男女比が偏った歪な社会で生き抜く 〜僕は女の子に振り回される
31話
配信が強制終了して、一気に気が抜けちゃった。
大きく息を吐く。モーションキャプチャー用のスーツを着たまま、ゆっくりと地面に座る。
体のラインが分かるほどの密着したサイズなので、初めて着るときは少し緊張してたなぁ。今は慣れてしまったけど、たまに獲物を狙うような目で見られてしまうのは困るけどね……。
周囲を見渡す。
エンジニアとして、パソコンを操作している飯島さんの周囲は慌ただしい。「アーカイブに残らない……なんで」って頭を抱えているけど、一体、何が起こったのかな?
機械には詳しくないので、何もしてあげられないのがもどかしい。
控え室から飛び出してきた叔母の絵美さんは、母さんと険しい表情をしながら話し合っている。時折、電話をしているみたいだ。
これはわかる。多分、政府辺りから苦情が来ているのだろう。貴重な男性を見世物にするな! といった感じかな? 言いたいことは分かるけど、人としての自由を奪ってよい理由にならない。
男性本人の希望があるからこそライブ配信をしていたので、大きな問題にはならないと思うし、万が一、母さんに責任をとらせようとしてきたら「悲しいので死にます」とか脅せば、向こうが引いてくれるだろう。
そのぐらい、男性は貴重であり、意見は何よりも優先されるのだからね。
特に今回は僕のわがままで皆に迷惑をかけているんだし、家族を守るときぐらい特権は使わないと。これは絶対に譲れないラインだ。
そんなのんきなことを考えていると、ドタバタと複数の足音が近づいてきた。
「ユッキーー! 画面が止まったんだけど大丈夫!?」
振り向くと彩瀬さんが両手を挙げてこっちに向かってくる。僕を襲い掛かったパワーは健在だね。
……あ、楓さんに取り押さえられた。
仲がいいのか悪いのか、よく分からない関係だなぁ。
二人のおかげで不良から助かったんだし、感謝はしているのは間違いない。でも、今のところ彼女たちを完全に受け入れるのは難しいかな。
キャットファイトを繰り広げている姿を見てしまうと、異性というよりかは姉や妹と接するような感情しか出てこないから。
「邪魔しないで!」
「少しは反省したと思ったのに、彩瀬は物忘れが激しいようですね! 頭をたたけば直るのでしょうか!!」
「私は古いテレビじゃなの!」
倒れ、もつれ合いながら争いが激しくなっていく。
お互いの腕をがっしりとつかみ、マウントを取り合う。
「楓さんは、いつもいつも!」
「どうして、落ち着かないんですか! 理性的に行動できるなら私だって、こんなことしません!」
歯をむき出しにして、お互いの罵り合いが始まってしまった。
どうしよう……。止めるべきなのは分かっているんだけど、普段は落ち着いているように見える楓さんが、あそこまで感情的になっているんだから、間に入ったら襲われてしまいそうで怖い。
僕がためらっていると、彩瀬さんが飯島さんの方を向いた。
「さおり! ボーっとしてないで楓さんを倒すの手伝って!」
「こっちは、それどころじゃない!! アーカイブは残すって言ったのに、消えたんだよ! 世界中の女性から殺されちゃうよ!!」
悲壮感漂う表情をしていた。
「サブのパソコンは見たかしら? そっちには保存されていると思うわよ」
このメンバーには母さんがいる。その程度の問題は予想済みだったのだろう。たった一言で解決してしまった。
「あっ! 確認しにいってきます!!」
アドバイスを聞いて、スタジオの外に飛び出す。
味方を失った彩瀬さんは絶望したような顔を浮かべるけど、それも一瞬のこと。すぐに楓さんとの戦いを再開した。
お互いが絡まり合い、ゴロゴロと転がる。服がめくれてお腹が丸見えだ。恥ずかしく……は、ないんだろうなぁ。
シミ一つない肌に、美しい曲線を描くくびれ、うっすらと縦に割れた腹筋。思わずゴクリと唾を飲み込み、喉を鳴らしてしまうほど魅力的で、前世では一生で会うことはなかったであろう美女二人が、僕を取り合っている。
と、少し感動していたら、服を破きあって下着が丸見え状態になった。
なんだろう。二人とも本当にキレイで、僕にはもったいない存在なんだけど、どうしてこんなに残念なんだろう……。
