男女比が偏った歪な社会で生き抜く 〜僕は女の子に振り回される
38話
この前の実況配信は「吐息事件」と呼ばれるようになり、多くの女性が失神して倒れてしまった。正確な数は怖くして聞いてないけど、数十レベルではないのは間違いなさそう。多分、百でも足りないかも。
緊急入院する人もいたらしく、当然、アーカイブは公開できない。伝説の動画になったはずなんだけど……録画していた人も大勢いた。そういった女性たちは個人で楽しむだけではなく、CDといった物理デバイスで闇取引をするようになって、ちょっとした社会問題になりつつあるとニュースで報道されてた。
インターネットに公開したらすぐに削除されるシステムがあるらしいので、ネットでは絶対に取引されないのが唯一の救いかな。
今回の配信の影響はそれだけでなく、別の所にもあった。なんと、筋トレブームが到来しているみたい。サプリメントからジムまで筋トレに関連する企業の売上が軒並み上がっていると聞いて、僕のほほはずっと引きつっていた。
なかには、この前の配信をイヤホンで聞きながらラニングをしている人もいるらしい。目の焦点は合わず、よだれがずっと出ていたみたいだから、健康に良いのか悪いのか判断に迷う。
僕の声は、麻薬か何かなのだろうか……?
世の中はそんな感じで混乱があったけど落ち着きつつあった。
そんなとき僕のところにも事件が発生していた。
「男性からクレームがあったの?」
先ほど政府から電話があったと母さんから報告があったんだ。
僕のバーチャルタレント活動に対して不満を持っているらしい。
「即刻、活動を中止しろ。さもなければ、男性の名誉を傷つけたとして訴える、と言っているらしいわ」
母さんから想像すらしなかった、衝撃的な言葉を聞いた。そのときの会話を詳しく聞いてみると「女性にこびを売るな」って、政府にクレームがきて巡り巡って最後は僕の所に届いたみたい。
直接連絡できないのは男性保護法があるからだ。
貴重な男性同士が直接争ってしまうような事態は避けるために、こういったときには政府が仲介役をするのがいっぱんてき。とはいえこういったケースは相当珍しく、数十年ぶりに使われた制度らしい。
ちなみに前回は、お互いの容姿を罵り合ったというとてもくだらない話で、政府を振り回していたようだった。
「相手は誰なの?」
「それは分からないわ。ただ、複数ではなく一人。ランクはユキちゃんの方が高いわ。"どうしましょうか?"って、こちらの意見を伺うような姿勢があるから、間違いないと思って良いわ」
男性の個人情報が分からないのは残念だけど、たった一人の意見だと聞いて少し安心した。そのほか大勢の男性からクレームが来ていたら、さすがに自粛しないとマズイと感じたからだ。
「ランクって久々に聞いたけど、こんなときに役立つんだね」
「こんなときだからこそ、ね。ランクが高い方が価値があり、優遇される。この社会の常識よ。とはいっても、貴重な男性だから両者ともむげには出来ないの。男性同士のトラブルの場合、普通の裁判は難しくて、極力表沙汰にしないように裏で処理するのよね。お互いの要求を伝えながら落とし所を探す感じにしたいみたいだったわ」
「そっかぁ……最悪、諦めた方が良いのかな」
「ユキちゃん。こういったとき、弱気は禁物よ。私たちは正しいことをしているのよ。胸をはりなさい」
そういう母さんの目は鋭く、息子の僕は一度も見たことがない表情だ。これが、この世界で息子を育てる母親の覚悟みたいなのもなのかな。誰にも負けないと強い意志を感じるのと同時に少し怖かった。
この世界の女性は強いと思っていたけど、母親はもっと強いのだろう。
「う、うん」
僕は良くも悪くも違う世界の常識を持っているため、他の男性に言われたら「もしかしたら本当にそうなのかも?」と思ってしまった。けど、母さんがハッキリと言ってくれたことで、消えかけていた自信が戻ってきたように感じる。
「それに、もしかしたら感情だけで動いている可能性があるの」
「……どういうこと?」
「どうも話を聞いていると、"男性の名誉を傷つけている"ってことに具体性がないのよね。最初は強制されているとか言っていたらしいけど、事実を伝えたら今度は、性を売り物にしていると言っているらしいわ。主張が二転三転しているのよ」
この話を聞いて前世のクレーマーについて思い出した。
