最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~

緒賀 実弦

31話


 あれからの俺は、組織にあの巻物を送った。というよりもこちらから情報解析をお願いしたということになる。
 俺の部屋でマイとのんびりしていると、五日くらいで返答が帰ってきた。

 備えあれば患いなしといったように、何かがあってからは遅いという判断でもあり、この時代錯誤のやり手にはやはり俺は、警戒をしているんだろうと、自分自身を鑑みてそんな客観的な感想をもらす。
  結果は情報密度が少なく、とても不可解なものであった。あのユグドラシルシギントシステム(通称:REINA)が一つの見落としをしたと騒いでいた。まるでとって付けたようにそれは出現したとのことだった。

  前世界の情報を洗い出して残った0.0001%のとある都市伝説掲示板の書き込みである。それに一つの組織名がまるでいつの間に出現したかのように、通常ではありえない、6666番目の過去の書き込みから出現したのである。それは5年前に遡る書き込みだ。

 内容はこうだ。

「やあ佐部タスク君、君が知りたがっていたのはヤタガラスのことだよ。まあ僕が出せる情報はここまでだけれどね。じゃあ後は、僕が作った君なんだからやり遂げてくれたまえ」

 いままで全ての情報を一周洗いざらい検索して、ヒットしてこなかったこの書き込みが、念のためにと試した詮索3日目の二週目にしてまるで未来から飛んできた、タイムトラベラーのように意図的に突発的に確定的な正体の尻尾が出現したのであった。

 誰かのいたずらであるのか、しかしそんないたずらは、できるはずがない。現在から過去へとかき込むことはできないからだ。そんな特定の情報を掲示板の管理人がするわけでもない。念のためにと、その管理人の自宅へ麻薬売買の書き込みがあったと実際にあった口実を使い家宅捜査を強行した。

 実際の書き込みをもとにしている、”もう一つ”の目的でその不思議な現象を洗いざらいREINAで調べあげた結果、そんなことをする人間ではなかった。その結果を僕の師匠である剣ミサキは、上層部にREINAの故障があるともしかするとちいさなバグが、この”ちいさな”見逃しがあったバグではないかと検討するが、この絶対的に未来を予測までもできる装置がミスを起こすわけではないという、どこにも異常性は見られなかったという上層部の見当だ。

  これらが結果である。データに残っている以上、この俺が持っている携帯端末の画面にびっしりと結果を特殊な情報処理によって暗証コードとなったものが載っている以上、それは確定的なものであると俺はそう捉えた。

  何が間違えているのかそしてどんな未知の者が情報を与えるために仲介をしているのか。なんてものは考えすぎなんだろうか。不可解だらけ、まるで狂っている。

  特に俺の名前を使っているという点において、憎悪に似た感情が鳥肌と共に体全体を支配した。まるで得体のしれないバケモノに俺が監視されているとい不快感だ。

  こんな体験初めてであった。こんな託され方…… 誰がどうだとも知らずにこんなことをしてそして、俺の名前が直にまるで全てを知っているんだというように、このかき込んだ人間を俺は知り得はしない。
 剣先生は掲示板のシステム自体には穴があるため、単なるいたずらであるとメッセージを付け加えて送ってきた。彼女は気にするなということを伝えたいのだろうが、やはり俺にはこの書き込みをおいそれはいはいと飲み込むのは聊か都合がよすぎるのではないかと自身自信を客観視してそんな感想を漏らした。

 気分が悪くなってきたので隣にいたマイに癒しを求めた。

「わっ、タスクどうしたのん?」

 背後から抱きしめるように彼女に体を密着させて、彼女の言葉が発した喉辺りにちょうど俺の左耳が、鼓膜をゆすってその声の振動が優しく俺の頭の中に入ってくる。彼女は突然に抱きしめられて驚いているようだった。

「ちょっと、まあな」

 理由は話すことはなかった。マイに心配をさせたくないというのもあった。

「タスクに元気が無いなんて珍しいね」

 彼女はのほほんとしてゆったりとした態度でいつもと変わらない振る舞いで俺に気にかけた。
 今はそれに甘えたくなるような気分になった。

「そうか?……」

 できるだけ悟られないように彼女に返事を返した。あれで無性に怖くなったのだ。多分。
  まるで人生そのものを誰かに操られているようだ。今思えば昔は、あれだけあそこで落ちこぼれだった俺が、まるで人が変わったように、超人狂人をまるで全てを薙ぎ払うかのように、コイが滝を登るようにして、最強の座に着いてそして、旧ソウル地区であの無限地獄のような日々を味わった。彼女に電話で癒されながら、俺は…… 突き抜けた。まるで誰かに俺の人生を操られているようだった。

  いまさらになってこんなにも弱気になってしまった自分に情けなく、ただ彼女の温かさに逃げるようにしてこのような状態になっていることに、また昔のように目が腐ってしまいそうだった。だから、俺は……
  彼女を守ると決めた。生涯ずっと。だから強くなければならないのに……