「ユキちゃんに見せるために買った、お気に入りの服だったのに!」
「似たような服ばかりなんだから問題ないでしょう。それよりも私のおろしたてのスーツが破けてしまいました」
「楓さんこそ、いつもスーツなんだから、いいじゃん!」
「全て違うんですよ! 今日は持っている中でも細く見えるお気に入りのものでした!」
「「許さない!」」
僅かな理性は残っているみたいで、殴りあうことはしない。お互いのほっぺたをつねり上げている。僕のことなんてもう意識していないみたいで、なんで争っているのか覚えてない可能性もある。
もう一度だけ、止めるかどうか検討する。
楓さんはいつも我慢しているから、こういったときに発散する機会は必要だろうと思って、静観することに決めた。
「この堅物女ッ!」
「暴走女がッ!」
「…………」
やっぱり止めようかな。決心が揺らぐ。
けど、我慢だ。
「私のシャンプーを勝手に使うし!」
「どれも一緒じゃないですか」
「違いますー! あれは私の匂いなの! ユキちゃんに覚えてもらうために、悩みに悩んで選んだんだから、使わないでよ!」
「それなら香水を勝手に使っている彩瀬さんは、どうなんですか!? あの香りは私のものです! 私を思い出してもらうために使っているんですから!!」
「…………」
二人とも良い匂いだなって思ってたけど、そんなこと考えていたんだ。気づかなかった。これからは、香りにも気をつけるようにしよう。
「だったら、ユキちゃんの下着を隠し持っているの知ってるんだから!」
「私は許可を得ています! それに、あなただって一緒じゃないですか!」
え、えッ!? まって、なにそれ!
許可を得ているって言っているけど、それを決められる人は一人しかいない!
「…………どういうこと?」
僕を守るために近くまで来てくれた母さんに疑問を投げかけた。
「ユキちゃん。ここは教育に悪いわ。行くわよ」
期待していた回答は、返ってこなかった。
無表情のままなので何を思っているのか読み取れない。
僕の手を取ると、出口に向かって歩き出した。
「母さん?」
呼び止めると足が止まる。
「ユキちゃん、知らなければ、幸せになれることは多いのよ。分かってくれるかしら?」
「う、うん」
圧力に負けて同意してしまった。でも言っていることは分かるし、隠しごとをあえて暴く必要はないよね。そう思おう。僕は平和に過ごしたいんだ。
もちろん、下着をこっそりと持って行かれたのはショックだし、少しだけ嫌だ。この世の男性であれば、ハーレムから追放するレベルだろう。
でも、少なからず好意を持っている異性で、仲が良ければ……許せないと怒るほどではないかな。気持ちは分かるし。
「二人が持っているのは、洗濯した下着?」
「もちろんよ」
清潔にしたものであれば良いか。ここら辺が妥協ラインだよね。
下着を使って何をしているか気にはなるけど、聞いたら負けだと感じた。もう好きに使って良いよ。その代わり、見えないところでね……。
「ならいいけど、今日のこと許してくれる?」
「ユキちゃんが、やりたかったことでしょ?」
「うん。身近に男性がいることを実感して欲しかったんだ」
まだ第一歩を踏み出したばかりだ。
今は動画が多いけど、これからはライブ配信をメインにして、交流できる機会を増やそうと考えている。
リアルタイムで会話できるからこそ、この活動に価値があるんだって、いつでも男性に会えるんだって、そう思える世界になってほしいから。
「なら、許すもなにもないわ。大丈夫よ」
だから、母さんが許可してくれたのは嬉しかった。
「今日は疲れたからお家に帰ろう」
「美味しい料理を作ってあげるわ」
そう言うと、スタジオから出て行くことに気づかない二人を放置して、撤収準備を進めることにした。
大きく息を吐く。モーションキャプチャー用のスーツを着たまま、ゆっくりと地面に座る。
体のラインが分かるほどの密着したサイズなので、初めて着るときは少し緊張してたなぁ。今は慣れてしまったけど、たまに獲物を狙うような目で見られてしまうのは困るけどね……。
周囲を見渡す。
エンジニアとして、パソコンを操作している飯島さんの周囲は慌ただしい。「アーカイブに残らない……なんで」って頭を抱えているけど、一体、何が起こったのかな?
