最果ての帝壁 -狂者と怪人と聖愛の女王-

極大級マイソン

第1話「これが将棋部」

 ここは、とある高校の和室。
 畳八畳のこの部屋には、3人の将棋部員が部活動をしていた。

 将棋盤に向かい合う男子高校生2人と、それを横で眺めている1人の女子高生。
 将棋盤に向かい、顔をしかめながら策を労している方は軽井沢春太かるいざわしゅんた
 中肉中背、無造作ヘアーの黒髪で、どこにでもいる普通の高校生といった感じの少年だ。

 その軽井沢と向かい合う、もう1人の男子高校生は樋口秋人ひぐちあきひと
 生まれながらの茶色い髪に、整った顔立ちの彼は、物静かな態度もあって、所謂イケメンだと言われる部類の彼は、女子からの評判も高い。

 そして、そんな2人の対決を静かに見守っているのが中鉢木葉なかばちこのは
 一見地味な少女だが、あどけない顔立ちと小柄な体躯は、どこか守ってあげたくなる雰囲気を漂わせる。こちらは樋口と違った意味で、女子からの評判が高いことで有名だ。

 彼ら以外にも将棋部員はいるが、主に活動に参加しているのはこの3名だ。
 彼らは毎日のようにここへ集まり、放課後の時間を思い思いに過ごしていた。

「詰みだ」
「待った」

 樋口の詰みの一手に、軽井沢は片手を突き出して待ったを掛けた。
 持ち駒の大半を奪われた軽井沢に出来ることは、こうして最後の一手を見逃して貰い、チャンスを待つことだけだった。

「……いつまで続けるんだ」
「秋人がヘマして、僕に勝機が訪れるまで」
「どうせ負け確定なんだから、サッサと降参しろよ」
「嫌だよ! だって、この勝負に負けたら秋人にコーヒー奢らなきゃならないのよ? そんなの、絶対にダメ!」

 軽井沢は、何かを守るように自分の身体を抱きしめた。
 オカマ口調に頰まで染めて、はっきり言ってゲロ吐くくらい気持ち悪い。

「うう、ダメだ。勝機が見えなくて吐き気が……オロロロロッ!!」
「なんで軽井沢先輩が吐くんですか!?」

 軽井沢の吐き出したゲロが盤上に飛び散る。
 ……2人が指していた将棋盤が、モザイク色に染まり始める。一瞬の内に、目を逸らしたくなるほど汚らしくなった。これでは試合の続きは不可能だろう。

「……ふう、これで引き分けだね」
「やる事がエゲツなさ過ぎるでしょう!? どんだけ負けたく無かったんですか!?」
「はぁ、ようやく終わったか」

 樋口はさして気にしていない様に盤から立ち上がる。
 つまらない試合がようやく片付いたといった風に、彼は気だるそうにこの場を後にしようとする。

「おい、どこ行くんだよ」
「コーヒー買いに。どうせお前は奢らないんだろう」
「あ、僕もコーヒー。甘いヤツね」
「はいよ。中鉢は?」
「え!? えっと、私もコーヒーで」

 樋口は2人の注文の通り、近くの自販機からコーヒーを買って戻ってきた。

「ほらよ中鉢。ああ金はいい、俺からの奢りだ」
「え、そんな悪いですよ!?」
「コーヒーくらいで謙虚になるな。先輩の奢りは素直に応じてろ」
「……あ、ありがとうございます」
 中鉢は、樋口に嬉しそうに微笑んだ。

「……ねえ、なんで僕のコーヒーホットなの? 僕いつもコーヒーはアイスしか飲まないって知ってるよね? なに、嫌がらせ? 男のクセに器が小さいねえ」
「お前はサッサとゲロ撒き散らした将棋盤掃除しろゴミ野郎」
 樋口は、軽井沢の顔面に雑巾を叩きつけた。

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