最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~

緒賀 実弦

43話

 すべて消えた。すべてだ。
 まるでそこになかったようにすべてが無くなった。もしかすると俺はもとから持っていなかったというくらいにすべてが失ったんだ。
 信頼、友情、努力、栄光。
 クソくらえ。もうそんなものはどうだっていい。全部偽物だ、全部俺の妄想なんだよ。
 こうして現実を受け入れることが、俺の日課となった。いいやこの平和になってしまった世界で、俺は居場所を無くなったんだ。
 俺は俺ではない誰かになっていた。いいやこれはパラレル時空平面で観測していた、唯一なにもなく、そしてなにもうしなうことはない世界線の俺になっていた。高校三年で必要な出席日数を取った俺という人間は卒業するまでの間、不登校になり、ニコ生というサイトで生き甲斐を得ているクズニートだった。
 16歳だった。職歴もなければ、バイトをしているという経験もなかった。親という存在が死に損ないの人間であった。
 ひさしぶりに外の空気を吸った。まるでここで生きていたような生きていないような体験を5年間していた。
 16歳というのは嘘だ。実は今日が誕生日の18歳だ。花の普通の引きこもり高校生となっていた。通っている高校は、歩いて40分のところにあると、この世界の俺の記憶がそう言っていた。
 俺が通っていたのはマイと共に登校していた七花高校であったのだ。偏差値は普通。
 おれはなにをしているのか、ここが俺がもといた現実なのか、それとも世界が元の世界へともどってしまったのか、俺にすらわからなくなっていた。あちらがわの記憶は確かにあったからだ。
 能力が使えるということも、わけのわからないような世界になってしまっていたということも。だがしかしそれらは俺の妄想でもあったのだ。俺が醜い俺が、唯一心のより所として、作った世界に頭を突っ込んではなれられないという現象に陥っていると、家族という存在に、みしらぬ存在に連れ去られた病院というところで診断を受けた。そして3ヶ月間の隔離治療によって、俺の頭はおかしくなっていた。わけのわからないような薬を飲まされて、俺の頭は確実におかしくなっていた。まるで現実が遠くに離れていって、俺という別の人間の人格がインプットされたような感覚であった。まるでいままで夢を見ていたような感覚になった。酒で酔っていたあのくらくらの現象が無くなったような感じなのだ。そしてしばらくして精神分裂病に陥っていると診断されて、今度は俺の家というところで社会と隔離されていた。まるで世界をこれでもかと観測させないようにして、俺の生活さえも、操作されていた。
 苦痛で死にそうになった。
 マイが消えて無くなってしまう。
 行かないでくれマイ……
 涙がとまらない。
 そのような夢を狂うほどに見た。
 卒業式は出てほしいと俺の母さんという女性が俺に行った。というよりもこの世界の俺という人間は卒業式にはでると、担任の先生という人間に対してそのようなことを言っていたらしい。
 この世界の俺の記憶では、学校に行くということはとんでもないようなトラウマであると、告げていたのだ。
 ぶっちゃけこの世界の俺の人格が消えて無くなってしまっているので、俺にとっては心底どうでもよかった。
 というよりか、死にたかったのだ。

 ある程度落ち着いたのかと判断された俺は、外に歩けるようになっていた。
 べつに用は無かったが、俺は歩いて、この世界を満喫しようとしていた。しかしここは畑だらけの田舎町であった。家の路地裏を抜けて、そして県道の道路が上から見える道を歩いていた。県道と裏道を跨ぐようにして民家が並んでいた。
 まるで別世界であった。この世界にはなにもなかったのだ。能力者も、S’ESPも、アンノーンも、クロスブレイカーズも。
 あいつらに粉々になるまで、ぶっ殺されたような気がしていた。というよりも、確かに1000回ほどぶっ殺されたような記憶があった。
 まずだ、俺はマイと……
 これらを思い出すと頭が痛くなってくる。
 やっぱり俺の妄想だったんだと、頭で理解をして俺は行く道を歩きだした。
 右手の甲を見ても、ESP・t.A.T.u.もなかった。普通の人間になっていた。
 そして6畳ほどあるトタンハウスの家で、ちいさくくるまりながらPCとにらめっこをして、ネットで叩きまくっていたニートという存在に自分自身がなっていることにきづいた。
 どうでもよかった。この世界には、マイも、ユウも、剣先生も、オウヤも、盾田も、いなかった。あたりまえだった。それらは俺の妄想だったからだ。
 こんなむちゃくちゃな環境にいるにもかかわらず、俺という人間は、どうにかなりすぎてしまったのか、散歩を狂うほどにしていた。
 同じところを延々と繰り返し歩く。

