最果ての帝壁 -狂者と怪人と聖愛の女王-

極大級マイソン

第11話「何故か居る刺客」

 将棋部の『ポイ捨て激減しよう事件』から一週間。この高校からはゴミのポイ捨てが一切無くなった。
 軽井沢春太という未知なる強大に恐れをなした学校生徒たちは、彼の恐怖に支配されていた。
 圧倒的強者による圧制。
 生徒たちは、軽井沢並びに将棋部という存在事態に恐れているのだ。
 そもそもこの高校の将棋部は、一年前までどこにでもある普通の一般的な部活だった。
 去年入学してきた彼らが、当時将棋部に所属していた先輩たちを追い出し、今の様な場所にしたのである。
 それから将棋部は、この高校で決して触れてはならない『悪魔の巣窟』と呼ばれ、ほとんどの生徒は彼らに近づこうともしなくなった。

 ……しかし、それはあくまで去年のことを経験した二年生・三年生での話。
 去年、散々問題活動を起こしてきた将棋部は、今年度に入ってから急速に活動の数を減らしていった。
 ある程度は騒ぎを起こすものの、それでも以前と比べれば随分と大人しい。
 そのせい(?)もあって、入学してから間もない一年生たちは、将棋部の脅威を知らないものも多くいた。
 だからこそ先週のような暴力事件が巻き起こったのだろうが、どちらに非があるのかと言われれば、非常に判断に困るというのが見解であった。
 そのため、『ポイ捨て激減しよう事件』は特に表立った騒ぎもなく幕を収めた。
 将棋部は、大きな被害も受けずいつも通り活動していた。

 人々に、支配の種を植え付けて。

    ***

「はい、王手なの」
「………………………………………………参りました」
「ふふんっ、これで炎乃の3連勝! そろそろ将棋部参謀の座も炎乃の物なの!!」
「くっ、まさか将棋部参謀の座がこんなところで脅かされるなんて!! だが例え僕を倒しても、その後に第二第三の僕がキミの前に立ち塞がるだろぅぉぉぉ…………」

 で、ここは将棋部部室。
 将棋部所属の軽井沢春太と生徒会所属の有沢炎乃は、ただいま一進一退の対局中であった。
 盤面を観察してみると、軽井沢の陣地はガタガタに崩され、有沢の持ち駒は山ができるほど大量に積まれてあった。
 一進一退どころか、将棋部のはずの軽井沢がボロ負けしているようにも見えるが、彼のプライドがそれを認めたくないと言っていた。
 その様子を観戦していた2人、樋口秋人と中鉢木葉は苦虫を噛み潰したような表情でその様子を眺めていた。

「……弱過ぎるだろうお前。今日までこの部活で何を学んできたんだ?」
「うっせーバカ。僕が弱いんじゃない、有沢ちゃんが強過ぎるんだ」
「というか、軽井沢先輩って将棋部の参謀だったんですか?」
「何を今更、僕は将棋部の智将と呼ばれた男だよ。知略謀略入り混じる頭脳戦を得意とするスーパーコンピューターだよ」
「スーパーコンピューターの割には将棋が死ぬほど弱いんだな」
「黙ってろ実戦担当。参謀の小間使い風情がこの僕に生意気な口をっ!」
「樋口先輩は実戦担当なんですか……」
「因みに夏輝は"講和担当"。いざとなった時に発動する、将棋部の最後の切り札担当とも言える存在さ」
「講和担当が最後の切り札って……、それまでは和平を結ぶ気はないんですね」
「基本的に戦争上等。土下座は一番最後まで取っておくのが、我々の流儀さ」
「あの、私は何の担当なんですかね?」
「んっ? 中鉢ちゃんは"広域殲滅型瞬間制圧兵器担当"だよ。そんなの決まってるじゃん」
「こうい…………何て言いました!?」
「中鉢ちゃんにふさわしい肩書きだと思うんだけど、気に入らない?」
「気に入るとか気に入らないとかっていう問題はないでしょう!? せめて読み易い名称にしてください!」
「じゃあ略して"兵器担当"ね。ちょっと物足りないような気もするけど……」
「あー。出来ればもっと可愛い名称が良いんですけど、どうせ聞き入れてくれませんよね」

 ……平穏だった。
 言ってみれば普通の高校生として違和感のない当たり障りのない雑談に花を咲かせる彼らは、日常という名の日々を謳歌していた。

「炎乃は!? 先輩、炎乃は何の担当になるの!?」
「いや、炎乃ちゃんは将棋部員じゃないでしょ」
「木葉ちゃんだけずるいの! 炎乃も何か肩書きが欲しいの!!」

 軽井沢はちょっと面白そうだなと思い、有沢炎乃の役割担当を考えてみた。

「炎乃ちゃんは『全能者』っていうチートスキルを持っているんだから、肩書きなんて幾らでも名乗れるよ」
「突出した個性が無くて不満なの。全能では無くて良いから、たった一つの秀でた才能が欲しいの」
「贅沢な悩みだよぉ」
「木葉ちゃんみたいに、男を思うがままに支配して調教してみたいの」
「私はそんな事やらないからっ!!」
「いやんっ、もう木葉ちゃん可愛い! 頬っぺたすりすりして思い切りハグしたいの」
「うわっ、もうしてるって! ちょっと、近いから、炎乃ちゃん!」
「あぁ愛おしい。このウブさが堪らないの! はぁ、はぁ、木葉ちゃん、今晩うちに泊まらない?」
「身の危険を感じるので拒否します!」

「……………………」

 軽井沢は、そんな2人のやり取りを眺めながら、有沢の担当を決めた。

 "百合担当"。
 それが、彼女にピッタリの担当だな、と軽井沢は満足気に微笑んだ。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品