自分に不快なものがあること自体が受け入れられないのか、些細なことで他人を攻撃する人たちだ。例えば挨拶の声が小さい、表情が暗い、他の客を優先してたなどだ、他にも和菓子屋で「ケーキが売ってないってどういうこと!?」と騒いだり。
クレーマーが勝手に作り上げた常識で生きているから、世間の常識、考えとあわないんだ。そのくせ世の中の流れを悪用することには慣れていて、時には難癖を通してしまうほどのパワーがあるから厄介だった。
この人たちは引くことを知らない、謝れない、他人を思いやられない。だから徹底的に戦うしかないのは明白で、母さんが言っていたいことはやっぱり正しい。
「性を売り物にって……ゲームで遊んだだけなのに?」
あきれて物が言えないというのは本当なんだなって、こんな時に実感したくなかった。けど、脳内に「バッカじゃないの?」って言葉が繰り返されるばかりで、的確な反論が思い浮かばないほど、思考が鈍ってしまった。
優遇されている状態になれている男性が、もしかしたら真の敵なのかもしれない。相手が勝手にすり寄ってくるから努力は不要。法に守られ安全な場所から、女性を働きアリのように扱うことになれている彼らは、今の生活に満足しているからこそ、変化を恐れる。
力が弱く、数が少ない。男性は生物的な弱者であり、保護されるのはわかるけど、傲慢になるのは違う。異性を労る心を忘れてはいけないのに……。
「ユキちゃんが疑問に思うのも仕方がないわ。私や政府も同じようなことを感じてるの」
「根拠がコロコロ変わって、現実を見ていない……確かに感情的に動いてそうだね」
「そうなのよ。そんな相手に負けたくないわよね?」
もちろんだ。僕はこの女性がもっと楽しく暮らせる世界にしたいと思っている。男性が少ないからと言って苦しい思いをしている人を救いたいんだ。色んな人に襲われはしたけど、だからこそ気づくことが出来た。抑圧され続ける辛さに。
どうしようもなく、悪意だらけの女性がいることは否定でしないけど、多くの女性は本能に振り回されているだけなんだから、助けてあげたいと思うのは僕にとっては自然な流れだった。
社会の激しい競争にさらされて、異性を求める心は止まらない。それなのに世の中には男性が少なく、出会いはない。辛すぎでしょ、普通に考えて。
それなのに、よく分からない感情論で僕の活動を邪魔してくる人がいる。
許せるわけないじゃないか。負けるわけにはいかない。
男性の敵は男性、というのであれば徹底的に戦おう、抗おう。僕は女性が少しでも心穏やかに暮らせる世界を目指したいんだ。
「僕はこの活動を続ける理由があって、訳の分からない主張のためにやめるつもりはないよ」
もう、さっきまでの弱気な僕はいない。敵だって、はっきり認識したからだ。
世間の常識からすると変わったことをしているかもしれないけど、でも、誰かをおとしめるようなことをしているわけではないんだ。胸を張って、正しいことは正しいと、はっきり言っていく決意をした。
「分かっているわよ。男性の名誉を傷つけるつもりはない。活動は続ける。そう伝えておくわ」
「母さん、ありがとう」
「愛する息子のためよ。当然のことじゃない」
母さんに抱きしめられて頭をなでられる。
親離れできるか心配になったけど、今はその心地よい気持ちに身を任せたかった。
緊急入院する人もいたらしく、当然、アーカイブは公開できない。伝説の動画になったはずなんだけど……録画していた人も大勢いた。そういった女性たちは個人で楽しむだけではなく、CDといった物理デバイスで闇取引をするようになって、ちょっとした社会問題になりつつあるとニュースで報道されてた。
インターネットに公開したらすぐに削除されるシステムがあるらしいので、ネットでは絶対に取引されないのが唯一の救いかな。
今回の配信の影響はそれだけでなく、別の所にもあった。なんと、筋トレブームが到来しているみたい。サプリメントからジムまで筋トレに関連する企業の売上が軒並み上がっていると聞いて、僕のほほはずっと引きつっていた。
なかには、この前の配信をイヤホンで聞きながらラニングをしている人もいるらしい。目の焦点は合わず、よだれがずっと出ていたみたいだから、健康に良いのか悪いのか判断に迷う。
僕の声は、麻薬か何かなのだろうか……?
