男女比が偏った歪な社会で生き抜く 〜僕は女の子に振り回される
28話
夕食が終わり、各々が自由に過ごす時間になると、僕の部屋に母さんと絵美さんを招いた。目的はもちろん、バーチャルYouTuberとしてデビューを許可してもらうことだ。
未成年、しかも男性であれば親の同意が必要だからね。
「ユキちゃんの部屋はキレイにしてて偉いわね。彩瀬さんも見習ってほしいわ」
数ヶ月ぶりに僕の部屋に入った母さんは、彩瀬さんの部屋を思い出して険しい顔をしていた。
「ユキトが週に一回、部屋を視察すれば解決」
「良いわね。本気で検討してみようかしら」
「……そんなにヒドイの?」
楓さんや彩瀬さんの部屋に入ったことはないんだけど、そんな顔になるほど汚いんだ……。見た目がキレイただから綺麗好きだと思っていたから意外だ。僕が抱いていた幻想が、また一つ壊れたような気がする。
「単純に物が多いのよ。ぬいぐるみや服が床一面に散らかっているの。さすがに食べ残しはなかったけど……片付けが苦手なのでしょうね。あの娘」
「整理整頓は基本。ユキトにも迷惑がかかるから改善は必要」
「……絵美の言う通りね。ユキちゃんによる定期的な監視はやるべきね」
なんだかよくわからないけど、話が勝手に進んでまとまってしまった。
「それはいいけど、僕がチェックする程度でキレイになるの?」
「最初の頃は"いつかユキちゃんが来るかもしれない!"って張り切ってキレイにしていたのよ。定期的に来るようにあれば、その頃の気持ちを思い出すはずよ」
「うーん。なんだか実感わかないけど、母さんがそう言うのなら、お部屋訪問するよ」
「2人のためにも、そうしてちょうだい」
話がひと段落すると、僕らはクッションの上に座ってくつろぐ。
絵美さんは無表情ながらも穏やかで、母さんはニコニコと分かりやすく笑ってる。動画デビューの件を話すには、もってこいな雰囲気だ。
「話が脱線しちゃったわね。ユキちゃんは何を話したかったの?」
と、口を開きかけた僕より早く、母さんが話を切り出した。
目の前にいる2人を説得できるか不安で、緊張で心臓がドクドクと動き、口がうまく動かない。
動画配信は恋愛コラム以上にリスクが高い。ライブ配信だったら、ならなおさらだ。いくら母さんでも今回は間違いなく反対するだろう。今まで通りとはいかないはずだ……。
いや、そんなんじゃダメだ! そんな弱気だと何もできない! 僕なら出来る! 大丈夫! 必ず説得できる! そう思い込むんだ!
半ば自分をだますように、心の中で言い聞かせてから口を開いた。
「恋愛コラムを読んでファンになってくれた人と交流したいんだ」
「具体的にどうするつもり?」
「動画をライブ配信する予定なんだけど、顔は出さずにCGアバターを使って交流するつもり。ファンが書き込んだチャットを読み上げながら、交流したいんだ!」
言ったぞ。言い切ったぞ! 反対されても必ず説得する。そう強い意思を込めて母さんを見つめていた。
「いいわよ」
「母さんがダメと言うのも分か……良いの!?」
予想外の反応に、予定していた言葉を半分ほど言ってしまった。
母さんは理解しているのだろうか? CGが消えて僕の姿が見えてしまう放送事故が起こるかもしれないし、声だけで本人を特定する人が出る可能性も否定できない。もしかしたら僕がライブ配信中に、問題発言をするかもしれないんだ。
パッと思いつくだけでも色々なリスクがある。それを確認もせずに「いいわよ」で終わらしていいのかな……。
「あら? 私が許可を出したのが不思議? 問題があるとしても、ユキちゃんの身バレ程度でしょ? バレたら護衛を増やすだけよ。変に気をまわさないでユキちゃんは、やりたい事をやれば良いの」
母さんは思いっきりが良いと感じてはいたけど、ここまでだったとは! 確かに男性が優遇されてる社会で身バレしても、護衛を増やしてしまえば大抵の問題は解決する。
最悪、訴えるなり引っ越してしまえば良いんだ。そう考えれば僕が考えていたリスクなんて、大したものではなかったのかもしれない。
「母さん、ありがとう!」
だとしても嬉しいことには変わりない。歓喜のあまり抱きついてしまった。
「あらあら……動画配信までの手続きは大丈夫?」
「ちょっと不安かな……」
飯島さんが出来ると言っても一人では限界がある。場所の確保や機材の購入。台本だって作らなきゃいけない。やることは山のようにある。それを僕たちだけで、やれと言われても不安しかない。
「そう。絵美、手伝ってあげて」
「分かってる」
だから、母さんと一緒に僕を育ててくれた絵美さんの返事は、とても心強かった。
「絵美さんも、ありがとう!」
母さんに抱きついたまま首を動かして絵美さんにお礼を言うと、分かりやすいほど「不満です」という表情をしていた。
あれ? 僕はいつの間にか失礼なことをしていたのかな? もしかして母さんに抱きつきながらお礼を言ったのがいけなかったのかもしれない。そう思って僕は体を話して、もう一度お礼を言ったけど、絵美さんの表情は変わらなかった。
「……私には抱きつかないの?」
絵美さんは両腕を広げて僕が来るのを待っている。
え!? そういうことなの!?