機械には詳しくないので、何もしてあげられないのがもどかしい。
控え室から飛び出してきた叔母の絵美さんは、母さんと険しい表情をしながら話し合っている。時折、電話をしているみたいだ。
これはわかる。多分、政府辺りから苦情が来ているのだろう。貴重な男性を見世物にするな! といった感じかな? 言いたいことは分かるけど、人としての自由を奪ってよい理由にならない。
男性本人の希望があるからこそライブ配信をしていたので、大きな問題にはならないと思うし、万が一、母さんに責任をとらせようとしてきたら「悲しいので死にます」とか脅せば、向こうが引いてくれるだろう。
そのぐらい、男性は貴重であり、意見は何よりも優先されるのだからね。
特に今回は僕のわがままで皆に迷惑をかけているんだし、家族を守るときぐらい特権は使わないと。これは絶対に譲れないラインだ。
そんなのんきなことを考えていると、ドタバタと複数の足音が近づいてきた。
「ユッキーー! 画面が止まったんだけど大丈夫!?」
振り向くと彩瀬さんが両手を挙げてこっちに向かってくる。僕を襲い掛かったパワーは健在だね。
……あ、楓さんに取り押さえられた。
仲がいいのか悪いのか、よく分からない関係だなぁ。
二人のおかげで不良から助かったんだし、感謝はしているのは間違いない。でも、今のところ彼女たちを完全に受け入れるのは難しいかな。
キャットファイトを繰り広げている姿を見てしまうと、異性というよりかは姉や妹と接するような感情しか出てこないから。
「邪魔しないで!」
「少しは反省したと思ったのに、彩瀬は物忘れが激しいようですね! 頭をたたけば直るのでしょうか!!」
「私は古いテレビじゃなの!」
倒れ、もつれ合いながら争いが激しくなっていく。
お互いの腕をがっしりとつかみ、マウントを取り合う。
「楓さんは、いつもいつも!」
「どうして、落ち着かないんですか! 理性的に行動できるなら私だって、こんなことしません!」
歯をむき出しにして、お互いの罵り合いが始まってしまった。
どうしよう……。止めるべきなのは分かっているんだけど、普段は落ち着いているように見える楓さんが、あそこまで感情的になっているんだから、間に入ったら襲われてしまいそうで怖い。
僕がためらっていると、彩瀬さんが飯島さんの方を向いた。
「さおり! ボーっとしてないで楓さんを倒すの手伝って!」
「こっちは、それどころじゃない!! アーカイブは残すって言ったのに、消えたんだよ! 世界中の女性から殺されちゃうよ!!」
悲壮感漂う表情をしていた。
「サブのパソコンは見たかしら? そっちには保存されていると思うわよ」
このメンバーには母さんがいる。その程度の問題は予想済みだったのだろう。たった一言で解決してしまった。
「あっ! 確認しにいってきます!!」
アドバイスを聞いて、スタジオの外に飛び出す。
味方を失った彩瀬さんは絶望したような顔を浮かべるけど、それも一瞬のこと。すぐに楓さんとの戦いを再開した。
お互いが絡まり合い、ゴロゴロと転がる。服がめくれてお腹が丸見えだ。恥ずかしく……は、ないんだろうなぁ。
シミ一つない肌に、美しい曲線を描くくびれ、うっすらと縦に割れた腹筋。思わずゴクリと唾を飲み込み、喉を鳴らしてしまうほど魅力的で、前世では一生で会うことはなかったであろう美女二人が、僕を取り合っている。
と、少し感動していたら、服を破きあって下着が丸見え状態になった。
なんだろう。二人とも本当にキレイで、僕にはもったいない存在なんだけど、どうしてこんなに残念なんだろう……。
「ユキちゃんに見せるために買った、お気に入りの服だったのに!」
