暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第134話 〜船〜
「そういえば、リアが使っていた『神の反転結界』って、クロウのエクストラスキル『反転』の応用なのか?それとも、似て非なるものなのか?」
王族専用移動用の船の中で、俺はずっと気になっていたことを聞いた。
王族専用なだけあって、前を行く船がわざわざ避けてくれる。
おかげで船は水路のド真ん中を悠々と進んでいた。
船の中の、恐らく王族しか使うことが許されていないようなスイートルームにいるのだが、アメリアはともかく俺の場違い感が半端ない。
きらびやかな部屋の中にひとりまっくろくろすけが迷い込んだようだ。
まあ、出された紅茶と茶菓子は美味しいが。
リアとはクロウの家で俺が気を失った時以来で、あのときの結界が何だったのか聞く暇がなかった。
確か、守り手という職業は、結界などの防御魔法に優れていて、その中でも『神の結界』という結界は、現在認知されている全結界魔法のなかでも最高の防御力を誇る。
実際、カンティネン迷宮でサラン団長が使った光魔法の上級結界魔法『サンクチュアリ』よりも強固だったし、何というか神々しさを感じた。
迷宮の最下層クラスでも簡単に破られないということは、実質かなり強いのでは……。
「あ、あれは似て非なるものです!確かにクロウ様をイメージはしましたが、あの人の『反転』は本当に一瞬ですし、攻略は不可能ですから。実際、私の結界はすぐに破られましたし」
確かに、マヒロによって破られていた。
だが、マヒロは魔族の中で二番手を張る男だ。
比べる相手が悪いというものではないだろうか。
「ということは、クロウの『反転』は個々の魔法を完全に反転してしまえるが、リアの『神の反転結界』は攻撃をそのまま反転させるということか?」
リアの結界はいわゆる鏡のようなものだろうか。
クロウの場合、しようと思えば相殺した攻撃にプラスで攻撃を追加することが出来るが、リアは鏡のように跳ね返すことしかできない。
だが、ブルート迷宮でそうだったように、大勢を相手にするときはリアの結界は使い勝手がいいな。
「そうなんです。それに、私の結界は神の力を使っているせいもあって力業のようなものなんです。私が守り手ではなく、普通の結界師であったなら絶対にできません」
リア本人も誰にどんな風に返すとか考えておらず、結界が全部してくれているらしい。
なるほど、確かに似て非なるものだ。
「ところで、それがどうかされたのですか?」
首を傾げるリアに、アメリアがクロウからエクストラスキル『反転』を教わっていることを伝えた。
それを聞いた途端、リアの身体がプルプルと震える。
「な、なん、なんですってぇぇぇ!?」
息を大きく吸っていたあたりから叫ぶのが目に見えていたので俺は耳をふさげたが、アメリアはもろに喰らった。
「……アキラ」
恨めしそうな表情のアメリアが耳を抑えてこちらをジト目で見る。
俺は苦笑してごめんと手を上げた。
「アメリア様、本当にあの人から『反転』を教わっているのですか!?」
「う、うん」
流石のアメリアも、リアの気迫に体を引いた。
リアは流石にまずいと思ったのか、すぐにアメリアから身を引く。
まあ、見ようによっては獣人族の王女がエルフ族の王女を恐喝してるようにも見えるからな。
同じ王女と言っても、アメリアがエルフ族全体の王女であるのに対して、リアは獣人族の中の一国の王女。
しかもリアの場合、養子の王女だ。
どっちが上かは馬鹿でも分かるだろう。
「……コホン、失礼しました。つい取り乱してしまって」
リアが恥ずかしそうにそう言う。
まあ、リアにとってそれほどまでに衝撃的だったのだろう。
『神の反転結界』の件といい、どこかクロウをリスペクトしている気がするからな。
「とりあえずその話は後でじっくりと聞かせてもらいましょう。……今から向かっているのは、王城です」
姿勢を正して、リアが言う。
「王城?俺たちを招くってことか?」
アメリアはともかく、自分で言うのもなんだが怪しげな俺も入れて大丈夫なのか?
「はい。義父、王がアメリア様にご挨拶をしたいと。……それと、アキラ様にお会いしたいそうです」
俺は首をかしげる。
獣人族最大国家の王様が、一介の冒険者である俺に会いたい?
俺が召喚されてこちらの世界に来たことは知られてないはず。
“闇の暗殺者”の異名のせいか?
だとしたら本当にやめてもらいたいんだが。
「詳しくは私も聞いていないのですが、アキラ様がエルフ族の王にも認められた冒険者であると知って、依頼したいことがあるそうで」
ますます分からないな。
エルフ族の王が認めたっていうのは、アメリアの護衛という名目で一緒にいるからだろうが、だとしても人族の怪しい男など王城に入れないだろう。
「……その件については王本人から聞くとしよう」
釈然としないまま、船は進んでいく。
そういえば、リアに聞きたいことがもうひとつあったんだった。
「リア、グラムって知ってるか?一応お前とはいとこになるはずだ」
リアの獣耳がピクリと動いた。
知ってるんだな。
アメリアは我関せずといった顔で、テーブルの上にある茶菓子を食べていた。
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