絵美さんは僕にとって叔母さんであり、間違いなく家族だ。だけど、なんというか……母さんに抱きつくのとは違う、恥ずかしさがある。とはいえ、あの期待に満ちた瞳を見たら断ることは出来ない。
「お邪魔します!」
僕が恥ずかしさを押し殺して抱きつくと、優しく髪を撫でられた。
「なんで、そんなに頑張るの?」
動かす手を止めない絵美さんが、ふと思い出したようにつぶやいた。
まぁ、これは当然の疑問だろう。僕だって保護者だったら同じ質問をする。母さんは何も言わずに見守ってくれるけど、気持ちは絵美さんと同じはずだ。
「…………愛されない人生って、哀しいから、ね」
愛に飢えている女性たちは、前世の僕が抱いていた感情にどこか似ている。彼女たちの後ろに、死んだ僕の姿が見えるんだ。前世を供養するため。そんな自分勝手な想いで周りに迷惑をかけてしまっている。
なんだか自己嫌悪に陥ってきたぞ……。
「ユキちゃんへの愛情が足りなかったのかしら!?」
顔を真っ青にした母さんが、絵美さんに抱かれている僕を奪い取る。
こんな余裕のない姿を見るのは初めてで、声が出ない。
「気付いてあげられなくて、ごめんなさい」
思っていた以上に深刻に考えているようで、声が震えている。
違う。母さんは何も悪くない! わがままな僕が悪いだけなんだ!
「母さんや絵美さんに愛情をいっぱいもらったからこそ、それを分けてあげたいと思ったんだよ」
だから僕は、母さんに嘘をつくことにした。
「そうなの? 優しい子ね」
「僕は、みんなに愛されて幸せだよ」
母さんの後ろに手をまわして、安心させるようにゆっくりと背中をなでた。
「これじゃ、どっちが親なのか分からないわね」
「ここは息子が成長したと、喜ぶところだよ」
「ふふふ、そうね。あっという間に成長してしまったわね。嬉しいけど少しだけ寂しいわ」
気持ちが落ち着いた母さんの声は、いつもより優しい声だった。
◆◆◆
母さんとの許可と絵美さんの協力があれば、出来ないことはない。翌日からCGのモデリング、機材の購入といった準備を進めて、2ヶ月後には家の地下室に動画撮影用のスタジオが完成した。もちろん収録だけではなく、ライブ配信にも対応している。
準備が終わったら、即ライブ配信でもよかったんだけど、僕はじっくり進める方針をとった。
どういう人間なのか分かってもらうために、恋愛コラムで寄せられた僕に関する質問を答えたり、実況系の動画を撮影したり、いくつか動画サイトの僕のページにアップロードして、反応を見ることにした。
「リロードするたびに、視聴回数の桁が増えている……」
僕は今、彩瀬さんの部屋でアップロードした動画の様子を見ていた。
恋愛コラムで告知したこともあって、公開初日から数百万再生を記録している。
「CGのユキトもカッコイイからね! ユキトと出会ってなければ、私もこの動画にハマってたよ!」
「さっきまで、動画をリピート再生してたの知っていますよ……」
「楓さんだって、同じじゃない!」
「私はどちらのユキトも好きですから。リアルとCG。1粒で2度美味しい。そう思いません?」
「思う!」
彩瀬さんと楓さんが、好き勝手なことを言って盛り上がっている。
2人の中が良いのは嬉しいんだけど、本人の前で盛り上がるのはやめてほしい。恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまう。しまうじゃないか。顔が火照っているので、実際に赤くなっているのだろう。
会話を意識しないように動画の評価をみると、高評価数がとんでもなく高い。コメントも好意的な意見が多い。今はまだ、僕を特定しようとする人はいないみたいだ。
さらに読み進めると、海外のコメントも多い事に気づく。英語でしゃべったり翻訳を入れたりした効果がちゃんと出ているのだろう。僕の動画を世界中の人が見てくれている。コメントを見てようやく実感できた。
「ふぅ……」
想像より良い結果を残せたことに、僕は安堵のため息を吐いた。
