男女比が偏った歪な社会で生き抜く 〜僕は女の子に振り回される
32話
「ただいまー」
ライブ配信を終えた僕は、まだ髪が乱れているように見える彩瀬さんと楓さんと一緒に帰ってきた。スタジオで大乱闘を繰り広げていた二人だったけど、今は落ち着いている。僕が見る限り険悪な雰囲気という感じでもない。
彼女たちは頻繁に意見がぶつかり合い、身体で語り合う関係なんだけど、終わった後まで引きずるようなことはないタイプで、ケンカ友達なんだと思う。
いつか僕もそういった人を作りたいなと思うけど、男女比が偏っている今世では絶対に見つかることはない。だからこそ本音でぶつかり合える関係ってのは憧れる。
そんなことを考えながら、二人と別れて自室に入った。
パソコンの電源を入れるとブンと音が鳴ってファンが回る。数瞬遅れてモニターの電源がついて、見慣れたデスクトップ画面が表示された。
僕が生まれた頃の家族写真を壁紙にしている。母さんが小さい僕を抱っこしていて、絵美さんがキリッとした表情で後ろに立ってい構図だ。ニューヨークに住んでいた頃に撮影したと思ったけど、あまり覚えていない。
あのころは睡眠欲が強くて、記憶が飛び飛びだった。二回目の人生だから赤ちゃんの時の思いでもしっかり覚えておこうと持っていたのに残念だったなぁ。当然、お腹の中にいたときのことも覚えてはない。
思考があちこち飛びながらも操作を止めることはない。
ブラウザを立ち上げてSNSサイトを表示、ログインして「男性 ライブ配信」と検索をする。すると、さっきの出来事に関する内容が毎秒投稿されていた。
「うぁ……。すごい」
反響をもとに、これからの活動方針を決めるといったことは考えてなく、気になったから調べただけ。だからなのか、他人事のように感じてしまう。
内容を読んでみると、賞賛は1割程度で批判も同じぐらい。残りはどうやって受け止めれば良いか分からなかった。
悲鳴や絵文字がほとんどで、なぜかキーボードを床にたたきつけてから踊り出す女性や泣きながらモニターを抱きしめる人、さらには無表情のまま僕の動画を何度も繰り返し見る人などを撮影した動画もあった。
この活動の意味を僕なりに考えていたけど、これは予想外だった。ううん、もしかしたら想定が甘かったのかもしれない。
奇行に走る人が出てくるなんて思いもよらなかった。改めてこの世の女性が抱えている問題をまざまざと見せられてしまい、色々な感情が混ざり合うけど結論は変わらない。男性をもっと身近に感じてもらうために活動は続けるよう。
「これからも頑張らないとね」
気になった反応をメモをしてから、母さんたちに確認してもらったテキストをSNSに投稿するとすぐに拡散された。
数字がドンドン増えていく異様な光景を目にしながら、色々と疲れた僕は寝ることにした。
◆◆◆
翌日、いつも通りに時間に起きると、皆に守ってもらいながら学校に行く。
ガラガラと音を立ててクラスのドアを開いた。
「おはようー」
いつもなら間を置かずに返事が返ってくるんだけど、今日は違った。
後ろから、彩瀬さんが顔だけを前に出して中をのぞく。
「あれー? 今日は静かだねー! もしかして今日は休校だったり?」
「今日は月曜日だよ。祝日でもないし普通に学校のある日だから違うよ」
「だよねー!」
舌を少し出してウィンクをした。こういう動作が自然と出てくるのかズルい。
ここで反応してしまうと調子に乗ってしまうので、あえて無視をすることに決めた。
「皆、遅れているだけなのかな?」
「それでも一人も居ないってのは変だよー。ユキちゃんと挨拶するは当番制なんだし、そんなもったいないことしないよ」
「当番制? それって――」
なんか不審な単語が聞こえたので質問しようとしたけど、彩瀬さんの興味は別のもに移っていた。
「あ! さおりだ! おはよー!」
エンジニアとしてライブ配信を裏から支えてくれる飯島さんが焦った表情をしながら歩いていた。
彩瀬さんが走り出すと彼女に飛びついた。慌てて抱きしめるようにして受け止める。
「おはよう。いつも通り元気ね……って、それどころじゃないの!」
「良いことあったの?」
「そうじゃなくて……もぅ、相変わらずのポジティブ思考だね」
「でしょー! 褒められちゃった!」
「ちょっと違うんだけど……」
飯島さんが大きなため息を吐いた。どうやら彩瀬さんとの会話を諦めたみたいだ。適当にあしらうと、暗めな顔をして僕の前に立つ。
「何かあったの?」
一瞬、言いよどむ仕草をしたけど、すぐに口を開く。
「今日は、お休みするそうです」
「……誰が?」
「全員です」
「全員?」
「はい。ほとんどの生徒と一部の教師が本日休んでいるみたいで、授業が出来ないと担任の先生がなげいていました」
「…………今はインフルエンザが流行る時期だっけ?」
「夏なので違いますね……。皆、例の動画をずっと見ていたからって、休んだみたいです。それだけなら彼女たちの責任ですし、どうでも良い話ですが」
「え、あ、そうなるの……かな?」
