最果ての帝壁 -狂者と怪人と聖愛の女王-

極大級マイソン

第13話「異常者だってSNS!」

『天願寺と日ノ本さんは既にペットを探しに出かけていったから、あたしも二人と合流して、探索を始めるわ』

 そう言って、尾崎は将棋部を後にした。
 軽井沢たちも、早くペット探しに出向かなくてはならないが、その前にそのペットがどこに行ったのか、おおよその目星を付けなければ話にならない。
 まずはペットがどこに居るのか、そこから調べていくのが定石だろう。

「……ところで、何で炎乃ちゃんはここに残ったの?」
「うんっ? まあ炎乃は勝負とかどうでも良いから、一番面白そうな連中について行ことにしたの。将棋部がどうやってペットを見つけ出すのか興味があるし、こっちの方が早く見つけそうなの」
「なんて浮気性な女の子……。天願寺会長泣いちゃうかもしれないよ?」
「おお、それはそれで興味をそそるの!」

 有沢は、号泣する天願寺を想像してみた。
 面白さ絶対主義者の有沢炎乃は、自由気ままに生きる少女なのである。よって、細かい縛りには囚われず、好き勝手生きて行くのを好みとしていた。
 そんな同僚を持って、中鉢はハァっとため息をついていた。

「さて、まずは何から始めようか?」
「探すといっても、情報が足りませんからね。まずは依頼者に事情を聞きに行った方が良いんじゃないですか」
「依頼者は、この写真の女の子なの?」

 有沢は、先ほど尾崎に渡された一枚の写真を指差しながら言った。
 そこには、仔犬を抱きかかえる1人の少女が写っていた。

「へぇ、結構可愛い子なの。この女の子」
「注目するのは、この人じゃなくて仔犬の方だからね」

 何やら良からぬことを企んでそうな表情をする有沢を、中鉢はすかさず注意した。

「これは、近くの公園で撮った写真の様だねぇ」
「そうなんですか? よく分かりましたね」
「僕には分かるんだ。この公園は、僕もよく訪れるからさ」
「それでどうします?」
「ふぅむ……」

 軽井沢はしばし考えた後、おもむろにポケットからスマホを取り出した。

「取り敢えず、この写真をLineに載せて、心当たりがある奴がいないか聴いてみるか」
「何だか今時ですね。でも軽井沢先輩がLineで情報収集って、まるで普通の高校生みたいです」
「中鉢ちゃんは僕を何だと思っているんだ。僕は普通の高校生だよ」

 軽井沢は、『これこれこうなってるから仔犬探すの手伝って』という感じで写真付きでLineを送った。

「一応、何人か既読済みにはなったね」
「軽井沢先輩のLine仲間って、どんな方がいるんですか?」
「色々いるよ。まあ変わった奴が多いし、気まぐれぶりも相当だから返信してくれる奴は稀だろうけどね」
「さすが軽井沢先輩のお知り合いです」

 そうして軽井沢はそれほど期待してはいなかったのだが、少ししてから誰かのコメントが来たことに気がついた。

「んっ、いや、返信が一つきたな」
「なんて書いてありましたか!?」
「『私に任せておきなさい!』、だって。夏輝からだ」
「日ノ本先輩相手チームじゃないですか!」
「それでも律儀に返信してくれるのがあいつなんだよ」

「でもどうします?」
「うーん、僕が直接探索してもいいけど、まだ日が高いからなぁ。今からあんまり激しい動きはしたくないんだ」
「そう聞くとすっごい夜行性みたいですね」
「別に間違ってはないよ、僕は夜の方が活動しやすいから。でも夜を待ってたら出遅れそうだよなぁ。生徒会の奴らも馬鹿じゃないし、夜を待ってるうちに見つけられちゃうかも」
「迷子の仔犬も心配ですし、今すぐ出向くべきですよね」
「だな、仔犬の緊急事態でもある。……これは秘密兵器の出番の様だね」

 軽井沢は、和室の部屋の隅に赴き、おもむろに端の畳をひっぺ返し始めた。

「? 中鉢ちゃん、軽井沢先輩は何を始める気なの?」
「ああ、炎乃ちゃんは知らなかったんだね。将棋部には、色々と隠された秘密があるんだよ」
「別に表立って隠してはないけどね」

 有沢は、興味深そうに軽井沢の元へ近づき、畳の下を覗いてみた。
 畳の下は意外に掃除されており、その地面には鉄の扉があるのが分かった。
 その扉は非常に重々しく頑丈そうで、高校の和室に設置された物にしては違和感を覚える、まるでゲーム世界における秘密部屋の扉の様な厳かな印象を受ける代物だった。

「おーい野木くん。君の出番だ、出てこい幽霊部員」

 軽井沢は扉をガンガンと叩き、応答を待った。

「…………、出て来ませんね」
「中に居るのは分かってるのに居留守する気か? ならば中鉢ちゃん、出番だっ!!」
「ええっ!? 私がやるんですか!?」
「適材適所さ。大丈夫、何かあったら僕が責任を取るから」

 中鉢は少し躊躇ったが、このままではラチがあかない。
 仕方なく鉄の扉の側に立ち、彼女は"能力"を奮った。

 ……………………。
 しばしの沈黙、
 そして。

 バガンッ!! と鉄の扉が勢い良く開かれた。

「ゲホッ、ゲホッゴホッゲェェッッ!! …………ちょ、呼べ出し方が洒落になってないでやんすよ!!」

 鉄の扉から出て来た人物は、今にも吐き出しそうな表情で和室の畳に膝を着いて倒れた。
 その人物は、この高校の男子生徒だった。体格は身長低めの軽井沢よりさらに小柄で、丸いぐるぐるのメガネが特徴的な男子。
 彼は弱々しく畳の上でヒュゥヒュゥと息を吐き、とても苦しそうであった。
 そんな彼に、軽井沢はスタスタと近づき、話しかける。

「さあ、仕事の時間だよ野木世二のぎせいふくんっ! キミの力を、正義のために役立てる時だ!!」

 そう、メガネ少年の名は野木世二。
 この将棋部の幽霊部員である。

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