最果ての帝壁 -狂者と怪人と聖愛の女王-

極大級マイソン

第6話「幼馴染みの受難」

 それからしばらくして、生徒会室に1人の男子生徒が入ってきた。
 彼は一年生で、名前は大之浦鯛池おおのうらだいちというそうだ。
 入学から約2ヶ月、ようやく高校生に慣れてきたという大之浦は、急な先輩たちの呼び出しに少々緊張しているようだった。

「えー、それでは。『生徒会vs将棋部 ガチンコお悩み相談バトル』一回戦のルール説明を始めたいと思います」
 説明をするのは軽井沢春太だった。

「ルールは簡単。ここにいる相談者の大之浦くん、彼のお悩みに最も満足する働きをしたグループが勝ち。勝利基準は、相談者の独断と偏見により決定する。因みに、相手グループの妨害行為と相談者への圧制・賄賂等は禁止。あくまで奉仕活動の一環であることを忘れないように」
「言われるまでも無い」

「あの、数ある相談者の中で、なんで彼が選ばれたんですか?」
 中鉢が小さく挙手をした。
「それはお悩み相談で多かった相談内容の中から適当に推薦者を選んだ結果、彼に当たっただけで特に深い意味はないよ」

 説明を終え、軽井沢は大之浦にすり寄るように近づいた。
 馴れ馴れしいと言うよりいっさ不気味さを醸し出す彼の動きに、大之浦は少し驚き小さくビクついた。

「やあやあ大之浦くん、今回は忙しいところわざわざ来てもらって悪かったね」
「あ、えっと、いえいえ。俺も、特に用は無かったので……」
「うんうんそうかそうか。じゃあ早速だけど、君が生徒会に相談したお悩みを、改めてみんなに話してもらえないかな?」
「は、はい」

 大之浦は喉を鳴らし、他の皆によく聞こえるようにはっきりした声で話し出す。
 要約するとこういうことだった。

「……なるほど、校内でのポイ捨てか」
「はい。俺が入学した当初から、あちこちにゴミが散らばっていることが多くて。この間なんて目の前でポイ捨てする人を見かけて……、注意しようと思ったんですけど、どうしても言いづらくて」
「まっ、そりゃそうだよね。入ったばかりの一年生じゃ、先輩に注意なんて出来ないもんね」

 軽井沢はうんうんと首を縦に振る。そしてドンと自分の胸を叩いた。

「安心しなさい一年坊。この先輩が君の、いや、君たちの悩みをズバッと解決してやる!」
「あ、ありがとうございます!」
 大之浦は安心したように声をあげ、いくつか応答した後生徒会室から出て行った。

 ……こうして将棋部と生徒会の戦い、その一回戦が始まった。
 勝負が始まると同時に、軽井沢はすぐに席から立ち上がり、部屋を出ようとする。

「さあ仕事だよ! 秋人、中鉢ちゃん。この僕についてこい!」
「あっ、待ってください軽井沢先輩!」
「やれやれ、早いとこ終わらせるか」

 軽井沢が先導する形で、将棋部員3人は生徒会室を後にした。
 残されたのは生徒会の天願寺と有沢、そして一応将棋部員の日ノ本夏輝だった。

「さてと、それじゃあ炎乃たちも活動を始めるの。今日は少ない人数だけど、日ノ本先輩もいるしなんとかなるの。ねえ天願寺会長……会長?」
「んっ、ああ。なんだ、聴いていなかった」

 天願寺は、はたと気づいたように向き直った。
 どうも彼女は先程から上の空になっている様子だ。

「天願寺さん大丈夫ですか? ボーッとしているようだけど、具合が悪いとか?」
「い、いや、何でもないです」
 天願寺は話を逸らすように、近くに置いた湯呑みを手に取りお茶を啜る。

「でも……」
「日ノ本先輩、天願寺会長は木葉ちゃんのことが気になって仕方がないみたいなの」
「ぶっ!?」
 天願寺はむせ返った。

「な、何を言ってるんゴホッゴホッ!!」
「ああ天願寺さん!」
「会長落ち着いて、まずはティッシュで顔を拭くの。お茶が鼻から噴き出て非常にハシタナイから」

 天願寺は言われた通りにティッシュでお茶を拭き取り、それから机に溢れたお茶も片付けた。
 それで少し動揺が和らいだようで、彼女は息を整えて背筋を伸ばした。

「……まあアレだ。木葉ももう高校生なのだから、自分のことは自分で出来るだろう」
「そんな心にもないこと言っちゃって、本当は将棋部に木葉ちゃん取られて気が気じゃないくせに」
「それは……」
「そういえば、天願寺さんと木葉ちゃんは幼馴染みだったわね」

 日ノ本夏輝は天願寺の方に席を近づけ、彼女のそばで微笑んだ。

「大丈夫よ天願寺さん。春太や秋人も悪い奴じゃないし、ちょっと問題行為も目立つけど、本当に嫌がることはしないはずよ」
「まあ、そうかも知れませんが……」
「木葉ちゃんのこと心配なのはよく分かるけど、……出来ればあの2人を信じてあげて」
「はぁ……日ノ本さんがそこまで言うなら……」
「うん! 2人の幼馴染みとして、私が保証するわ!」

 そう言い切った日ノ本夏輝の表情は、一切の揺らぎもない。

(心配していても仕方がないか。とにかく今は、目の前の仕事に取り掛かろう)

 天願寺は内心の不安を抑えながら、お悩み相談の解決のため、思考を切り替えるのだった。

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