最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~

緒賀 実弦

59話

 地獄のような熱さの中。
 僕はうつ伏せで寝ていた。
 まるで百年もずっと眠っていたような、そんな体感があった眠りだった。
 空は黒く、まるでこの世界が地獄であるかのような、漆黒の色をしていた。
 だけれど、僕はこんな状況でもあきらめるわけにはいかなかった。
 僕にはエマが待っているからだ。
 だからこそ、僕はあきらめるわけにはいかないのだ。
 彼女が待っているからこそ、僕の仲間がまっているからこそ、僕は進まなければならない。
 辺り一面、更地になっていた。
 コンクリートジャングルだった渋谷がこんな悲しい景色になってしまったのだ。
 僕はできる限り、人を助けようと進んでいく。
 だけれど、あの核爆発で生きている人間はいなかった。
 ここまでの爆発力を有していたのだ。
 そりゃあそうなのかもしれない。
 それでも歩いていく。
 足は何度も焼け焦げて、元に戻そうと再生をしている。
 痛覚は、ここに来て感じることはなかった。
 エマが待っているからこそ、僕の仲間がまっているからこそ、進んでいるのかもしれない。
 しばらく歩いていると、コンクリートの残骸が見えてきたのだった。
 それでも進んだ。
 この方角が、エマ達のいる九州の方角なのかはわからない。
 だけれど、この方角が正しいと思えたのだ。
 なぜなのかはわからない。
 もしかすれば、あの男達が、あの夢でみた男達が教えているのかもしれない。
 よけいなお世話だと、口がゆるんだ。
 それから僕は人を捜しながら進んでいく。
 あの破壊力では、人なんてものは生きれないのかもしれない。
 なにかしらの強化魔術が行使されたとわかったことがあった。
 人の亡骸がいないからだ。
 僕にはそれがどんな仕組みをしているかわからない。だけれど、人の所行ではないようなことをしているとわかった。
 あのとき、あの注意をしているときに、すくえる人はいたのかもしれないという考えが浮かんできた。だがしかし、この殺傷力ならば、生き残ることなんてできないのかもしれない。
 わからない。
 だけれど進むしかないのだ。
 進むんだ。
 この荒地を。

 もうしばらく進んだ後、どんどんと、建物の形状がわかるような景色へと変わっていった。
 人の住んでいるという名残がわかるところまできたのだ。
 だが誰一人として、生きている人間はいなかった。
 進む。ただ進んだ。

 しばらくして、僕は一つの橋を越えたのだった。その川は、火の川と化していた。
 水面から炎が生き物のようにうなっている。
 どんな希望もそこには有りはしない。
 だけれど、僕の中には確かにあの男達との会話が、あのひとときがあったのだ。
 だからこそ、僕は進まなければならない。
 みんなのために、そして僕を信じる仲間のために、そしてなによりも、みんなの顔をみたい自分のために。
 この状況で、僕がみんなの顔をみたいという気持ちになったのは、それはどうしようもなく、この地獄を見たばっかりに、傷ついているからこそなのかもしれない。
 ぶっちゃけ理由なんてどうでもよかった。
 ただエマに会いたかったのだ。
 彼女の無事をただ祈りながら歩いていく。

 こんな地獄だというのに、僕は自信に満ちあふれていた。自信なのかは僕にはわからないけれど、それでもなにかよくわからない火のようなものだ。
 この辺り一面に広がっているような鋭い火ではなく、ただやさしい火であった。
 胸が暖かくなるような、自信のようなものだ。
 根性? いいやそれはわからない。
 ただ僕はこの地獄にいるのにも関わらず、精神的につぶされることはなかったのだ。
 そんな自分に笑みがこぼれてしまう。
 この楽しいような気分は、ポジティブ的な感情ではない。
 なにかこう、沸き上がってくるものなのだ。
 ここまで、炎の中を通って体中が焼けることと、再生がまばたきを繰り返すような地獄でもだ。
 ああ、あの会話から、このような地獄に送られるとは思ってもみなかった。
 まったくもって、僕を作ったあの僕のような僕は、ケアレスミスがあるもんだ。
 まったくもって、ふざけ倒している。
 思い出しながら口がゆるんでいく。

