最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~
60話
こんな現実が続いていた。わかっていたつらいんだ、どうしようもないんだ。
どうしたらいいのかわからなかったんだ。
受け止めることが、今の僕にはできなかった。
だからこんな世界になってしまったんだ。
なあだれか変えるすべを教えてくれよ。どうせならこんな状況を変えてくれと、僕はそう切に願うんだ。
僕以外、誰もいない部屋の中で。
箱庭のなかで……
歩いていった。
ただ無事を願ったんだ。
エマの無事を。
たったそれだけでよかった。
そしてまたいつもの二人で、いいやみんなで笑いあう、日常に戻れたら――僕はそれだけで進んでいた。
地獄だ。
こんな光景を二度も見ることになるなんて……
まるで物理的な力で一掃されたような光景が広がっていたのだった。
あきらかに、通常の介入規模ではない戦力が投入されたとわかったのが、この大破しているオスプレイだ。
見るからに絶望が広がっていた。
途中、仲間の小隊が倒れているのを発見した。すぐさま体を起こしたが、ぼろぼろの人形のように息をしない。
すぐ近くにあると思っていたが、あきらかに精神に異常をきたすような光景を前にして、途方もない距離を歩いているのかと錯覚する。
立ち尽くす。
そして目の前に立っていたのは、あいつだった。
「待ちわびたよ、水流タスク」
少年は笑っていた。しかしその目は僕を捉えているにも関わらず、何も見てはいないとわかった。
「天野路――夜久!!」
僕は目の前に立っている男が、どんな人物なのかわかっていた。
あのスタフェリアと共闘していた男だ。
「あれからの俺は、十二氏族を引き連れている。幻想界の、十二支族を統括する王者として君臨している」
たしかに変わっていた。あのころとは違うような覇気を身にまとっていた。
「僕は、ヤングサンクションズで、小隊隊長を任されているよ」
僕らはお互いの今の境遇を語り合った。
「スタフェリアが死んだ今、なぜか僕が、幻想界全てを統括する責任者となった」幻想界の力は子の世界の八割を占めている。十二支族を統括すれば世界を掴んだも同然さとも言ってきた。やれやれといわんばかりに、彼は、ヤクは語り出したのだ。その事の顛末を。話しは続き。
「それから、幻想界を封じ込める存在、魔法少女と呼ばれる者達を、絶滅するがごとく、たくさん殺してきた。残るは、リイリス・エフカただ一人だ。まさか、人間と対峙するなんてと、彼女たちは葛藤の後、死んでいったんだよ。滑稽すぎて笑えてくるだろう」腹を抱えて彼は笑っているのだった。そして「この世界の管理者、相座時之氏 守刄との接触にも成功した。さすがは管理者なだけある、すぐに逃げられたけどね。管理者は、君と俺を物理的に接触させない方針だったのだろうね。しかしさすがは管理者だ。このような運命を歩ませてくれるとは」
「管理者…… よくわからねえけど、お前はどうしてここにきたんだよ」
単純に、天野路 夜久がここにきた理由が知りたかった。
「あいつに、時は来たと。管理者に教えられたのさ。お前に最高の舞台を用意してやると」
奴は目を閉じて、かっ開き、「俺はなんどでも不死身の君を殺す。それが例え違った世界であってもだ。そして世界を闇に返そう」
男は真剣な、まるで全てに憎悪しているかのように言ったのだった。
「僕を殺してみやがれよ。しっかしお前、生きていたんだな」
僕はそうつぶやいたのだ。
僕が僕である故にスタフェリアを殺した。
そしてその被害者が彼だったのだ。彼とも、何度も戦ったような気がしていた。むろん気がしていただけだ。なんどもなんども戦い、負けの方が多かった気がする。
僕の記憶では、彼とスタフェリアと戦い、そして完全に息の根を止めたトドメを与えたはずだった。しかしこいつだけ生きていたとは……
瞬時に悟る。
スタフェリアが彼を救ったのではないかと。
しかしそんなことを伝えても無意味なのだろう。
「まあね。全てはそうなる定めなんだよ。なんど世界が変わってしても、スタフェリアは死んでしまうんだ」
男はそうつぶやいて空を見るのだった。
まるで僕にわかるかと聞いてもいるようだった。
「僕はもう身近な人間を死なせたりはしない」
そうだ、この不死の力を得たのは、そのためだったんだ。
だけれど…… アリスは救えなかった。
でもいまは、エマが――エマが待っている。
「俺の身近な人間を奪っておいて、君自身は身近な人を死なせないとは…… その自己矛盾は、君はどうおもってるんだい?」
彼はまるで滑稽だとも言うように、吹笑を交えながら、言葉を言い放った。続けざまに、「わかるさ、彼女とともに、世界を牛耳ることが俺らの野望だったんだ。それを阻止するのは、君の行動原理としてはわかるんだ。そして君の幼なじみのアリスを殺したのも、俺とスタフェリアが行動をした結果だ」
月を見ていた彼。答えなんてでている。
それでも彼は、過去を見ていたのだった。
「僕はエマを支える。そのために、ここまで舞い戻ってきた」
まあ、あの二人の僕に助けられたけれど。
天野路夜久の一人称が変わっていたことに、僕はいまさらながらに気づいた。
彼もまた、なにかしらのものをほかに背負っているとわかる。
そして決定的に壊滅的に、両者の遭遇は変わっていた。
「僕の今はここだ」
「俺の今は昔だ」
