暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第84話 〜ブルート迷宮前にて〜
『指輪は本当にこちらだと示しているのか?主殿』
ウルにあるブルート迷宮の入口前で、夜が確認するように俺を見上げた。
あのとき、迷宮の扉を破って魔物が溢れ出てきたが、扉は修理されており、完全に閉ざされている。
さすが冒険者ギルド、仕事が早い。
周りに人は居ないため、入ることは出来るが、出ることができるかどうかは分からない。
カンティネン迷宮のように最下層に魔方陣があるとは限らないからある意味博打だな。
俺は右手の人差し指を見る。
光は閉ざされた扉を照らしていた。
「ああ、たしかに光は迷宮の入口を示している」
そうかと言って、夜は体を大きくさせた。
俺は迷宮の扉を開けて夜の背に乗る。
「打ち合わせ通りに、突っ切るぞ」
『任せろ』
アメリアの元に行くのが今回の目標であるため、避けられる戦闘は避けると事前に決めた。
アメリアとアウルム・トレースとかいう奴が、どれだけ下にいるのか分からないため、真面目に一層一層攻略するのではなく、ボス戦以外は夜の脚力で突っきる。
俺はもう完全に調子が戻ったし、夜と同じ速度で走ることくらいできると言ったのだが、過保護な従魔が頑として首を縦に振らなかった。
これではどちらが主かわかったものではないな。
「……いや、ちょっと待て」
いざ走り出そうとしたとき、俺はあるものを感じ取って夜を止めた。
暗器を取り出して、ちょうど暗がりになっていて死角になっているところに投げる。
「キャッ!?」
小さな悲鳴をあげて、覗き見ていた一人の女の獣人が明かりの当たるところに出てきた。
顔はフードを被っているため見えないが、かなりの長身だ。
俺より少し高いくらいだろうか。
俺は眉根を寄せる。
この声、どこかで聞いたことがあるような……。
『何者だ』
夜が歯をむきだして唸った。
その声は周りの空気がピリピリ震えるくらい警戒心に溢れている。
案の定、女は膝を震わせて顔を強ばらせた。
「夜、少し『威圧』を弱めろ。話したくても話せないだろうが」
『……分かった』
俺が言うと、夜は渋々威圧を弱めた。
それでも動けないほどには調節されている。
「あの…」
透き通った鈴のような音色の声が響く。
ようやく、俺の中で違和感の正体が分かった。
「お前、カンティネン迷宮に潜る前に勇者たちを睨みつけてた奴だな?」
王城から出るのが初めてだった俺たちに殺気を向けてきたフードの女。
勇者召喚に犠牲が必要だと言っていた女だ。
「あなたは……いえ、今はいいです。すみませんが、私もご一緒してもよろしいですか?」
フードの女は何かを言いかけて首を振り、静かな声で俺たちにそう言った。
『信用出来んな。それと、我らは急いでいる。お前に構っている暇はない』
俺が思っていることをズバズバと言ってくれる夜。
俺とアメリアには優しいが、ほかの人間には少しばかり厳しいところがある。
やはり魔物時代の名残だろうか。
「では、身分を示せば良いですか?」
そう言って女はフードをパサリと後ろに下ろした。
コバルトブルーの瞳が俺を射抜く。
「私はリア。リア・ラグーン。獣人族領最大国ウルクの第一王女です」
意志の強そうな瞳が、アメリアに少し似ていた。
『ほぅ、第一王女様がこのような場所になぜ?』
ハスキー犬の獣人は夜の威圧に喉を鳴らした。
その怯えた顔から、実戦経験はあまりないようだということが分かる。
今の威圧はカンティネン迷宮の上層あたりで感じられるくらいだ。
つまり、戦力にはならない。
だから一緒に行くと言ったのだろうし、自分が戦闘向きではないのは分かっているのだろう。
「エルフ族の王女、アメリア様にお会いしたく」
『アメリア嬢に!?』
視線を下に向けながら言われた言葉に、俺は自分が冷静でいられなくなっているのが分かった。
夜も意外な返答に思わず威圧を解いてしまっている。
俺は夜の背から降りた。
そして、リアとかいう獣人の胸ぐらを掴む。
「ぐっ!?」
「アメリアは逃げ遅れた獣人族を逃がす時間を稼ぐために一人で戦地に残り、数千の魔物を相手に戦った。……悪いがお前に戦う力があるとは思えない」
俺は暗器を取り出してリアの首に当てた。
「いくらエルフ族と獣人族が合わないからといって、これが獣人族の恩人に対する答えか?それと、アメリアが攫われた場所がここだとどうして知っている」
暗器を持つ手に思わず力がこもって、恐怖に歪むリアの首に少し血が滲んだ。
「……俺は人族の王女のせいで散々な目にあった。アメリア以外の王女という肩書きを持つ者が良かったためしがない。返答次第では躊躇なく殺す」
それだけ言うと、話しやすいように少しだけ力と威圧を緩めた。
恐らく夜がリアに向けていた威圧より俺の方が激しかったと思う。
アメリアが絡むとどうも力の加減が出来ないな。
「けほっ……私は確かに戦う力はありませんが、守る力ならあります。それに、私が来たのは獣人族としてではなく、王女として忠告をしに」
その瞳はたしかに真実を言っている目だ。
そして、手が当たっている首の脈も異変はなかった。
色々と聞きたいことがあったが、俺はひとまず掴んでいた服を離す。
だが首筋に暗器は当てたままだ。
「一つ質問に答えていない。どうしてここだと分かった?つけられている気配はしなかった。つまりはここを目指して来たということだ」
鋭く睨むと、リアはおずおずと答えた。
「スキル『強化嗅覚』を使いました。アメリア様と変な匂いがここに入ったきり途絶えています」
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