母さんの説得から始まり、準備でずっと忙しかった。さらに慣れない動画撮影は緊張しっぱなしで、気持ちが落ち着かなかった。完成してからも「これで大丈夫かな?」と、自問自答する日々だ。
それがようやく終わったと思うと、全身の力が抜けていくようだった。
「この部屋の片付けを手伝って、疲れたのですか?」
「あはは。今は緊張がほぐれて、疲れが出た感じかな」
母さんとの話し合いの後、定期的に彩瀬さんの部屋に訪れるようになったんだけど、なかなか改善されなかった。結局、毎週3人で片付けをすることになり、今日も動画を見る前に部屋を綺麗にしていた。
僕はこういった作業――家事は好きだ。成果がすぐにわかるからね。終わった瞬間が気持ちが良いんだ。だから片付けを手伝うのは好きなんだけど、絵美さんや楓さんからすれば納得できないみたい。
事あるたびに、2人は彩瀬さんに注意をしていた。
「ユキト。そな時は、お姉さんを頼りなさい」
ぼーっとしながらそんな事を考えていたら、楓さんに倒されて膝枕をされてしまった。さっぱりとした彼女の性格を表しているかのように、爽やかな香りと柔らかい感触が、僕の疲れを癒してくれる。
「あー! ずるい!」
体を休めようと目を閉じている僕の耳に、彩瀬さんの拗ねたような声が聞こえる。きっと、立ち上がって楓さんに抗議をしているんだろうな。見なくても想像出来るくらいには、彼女のことを分かっているつもりだ。
「早い者、勝ちです」
楓さんは、ドヤ顏をしているんだろうな。
僕が嫌がると知っているから本気でケンカしない。今回も猫がじゃれ合うようなものだ。放置しても問題ないな。
次回のライブ配信を頑張るために、僕は彼女たちの声をBGMにしながら気持ちを切り替えようとしたけど、太ももの柔らかい感触に負けて、いつの間にか寝てしまった。
未成年、しかも男性であれば親の同意が必要だからね。
「ユキちゃんの部屋はキレイにしてて偉いわね。彩瀬さんも見習ってほしいわ」
数ヶ月ぶりに僕の部屋に入った母さんは、彩瀬さんの部屋を思い出して険しい顔をしていた。
「ユキトが週に一回、部屋を視察すれば解決」
「良いわね。本気で検討してみようかしら」
「……そんなにヒドイの?」
楓さんや彩瀬さんの部屋に入ったことはないんだけど、そんな顔になるほど汚いんだ……。見た目がキレイただから綺麗好きだと思っていたから意外だ。僕が抱いていた幻想が、また一つ壊れたような気がする。
「単純に物が多いのよ。ぬいぐるみや服が床一面に散らかっているの。さすがに食べ残しはなかったけど……片付けが苦手なのでしょうね。あの娘」
「整理整頓は基本。ユキトにも迷惑がかかるから改善は必要」
「……絵美の言う通りね。ユキちゃんによる定期的な監視はやるべきね」
なんだかよくわからないけど、話が勝手に進んでまとまってしまった。
「それはいいけど、僕がチェックする程度でキレイになるの?」
「最初の頃は"いつかユキちゃんが来るかもしれない!"って張り切ってキレイにしていたのよ。定期的に来るようにあれば、その頃の気持ちを思い出すはずよ」
「うーん。なんだか実感わかないけど、母さんがそう言うのなら、お部屋訪問するよ」
「2人のためにも、そうしてちょうだい」
話がひと段落すると、僕らはクッションの上に座ってくつろぐ。
絵美さんは無表情ながらも穏やかで、母さんはニコニコと分かりやすく笑ってる。動画デビューの件を話すには、もってこいな雰囲気だ。
「話が脱線しちゃったわね。ユキちゃんは何を話したかったの?」
と、口を開きかけた僕より早く、母さんが話を切り出した。
目の前にいる2人を説得できるか不安で、緊張で心臓がドクドクと動き、口がうまく動かない。
動画配信は恋愛コラム以上にリスクが高い。ライブ配信だったら、ならなおさらだ。いくら母さんでも今回は間違いなく反対するだろう。今まで通りとはいかないはずだ……。
いや、そんなんじゃダメだ! そんな弱気だと何もできない! 僕なら出来る! 大丈夫! 必ず説得できる! そう思い込むんだ!
