最果ての帝壁 -狂者と怪人と聖愛の女王-

極大級マイソン

第20話「今よりもっと若かった頃は」

 一方その頃、樋口秋人と中鉢木葉の2人は、住宅街の道路をテクテクと歩いていた。
 実にマイペースに公園へ向かう彼らだが、そもそもやる気の問題でもあった。樋口は相変わらず無気力気味で、中鉢は謎のドラゴンが現れたと知って公園に行くのは乗り気ではない。どう考えても嫌な予感しかしなかったからだ。
 それでも無視するのは後味悪いので、一応2人とも公園には向かっていた。

 ピロンッ。

「……今、夏輝からLineが来た。どうやら、野木のヤツが死んだらしい」
「死んだ、そうですか。……んっ? 死んだって、つまり死んだって事ですかッ!?」
「そうだな。まあ、野木なら自分で何とかするだろう。あいつはあれで抜け目無いからな」
「はぁ。なんか私、より公園に行きたくなくなったんですけど」
「だからお前は帰って良いと言っているだろう。後は俺たちで処理しておくから」

 樋口は気を利かせたようにそう促した。
 実際、中鉢の助けが無くても解決できる問題だと、彼自身考えていた。例え謎のドラゴンが街中に居たとしてもだ。
 しかし中鉢は、樋口の言葉に対し首を振った。

「でも、生徒会の皆さんも動いているのに、私だけ何もしないなんて出来ませんよ! ただでさえ、私はあまり役立ててないんですから、こういう時くらい側に居ないと」
「春太曰く、お前は秘密兵器だそうだからな。無理に気張る必要もないんだぜ」

 その時突然、中鉢は道端で止まった。
 樋口が後ろを振り向いてみると、彼女は物悲しそうに俯いていた。

「……人の役に、立ちたいんです」
「……そうか」

 樋口は、それ以上何も言わずにまた道路を歩き出す。
 聞いた話によれば、中鉢木葉が生徒会に入った理由は2つ。
 幼馴染みの天願寺に誘われた事と、人の役に立ちたかったかららしい。
 樋口は、彼女が何故そんなことをしようと考えたのか知らないが、何と無く聞くような話でもないなとも思っていた。
 中鉢は、遅れて樋口の後をついていった。

「それで、例の公園にはどのくらいで着くんですか?」
「もうすぐ見えてくる頃だ。あの公園は、俺もよく通っていたからな。概ね場所は分かる」
「へぇ……、なんか、樋口先輩が公園で遊んでいた頃って想像出来ませんね」
「まあ、俺にも無邪気だった頃はあったさ。そう、あれは小学生のことだったか……。そうだあの頃の春太は、いまよりもずっと大人しい奴だったんだよなぁ……」
「それも全く想像出来ませんね!?」

 中鉢は虚を突かれおののいた。あの軽井沢春太にも、大人しかった幼少の頃があった事に驚きを隠せないようだ。

「樋口先輩と軽井沢先輩、あと日ノ本先輩は幼馴染みなんですよね? ……個人的に凄く興味があるんですけど。3人の昔話」
「そうか。……それなら、今度話してやってもいいぞ」
「本当ですか!?」
「大した話は出来ないと思うが、それでも良いなら」
「是非お願いします!」

 中鉢は、先ほどの思いつめた表情から一転、朗らかな顔で笑みを浮かべた。
 2人がそうやって話していると、ようやく目的地である公園へと辿り着いた。

「さて、着いたな」
「一体何が待ち受けているのやら、常に周囲を警戒していないと……」

 中鉢は、公園を注意深く見渡そうとした。
 しかし警戒するまでもなく、2人はあっさりと日ノ本夏輝ら3人を見つけることが出来た。

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