報を集めてはいたが、先ほどサランの知り合いだと知って驚いたのは本当だ。ここまでうまく話が繋がると面白いな」
何が面白いものか。
俺は顔をしかめる。
アメリアは話が読めないようで、俺とクロウで視線を行ったり来たりさせていた。
「私がお前の目に宿る復讐にとりつかれた人間の光に気づかないとでも思ったか?悪いが、私には時間がないんだ。なりふり構っていられない」
サラン団長の話をしていたときとは一変、その瞳が冷酷な色を宿す。
「せっかくここまで来たんだ。お前には堕ちてもらうぞ」
その言葉に何か気づいたのか、ハッとしたアメリアは俺の顔を見た。
「アキラ、まさかクロウが魔族領を案内する代わりの条件って……」
俺は答えずにクロウを睨む。
そんな俺の代わりにクロウがアメリアの問いに嗤って答えた。
「ああ。俺が出した条件はグラムの暗殺。もう戦えない俺の代わりに妹の仇を討つことだ。だが、グラムがお前の師であるサランの仇ならば話は早いだろう?それにそこの王女が連れ去られたブルート迷宮で魔族を連れ込んだのはグラムだぞ?」
クロウは押し黙った俺と視線を合わせる。
物語の主人公なら、きっとここでクロウの言葉を否定するのだろう。
復讐はむなしいだけだ。
死んだ人はそんなこと望んでいないから考え直せと。
だが、俺にはそんなことできない。
俺は小説の主人公じゃない。
マリからウルクまで、クロウと一緒に行動して、クロウがただ人間と接するのが不器用な優しい人だと知ってしまった。
サラン団長の友人だと知ってしまった。
妹の仇を討ちたいのに体が動かない無念さを知ってしまった。
知ってしまった俺はもう俺には関係ないと目を逸らすことが出来なくなってしまった。
本当に、感情というものは面倒だ。
だがそうだとしても、レイティス王の暗殺部隊が"強化薬"で狂わされていて、その薬を作ったのはグラムかその近くにいる人か、アメリアを傷つけた魔族はグラムが引き入れたのか。
全部クロウからの情報だ。
裏を取る必要があるな。
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