 人間の一生分の徒歩の距離を歩いた気がする。
 目の前に、境界線のようなものが見えてきた。
 まるで地獄と天国を分けているようだった。

 僕がその境界線を踏破した、瞬間、夜から昼に、ページをめくるようにして変わっていた。
 目の前には、自衛隊の車両が何台もならんでおり、そして僕の目の前にあったのは、救助隊の車両だった。
「生き残ったのは君ひとりかい!?」
 男はまるで信じれないと言うように、僕を見ていたのだった。
 自衛隊の部隊が野次馬と、ここで通るだろう民間人の軽自動車をふさいでいた。
「そうですね」
 僕は思わず座り込んでしまった。
 とっさに救助隊の男が僕を抱える。
「まったくあの地獄から生き残る人間がいるだなんて」
 その言葉を聞いた後、体中の傷が癒えていく。
 僕はその救助半の腕を振り払った。
「僕には待っている人間がいるんです」
 訴えかけるように彼にいった。彼はまるでボロボロではないかと言いたげな目をしていた。
 だがしかしこういった。
「わかった」
 男は僕を放したのだった。
「ありがとうございます」
 僕は進んでいく。
 すると、僕の目の前で人が僕がきた空間を見ていたのだった。
 だれもが、僕と、その空間を見ていた。

 すると一人の男が、僕の目の前に立っていた。
 その男は日本の能力者機関の男であるとわかった。
 その男は黙って、横にあった大型のバイクを招き入れるように見せた。
 そしてこう言ったのだった。
「水流タスクか、さあみんなが待っている」
 僕と同じぐらいに年齢だとわかる声をしている。
「了解、状況は」
 僕は用意されていた着替えに着替えて彼に聞いた。
「君が沈黙してから一時間経った今、部隊は壊滅状態とでも言っておこうか。日本能力者機関は撤退、Y,Sは未だに戦闘を継続している」
 状況を簡潔に説明して、男はサングラスをとった。
「ありがとうな、君、名前は?」
 ヘルメットの鍔を上げて、僕は質問をした。
「卍城オウヤだ、日本の機関に所属していたものだぜ」
 へえと、僕はうなずいた。
「君も行かないのか?」
 僕は聞いていた。
「俺はほかにやることがある。まさかほんとうに、君が来るだなんて」
 オウヤは笑っていた。僕はあえて詳しく聞くことはなく、僕のやるべきことのためにこのバイクを走らせたのだった。
 あいつもまた、違う自分に教えられたのだろう。
 そんな気がしていた。
 いいやこれは確信なのかもしれない。