半ば自分をだますように、心の中で言い聞かせてから口を開いた。
「恋愛コラムを読んでファンになってくれた人と交流したいんだ」
「具体的にどうするつもり?」
「動画をライブ配信する予定なんだけど、顔は出さずにCGアバターを使って交流するつもり。ファンが書き込んだチャットを読み上げながら、交流したいんだ!」
言ったぞ。言い切ったぞ! 反対されても必ず説得する。そう強い意思を込めて母さんを見つめていた。
「いいわよ」
「母さんがダメと言うのも分か……良いの!?」
予想外の反応に、予定していた言葉を半分ほど言ってしまった。
母さんは理解しているのだろうか? CGが消えて僕の姿が見えてしまう放送事故が起こるかもしれないし、声だけで本人を特定する人が出る可能性も否定できない。もしかしたら僕がライブ配信中に、問題発言をするかもしれないんだ。
パッと思いつくだけでも色々なリスクがある。それを確認もせずに「いいわよ」で終わらしていいのかな……。
「あら? 私が許可を出したのが不思議? 問題があるとしても、ユキちゃんの身バレ程度でしょ? バレたら護衛を増やすだけよ。変に気をまわさないでユキちゃんは、やりたい事をやれば良いの」
母さんは思いっきりが良いと感じてはいたけど、ここまでだったとは! 確かに男性が優遇されてる社会で身バレしても、護衛を増やしてしまえば大抵の問題は解決する。
最悪、訴えるなり引っ越してしまえば良いんだ。そう考えれば僕が考えていたリスクなんて、大したものではなかったのかもしれない。
「母さん、ありがとう!」
だとしても嬉しいことには変わりない。歓喜のあまり抱きついてしまった。
「あらあら……動画配信までの手続きは大丈夫?」
「ちょっと不安かな……」
飯島さんが出来ると言っても一人では限界がある。場所の確保や機材の購入。台本だって作らなきゃいけない。やることは山のようにある。それを僕たちだけで、やれと言われても不安しかない。
「そう。絵美、手伝ってあげて」
「分かってる」
だから、母さんと一緒に僕を育ててくれた絵美さんの返事は、とても心強かった。
「絵美さんも、ありがとう!」
母さんに抱きついたまま首を動かして絵美さんにお礼を言うと、分かりやすいほど「不満です」という表情をしていた。
あれ? 僕はいつの間にか失礼なことをしていたのかな? もしかして母さんに抱きつきながらお礼を言ったのがいけなかったのかもしれない。そう思って僕は体を話して、もう一度お礼を言ったけど、絵美さんの表情は変わらなかった。
「……私には抱きつかないの?」
絵美さんは両腕を広げて僕が来るのを待っている。
え!? そういうことなの!?
絵美さんは僕にとって叔母さんであり、間違いなく家族だ。だけど、なんというか……母さんに抱きつくのとは違う、恥ずかしさがある。とはいえ、あの期待に満ちた瞳を見たら断ることは出来ない。
「お邪魔します!」
僕が恥ずかしさを押し殺して抱きつくと、優しく髪を撫でられた。
「なんで、そんなに頑張るの?」
動かす手を止めない絵美さんが、ふと思い出したようにつぶやいた。
まぁ、これは当然の疑問だろう。僕だって保護者だったら同じ質問をする。母さんは何も言わずに見守ってくれるけど、気持ちは絵美さんと同じはずだ。
「…………愛されない人生って、哀しいから、ね」
愛に飢えている女性たちは、前世の僕が抱いていた感情にどこか似ている。彼女たちの後ろに、死んだ僕の姿が見えるんだ。前世を供養するため。そんな自分勝手な想いで周りに迷惑をかけてしまっている。
なんだか自己嫌悪に陥ってきたぞ……。
「ユキちゃんへの愛情が足りなかったのかしら!?」
顔を真っ青にした母さんが、絵美さんに抱かれている僕を奪い取る。
こんな余裕のない姿を見るのは初めてで、声が出ない。
「気付いてあげられなくて、ごめんなさい」
思っていた以上に深刻に考えているようで、声が震えている。
違う。母さんは何も悪くない! わがままな僕が悪いだけなんだ!