「似たような服ばかりなんだから問題ないでしょう。それよりも私のおろしたてのスーツが破けてしまいました」
「楓さんこそ、いつもスーツなんだから、いいじゃん!」
「全て違うんですよ! 今日は持っている中でも細く見えるお気に入りのものでした!」
「「許さない!」」
僅かな理性は残っているみたいで、殴りあうことはしない。お互いのほっぺたをつねり上げている。僕のことなんてもう意識していないみたいで、なんで争っているのか覚えてない可能性もある。
もう一度だけ、止めるかどうか検討する。
楓さんはいつも我慢しているから、こういったときに発散する機会は必要だろうと思って、静観することに決めた。
「この堅物女ッ!」
「暴走女がッ!」
「…………」
やっぱり止めようかな。決心が揺らぐ。
けど、我慢だ。
「私のシャンプーを勝手に使うし!」
「どれも一緒じゃないですか」
「違いますー! あれは私の匂いなの! ユキちゃんに覚えてもらうために、悩みに悩んで選んだんだから、使わないでよ!」
「それなら香水を勝手に使っている彩瀬さんは、どうなんですか!? あの香りは私のものです! 私を思い出してもらうために使っているんですから!!」
「…………」
二人とも良い匂いだなって思ってたけど、そんなこと考えていたんだ。気づかなかった。これからは、香りにも気をつけるようにしよう。
「だったら、ユキちゃんの下着を隠し持っているの知ってるんだから!」
「私は許可を得ています! それに、あなただって一緒じゃないですか!」
え、えッ!? まって、なにそれ!
許可を得ているって言っているけど、それを決められる人は一人しかいない!
「…………どういうこと?」
僕を守るために近くまで来てくれた母さんに疑問を投げかけた。
「ユキちゃん。ここは教育に悪いわ。行くわよ」
期待していた回答は、返ってこなかった。
無表情のままなので何を思っているのか読み取れない。
僕の手を取ると、出口に向かって歩き出した。
「母さん?」
呼び止めると足が止まる。
「ユキちゃん、知らなければ、幸せになれることは多いのよ。分かってくれるかしら?」
「う、うん」
圧力に負けて同意してしまった。でも言っていることは分かるし、隠しごとをあえて暴く必要はないよね。そう思おう。僕は平和に過ごしたいんだ。
もちろん、下着をこっそりと持って行かれたのはショックだし、少しだけ嫌だ。この世の男性であれば、ハーレムから追放するレベルだろう。
でも、少なからず好意を持っている異性で、仲が良ければ……許せないと怒るほどではないかな。気持ちは分かるし。
「二人が持っているのは、洗濯した下着?」
「もちろんよ」
清潔にしたものであれば良いか。ここら辺が妥協ラインだよね。
下着を使って何をしているか気にはなるけど、聞いたら負けだと感じた。もう好きに使って良いよ。その代わり、見えないところでね……。
「ならいいけど、今日のこと許してくれる?」
「ユキちゃんが、やりたかったことでしょ?」
「うん。身近に男性がいることを実感して欲しかったんだ」
まだ第一歩を踏み出したばかりだ。
今は動画が多いけど、これからはライブ配信をメインにして、交流できる機会を増やそうと考えている。
リアルタイムで会話できるからこそ、この活動に価値があるんだって、いつでも男性に会えるんだって、そう思える世界になってほしいから。
「なら、許すもなにもないわ。大丈夫よ」
だから、母さんが許可してくれたのは嬉しかった。
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