世の中はそんな感じで混乱があったけど落ち着きつつあった。
そんなとき僕のところにも事件が発生していた。
「男性からクレームがあったの?」
先ほど政府から電話があったと母さんから報告があったんだ。
僕のバーチャルタレント活動に対して不満を持っているらしい。
「即刻、活動を中止しろ。さもなければ、男性の名誉を傷つけたとして訴える、と言っているらしいわ」
母さんから想像すらしなかった、衝撃的な言葉を聞いた。そのときの会話を詳しく聞いてみると「女性にこびを売るな」って、政府にクレームがきて巡り巡って最後は僕の所に届いたみたい。
直接連絡できないのは男性保護法があるからだ。
貴重な男性同士が直接争ってしまうような事態は避けるために、こういったときには政府が仲介役をするのがいっぱんてき。とはいえこういったケースは相当珍しく、数十年ぶりに使われた制度らしい。
ちなみに前回は、お互いの容姿を罵り合ったというとてもくだらない話で、政府を振り回していたようだった。
「相手は誰なの?」
「それは分からないわ。ただ、複数ではなく一人。ランクはユキちゃんの方が高いわ。"どうしましょうか?"って、こちらの意見を伺うような姿勢があるから、間違いないと思って良いわ」
男性の個人情報が分からないのは残念だけど、たった一人の意見だと聞いて少し安心した。そのほか大勢の男性からクレームが来ていたら、さすがに自粛しないとマズイと感じたからだ。
「ランクって久々に聞いたけど、こんなときに役立つんだね」
「こんなときだからこそ、ね。ランクが高い方が価値があり、優遇される。この社会の常識よ。とはいっても、貴重な男性だから両者ともむげには出来ないの。男性同士のトラブルの場合、普通の裁判は難しくて、極力表沙汰にしないように裏で処理するのよね。お互いの要求を伝えながら落とし所を探す感じにしたいみたいだったわ」
「そっかぁ……最悪、諦めた方が良いのかな」
「ユキちゃん。こういったとき、弱気は禁物よ。私たちは正しいことをしているのよ。胸をはりなさい」
そういう母さんの目は鋭く、息子の僕は一度も見たことがない表情だ。これが、この世界で息子を育てる母親の覚悟みたいなのもなのかな。誰にも負けないと強い意志を感じるのと同時に少し怖かった。
この世界の女性は強いと思っていたけど、母親はもっと強いのだろう。
「う、うん」
僕は良くも悪くも違う世界の常識を持っているため、他の男性に言われたら「もしかしたら本当にそうなのかも?」と思ってしまった。けど、母さんがハッキリと言ってくれたことで、消えかけていた自信が戻ってきたように感じる。
「それに、もしかしたら感情だけで動いている可能性があるの」
「……どういうこと?」
「どうも話を聞いていると、"男性の名誉を傷つけている"ってことに具体性がないのよね。最初は強制されているとか言っていたらしいけど、事実を伝えたら今度は、性を売り物にしていると言っているらしいわ。主張が二転三転しているのよ」
この話を聞いて前世のクレーマーについて思い出した。
自分に不快なものがあること自体が受け入れられないのか、些細なことで他人を攻撃する人たちだ。例えば挨拶の声が小さい、表情が暗い、他の客を優先してたなどだ、他にも和菓子屋で「ケーキが売ってないってどういうこと!?」と騒いだり。
クレーマーが勝手に作り上げた常識で生きているから、世間の常識、考えとあわないんだ。そのくせ世の中の流れを悪用することには慣れていて、時には難癖を通してしまうほどのパワーがあるから厄介だった。
この人たちは引くことを知らない、謝れない、他人を思いやられない。だから徹底的に戦うしかないのは明白で、母さんが言っていたいことはやっぱり正しい。
「性を売り物にって……ゲームで遊んだだけなのに?」
あきれて物が言えないというのは本当なんだなって、こんな時に実感したくなかった。けど、脳内に「バッカじゃないの?」って言葉が繰り返されるばかりで、的確な反論が思い浮かばないほど、思考が鈍ってしまった。
優遇されている状態になれている男性が、もしかしたら真の敵なのかもしれない。相手が勝手にすり寄ってくるから努力は不要。法に守られ安全な場所から、女性を働きアリのように扱うことになれている彼らは、今の生活に満足しているからこそ、変化を恐れる。
力が弱く、数が少ない。男性は生物的な弱者であり、保護されるのはわかるけど、傲慢になるのは違う。異性を労る心を忘れてはいけないのに……。
「ユキちゃんが疑問に思うのも仕方がないわ。私や政府も同じようなことを感じてるの」
「根拠がコロコロ変わって、現実を見ていない……確かに感情的に動いてそうだね」
「そうなのよ。そんな相手に負けたくないわよね?」
もちろんだ。僕はこの女性がもっと楽しく暮らせる世界にしたいと思っている。男性が少ないからと言って苦しい思いをしている人を救いたいんだ。色んな人に襲われはしたけど、だからこそ気づくことが出来た。抑圧され続ける辛さに。
どうしようもなく、悪意だらけの女性がいることは否定でしないけど、多くの女性は本能に振り回されているだけなんだから、助けてあげたいと思うのは僕にとっては自然な流れだった。
社会の激しい競争にさらされて、異性を求める心は止まらない。それなのに世の中には男性が少なく、出会いはない。辛すぎでしょ、普通に考えて。
それなのに、よく分からない感情論で僕の活動を邪魔してくる人がいる。
許せるわけないじゃないか。負けるわけにはいかない。
男性の敵は男性、というのであれば徹底的に戦おう、抗おう。僕は女性が少しでも心穏やかに暮らせる世界を目指したいんだ。
「僕はこの活動を続ける理由があって、訳の分からない主張のためにやめるつもりはないよ」
もう、さっきまでの弱気な僕はいない。敵だって、はっきり認識したからだ。
世間の常識からすると変わったことをしているかもしれないけど、でも、誰かをおとしめるようなことをしているわけではないんだ。胸を張って、正しいことは正しいと、はっきり言っていく決意をした。
「分かっているわよ。男性の名誉を傷つけるつもりはない。活動は続ける。そう伝えておくわ」
「母さん、ありがとう」
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