「母さんや絵美さんに愛情をいっぱいもらったからこそ、それを分けてあげたいと思ったんだよ」
だから僕は、母さんに嘘をつくことにした。
「そうなの? 優しい子ね」
「僕は、みんなに愛されて幸せだよ」
母さんの後ろに手をまわして、安心させるようにゆっくりと背中をなでた。
「これじゃ、どっちが親なのか分からないわね」
「ここは息子が成長したと、喜ぶところだよ」
「ふふふ、そうね。あっという間に成長してしまったわね。嬉しいけど少しだけ寂しいわ」
気持ちが落ち着いた母さんの声は、いつもより優しい声だった。
◆◆◆
母さんとの許可と絵美さんの協力があれば、出来ないことはない。翌日からCGのモデリング、機材の購入といった準備を進めて、2ヶ月後には家の地下室に動画撮影用のスタジオが完成した。もちろん収録だけではなく、ライブ配信にも対応している。
準備が終わったら、即ライブ配信でもよかったんだけど、僕はじっくり進める方針をとった。
どういう人間なのか分かってもらうために、恋愛コラムで寄せられた僕に関する質問を答えたり、実況系の動画を撮影したり、いくつか動画サイトの僕のページにアップロードして、反応を見ることにした。
「リロードするたびに、視聴回数の桁が増えている……」
僕は今、彩瀬さんの部屋でアップロードした動画の様子を見ていた。
恋愛コラムで告知したこともあって、公開初日から数百万再生を記録している。
「CGのユキトもカッコイイからね! ユキトと出会ってなければ、私もこの動画にハマってたよ!」
「さっきまで、動画をリピート再生してたの知っていますよ……」
「楓さんだって、同じじゃない!」
「私はどちらのユキトも好きですから。リアルとCG。1粒で2度美味しい。そう思いません?」
「思う!」
彩瀬さんと楓さんが、好き勝手なことを言って盛り上がっている。
2人の中が良いのは嬉しいんだけど、本人の前で盛り上がるのはやめてほしい。恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまう。しまうじゃないか。顔が火照っているので、実際に赤くなっているのだろう。
会話を意識しないように動画の評価をみると、高評価数がとんでもなく高い。コメントも好意的な意見が多い。今はまだ、僕を特定しようとする人はいないみたいだ。
さらに読み進めると、海外のコメントも多い事に気づく。英語でしゃべったり翻訳を入れたりした効果がちゃんと出ているのだろう。僕の動画を世界中の人が見てくれている。コメントを見てようやく実感できた。
「ふぅ……」
想像より良い結果を残せたことに、僕は安堵のため息を吐いた。
母さんの説得から始まり、準備でずっと忙しかった。さらに慣れない動画撮影は緊張しっぱなしで、気持ちが落ち着かなかった。完成してからも「これで大丈夫かな?」と、自問自答する日々だ。
それがようやく終わったと思うと、全身の力が抜けていくようだった。
「この部屋の片付けを手伝って、疲れたのですか?」
「あはは。今は緊張がほぐれて、疲れが出た感じかな」
母さんとの話し合いの後、定期的に彩瀬さんの部屋に訪れるようになったんだけど、なかなか改善されなかった。結局、毎週3人で片付けをすることになり、今日も動画を見る前に部屋を綺麗にしていた。
僕はこういった作業――家事は好きだ。成果がすぐにわかるからね。終わった瞬間が気持ちが良いんだ。だから片付けを手伝うのは好きなんだけど、絵美さんや楓さんからすれば納得できないみたい。
事あるたびに、2人は彩瀬さんに注意をしていた。
「ユキト。そな時は、お姉さんを頼りなさい」
ぼーっとしながらそんな事を考えていたら、楓さんに倒されて膝枕をされてしまった。さっぱりとした彼女の性格を表しているかのように、爽やかな香りと柔らかい感触が、僕の疲れを癒してくれる。
「あー! ずるい!」
体を休めようと目を閉じている僕の耳に、彩瀬さんの拗ねたような声が聞こえる。きっと、立ち上がって楓さんに抗議をしているんだろうな。見なくても想像出来るくらいには、彼女のことを分かっているつもりだ。
「早い者、勝ちです」
楓さんは、ドヤ顏をしているんだろうな。
僕が嫌がると知っているから本気でケンカしない。今回も猫がじゃれ合うようなものだ。放置しても問題ないな。
次回のライブ配信を頑張るために、僕は彼女たちの声をBGMにしながら気持ちを切り替えようとしたけど、太ももの柔らかい感触に負けて、いつの間にか寝てしまった。
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