「いまは話せなくていいよ…… でもねマイはずっとタスクの見方だからね」

 話間に彼女はちょっとだけ深呼吸をしてそういった。俺は彼女の存在を確かめるようにして彼女の呼吸を聞いていた。よかった彼女はここにいた。この暖かい体温も。

「うん」

 知らず知らずに彼女は、俺の頭を撫でている。それに気づいてしまった時、砕けそうになった目頭を強く閉めた。ああなんだこれ、今になって遅れたように暗い靄のようなものが、正体がわからないような不安が俺を襲ってきた。苦しくなってきた。やべえよ。

「あなたが世界中の全ての敵になっても…… あたしは、マイは絶対にタスクの見方だよ」

 彼女の腹を巻くようにしていた腕を彼女は手のひらを外して指を絡めてきた。ひとつ一つと彼女の指のあたたかさ、何かに懐かしいものに帰っているようなそんな気分になった。
 そんなに大げさな状態ではないが、しかし彼女のすっとんきょな言葉一つ一つに俺はすこしだけ勇気をもらったような、笑顔が出たのか口がすこしだけ緩んだ。

「あの時も言ったけどさ、あんまり無理しないで。タスクは頑張りすぎ屋さんなんだから」

 あの時…… ああ、2カ月前のソウル地区のことか……
  あの人が変わってしまって…… 思い出すだけでも苦しい。
  吐きそうだ。あんなもの見たくなかった。なんであの人が……
  全てが終わって辛くなったんだ。だからマイに電話を掛けたんだ。無性に声が聴きたくなった。それほどまでに空っぽになってしまいそうなほどに………………
  現実を受け止めきれなかったんだ。そうか。

 感情が急にぽーっとして、次の瞬間、まるで限界まで容器に入れていた瓶の蓋を開けたように、俺の感情がまるで爆発するように、無情で非情で幻滅的な感情の嵐が噴き出てきた。

 それを耐えようとしてみたが、しかしその感情の濁流は俺をいとも簡単に流してしまった。

  何をしてるんだ。強くなろうと決めたのに、ここで出てしまったら。
 葛藤して長い沈黙、ついにこらえきれずに俺は言葉をこの胸のつっかえが壊れた。

「ま、マイ…… あの人がさ………… いままで憧れていた人がさ、悪い方向に変わっちまって、俺つれえよ。今になってぇ」

 彼に憧れていたという勇気をもらっていたのに、俺は何一つ彼に出来ることはなかった。変わってしまった彼を俺は救うことも、代わりになることも出来なかった。彼が……
  畜生、悔しいよ。俺の人生が操られているように、彼の人生も変わってしまったのだろうか。くそったれが、つらい。

  赤ん坊のように彼女に抱き着いた。彼女は体を正面へと変えると、俺の頭を体を抱きかかえるようにしてベットに一緒に転がった。
  彼女にうずくまるようにして両目がものすごく熱くなっていることに気が付いた時には、声をあげて泣いてしまった。

  たしかにいろいろなものは掴んだ。だけれどこんな人生つらい。なんでこうなったんだ。マイがいなかったらとっくの間に消え失せていた。ランク祭すら勝ち抜いていない。マイがいたからだ。だけれど、失ったものの感傷に浸れるほどに今の生活が充実しているんだろう。わかるよ俺は恵まれている。それでも……

  辛かったんだ。だって彼がいなかったら俺はタスクをやっていなかった。

  あの頃は人生のどん底にいた。あの人が俺に色を付けてくれた。あの時は、諦めながらも憧れていたんだ。それからきっかけがあって、そして彼に憧れているという一心で突き抜けてきた。
  いろんな人に支えられてきたというのもあった。
  だから一概に彼全てのおかげであるとは言えない。
  だけれど、いまこうしているのは、失ったという悲しみなんだろう。

「とってもつらいことがあったんだ…… よくいままで頑張りました」

 唾を飲み込んだ後に彼女は言った。何かを見ていたという彼女ではない。だけれど、しかし彼女がまるで何かを察したように、まるで全ての傷をいやす聖母のような声で俺の体を抱きしめながら、全てを預けてしまいそうになってしまいそうな声でそう言った。
  少しだけ後悔した。強くなろうとしたのに…… 彼女に甘えてしまったことだ。

「俺は、強くないと…… 何も守れないのに、ここでッ…… 言ったら」

 思っていたことが言葉に出ていた。
  それを聞いた彼女は、それは違うよと一言、そしてやさしく俺の後頭部を撫でる。

「誰かに弱音を吐いてもいいんだよ。それは誰でもないタスクが言っていたことじゃん。人って字も誰かに寄りかかってお互いに助け合って成り立っている、多分同じことなんだよね。いつもマイはタスクに寄りかかってばかりだけどさ、今日ばかりはマイがタスクを支える番だよ」

 彼女はそういって、俺を強く抱きしめた。俺はついに水道の蛇口が壊れたように、破城したダムのように、たくさんの涙を彼女のお腹で受け止めてもらった。

 彼女とともに歩んでいきたいとそう実感できた日であった。












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