 一つ聞き忘れていた。
 九州地区の場所と、どれくらいの時間で着くのかだ。
 まあたどり着くだろう。
 エンジンを吹かせて田舎町を駈けていく。
 道ばたにでている人々は、いまだに後ろに広がっている地獄をみていた。
 ガンガンと日本の街を駈けていった。
 おっかけてくる日本の警察は、なぜなのかあまりにも速い僕を見逃している。
 警察車両よりも速い乗り物は、追尾されないという話しを思い出した。
 たしか、ミライから聞いた話だったな。
 なんであいつが知ってるんだろうと思いながら、ぐんぐんと車両を追い抜いていく。
 途中、看板があり、僕がどの方向へとすすんでいるのかわかったのだった。
 しっかりと九州という西方角へと進んでいたのだ。
 まあ、日差しの位置で、どの方角なのかというのがわかったので別によかった。
 確認できたというだけでも、表記があってよかったなと僕は一安心をしたのだった。
 それよりも、この時間は通勤ラッシュであるのにも関わらず、なぜこうも高速道路の通りがいいのだろうか。
 理由は何にせよ、とにかく、バイクを唸らせていく。
 このバイクは時速三百キロで進むことができるモンスターマシンであった。
 なによりも、三百キロを出しているのにも関わらず、時速メーターが半分であるのだ。
 むちゃくちゃだと、こんな機材を扱っていたあの男に言ってやりたい。
 まてよ、東京から熊本までの距離が1200キロ、それから時速が300で……
 三十分切らないか切るかくらいか。
 むちゃくちゃだなと、僕はそう思ったのだ。
 実際にはカーブなどもあり、四十分足らずでつくのかもな……
 口から笑みがこぼれて、僕はなんだいも車を追い越していく。
 日はどんどんと、沈んでいくのだった。
 例年よりも、今年は秋になるのが速いらしく、涼しい風が僕の頬を掠っていく。
 じんわりと冷えてきたところで、夕日が半分沈んでいるのがわかった。
 一直線の橋を通り、瀬戸内海の海峡が見える高速道路を駈けていく。
 ここにきて寂しかったわけでもなかった。だけれど僕は、誰かにふれたいとそう思ったのだ。
 エマの無事を願う。彼女に会いたいと僕は胸に抱き、アクセルを絞る。
 待っていてくれエマ。
 いつものようにまた、みんなでしょうもないことで笑いあおう。
 僕の右では人々の日常があった。歩きながら誰かに連絡をとる者、信号をあくびしながら待っている者、あくせくと動くサラリーマン、スマホ片手に道を歩いている者、ふたりで笑いあう男女のカップル。
 だれもが、日常の中にいた。
 僕もまた、この生死を分けたような血生臭い日常を送っている。
 この世界の混沌を生み出すものに、躊躇もない制裁を加えるような環境にいる。
 僕が陰ならば、この日常を渡り歩く人たちは陽だ。それがどうしたというのならばそれだけで終わる話しなのだけれど、まあそれでもいいと僕は思ったんだ。
 もしかすれば、みんな同じような遭遇で日々戦いながら過ごしているだろうと、僕は思ったんだ。
 一直線の道路を進む。
 見えてくるのは、一斉に羽ばたいていく鳥達だ。まるで桜が舞い散るように、ばらばらとそして綺麗に儚く飛んでいく。
 夕日に照らされたその鳥達はとても幻想的な空気を醸し出していた。
 こんな何気ないような光景を見るのが僕は好きだ。そしてまたエマにも見せてやりたいと僕は思うのだった。
 エマの心は動かないかもな…… でも一緒のときを共に感じてみたいと僕はその鳥達を横目見て胸に沸き上がった。
 いまこの瞬間が誰のためとか、世界のためだとか別にどうでもいいなと鑑みる。
 なぜならこうしているのはエマに会いたい自分のためなのだ。
 そんなものに理由も根拠も、どんな躊躇もなかった。
 ただそれだけのために、そしてまた、あの二人に言ったことを有言実行させるために進み出す。
 あれは夢だったのだろうかと考える。いいやあれはほんとうにあったことだと言い切ることができる。
 なぜならあのとき僕はほんとうに心が折れかかっていたからだ。あのままでは僕は僕をすることはなかっただろう。
 あのまま、核の炎にこの身を再生させることもなくして、焼けて存在ごと焼却されていたのかもしれない。
 あの二人がいたからこそ、僕は僕として生き返ったのだろう。彼らが僕を作ったといっていた彼らがどうやって、僕に会いに来たのだろうか。
 まあいいかそんなことは。
 だんだんとカーブが覆い道へと進んでいく。
 そろそろ外の光景も海峡大橋を抜けて、九州の大陸へと到着したのだと理解した。
 看板があり、この先熊本特区と書かれている。
 看板の一キロさきほどの空の様子がおかしいとわかった。
 まるで台風が襲ってきたかのように、どんよりと黒い雲が覆っていた。
 何かが起こっているというのがわかった。なんか普通ではないような力がこの地で繰り広げられているとわかるほどの雰囲気だったのだ。
 あきらかに普通の戦場とは違う。まるですべてに憎悪しているかのような殺気のある空気であった。
 同時にエマが無事であってほしいと、唇をかみしめるような切願が胸に巻き付いた。
 息は荒くなっていく。そしてまた、僕はこれまでの能力者や、人間と言ったような存在とは別の存在と闘うのだなと改めて脳裏に焼き付いた。

 そうして僕は作戦があった場所へと舞い戻ってきた。そこはまるで先ほどのような、空間ではなく、ここに激戦があったとわかるような残骸が広がっていた。
 大きな門が二段構えであったあの建物も、まるで爆撃にさらされた建物のように、粉々となっている。
 遺体の数々が広がっている。ローブを来ている人間、そして僕の部隊ではない、所属が同じの人間。そして日本国の能力者機関の装備をしている人間。自衛隊までもが出動されたとわかる遺体が転がっていた。
 まるで地獄をこの世界に再現したような、光景となっていて、僕は絶句する。
「な、なんだよこれ……」
 僕は歩く、そしてだんだんと足を早めた。
「エ、エマぁああああああああああ」
 僕は走り出した。こんな地獄をひたすら走っていく。
 この目の前にエマがいると信じて走っていた。
 死体の絨毯は、とんでもないような距離と幅をもっていた。あたりは弾薬の鼻の奥を殴るようなにおいと、血生臭いヘドロのような臭いが辺り一面に広がっているのだった。
 僕は、この現状に絶望していた。
 ここまでの激戦になるとは思わなかった。
 完全な未知との遭遇に対して、いつもの戦場のような甘い考えでいたのだ。
 どれほどまでに、魔法を使う連中がいかれているものを扱う集団だとわかった。
 それが顕著に現れているのが、この大きな壁にトマトをぶつけられたように人が体液を飛び散らしていたからだ。

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