「はい。そうなります。ただ困ったことに一部の方々が、中の人を暴こうとして色々と情報を集めているみたいで」
後半はギリギリ聞き取れる程度の大きさだった。
今日の発言に地域が特定可能な情報は含まれていない。声も変えているので配信中に地声を出さない限り、それだけで特定するのは困難だと思ってる。
声だけでいえば、正体をバラさなければ楓さんを騙すことが出来たので、少なくとも今日、明日で僕の所にたどりつくことは不可能だろう。
バーチャルタレント活動を知っている人も家族かハーレムのメンバーだけなので、誰かの口から漏れるという危険もない。
こういった事態は想定していたし可能な限りの対策もしたので、飯島さんから話を聞いても僕は落ち着いていた。
「簡単にたどりつけるはずがないから、大丈夫だから」
「は、はい!」
完全に納得したわけではないと思うけど、うなずいてくれたから良しとしておこう。それより問題なのは学級……いや、学校崩壊してしまったことだろう。どうしてこうなってしまったんだ。
「それより、今日は授業あるのかな?」
「自習にするそうです」
「通常の授業をするには人が少なすぎるもんね」
何時間も見ていたらすぐに飽きると思う。明日か明後日には元に戻ってるかな。
そんな予想をしつつ、教室に入って席に座る。いつもは騒々しいから、静かすぎて少し怖いぐらいだ。
黒板には自習と書いてあるだけで、担任の先生がくる気配すらない。仕方がないので教科書とノートを広げて自習する準備を終わらせてから、鞄から携帯電話を取りだした。
「ゲームで遊ぶ?」
隣に座った彩瀬さんが質問をした。
残念ながら学校で遊ぶつもりはないんだよ。
「ううん。SNSをチェックしてから勉強するよ。良い機会だから彩瀬さんの勉強を見てあげる。テストが終わったからといって、油断したらだめなんだからね」
「えええー!」
大げさに驚いているけど無視だ。
この世は女性とって激しい競争社会だからね。生き残るためには勉強は欠かせない。今からでも遅くないから、心を鬼にして叩き込んでいく予定だ。
「じゃ、準備しててね」
視線を携帯電話に戻す。アプリを立ち上げてSNSを見ると、いくつかのメッセージが届いていた。知らないアカウントからだけど、それ自体は珍しくないので一つ一つ確認する。
「………………なるほど。こういったメッセージもくるのか」
感謝や愛しているといった言葉の中に、隠れるようにして、いくつか「不細工だから顔が出せないんだろ」「女にこびを売って恥ずかしくないのか! 死ね!」といった誹謗中傷がきていた。
たとえ少数だとしても、冷たい言葉は心に突き刺さってグチャグチャにして傷つけることを、二度目の人生で初めて体験することになった。
ライブ配信を終えた僕は、まだ髪が乱れているように見える彩瀬さんと楓さんと一緒に帰ってきた。スタジオで大乱闘を繰り広げていた二人だったけど、今は落ち着いている。僕が見る限り険悪な雰囲気という感じでもない。
彼女たちは頻繁に意見がぶつかり合い、身体で語り合う関係なんだけど、終わった後まで引きずるようなことはないタイプで、ケンカ友達なんだと思う。
いつか僕もそういった人を作りたいなと思うけど、男女比が偏っている今世では絶対に見つかることはない。だからこそ本音でぶつかり合える関係ってのは憧れる。
そんなことを考えながら、二人と別れて自室に入った。
パソコンの電源を入れるとブンと音が鳴ってファンが回る。数瞬遅れてモニターの電源がついて、見慣れたデスクトップ画面が表示された。
僕が生まれた頃の家族写真を壁紙にしている。母さんが小さい僕を抱っこしていて、絵美さんがキリッとした表情で後ろに立ってい構図だ。ニューヨークに住んでいた頃に撮影したと思ったけど、あまり覚えていない。
あのころは睡眠欲が強くて、記憶が飛び飛びだった。二回目の人生だから赤ちゃんの時の思いでもしっかり覚えておこうと持っていたのに残念だったなぁ。当然、お腹の中にいたときのことも覚えてはない。
思考があちこち飛びながらも操作を止めることはない。
ブラウザを立ち上げてSNSサイトを表示、ログインして「男性 ライブ配信」と検索をする。すると、さっきの出来事に関する内容が毎秒投稿されていた。
「うぁ……。すごい」
反響をもとに、これからの活動方針を決めるといったことは考えてなく、気になったから調べただけ。だからなのか、他人事のように感じてしまう。
内容を読んでみると、賞賛は1割程度で批判も同じぐらい。残りはどうやって受け止めれば良いか分からなかった。
悲鳴や絵文字がほとんどで、なぜかキーボードを床にたたきつけてから踊り出す女性や泣きながらモニターを抱きしめる人、さらには無表情のまま僕の動画を何度も繰り返し見る人などを撮影した動画もあった。
この活動の意味を僕なりに考えていたけど、これは予想外だった。ううん、もしかしたら想定が甘かったのかもしれない。
奇行に走る人が出てくるなんて思いもよらなかった。改めてこの世の女性が抱えている問題をまざまざと見せられてしまい、色々な感情が混ざり合うけど結論は変わらない。男性をもっと身近に感じてもらうために活動は続けるよう。
