暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第89話 〜少年〜 アメリア目線
黙ってしまった私に、少年が口を尖らせた。
「ねーねー、次は君の話をしてよ。僕ばっかり話してる」
私は虚を突かれて少年と目を合わせた。
クリクリとした大きなエメラルドの瞳が不満げに曇っている。
離れたと思っていたけど意外と近くにそれはあった。
「そうだなー……。僕にも妹がいるんだけど、君の妹はどんな子?」
一瞬、意外だと思ってしまった。
でも、考えてみれば彼らにも家庭があって兄妹がいて両親がいて好きな人がいるのも普通のことだった。
人族も獣人族も、エルフ族だって子供にはいかに魔族が危険な種族なのかを一番に教える。
劇なんかも、必ず魔族が悪役だ。
これまで何人もの人間が攫われたり殺されたりしてきたから当たり前ではある。
これも一種の洗脳なのかもしれない。
何もしていない魔族からすれば理不尽極まりないだろう。
でもそれだけ魔族以外の人間は魔族を恐れているのだ。
私の中にも魔族は心を持たぬ完全なる悪だという認識があった。
だから魔族の少年に妹がいるなんて、人間らしくて理解が追いつかなかったのだ。
「……私の妹は強い子。でも、本当は脆かったんだって最近知ったの」
キリカは確かに私が羨ましくて、妬ましくて、殺したいくらいには嫉妬したのだろう。
だけど、それは私も一緒だった。
キリカが爆発しなければ、私が爆発していたかもしれない。
「エルフ族で唯一剣の適性がでてからは、遠距離攻撃にしか適性がない同胞を守るって言って剣を、文字通り寝る間も惜しんで練習してた」
毎日、迷宮に行く妹を、夜遅くに素振りをしている妹を、敵に見立てた木を斬っている妹を見ていた。
どうしたらそんなに熱中できるのか分からなかったから。
キリカはきっと私と同等に見てもらうために頑張っていたのだろう。
同じエルフ族の姉妹で、少しの時間差で私が先に生まれただけの妹だけれど、そのときはまるで他の種族のように感じた。
「今では金ランク冒険者で、戦闘力だけなら魔族に引けを取らない」
「そんな子がどうして脆かったの?」
静かに話を聞いていた少年がさも不思議そうに聞いてきた。
私は苦笑する。
今思えば、気づかなかったことが可笑しい。
キリカが胸に抱えて膨らませていたものを私も持っていたのだから。
「詳しい話をすると長くなるから省略するけど、妹は私に嫉妬していたの。そして、それをお父様にも私にも分からないように巧妙に隠していた」
私たちは性格が似ていないとよく言われるが、私はよく似ていると思う。
きっとお父様もキリカも私の醜い嫉妬には気づいていない。
「それが爆発して、初めてキリカが脆かったのを知った。私に嫉妬して、守りたかった同胞をめちゃくちゃにして、お父様を欺いて、私はここにいると赤ん坊のように喚いた」
それすらも羨ましい。
エルフ族の民が望むアメリアは、そんなことをしない。
それだけが私の心に根付いて、私は行動に移すどころか考えることすら拒否していたのだから。
「キリカは脆かった」
なら、私はどうだろうか。
キリカは我慢ができなかったから弱い?
いや、キリカとベクトルは違うが同じ思いを抱いていても爆発しなかった私はキリカより弱い。
「そうなんだねー。僕がエルフ族に行ったときは君しか見てないから、妹ちゃんがどんな子か気になったんだー。じゃあ次は僕の妹の話をしてあげるよ」
悶々と考え込んでいる私の闇を晴らすように明るい口調で少年が言った。
私は他の兄妹がどんな関係なのか、興味をそそられて聞き入る。
「僕の妹はね、魔物を操るのが得意なんだよ!僕よりも……ううん、魔族の誰よりも!」
誇るように少年の瞳が輝いた。
眩しい。
突然、迷宮内にエメラルド色の太陽が出現したかのようだ。
「僕ね、妹が好きなんだ。……あ、恋愛感情じゃないよ!もちろん家族としてね。でも、妹は僕のことが嫌いみたいで、いっつも僕のことを無視するの」
太陽が陰った。
感情の起伏が激しい子。
ヨルは当然ながら、アキラも私もあまり感情が表に出ないタイプだから新鮮だ。
最近では目の色で何を考えているか把握している。
「僕ってこんな性格だから、もしかしたら鬱陶しいのかなって思ってね、一時期妹から距離をおいてたんだー」
私も、キリカと距離をおいていた時期があった。
いや、忙しすぎて距離をおきたくなくてもおいてしまったというか、お互いに都合が合わなかったのだけれど、一年ぶりに会ったらさすがに泣かれてしまった。
懐かしいな。
まだエルフの民からキリカの記憶を消していないときだ。
「そしたら、妹が僕から離れなくなっちゃって、嫌われてるって思ってたからびっくりしてね、なんで?って聞いたの」
少年がくすくすと笑う。
その顔は私を殺すときとは打って変わって慈愛に満ちていた。
妹が本当に好きなんだと、何も知らない私でも分かる。
「そしたら、お兄ちゃんのことを嫌いだって言った覚えはないって。本当にあのときのリューネ可愛かったなー!ま、今はまたなんでか知らないけど無視されてるんだよねー」
なるほど、クロウと同じようなツンデレというやつなのだろうか。
ツンデレという言葉はアキラに教えてもらったが、意外とツンデレはいるらしい。
屈託なく笑う魔族の少年はそれだけを見ていると、とても私を殺すように魔物たちに命令したとは思えないほど普通だった。
むしろ、言っては悪いがアキラより人間味がある。
印象的に魔族はみんな無表情だったのだが、少年はそんなことはない。
「魔族はみんな君みたいに笑うの?」
再び問う私に少年は笑う。
「リューネはあまり笑わないよー。魔王様も笑わないかなぁ。四番手のサイラスはいつも怒ってるでしょー?あとはー、二番手のマヒロは笑っててー……」
なんてニコニコと楽しそうに魔族の特徴と名前を教えてくれる。
ここまで教えてくれる少年に、私はさすがに不安を覚えた。
こんな形をしているが、一応は魔族の三番手だ。
ならば、情報を漏らしているのは、私をアキラたちの元に返さない絶対の自信があるから。
「さてとー、そろそろ君の連れも来そうだから先を急ごうか。僕ゆったりと進んでたからここまで来るのに何日かかかったしねー。迷宮の嫌なところは太陽がなくて一日がどれくらい進んでいるか分からないところだよ」
そう呟いて立ち上がった少年は仄かに光る手を私の額に当てた。
「暴れられると面倒だからちょっと寝ててねー」
徐々に薄れていく意識の中で、エメラルドが先程と一切変わらぬ輝きで光っていた。
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