 あのころのなんでも超越してやるという気概をもっていたにんげんではないのだ。俺という人間は。
 まるで別人だ。
 この前リストカットを、カミソリで実行した。
 皮膚は再生することはなく、血だけが俺の腕を伝って、床へと流れ落ちていく。
 再生しない。能力がなくなってしまっているということだった。
 俺はいつしか、神に近いような人間になってしまったという自覚があったのだが、いまはこうしているのだ。
 高く飛びすぎて、俺の羽はもがれてしまったのだった。
 人という存在が、いくら高望みをしていても、結局のところは、同じところ、いいやそれよりも下のところへと墜ち転がっていくのだとわかった。学習した。理解した。
 俺の家族という存在達は俺の頭がおかしくなっているといっていた。
 俺にはこいつらが、誰なのかわからなかった。だからこそ、彼らが、どうでもよかった。だから「あたまがおかしい」だなんて言われてもなんとも思わなかったのだ。
 俺のほんとうの父さんの顔がわからなくなっていた。あれほどまでにソウル地区でお世話になっていろいろ話をしたというにも関わらず俺はとんでもないような親不孝物となっていたのだ。
 くたばりそこないの人間が今俺の現状となっていた。

 ここはどこなんだろうか。

 だれか教えてくれ。

 ◇ ◇ ◇

 オウヤとの激闘が終わった後、ヒラキと俺は天城岳のダンジョンの屋上に移動していた。

「マイ、すべてが終わったよ」

 俺は、オウヤと共に作った観測ができないような世界から、ヒラキという男性とともに出ていた。
 まるでファンタジーの世界から、ひょっこりと体を出したように、その門は平面的にあったのだった。次元の扉といった名称がこれにあっているだろうか。

「タスク、おかえりなさい」

 マイはオウヤとの戦いが終わったということに一安心をしたのか、すべてが丸く収まったような晴れ渡る晴天のしたで、とてもきれいな笑顔で俺に向かってそう言った。
 彼女を見るとすべてが終わったような気がする。いいやこれからもあるんだったな。

「ただいま」

 とりあえずそれらを置いておいて、マイを抱きしめて、いまこうして終わったことに、安心を得るためにマイに抱きついた。

「ごめん一人にして」

 俺はマイのさらさらな髪をなでた後にそう言った。いまこうして彼女と抱き合っていることに俺という人間は安心しきっていたのだ。

「いいよ、タスクが助けに来てくれてね。わたしはうれしいんだよ」

 彼女は、俺の胸のなかで抱き合っているマイはそう言って俺の顔を見て、やさしくほほえんだ。
 それで俺の疲れはいっきに吹き飛んでしまった。愛している人間の笑顔を見ると、心と体がきれいに洗われるということがわかったのだ。

 あいつが来たのはそのすぐあとだった。

「ついに…… ついに見つけたぞッ!! ――佐部タスク!!」

 何かが俺を見ていた。まるで俺を食い尽くすかのようにして、それはいきなりと登場しだした。まるで決まりにしたがって動いていた物語に、突然と何かを唐突に登場させたようにしてそれは登場したのだった。明らかにそれは狂った登場だったため、俺はどうすることもなくしてその敵と対峙することとなった、

 その男は俺とマイを見ていた。しかし、怒りの矛先は俺なのだろうか、俺を砲を、釘で、いいや視線という刃物で突き刺すようにして俺を見ていたのだった。

 その異常性に気づいた、いいやその危険度に気がついてしまった俺は。戦々恐々となり、マイを遠くへと移動させて、そしてそのものと、その化け物のようなものと対峙した。
  これはまぎれもない、人の形をした何かであった。いいやそれはだれもが想像できてもできないような人間であったのだ。そこに人という概念を当てはめるのはどうなのだろうかというくらいにそれは、人間ではないようなものであったのだ。
 今までであった人間のなかでも特上の気概、そして危害を持っている人間だったのだ。俺はその人間、いいや化け物に対して、全くといっていいほどに、おじげついていた。明らかな殺意だけで、俺を完封してしまうほどに、そいつは、圧倒的な殺意を俺に向けてきたからである。
 ――唯一つ。
 それは人ではないような殺意を持っていた――