「これからも頑張らないとね」
気になった反応をメモをしてから、母さんたちに確認してもらったテキストをSNSに投稿するとすぐに拡散された。
数字がドンドン増えていく異様な光景を目にしながら、色々と疲れた僕は寝ることにした。
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翌日、いつも通りに時間に起きると、皆に守ってもらいながら学校に行く。
ガラガラと音を立ててクラスのドアを開いた。
「おはようー」
いつもなら間を置かずに返事が返ってくるんだけど、今日は違った。
後ろから、彩瀬さんが顔だけを前に出して中をのぞく。
「あれー? 今日は静かだねー! もしかして今日は休校だったり?」
「今日は月曜日だよ。祝日でもないし普通に学校のある日だから違うよ」
「だよねー!」
舌を少し出してウィンクをした。こういう動作が自然と出てくるのかズルい。
ここで反応してしまうと調子に乗ってしまうので、あえて無視をすることに決めた。
「皆、遅れているだけなのかな?」
「それでも一人も居ないってのは変だよー。ユキちゃんと挨拶するは当番制なんだし、そんなもったいないことしないよ」
「当番制? それって――」
なんか不審な単語が聞こえたので質問しようとしたけど、彩瀬さんの興味は別のもに移っていた。
「あ! さおりだ! おはよー!」
エンジニアとしてライブ配信を裏から支えてくれる飯島さんが焦った表情をしながら歩いていた。
彩瀬さんが走り出すと彼女に飛びついた。慌てて抱きしめるようにして受け止める。
「おはよう。いつも通り元気ね……って、それどころじゃないの!」
「良いことあったの?」
「そうじゃなくて……もぅ、相変わらずのポジティブ思考だね」
「でしょー! 褒められちゃった!」
「ちょっと違うんだけど……」
飯島さんが大きなため息を吐いた。どうやら彩瀬さんとの会話を諦めたみたいだ。適当にあしらうと、暗めな顔をして僕の前に立つ。
「何かあったの?」
一瞬、言いよどむ仕草をしたけど、すぐに口を開く。
「今日は、お休みするそうです」
「……誰が?」
「全員です」
「全員?」
「はい。ほとんどの生徒と一部の教師が本日休んでいるみたいで、授業が出来ないと担任の先生がなげいていました」
「…………今はインフルエンザが流行る時期だっけ?」
「夏なので違いますね……。皆、例の動画をずっと見ていたからって、休んだみたいです。それだけなら彼女たちの責任ですし、どうでも良い話ですが」
「え、あ、そうなるの……かな?」
「はい。そうなります。ただ困ったことに一部の方々が、中の人を暴こうとして色々と情報を集めているみたいで」
後半はギリギリ聞き取れる程度の大きさだった。
今日の発言に地域が特定可能な情報は含まれていない。声も変えているので配信中に地声を出さない限り、それだけで特定するのは困難だと思ってる。
声だけでいえば、正体をバラさなければ楓さんを騙すことが出来たので、少なくとも今日、明日で僕の所にたどりつくことは不可能だろう。
バーチャルタレント活動を知っている人も家族かハーレムのメンバーだけなので、誰かの口から漏れるという危険もない。
こういった事態は想定していたし可能な限りの対策もしたので、飯島さんから話を聞いても僕は落ち着いていた。
「簡単にたどりつけるはずがないから、大丈夫だから」
「は、はい!」
完全に納得したわけではないと思うけど、うなずいてくれたから良しとしておこう。それより問題なのは学級……いや、学校崩壊してしまったことだろう。どうしてこうなってしまったんだ。
「それより、今日は授業あるのかな?」
「自習にするそうです」
「通常の授業をするには人が少なすぎるもんね」
何時間も見ていたらすぐに飽きると思う。明日か明後日には元に戻ってるかな。
そんな予想をしつつ、教室に入って席に座る。いつもは騒々しいから、静かすぎて少し怖いぐらいだ。
黒板には自習と書いてあるだけで、担任の先生がくる気配すらない。仕方がないので教科書とノートを広げて自習する準備を終わらせてから、鞄から携帯電話を取りだした。
「ゲームで遊ぶ?」
隣に座った彩瀬さんが質問をした。
残念ながら学校で遊ぶつもりはないんだよ。
「ううん。SNSをチェックしてから勉強するよ。良い機会だから彩瀬さんの勉強を見てあげる。テストが終わったからといって、油断したらだめなんだからね」
「えええー!」
大げさに驚いているけど無視だ。
この世は女性とって激しい競争社会だからね。生き残るためには勉強は欠かせない。今からでも遅くないから、心を鬼にして叩き込んでいく予定だ。
「じゃ、準備しててね」
視線を携帯電話に戻す。アプリを立ち上げてSNSを見ると、いくつかのメッセージが届いていた。知らないアカウントからだけど、それ自体は珍しくないので一つ一つ確認する。
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