お互いはそう言って、ひとたびの風が両者の間をくぐり抜けた。
辺りは、硝煙と薬莢と、魚の内蔵を何日間もおいているにおい、まさに地獄が広がっていた。
どうしたらいいのかわからなかったんだ。
受け止めることが、今の僕にはできなかった。
だからこんな世界になってしまったんだ。
なあだれか変えるすべを教えてくれよ。どうせならこんな状況を変えてくれと、僕はそう切に願うんだ。
僕以外、誰もいない部屋の中で。
箱庭のなかで……
歩いていった。
ただ無事を願ったんだ。
エマの無事を。
たったそれだけでよかった。
そしてまたいつもの二人で、いいやみんなで笑いあう、日常に戻れたら――僕はそれだけで進んでいた。
地獄だ。
こんな光景を二度も見ることになるなんて……
まるで物理的な力で一掃されたような光景が広がっていたのだった。
あきらかに、通常の介入規模ではない戦力が投入されたとわかったのが、この大破しているオスプレイだ。
見るからに絶望が広がっていた。
途中、仲間の小隊が倒れているのを発見した。すぐさま体を起こしたが、ぼろぼろの人形のように息をしない。
すぐ近くにあると思っていたが、あきらかに精神に異常をきたすような光景を前にして、途方もない距離を歩いているのかと錯覚する。
立ち尽くす。
そして目の前に立っていたのは、あいつだった。
「待ちわびたよ、水流タスク」
少年は笑っていた。しかしその目は僕を捉えているにも関わらず、何も見てはいないとわかった。
「天野路――夜久!!」
僕は目の前に立っている男が、どんな人物なのかわかっていた。
あのスタフェリアと共闘していた男だ。
「あれからの俺は、十二氏族を引き連れている。幻想界の、十二支族を統括する王者として君臨している」
たしかに変わっていた。あのころとは違うような覇気を身にまとっていた。
「僕は、ヤングサンクションズで、小隊隊長を任されているよ」
僕らはお互いの今の境遇を語り合った。
「スタフェリアが死んだ今、なぜか僕が、幻想界全てを統括する責任者となった」幻想界の力は子の世界の八割を占めている。十二支族を統括すれば世界を掴んだも同然さとも言ってきた。やれやれといわんばかりに、彼は、ヤクは語り出したのだ。その事の顛末を。話しは続き。
「それから、幻想界を封じ込める存在、魔法少女と呼ばれる者達を、絶滅するがごとく、たくさん殺してきた。残るは、リイリス・エフカただ一人だ。まさか、人間と対峙するなんてと、彼女たちは葛藤の後、死んでいったんだよ。滑稽すぎて笑えてくるだろう」腹を抱えて彼は笑っているのだった。そして「この世界の管理者、相座時之氏 守刄との接触にも成功した。さすがは管理者なだけある、すぐに逃げられたけどね。管理者は、君と俺を物理的に接触させない方針だったのだろうね。しかしさすがは管理者だ。このような運命を歩ませてくれるとは」
「管理者…… よくわからねえけど、お前はどうしてここにきたんだよ」
単純に、天野路 夜久がここにきた理由が知りたかった。
「あいつに、時は来たと。管理者に教えられたのさ。お前に最高の舞台を用意してやると」
奴は目を閉じて、かっ開き、「俺はなんどでも不死身の君を殺す。それが例え違った世界であってもだ。そして世界を闇に返そう」
男は真剣な、まるで全てに憎悪しているかのように言ったのだった。
「僕を殺してみやがれよ。しっかしお前、生きていたんだな」
僕はそうつぶやいたのだ。
僕が僕である故にスタフェリアを殺した。
そしてその被害者が彼だったのだ。彼とも、何度も戦ったような気がしていた。むろん気がしていただけだ。なんどもなんども戦い、負けの方が多かった気がする。
僕の記憶では、彼とスタフェリアと戦い、そして完全に息の根を止めたトドメを与えたはずだった。しかしこいつだけ生きていたとは……
瞬時に悟る。
スタフェリアが彼を救ったのではないかと。
しかしそんなことを伝えても無意味なのだろう。
「まあね。全てはそうなる定めなんだよ。なんど世界が変わってしても、スタフェリアは死んでしまうんだ」
男はそうつぶやいて空を見るのだった。
まるで僕にわかるかと聞いてもいるようだった。
「僕はもう身近な人間を死なせたりはしない」
そうだ、この不死の力を得たのは、そのためだったんだ。
だけれど…… アリスは救えなかった。
でもいまは、エマが――エマが待っている。
「俺の身近な人間を奪っておいて、君自身は身近な人を死なせないとは…… その自己矛盾は、君はどうおもってるんだい?」
彼はまるで滑稽だとも言うように、吹笑を交えながら、言葉を言い放った。続けざまに、「わかるさ、彼女とともに、世界を牛耳ることが俺らの野望だったんだ。それを阻止するのは、君の行動原理としてはわかるんだ。そして君の幼なじみのアリスを殺したのも、俺とスタフェリアが行動をした結果だ」
月を見ていた彼。答えなんてでている。
それでも彼は、過去を見ていたのだった。
「僕はエマを支える。そのために、ここまで舞い戻ってきた」
まあ、あの二人の僕に助けられたけれど。
天野路夜久の一人称が変わっていたことに、僕はいまさらながらに気づいた。
彼もまた、なにかしらのものをほかに背負っているとわかる。
そして決定的に壊滅的に、両者の遭遇は変わっていた。
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