「くたばりそこないが、次こそ君の首を?いでやろうと僕は君にそう告げるよ」

 その鬼のような人間が放つ、言葉の数々、まるで現実を食い殺さんが如く、絶叫を俺に向かって言い放っていた。これらだけで、人ではない怪物だと俺はしっかりと頭の中でその答えが出ていた。そして次にその男がどれほどまでに、俺に憎悪を抱いているのか、それら全てが分かった。
「マイ下がっていて」

 俺はマイにそう忠告をして、彼女をこの場から、この戦いが始まってしまいそうなこの現状からすこしでも被害が彼女に出ないようにそう忠告をした。

「タスク、この人は?」

 マイはそれらを察することは無かったが、明らかに現状が異常なため、後ろに下がりながら俺にそのような筆問を投げかけた。

「わからない、だけど…… 間違いない、こいつは俺の敵だ」

 何かが、俺にそう訴えかけている。それはわからない。いままでの経験からか? いいやそれも違うだろう。人間が発する本能からの危険信号か? いいやそれも違う。まるで魂にそのまま直接植えつけられたようにしてその男と、この目の前の鬼と戦うということが運命付けられているといっても過言ではなかった。
「わかった、タスク、終わったらあなたに伝えたいことがあるの」

 マイはそういって後ろへと下がっていった。それを横目でしっかりと確認した後にこういった。
「待っていてくれ、かならずまた君の元に帰ってくるよ」

 俺はそういって、彼女は俺の一言に笑顔を見せた。
 待っていてくれマイ。
 いまこそ全てを終わらせてくる。

「スタフェリアを殺したときはどういう気分だったんだい?」

 男はそう俺に聞いてきた。スタフェリアという人物が俺にとってどういうものなのか、分からなかった。いいや誰なのかが、俺の記憶には、無かったのだ。こいつは何を言っているんだと、そんな疑問が頭の中で浮かび、そしてところかまわず俺はその質問をした。
「だれだよ。スタフェリアって」

 俺はそういって、彼の顔を見ていた。その顔は、まるでお前こそ何をいっているんだといった、まるで軽蔑と、憎悪に塗れている顔であったのだ。その顔でさえも、生物全てが、恐怖に包まれてしまいそうな顔であったのだ。

「忘れたとは言わせない。目の前で僕は見ていた。君が君が、殺したんだよ、スタフェリア、そして僕の日常を」
「何を言っているのかわかんねえよ、俺は人を殺したことはある。だけどな俺はお前をしらねえ。だからこそお前も、お前が言うスタフェリアも俺には知らないことだ」

「僕こそ君のことは、知らないことだらけだよ」
 その言葉にはかなりの重圧があった。まるで万物全てをねじ伏せてしまいそうなほどの執念があったのだ。しかしそれには俺という人物を確かに知っているとも聞きとれる意味が確かにあった。

「もう一度言うぜ。お前が俺には誰かはわかんねえよ」

「神祖の佐部タスク。君は僕のスタフェリアを殺したんだよ」

 たしかな沈黙が俺と、目の前の鬼との間にあった。
 語りえずとも、俺たちは敵同士の運命にあるような気がしていた。

「スタフェリアの無念のために、そして次に僕とスタフェリアとの間に生まれたこの子のためにも……」

 いままで男の後ろに、隠れていたのか、ちいさな女の子が親指を口にして出てきた。
 こちらのほうを彼の足の影からひょいっと出る。
 その子から、まるで竜のような、神聖なる何かを感じる。

「お父さん、この人だあれ?」

 無邪気にその子は、その女の子は、まだ物心がないような、純粋な目をしている女の子は俺の方をみて、そういった。
「スタフェリアを。 ――――お母さんを殺した人間だよ」

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